炎の誓い ― 第十四話「光の少女」
炎の誓い ― 第十四話「光の少女」
翌朝。
核心への潜入作戦を前に、悠真たちは拠点として借りている古びたビルに集まっていた。
緊張感が漂う空気の中、突然――ドアが勢いよく開かれた。
「おにいちゃーんっ!!!」
明るい声と共に、ひとりの少女が飛び込んできた。
肩までの栗色の髪が揺れ、ぱっと花が咲いたような笑顔。
悠真の妹、莉奈。中学二年生、十四歳。
「り、莉奈……!?なんでここに……」
悠真が目を見開く。
「ふふーん♪ お兄ちゃんがコソコソ危ないことしてるの、前から知ってたんだよ? だから――もう黙って見てるのイヤ!」
その天真爛漫な宣言に、場の空気が一瞬で和らいだ。
雷太が身を乗り出す。
「おおっ! ちょ、ちょっと待てよ……めっちゃ可愛いじゃん!!」
莉奈は首をかしげて笑う。
「あなたが雷太くんだね? お兄ちゃんから聞いたよ。うん、元気でいい人だって!」
「は、はははっ! ま、まぁな!!」雷太の顔は一瞬で緩み、ニヤニヤが止まらない。
だが、莉奈の視線はすぐに別の人物へ――
蒼井氷河へ向けられた。
「……氷河くん♡」
その声はほんのり甘く、彼女は迷いなく距離を詰めて彼の腕に抱きついた。
「ちょ、なっ……!?」氷河の頬が一気に赤く染まる。
「やだぁ、氷河くん冷たい! 私、氷河くんのそばが一番安心するのに」
「はぁ……」悠真は額を押さえ、呆れ半分でため息をついた。
雷太は歯ぎしりしながら叫ぶ。
「お、おいっ! なんで氷河なんだよ!! 俺の方が絶対いいだろ!」
「雷太くんは……うん、ペットみたいで可愛い♡」
「ああああぁぁぁ!?!?」
氷河は顔を真っ赤にしながら、必死で腕を振り払おうとする。
「やめろ! 離れろ! ……全く、子供が……!」
「えへへ♪ 私、もう子供じゃないもん♡」
――その瞬間、彼女の周囲に淡い光がふわりと舞った。
傷ついた机のひびが、光に触れると音もなく修復されていく。
悠真が息を呑む。
「……やっぱり……莉奈、お前……」
莉奈はにっこり笑った。
「うん。私も“能力者”。光の力を持ってるの。傷も、壊れた物も直せるし……」
言葉を区切り、真剣な瞳で兄を見つめた。
「なにより……あの黒い力を、消せるんだよ」
その一言に、場の空気が凍りついた。
隼人が目を細める。
「黒木龍一郎の……闇を?」
莉奈は小さく頷いた。
「澪さんにずっと隠れてるように言われてたけど……もう、そうしてる場合じゃないよね」
澪は唇を噛み、やがて観念したように頷いた。
「……そうね。莉奈ちゃんの力があれば、確かに突破口になる」
悠真は複雑な思いで妹を見つめる。
姉・美咲と澪と共に活動していたこと。自分の炎を知っていながら、ずっと知らないふりをしてくれていたこと。
そして――これから危険な戦いに巻き込むこと。
「……莉奈。お前は――」
「ダメって言っても行くよ!」
兄の言葉を遮って、少女は満面の笑みを浮かべた。
「だって私、お兄ちゃんの妹だもん!」
その言葉に、悠真の胸の奥が熱く震えた。
――炎と光。
新たな仲間を迎え、核心への道が、いま始まろうとしていた。