炎の誓い ― 第十八話「裏の支配者」
炎の誓い ― 第十八話「裏の支配者」
黒木龍一郎を仲間に迎え、悠真たちは「核心」のホールに腰を下ろしていた。
壁にはまだ闇の痕跡が残っているが、莉奈の光で徐々に修復され、静けさを取り戻しつつあった。
しかし、緊張は誰ひとり解けていなかった。
「黒木さん。……“裏の支配者”って…いったい…?」悠真が切り出す。
黒木は重々しく口を開く。
「組織の本当の支配者は、表には姿を見せん。俺たち幹部ですら、直接会った者は限られている。
だが……一度だけ対峙した。あの男は――」
言葉を切り、拳を握りしめる。
「すべての能力をコピーする力を持っていた」
空気が凍りつく。
雷太が眉をひそめた。
「……コピー? じゃあ、俺の雷も……悠真の炎も……」
「氷河の氷も、隼人の風も……全て奴の手に落ちる」黒木は静かに頷いた。
隼人の表情が険しくなる。
「そんな化け物が存在するのか……」
黒木は続ける。
「だが、一つだけ奴が奪えぬ力がある」
皆の視線が一斉に莉奈へ向く。
彼女はきょとんとした顔で首を傾げた。
「……え? もしかして、私?」
黒木は頷いた。
「光――お前の力だけは、奴が触れても、決してコピーできなかった」
莉奈の笑顔が一瞬だけ揺らぐ。
「……なんでだろう。私、特別なのかな……」
氷河は黙って彼女の隣に立ち、短く言った。
「特別だからだ」
莉奈の頬が一気に赤らみ、彼の腕にしがみつく。
「きゃー♡ 氷河くん、そういうのズルい!」
「なっ……! 今は真剣な話をしてるんだ、離れろ!」
悠真は頭を抱えて深くため息をついた。
しかし――次の瞬間。
ホール全体が低い振動に包まれた。
天井の照明が一斉に消え、深い闇が広がる。
どこからともなく、声が響いた。
「……なるほど。黒木、お前は敗れたか」
全員が身構える。
だがその声は実体を持たず、ただ空気を震わせるように広がっていた。
「炎、雷、氷、風……そして光。なるほど、実に面白い」
「……お前は誰だ!」悠真が叫ぶ。
「名など不要。ただの真実だ。お前たちの力は、すでに我が手の中にある」
次の瞬間――影が渦を巻き、悠真の炎が突如として迸った。
「なっ……俺の力が……勝手に!?」
雷太の手から稲妻が走り、氷河の掌に氷の刃が生まれる。隼人の周囲に風が吹き荒れた。
全員の力が、意思に関係なく暴走させられていた。
「これが……コピーの力……!」氷河が息を呑む。
莉奈だけが光に包まれ、暴走の影響を受けていなかった。
声は続く。
「黒木、貴様もまた無用となった。……次に狙うのは“光”だ。唯一我がものとできぬ、忌まわしき力」
「……!」莉奈が息を飲む。
その瞬間、影の腕が伸び、莉奈へと迫る――。
だが黒木が咄嗟に身を投げ出し、影を受け止めた。
「ぐっ……俺はもう、お前の手先には戻らん!」
闇は霧散し、声も消える。
ただ冷たい余韻だけが残った。
澪が震える声で呟く。
「……今のは……本物の“裏の支配者”……」
隼人は強く唇を噛みしめた。
悠真は妹を抱き寄せ、炎を纏った拳を握りしめた。
――これが、本当の戦いの始まりなのだ。