表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/44

炎の誓い ― 第十六話「闇と光」

炎の誓い ― 第十六話「闇と光」




 地下通路はまるで生き物の喉奥を進むようだった。


 湿った空気、低く響く水滴の音、どこからか漂う鉄錆と血の臭い。


 悠真たちの足音は石造りの通路に反響し、不気味な緊張が一行を包み込む。




 「……この先だな」


 隼人が低く呟く。


 風が彼の周囲で揺れ、まるで見えない何かを警告しているかのようだった。




 そして、曲がり角を越えた瞬間。




 「来やがったなァッ!!」


 雷太が吠える。


 通路の奥から、黒装束の兵士たちが一斉に飛び出した。


 無機質な仮面をつけ、刃と銃を構える――組織の雑兵。だが強化処置を受けた肉体は常人を遥かに超えていた。




 「数が多い……!」悠真が炎を構える。


 「ならまとめて焼き払うだけだ!」雷太の拳に稲妻が奔る。




 戦いが始まった。




 炎が通路を紅蓮に染め、氷刃が敵の足を封じ、雷が轟音を響かせながら兵を吹き飛ばす。


 澪は鉄の棒を拾い、剣道の構えを取った。


 「ハァッ!」


 鋭い突きと払いで敵を切り裂き、音すら置き去りにする速さで数人を無力化する。




 だが――数の暴力は容赦なかった。


 敵の一人が雷太の脇腹を刃でかすめ、血が飛び散る。


 澪もまた、無数の敵を相手にしながら肩口に深い切り傷を負った。




 「ぐっ……!」


 「澪ッ!」隼人が風で援護し、敵を吹き飛ばす。


 だが雷太も膝をつき、息が荒い。




 「脇腹だ……油断した…」


 歯を食いしばる雷太。


 その身体は血に濡れていた。




 その瞬間――。




 「大丈夫!」


 莉奈が前に出た。


 彼女の身体から溢れ出したのは、まばゆい純白の光。




 ふわり、と仲間たちの身体を包み込む。


 裂けた肉が繋がり、血が止まり、痛みすら霧散する。


 雷太が目を見開く。


 「お、おい……傷が……ねぇ!? すげぇ!」


 澪もまた肩を押さえながら、驚愕の声を漏らす。


 「莉奈ちゃん、前も言ったけど……この力……本当に人間のものなの……?」




 悠真はただ莉奈を見つめ、胸が熱くなった。


 ――こんなにも優しい光を持っていたんだ。




 「立てる?」莉奈が微笑む。


 「当たり前だァ!」雷太が雄叫びをあげ、再び立ち上がった。


 「ありがとう…」澪も鉄パイプを構え直し、凛とした瞳を前へ向けた。




 光に癒された仲間たちは再び奮起し、最後の兵を打ち倒した。


 そして――重厚な鉄扉の前に辿り着く。




 「ここが……“核心”の門か」氷河が低く呟く。




 隼人が深呼吸をし、仲間たちを見渡した。


 「準備はいいな。……ここを越えた先に、答えがある」




 悠真は拳を握りしめ、姉の笑顔を心に浮かべた。


 ――必ず辿り着く。真実に。




 鉄扉を押し開けた瞬間、視界に広がったのは――広大なホールだった。




 冷たく広がる石の大地。


 天井は高く、闇に覆われ、どこまでも深い奈落のように見える。




 そして、その中央に――。




 漆黒のコートを纏った長身の男が、静かに立っていた。


 黒木龍一郎。




 「……やはり来たか」


 低く響く声は、空気そのものを震わせた。




 彼の背後からは黒い瘴気が立ち昇り、壁や床を侵食していく。


 光が消え、音が消え、ただ“闇”だけが残る。




 隼人がわずかに息を呑んだ。


 「黒木龍一郎……闇の執行者…」




 澪はその姿を見て、身体を強張らせた。


 「……やっぱり、本物……。世界を震え上がらせた怪物……!」




 黒木はわずかに笑った。


 「お前たちに選択肢は二つ……。生きるか……死ぬかだ……」




 その言葉と同時に、闇が渦を巻いた。


 腕のような影が何十本も伸び、ホール全体を覆い尽くす。




 「来るぞ!!」悠真が炎を纏い、雷太が稲妻を走らせた。


 氷河は氷壁を立て、隼人の風が刃を生む。




 しかし――。




 「無駄だ」黒木の声が響いた瞬間。


 炎は呑まれ、雷は掻き消され、氷は砕け、風はねじ曲げられた。


 闇はすべてを吸い込み、二倍の力で押し返してきた。




 「……これが、絶望だ…ダーク・アーム!!」


 黒木の瞳は漆黒に輝き、彼の存在そのものが希望を塗り潰していく。




 影の奔流が仲間たちを呑み込もうとした、その時――。




 「――もうやめて!!」




 莉奈の声が響き渡った。


 彼女の身体から放たれた光が、闇を押し返す。


 仲間の傷が癒え、砕けた床や壁が音もなく修復されていく。




 黒木の瞳が細められる。


 「……その力……光か」




 莉奈は怯まずに一歩前へ。


 「そう。私は“光の能力者”。あなたの闇を――浄化する力を持ってる!」




 眩い光がホール全体を照らし出し、黒木の闇と真正面からぶつかった。


 浄化の輝きと、破滅の闇。




 相反する二つの力が、今、運命を賭けて激突する――!




 光がさらに強さを増し、闇の触手を次々と溶かしていく。


 悠真が驚愕する。


 「莉奈……こんな力まで……」




 氷河は黙ったまま、莉奈の背に立ち、冷気の壁で彼女を守った。


 「無茶はするな」




 「氷河くん……」振り返った莉奈の頬が赤らみ、笑みがこぼれる。


 「やだ、カッコいい♡」


 「っ……!」氷河は視線を逸らし、耳まで真っ赤に染めた。




 雷太はその様子を見て、地団駄を踏む。


 「ちくしょーーー! なんで氷河ばっかり!!」


 悠真はもう慣れたように、ため息を吐くだけだった。




 だが戦況は、確実に変わり始めていた。


 莉奈の光が、黒木の闇を一歩ずつ押し返していく。




 「あり得ん……俺の闇が……浄化されている……?」


 黒木の声がわずかに揺らぐ。




 莉奈は強く叫んだ。


 「あなたのその力は、人を傷つけるだけ。でも……私の光は、みんなを守るためにあるの!」




 眩い光がホール全体を包み込む。


 影の奔流が霧散し、黒木の漆黒のコートさえも淡く揺らめいた。




 「……小娘……!」


 黒木が歯を食いしばり、闇をさらに膨張させる。


 しかし、その闇の核へと真っ直ぐに差し込む一条の光――。




 莉奈の光と黒木の闇が、真正面からぶつかり合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ