托卵されて16年後、真実を知った俺は全力で復讐してみた。
『この子は貴方との子ではないの。だから別れて』
娘の16歳の誕生日の日。
妻が突然そう言い出したのを鮮明に覚えている。
最初は意味を理解することができず、冗談だと思って笑った。
『相手ももう呼んでいるの』
そう言って玄関から入ってきたのは、俺の勤める会社の社長。
肌が黒く焼けた社長は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら妻の隣にドカッと座った。
俺の正面に座る妻と娘の背中に手を回す。
俺は理解ができずに、混乱する。
妻が語り始めたのは衝撃の内容だった。
何と、俺の娘が実は社長との子だったのだ。
所謂托卵だ。
その事実を聞いた時、自分の耳を疑った。
DNA鑑定でも示されており、証拠を見て膝から崩れてしまった。
16年間、育ててきた娘が本当の子じゃなかった。
その真実にショック―――以上の何かが俺を襲う。
デキ婚だった俺と妻が出会ったのは17年前。
お互い人見知りな性格であったが、俺が告って付き合い始めた。
そして1年後、妻から妊娠したことを告げられた。
俺はそのことに喜び、結婚を決めたのだ。
その日から、家族のために朝から晩まで働いた。
決して高い給与ではなかったが、妻と娘のために仕事をした。
休日は家族の時間を大事にして、娘を愛していた。
それなのに・・・。
どうやら社長が奥さんとの離婚を機に、俺の妻を次の奥さんにしたいらしい。
それに妻は応じたのだ。
聞いた話によると、娘を出産してからも月に一回ほどは会っていたらしい。
『貴方と違って金もあって顔も良くて、夜の方も凄いのよ』
雌の顔になる妻を見て、改めて寝取られてしまったと感じた。
雄としても社会的地位でも負けて、愛した妻を奪われた。
せめて娘でも・・・そう望んだが、娘の俺に向けてくる目は冷ややかなものだった。
『あんたみたいな親なんて願い下げよ。金もなくて顔も普通でなんの取り柄もない。それに比べて新しいパパは何でもくれるの!』
社長に寄りかかる娘は誇らしげに語りだす。
俺が知らない間に妻が紹介していたようで、だいぶ前から托卵のことを知っていたらしい。
確かに娘は美人だが、それは妻似だと思っていた。
ある時期から今まで俺を無視するような行動が増えたけど、反抗期だと思っていた。
でも、全てが繋がっていた。
『ま、待ってくれ!』
『じゃあな、お前の妻はもう俺のもんだ。もちろん娘も』
そう言い残すと、社長は二人を連れて外へと出る。
二人は泣き崩れる俺へ一瞥もくれず、楽しそうに去っていった。
2日後、俺への解雇通知が届いた。
でも、そんなこともうどうでも良かった。
俺にとって、人生そのものであった家族が奪われた。
いや、元々存在していなかったのかもしれない。
エ◯漫画のように妻は妊娠させられ、そのまま俺は気付かずに育てていた。
あんなに愛した娘にも捨てられて、俺は生きる気力を無くした。
俺はただ真っ当に生きてきて、家族を愛していただけなのに何で絶望しなきゃいけないんだ。
このまま漫画のように、あの三人を殺して自殺するか?
そうすればきっとスカッとするだろう。
・・・いや、何で俺が死ななきゃいけないんだ?
そうだよ、この絶望をあいつらにも味合わせればいいんだよ!
最高の復讐方法は自分が幸せになることだ!
そして、あいつらを地獄の底に叩き落とすことだ!
16年間の俺の幸せだった時間を奪ったあの三人に、これ以上幸せな時間を与えてはいけない。
俺はその日のうちに行動を始めた。
娘のために密かに貯めていた200万円のお金がある。
それを全て使って、裏社会の探偵を雇った。
持ち金全てを渡して、あのクズ社長の弱みを見つけ出させた。
中流企業の社長だから何も出ない可能性もあったが、やはり見つかった。
裏で地方政治家と繋がっており、多額の賄賂を渡しているらしい。
その証拠を受け取ると、早速文◯や大手メディアへとそれらのことを流した。
翌月にはそのことが世間に知れ渡り、社長を辞任。
本当は他にも大手企業や大物政治家も絡んでいたらしいが、全ての罪を着せられて逮捕された。
尻尾切りにされたのだ、ざまあみろ!
社会的地位を失い家族の大黒柱がいなくなった元妻の家庭。
期待していたような生活を送れなくなった元妻に、追い打ちをかけるようにそれとなくクズ元社長の不倫のことを教えた。
女遊びが激しかったクズ元社長は愛人を多く持ち、そのことで二人は喧嘩して離婚したらしい。
奴らの家庭は一瞬で崩れ、幸せなどもう訪れない。
俺はというと、全てをやり切ったので新しい人生を再出発をすることにした。
たまたま誼のある会社に拾ってもらい、社会復帰ができた。
そんなある日、元妻と元娘が俺の下にやってきた。
会っていきなり、泣きながら縋り付いてくる。
「助けてほしいの」
「ねえ、私は娘でしょ!助けてよ!」
元妻の言葉は全く響かない。
元娘の言葉は流石に効くと思ったけど・・・予想以上に何も感じなかった。
もし”お父さん”と呼ばれれば少しは揺らいだかもしれない。
金銭的な問題で高校も危ういらしいが、そんなことは知らない。
「バチッン」
俺は元娘の頬を叩いた後、二人へ素晴らしい紙をあげてやった。
「ここに電話を掛ければ、いいことがあるかもしれないぞ」
最後の情だ。
嬉しそうに帰ってく二人の背中を、笑みを浮かべながら見送る。
その電話番号は、裏社会の人に繋がるものだ。
俺の全財産でも探偵料が払い終えなかったので、あの二人を肩代わりにするのだ。
それが最後のあの二人への復讐だ。
どうかこれ以上俺の人生に関わらないでくれ。
5年後、会社へ行く途中見知った男がホームレスをしていた。
逮捕され、最近釈放されたクズ元社長だ。
俺は100円を渡すと、間髪入れずにその腹を思いっきり蹴り上げた。
「グハッ」
今日も良い一日になりそうだ!