炎の誓い ― 第八話「三つの力」
炎の誓い ― 第八話「三つの力」
刺客たちの咆哮が工場を揺らす。
異能の光と影が交錯し、鉄骨むき出しの空間はまるで戦場そのものへと姿を変えていった。
悠真の炎が赤々と燃え、雷太の稲妻が紫電を走らせ、氷河の冷気が白く空気を凍てつかせる。
三つの異能はぶつかり合い、やがて絡み合いながら敵を呑み込んでいった。
「雷太、右だ!」
隼人の鋭い声が飛ぶ。
「オォラァァッ!!」
雷太が叫びと共に踏み込み、右側から迫る鋼糸の刺客を雷光の拳で叩き砕いた。
電撃が奔流となり、鋼糸は火花を散らして焼き切れ、刺客は壁に叩きつけられる。
だが、その背後から影が忍び寄る。
「……甘い」
氷河が冷ややかに囁く。
床を這う氷が一瞬にして影の足を絡め取り、次の瞬間には鋭い氷柱が突き上がった。
影の刺客は悲鳴を上げる間もなく凍りつき、砕け散る。
「クソ、まだ来るか!」
悠真の炎が爆ぜ、電撃を纏った刺客が正面から襲いかかる。
悠真は怒りと共に拳を振り抜いた。
「燃え尽きろォ!!」
灼熱の渦と稲妻の刃が正面衝突し、爆音が工場全体を震わせる。
火花と炎が混じり、まるで雷炎の竜が咆哮するかのようだった。
「悠真、下がれ!」
隼人が風を操り、爆発の衝撃を一気に外へ押し流す。
「無茶をするな! 力を合わせろ!」
三人は視線を交わした。
氷河が無言で床一面を凍結させる。氷の鎖が敵の足を封じ、動きが鈍る。
その瞬間、悠真が全力で炎を解き放った。
「行くぞ――烈火旋陣ッ!!」
燃え盛る炎の壁が氷ごと敵を包み込み、巨大な火柱へと昇華する。
「トドメはオレだァァァッ!!」
雷太の雷撃が火柱を貫き、紫電が炎と融合する。
轟音と共に炎と雷が絡み合い、雷炎爆破となって炸裂した。
閃光。衝撃。
工場全体が白と赤と紫に染まり、刺客たちの悲鳴が次々に掻き消されていく。
――やがて、静寂。
床に倒れ伏す刺客たち。その身体は焼け焦げ、凍りつき、稲妻に痺れて動けない。
残ったのは、肩で息をする悠真たち四人の姿だけだった。
「……終わったか」悠真が荒い息をつく。
「ふん……手間をかけさせるな」氷河は背を向けるが、その氷の瞳はどこか満足げだった。
「ハハッ! やっぱ最高だなァ!」雷太は豪快に笑い、拳を打ち合わせた。
隼人だけは沈黙し、倒れた刺客へと歩み寄る。
その外套の中から、一枚の黒い金属板を取り出した。三つの三角形が絡み合う奇妙な紋章――。
「……これが組織の印だ」隼人の声は低く重い。
悠真の脳裏に、美咲のノートが浮かぶ。そこに描かれていた、同じ紋章。
「やっぱり……姉さんは……組織に狙われていた……?」
さらに、倒れた刺客の唇がかすかに動いた。
「……標的……“実験体”…シノハラ……」
「……ッ!」悠真の心臓が凍りつく。
炎が無意識に掌で揺れる。しかしそれは怒りだけではなかった。
恐怖、疑念、そして確信――姉はただの犠牲者ではなかった。
静まり返った工場に、四人の荒い息だけが響いた。
戦いは終わった。だが、真実への扉はようやく開かれたばかり。
炎と氷と雷――三つの力は確かに交わった。
だがそれは、これから訪れる嵐の前触れにすぎなかった。