炎の誓い ― 第七話「共闘の炎」
炎の誓い ― 第七話「共闘の炎」
――空気が震えた。
漆黒の刺客たちが工場に潜り込んだ瞬間、場の温度が一気に変わる。
影のように床を這い忍び寄る者。
鋼糸を操り、蜘蛛の巣のように空間を張り巡らす者。
電流を刃に纏い、青白い光を散らす者。
その動きは人間離れしており、明らかに「普通」ではなかった。
「……やはりか」
隼人が低く呟く。その声音は怒りよりも冷徹さを帯びていた。
「こいつら、ただの兵隊じゃない。**組織の強化実験の“失敗作”**だ」
「実験……?」悠真の心臓が跳ねる。
胸の奥にざわめきが広がり、脳裏に姉の笑顔がよぎる。
「姉さんが……その実験に……?」
隼人は口を閉ざした。だが、その沈黙が何より雄弁だった。
「なら話は簡単だろ!」
雷太が一歩前に出る。体中を稲妻が走り、工場全体が紫電に照らされた。
「ぶっ飛ばしゃ全部分かる! 答えなんざ後から拾やいい!」
「まったく……」氷河が吐息をもらし、掌に冷気を集める。
次の瞬間、戦いが弾けた。
雷太が先陣を切り、稲妻をまとった拳を振るう。鋼糸の刺客が糸で絡めとろうとするが――
「んなもん効くかァッ!」
電撃が走り、鋼糸は焼き切れ、刺客ごと吹き飛んだ。
「……調子に乗るな」
氷河の足元から冷気が広がる。影の刺客が背後から斬りかかろうとした瞬間、床が凍り付いて動きが止まった。氷の刃が音もなく突き上がり、敵を一瞬で封じる。
「足音ぐらい……隠せ」
「おおっ、ナイスだ氷野郎!」雷太が笑うが、氷河は目を細めて無視した。
悠真は拳に炎を集中させ、電流の刃を持つ刺客へと突進する。
「……姉さんを殺したのは……お前ら組織なんだなッ!」
炎が爆ぜ、電撃を飲み込む。衝撃波が工場を揺さぶり、敵は灼熱に吹き飛ばされた。
だが、その倒れた刺客がかすれた声を漏らした。
「……シノハラ……ミサキ……標的……」
「――ッ!?」
悠真の胸が凍りつく。姉の名前。知られるはずのないその名を、敵が知っていた。
「やっぱり……姉さんは……!」
思考が乱れ、動きが止まる。その背後――影が忍び寄った。
「悠真、下がれッ!」
隼人の怒号と同時に暴風が吹き荒れ、刺客が吹き飛ばされる。
「ここで死んだら何も分からない!」
隼人の瞳が鋭く光る。
「お前の炎は……まだ燃やす場所があるんだ」
悠真は歯を食いしばり、再び拳を握る。
雷太の笑い声が轟き、氷河の冷気が工場を支配する。
炎、雷、氷。三つの力が激しくぶつかり合い、刺客たちを押し込んでいく。
「悠真は前衛! 雷太は突破役! 氷河は制圧だ!」
隼人が声を張り上げる。
「合わせろ! 奴らを叩き潰す!」
三人はほんの一瞬だけ互いに視線を交わした。
そこに宿ったのは敵意ではなく、戦うための信頼。
――姉の真実を知るために。
――組織を打ち砕くために。
燃え盛る炎が轟き、氷刃が閃き、雷鳴が空を裂く。
「行くぞ――!!」
三人の異能が、初めて「共闘」という形で結びついた。
そして戦場はさらに熱を増し、工場全体が光と轟音の渦に包まれていった。