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4章 第6話 神成のジェネシス!


 膝を抱え泣きじゃくるルネ。

 

 どうすることも出来ず、見守ることしか出来ないアノン。

 

 再び記憶を失ったアノン。

 

 自分が何者でどうしてこんなところにいるのか、まるで理解できなかった。

 

 「泣かないで……どうしたらいい?どうしたら、君の涙を止めてあげられる?」

 

 だが、アノンはルネに声をかける。

 

 どうしようもなく胸が苦しい。

 

 彼女に泣いて欲しくない。確かにそう感じている。

 

 「ごめん……なさい。わた……し、なんでも出来る気になっていました……誰しもを救えるって……」

 

 「……やはりか。ビスラの力でも救えぬものはあるのだな。」

 

 確かめるようにつぶやく魔王。

 

 どこか儚げでアノンなら覆せるかもしれない。

 

 そんなことを思っていたような口ぶりだ。

 

 「ルネフィーラ。言っておくが、その力は死を救済する力なんてものじゃない。」

 

 「え……」

 

 「君は……?」

 

 困惑するルネ。状況が理解出来ていないアノン。

 

 「この世界の人間は死ぬ時期が決まっている。本来死ぬ事がない人間がエラーによって死んだ。その際に修正する力だ。……ただの世界のシステムに過ぎないってことだ。」

 

 「そん……な……じゃあ世界の人々が蘇ったのは……」

 

 「俺はこの世界の人間では無い。俺が関与したことで、死ぬ時期が早まった。だからお前の力が覚醒したんだ。」

 

 さらに涙が溢れ出るルネ。自分が成すべきことだと思っていた。

 

 そのための力を得たと思っていた。

 

 それなのに現実は違ったのだ。

 

 「これが現実だ。」

 

 魔王は水晶を出現させると、上空に映像を映し出す。

 

 そこにはルネの力によって蘇った人々と死んだままの人々が映し出される。

 

 「分かったか?……これがこの世界の現実だ。……神の手によって、人が弄ばれる。……だから俺はこの世界とそして、神を全て殺す。」

 

 怒りを表すかのように水晶を握り潰す魔王。映像は虚空に消えていく。

 

 「……事情はわかんないけど。それはただ、現実を拒絶しているだけだ。」

 

 「……なに?」

 

 立ち上がるアノン。

 

 記憶を失ったというのにまるで今までと変わらない眼差しがそこにはあった。

 

 「力も存在意義も忘れたお前に何が出来る?」

 

 「何も分からないよ。記憶ないし。……でも魂がね、『君を止めろ』って言ってるんだ。……きっとどうにかできるはずだ。」

 

 「やったさ!!!やってきたさ!!!だが!人は変わらない!争いは終わらない!世界がそうなんだ!……どれだけいい人間も世界に殺される!……そういうふうに出来ているんだ!……なら俺が壊すしかないだろう!?」

 

 無防備なアノンに向けて放たれる魔導。黒い瘴気の塊がアノンを包み込む。

 

 「あああああああっ!?」

 

 力を失い、記憶を失ったアノン。

 

 彼にはもう魔王に対抗する手段がない。

 

 「まだ……だよ……!……ボクは諦めない……!」

 

 「アノンくん!!!もうやめて!!!死んじゃうから!!!」

 

 苦悶の表情を浮かべるアノン。

 

 涙を流し声を荒らげるルネ。自分の力は何の役にも立たないと思い込み、どうすることも出来ない。

 

 「二人まとめて消してくれる!!!」

 

 さらに出力を上げる魔王。両手から放たれる魔導は2人を包む。

 

 恐怖で目を閉じるルネ。だが、庇うようにアノンが2つの魔導を受け止める。

 

 「ぐっ……まだだ……ボクはまだ……!君を知ってない!世界を見ていない!!!……ちゃんと全て知りたいんだ!!!」

 

 「……アノンくん……!!」

 

 瞳を開け、その姿を焼き付ける。

 

 記憶を失っても消えることの無いアノンの強い魂。

 

 ルネはようやく理解する。

 

 何度記憶を失っても、アノンは変わらない。

 

 「なんだ。何も失ってないじゃないですか。私の……大好きなアノンくんです……!」

 

 ルネは覚悟を決め、アノンの横に並び立つ。

 

 「バリアぁあああああっ!!!」

 

 「な……なにっ!?」

 

 魔王の魔導を押し返すように展開されるバリア。

 

 「ぐっ!?がぁあああああっ!!!」

 

 押し返すことが出来ず、魔導に飲み込まれる。

 

 ーーーーーーー。

 

 「アノン!!フィーラ!」

 「2人とも!!!」

 

 ようやく最深部へとたどり着いたシルビアとイリス。

 

 傍らにはキキの姿も見られる。

 

 「……主。」

 

 目線の先には倒れたアノンとルネ。

 

 巨大な瘴気に飲み込まれている魔王。

 

 「クソがああああああっ!いつまで俺を邪魔する気だ!!!」

 

 瘴気が一点に集まりそれを吸収する魔王。

 

 肉体の至る所から出血をしている。

 

 表情は憎悪に満ち、アノン達を睨みつける。

 

 シルビアとイリスに肩を借り、なんとか立ち上がる2人。

 

 キキは魔王の傍らに駆け寄る。

 

 「あ、主……」

 

 「下がってろ。あと少しだ。直に世界は終わる。人間と魔族の最後のあがきを見届けたら、奴らを消す。……そして、最後の希望であるアビュートも俺が消す。」

 

 「や、やめよう。……主。」

 

 「……は?」

 

 「あるじ……ずっと、苦しそう……ずっと、悩んでる。……ずっと求めてる……このままじゃ、いつか、死んじゃう。」

 

 キキは震えながら静かに涙を流す。

 

 「……そうか。心配かけたね。キキ。」

 

 優しく微笑む魔王。キキはぱあっと表情を明るくする。

 

 刹那、キキの腹部に魔王の拳がめり込む。

 

 「かっ……!?」

 

 呼吸することが出来ず、白目をむくキキ。

 

 「そんな……!?」

 

 「やめろっ!!!」

 

 「あいつ!!!」

 

 そのままキキの頭を握り持ち上げる。

 

 「好きに生きろ。キキ。『リジェクト』」

 

 その言葉の意味を理解してしまうキキ。どんな暗闇よりも深い闇がキキの感情を支配する。

 

 ただ、そばに居ることができれば、それで良かった。

 

 だからこそ、その言葉は死よりも残酷だ。

 

 闇がキキの体を包み込んでいく。魔王は涙を流していた。

 

 ーーーーー。

 

 刹那。魔王の腕を握り、ルネが間に入る。

 

 「だめ……ですよ?」

 

 息を切らしたように肩で呼吸する。

 

 キキを見やると全身にバリアが張り巡らされ、魔王の記憶を消すリジェクトから守られていた。

 

 「どこまでも俺の邪魔をするなぁあああああっ!!!」

 

 激昂する魔王。握っていたキキを手放しルネを吹き飛ばす。

 

 「こんのぉおおおおっ!!!」

 

 ついに限界が来て、飛び出すシルビア。

 

 全身にフェニックスを纏い、魔王の顔面に一撃を与える。

 

 「ちっ……ディバインへの到達か。忌々しい!!……そんな力、ウルにはなかった!!!だから死んだんだ!!!」

 

 激しく溢れ出す瘴気。簡単にシルビアを吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされたシルビアとルネを受け止めるアノン。

 

 「大丈夫……?ルネフィーラちゃんと……えっと……」

 

 「……っ。はい……なんとか……」

 

 「アノン……あんた……もしかして……」

 

 名前の呼び方が普段とは違う。アノンは必死にこの状況を受け入れようとしている。それを理解し、悲しみを我慢するルネ。

 

 いち早く変化に気がつくシルビア。

 

 ーーーーーー。

 

 「キキちゃんもメア師匠も……あなたのこと理解してた。それを拒絶して、殻にいつまで閉じこもる気?」

 

 「お前には分からないだろうな。大切な仲間を殺される気分は!!!俺は仲間を目の前で世界と人間に殺された!この醜い世界に!!!」

 

 「だからそれが閉じこもってるって言ってんの。……キキちゃんもバロゼもあなたが生み出したんでしょ?それなら、世界の秩序から外れてるはずよ。……それに師匠は殺されてないし、死んでない。私たちの記憶の中で生き続けてるし、あの人はちゃんと自分の人生を全うしたわ。」

 

 「ならば!!!おまえの記憶も奪ってやるさ!!!そんなものただの紛い物だ!!!」

 

 「お前も……?まさか、アノンちゃんの記憶……また奪ったの!?」

 

 感情のままに暴れる魔王。我武者羅に瘴気とリベレイトを解き放つ。

 

 「ちっ!!!」

 

 舌打ちをしながら冷静に対処していくイリス。

 

 飛び上がりつつ、ホーリーでリベレイトを打ち消し、魔導を身に纏うことで無力化していく。

 

 「魔導・ホーリー!」

 

 「リジェクト!!」

 

 距離を詰め、至近距離でホーリーを放つが、リジェクトされる。

 

 残った魔導の固まりと強大すぎる魔王の瘴気がぶつかる。

 

 大爆発を起こし、爆風によって、吹き飛ぶイリス。

 

 アノンの所まで吹き飛ぶ。

 

 ーーーーーー。

 

 全員が2時間以上戦い続けている。

 

 ルネの力もほとんど残っておらず、回復は見込めない。

 

 頼みの綱のアノンも記憶を失い、まるで戦力になっていない。

 

 イリスやシルビアは回復無しでここまで戦ってきた。そろそろ限界なのか膝をついている。

 

 「ごめん……なにも出来なくて、どうしたらいい?どうすれば、あの人を止められる?」

 

 だが、アノンは諦めていない。

 

 「方法は……ある。」

 

 背後からか細い声が聞こえてきて振り返る。

 

 キキが倒れ込んだまま、4人に声をかける。

 

 「キキちゃん!?」

 

 イリスが駆け寄り、抱き上げる。

 

 「イリス……言った……助けてくれるって。……自分の意思で魂を継いだって。……まだこの世界に希望あるんでしょ……証明して見せてよ」

 

 「そうか……そうだね。その手があった!!!」

 

 全てを託し微笑むキキ。全てを受け取り、立ち上がるイリス。

 

 ーーーーー。

 

 「ルネちゃん最後の力を振り絞って、わたしを回復できる?」

 

 「え、いけますけど。最後の1回になりますよ?」

 

 「分かってる。いけるのね?」

  「た、たぶん。」

  「限界を決めない!!どうなの!?」

 

 「は、はい!!!いけます!!!『ヒール』!!!」

 

 立ち上がり、全身から優しい光が溢れ出すルネ。

 

 イリスを包み込み、みるみるうちに回復させていく。

 

 「ありがとう。バッチリじゃない。あとはゆっくり休んでいいよ。」

 

 「は、はい……」

 

 イリスは微笑むと優しくルネの頭を撫でる。

 

 ルネは安心したようにイリスの胸で眠りにつく。

 

 全力を超える全力。ついにエーテルが枯渇したようだ。

 

 イリスは優しくルネを横にする。

 

 ーーーーーー。

 

 「よし!そしたら、シルビアちゃん!」

 

 「え、あ、はい!」

 

 「アノンちゃんのこと好き?」

 

 「ひえっ!?」

 

 「どうなの!?」

 

 「な、なんですか!急に!」

 

 突然の言葉に赤面し、モジモジと身体をくねらせるシルビア。それを一喝するようにイリスの声が響く。

 

 「いいから答えて!!!あなたが1番近くでアノンちゃんを見てきたはずよ。アノンちゃんがアノンちゃんになったのはあなたと出会った時からよ。……1番理解しているのはあなた。……違うの?」

 

 本気の言葉にアノンへ視線を向けるシルビア。アノンはぽかんとした表情をしている。

 

 「そうです!そうですよ!大好きよ!!……いつも馬鹿みたいに純粋で!呆れるぐらい強くて!!私のこと、見てくれるアノンが大好きよ!!!」

 

 腹を括るように紡がれるアイの告白。

 

 「な、なんか胸がドギドキするよ」

 

 記憶が無いはずなのに赤面するアノン。

 

 シルビアは恥ずかしさで顔を覆う。

 

 その様子を見てイリスは微笑む。

 

 そしてそのまま、二人の額に手を触れるイリス。

 

 「いくよ!『リコレクション』!!!」

 

 イリスは全力で詠唱する。

 

 二人の肉体は光り輝き、やがて大きなひかりを形成していく。

 

 ーーーーーー。

 

 「やらせると思うかぁああああっ!!!」

 

 刹那。膨大な瘴気を纏い、突撃する魔王。

 

 その間に大剣を持った褐色の少年が割って入る。

 

 「いい加減に落ち着けよ!主!!!あいつが、世界を変えてくれるさ!もう少し、見てみようじゃねえの!」

 

 「お前もか!お前も俺を止めるのか!!!」

 

 炎をまとった大剣。魔王の一撃をなんとか食い止めるが、力に耐えきれず折れてしまう。

 

 「あああああああっ!!」

 

 放たれた2発目の拳をモロに喰らい、倒れる。

 

 「おわりだああああああっ!!!」

 

 掌から放たれる膨大な瘴気。

 

 だが、アノン達を守るように緑髪の青年が現れる。

 

 「少しぐらい、僕も役に立たせてもらうよ!アノン!!」

 

 「ライム・コリアンダーだと!?何故ここに!?」

 

 「みんなが学園を守ってくれてる!もちろん、リタも!……仮は返させてもらうよ!!!」

 

 魔王の膨大な魔力を押し返すライム。

 

 「見せてやるよ。人と魔族の共存ってやつを!!!『エーテル・バースト』『魔導解放』!!!!」

 

 「ばかなっ!?人間の力と魔族の力だと!!!!」

 

 「世界は変わっていくんだよ!君みたいな、間違った魔王じゃなくて、アノンみたいな純粋な心根で戦うやつの背中を見てね!!!」

 

 「ぐおっ!?おし、押し負ける!?」

 

 「だぁああああああっ!!!」

 

 ぶつかり合う魔導を突き抜け、ライムの拳が炸裂する。

 

 圧倒的な一撃に吹き飛ぶ魔王。

 

 ライムは力尽きるように倒れる。

 

 「なり損ないの、魔族がぁああああっ!」

 

 全身血まみれで立ち上がり突撃してくる魔王。

 

 ライムは動けない。

 

 否。

 

 動く必要が無いのだ。

 

 「遅いって……アノン」

 

 「待たせたね!みんな!!!」

 

 魔王に探知されることなく、現れたアノン。

 

 魔王の背後を取ると、優しい光が2人を包み込む。

 

 「なっ!?はなせっ!!!」

 

 「ちょっと、場所変えようか。」

 

 「なにっ!?」

 

 虚無の世界に生まれた小さな光。

 

 その中に吸い込まれていくアノンと魔王。

 

 全員の視界から2人は消える。

 

 ーーーーーー。

 

 白一色で統一された光の世界。

 

 そこには、アノンとサタエル=ルキファー。

 

 2人の姿があった。

 

 「アノン!!!!」

 

 飛びかかり、殴りつけるサタエル。

 

 だが、動じることなくアノンは微笑む。

 

 「なっ……」

 

 唖然とするサタエル。よく見ると、アノンの肉体から瘴気が溢れ出す。

 

 「神に……成ったのか……?」

 

 「どうだろう?わかんないや。でもこれはメア・ギャビーの力。」

 

 「メアの……?」

 

 一歩二歩と後退する元勇者ルキファー。

 

 「いや違う。そんな馬鹿なことがあってたまるか。……たとえ誰が邪魔しようと、どんなことをしようと世界は変えられない!俺が壊してやるんだ!!!」

 

 再び瘴気を溢れさせ、殴りつけるルキファー。

 

 今度はさらに重力のリベレイトを放つ。

 

 だが、アノンは動じることなく微笑む。

 

 「なぜ笑う!!なぜ笑えるんだ!!」

 

 一撃一撃の重い拳。あえて受けるように殴られ続ける。

 

 そして。

 

 「……フェニックス」

 

 「あああああああっ!!!!」

 

 アノンから燃え盛る炎が溢れ出て、ルキファーの全身を包む。

 

 だが、不思議と熱くはなかった。

 

 浄化されるように癒えていくココロの傷。

 

 ルキファーは涙を流している。

 

 「ウル……ウルの炎なのか……?」

 

 「うん、そうだよ。そしてこれが……」

 

 アノンは言葉にすることなくその力を解放する。

 

 ルキを包む炎は消えてゆき、青白い光が、包み込む。

 

 血まみれの体を癒していく。

 

 「……ビスラ、オレは間違えたのか……?」

 

 霞む視界に浮かび上がる三人の背中。

 

 かつての友の後ろ姿。

 

 ルキは歯を食いしばりながら涙を流す。

 

 「きっと、間違いなんてないよ。同時に正しいなんてこともない。……でもさ、君は確かに世界を見てきたんだ。」

 

 「俺はそんな風には……思えない。……くっ……『リジェクト』!『リジェクト』!!『リジェクト』!!!」

 

 駄々をこねるように解き放たれる『拒絶の心』。

 

 だが、アノンは再び優しい笑みを浮かべる。

 

 「……『アクセプト』」

 

 「くるなあっ!!!お前みたいな奴はいつか身を滅ぼす!甘いんだよ!いつか、理想によって、大切なものを失う!オレはそうだった!!!」

 

 「そうだね、そうだと思う。でもこれが、ボクの在り方だから。」

 

 どんなに拒絶されても『受け入れる心』。アノンは歩みをとめず、ルキに近づき手を差し伸ばす。

 

 「サタエル=ルキファー。……ううん、テンダリア。……だからこそ、君が神に成るんだ。」

 

 「なっ……」

 

 「ボクは君こそが、なるべきだと思ってる。……ボクはほら、知らないことまだまだ沢山あるし。」

 

 「こんなふざけた世界を作り出す神になれと!?笑わせるなよ!!!」

 

 「そうじゃない。……神候補ってさ、なれる神ひとつだったかな?」

 

 「は?なにいって……」

 

 「だったら、こんな回りくどく世界見て学べなんて言わないと思うんだよね。……世界を知って、好きな神、なりたい神になればいいんだと思うよ?それを見つけるための異世界転移なんじゃないかな?」

 

 「な……人と同じように夢を見つけろというのか!?」

 

 「そうだよ?生まれた意味や宿命なんて、決まってない。好きに選んで決めていいんだよ。それはきっとボクたちも同じだよ。」

 

 「そんな……オレらは神だぞ!?神になるのが、宿命だ!生まれた意味だ!」

 

 「うん、そうかもね。でもならさ、こんな酷い世界を素敵な世界へ変えちゃう神様になっちゃいなよ。それなら、存在意義にも、宿命にも否定されないでしょ?」

 

 「そんなの規格外すぎる……!理から外れてる!」

 

 「えっへへ。それでこそ神だと思わない?……それにこの世界もきっと同じだよ。みんな、自分の意思で生きてる。君の仲間は本当にすごいことをした人たちだよ?……だからさ、もう苦しめるのやめようよ。」

 

 全く邪念のない笑顔。純粋で何者にも染まらない彼だけの色。

 

 記憶を失い、偏見をなくしたからこそ、彼は世界を純粋に見ることが出来た。だからこそ、紡がれる言葉がある。

 

 「はあ、なんだ。頭がおかしくなりそうだ。お前はそれでいいのか?オレを倒すんじゃないのか?」

 

 頭を抱えるルキ。呆れてなんだか調子が狂ってしまう様だ。もう既に自分のなすべきことが見えているからなのかもしれない。

 

 ただ、闇に囚われて憎んで、苦しんでいたからなのかもしれない。視界は黒く曇っていたのかもしれない。

 

 「だれも倒すなんて言ってないよ!テンダリアが話聞いてくれなかったんじゃん!……もう、ここまで来るのに色んな人に助けてもらったんだからね?」

 

 みんなの想いがあったからこそ、ここまで来ることが出来た。その想いの連鎖を形作ったのは紛れもなくアノンの奮闘があったからだろう。

 

 だからだろうか。やはりルキはアノンに希望を見出してしまう。

 

 テンダリアとして過ごした時間が、勇者ルキとして過ごした時間が、彼の中にもやはりあるのだ。

 

 「……世界は変えられると思うか?」

 

 「わかんないよ、やってみなきゃ。でもボクはまだまだ知っていくつもりだよ、この世界を。人間を魔族を。……そして、見てみたいんだ。キミが作るこの世界を。」

 

 「……少しだけだ。やってみてやる。」

 

 「えっ!?ほんと!?」

 

 「ただし!出来なかったなら今度こそ世界を滅ぼす。たとえオレが神になれたとしても、世界が変わらなければオレが滅ぼす。……どうせ、死ぬ運命は変えられない。少しの間だけ、お前のくだらない話に乗ってやるだけだ。」

 

 釘を刺す用に言葉を紡ぐルキ。それでもアノンは優しく微笑む。

 

 「うん!それで構わないよ!……あと最後にお願いあるんだ、テンダリア。『僕の神候補としての記憶を消してくれない?』」

 

 「……はあ。お前らしいのかもな。……本当に意味のわからないやつだ。」

 

 「……ありがとう!」

 

 微笑み合い光の世界は消失する。

 

 ーーーーーー。

 

 『共に来ないか。キキ、バロゼ。オレは…………いや、今更すぎるな。……だが、そばにいて欲しいと……思ってる。……ダメか?』

 

 『……嬉しい!!……いいに決まってる!……ずっと、ずっと!!……そばにいます!』

 

 『……俺様はあんたの作る世界を見てやるよ。クソみてえな世界にしたら、承知しねえぞ』

 

 『それは……頑張らないとな』

 

 『キキ、幸せにな。』

 

 『うん!バロゼもちゃんと、自分見てあげて。……元気で!』

 

 『……そうだな。そうさせてもらうわ。……んじゃまあ、頼むぜ。神様。』

 

 『ああ、任せろ。……楽しかったぞ、3人での冒険は。……ありがとう。』

 

 「ああ、俺様もだよ。命をくれてありがとうな…って……行っちまったのか。……まったく、綺麗な笑顔見せやがって。……俺様もいい加減、進まねえとな。」

 

 

 ーーーーーー。

 

 

 

 あれからすぐに世界各地から溢れ出た魔物は消失。

 

 感情の暴走による争いも落ち着いた。

 

 多くの死傷者を出した歴史に刻まれるほどの世界戦争。

 

 だが争いの末、魔族、魔人、人族の代表は立ち上がり戦争終結を宣言した。

 

 まだまだ世界に残る火種。

 

 争いの傷跡。

 

 それはアノン達が後々知ることとなるだろう。

 

 ひとまずは世界から争いは一時的に収まり、アノン達も無事に学園へと戻った。

 

 ーーーーーーー。

 

 あれから5年。

 

 地域の復興も落ち着き、徐々に人々の中で笑顔が見られるようになった。

 

  あの後、テンダリアやキキの姿はなかったが、卒業したバロゼは『ギルド』を設立。

 

 まだ世界に残っている魔物を討伐。村人を守ったり貴族の不正を暴いたりして、生計を立てているらしい。

 

 アノン達は学園に残り再び授業を再開。

 

 歳を重ねたが、何も変わることなく過ごしていた。

 

 アノンやリタルト、魔人たちは歳をとることないが、どこか以前よりも落ち着いた表情をするようになっていた。

 

 もう既に多くの修羅場をくぐり抜けた生徒たち。最後の青春を謳歌しているのだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 そんなある日。イリスにアノン、ライム、シルビア、ルネフィーラ、ミルク、リタルトは呼び出されていた。

 

 メアの像がある書庫。極秘の話なのだろう。

 

 「お姉ちゃん、こんなにぞろぞろ呼び出してどうしたのさ。」

 

 「みんなもうすぐ卒業でしょ?君たちはきっと好成績でこの学園を出ていくことになる。自分たちで進路を決めるのもいいけど、私から提示できる進路先は伝えようかなって。」

 

 前に出て質問するアノン。イリスは微笑みながら質問に答える。

 

 「進路か……」

 

 「良かったね!ライム!進路先悩んでたじゃない!……私の誘い断ってさ!」

 

 「それはごめんって。」

 

 「ふっ…好きに悩むといい。我々は姫と後の王を守るだけだ。」

 

 「気が早いって…」

 

 苦笑いをするライム。すこし拗ねているリタルト。何故か誇らしげなミルク。

 

 「そうそう。魔人族の学園『スラビア』の設立は認可されてる。こちらとしても、姉妹校として協力したいわ。……ね、魔人族のお姫様?」

 

 「ちょ!センセ!!」

 

 「いいじゃない。みんなどうせもう知ってるわよ。」

 

 「うぅ、みんなが勝手に動くからあ!!」

 

 「姫だけじゃ死んでたぞ(……まあ私は先生に殺されたけど。黙っておこう。)」

 

 「いつも助けてくれてありがとう!もう!これでいい!?」

 

 「ああ、間違いない」

 

 「あはは……」

 

 ーーーーーー。

 

 「そしてここからが本題。魔人族の学園設立に対して、魔族領でも動きが見られてる。『ルキメア学園』……勇者と魔王、メア師匠を柱に設立される。……ないとは思うけど、ここの調査をお願いしたいの。まだまだ過激派は潜んでいるはずよ。」

 

 「えっと……つまりは魔族の学校の先生になるってことですか?」

 

 「そーいうことになるね。どう?だれかやらない?」

 

 明らかに面倒事の匂いがする案件。それでも、一人の手が上がった。

 

 みんな心の中で誰がいいか分かっていたのかもしれない。

 

 「……やってみたいです。」

 

 「うん、いいと思うよ。ライムちゃん。」

 

 「まあ……ライムが決めたことなら、仕方ないっか。」

 

 「うん、ごめんね。スラビア教師の件、散々断っておいて……」

 

 「ううん、いいよ。何かあったら、協力するからね!……どーんと、やってきて!」

 

 「うん!ありがとう!」

 

 「わあ!!ライムが先生か!!すごいなあ!」

 

 「向いてると思いますよ?ライムさん。」

 

 「応援してるわ。ライムさん。」

 

 「うん、やってみるよ。」

 

 決意を固めるライム。自分の本当の故郷。そこで、何かを見つめ直したいのかもしれない。誰もその決意を止めようとは思わなかった。

 

 ーーーーーー。

 

 「それとあとひとつ。おすすめの進路先を紹介できる。」

 

 続けるイリス。視線は自然とルネフィーラに向けられる。

 

 「……私に合うお仕事なんですね?」

 

 「……プルーラ・トケイシス司教。聞いたことある?」

 

 「っ!?そ、それは!!!私の育ての親です!」

 

 「やっぱり……そうなのね。ビスラ教からの直接指名よ。断るのもありだし、やってみるのもありだと思う。」

 

 「やります!やってみたいです!!!」

 

 「うん。わかった。だけど、ビスラ教はいい噂ばかりじゃない。わるーい噂も沢山ある集団よ。……あなたが入ることで流れが変わることを期待するわ。」

 

 「はい!!!人々を救える……私はそのためにここに来たんですから!」

 

 ずっと、ルネフィーラが描いてきた夢。葛藤し、悩み、時には泣いて、そして進んできた。

 

 我慢できずにシルビアとアノンは抱きつく。

 

 「「おめでとう!!!」」

 

 「凄いじゃん!ルネ!!」

 

 「やったね!フィーラ!」

 

 「はい!!!!」

 

 満開の笑みで抱き合う三人。

 

 学園に入ってからずっと仲良しの3人だ。一人の進路が決まることに自分の事のように喜ぶ。

 

 少し寂しそうに見守るライム。見かねて、リタルトが彼の背中を推す。

 

 「えいっ!」

 「おわっ!」

 

 「ほら!ライムも!」

 

 飛び上がりながら、ライムの手を引くアノン。

 

 弾けるように笑顔になるライム。三人の輪の中に自然と率いられる。

 

 リタルトは今日一の笑顔で見つめるのであった。

 

 「……おめでとう!ルネフィーラさん!」

 

  「はいっ!!同時に進路決まっちゃいましたね!」

 

 「はは、そうみたい!」

 

 「いいなあ!ボクたちも決めないとね!」

 

 「そうね!でも何となく、形は見えてるでしょ?」

 

 「あ、わかる?」

 

 「そりゃあもう。」

 

 「あ、あのぉ……気が早いかもしれませんが……パーティとか遊びに行くとか……しませんか?」

 

 「おおおお!!いいね!いいね!やろうよ!!!」

 

 「素敵な案だね!なんか僕、色々尖っちゃって、みんなと遊ぶの久しぶりだよ!」

 

 「あっ……自分から言うんだね……」

 

 「いいじゃん!いいじゃん!そのおかげでリタルトちゃんと仲良くなったくせに〜!!」

 

 「いや!えっ!?それは!!」

 

 「素敵でした!学園祭のキス!!!」

 

 「あれはロマンよね!」

 

 「ちょ!2人まで!いじらないでよ!」

 

 「えっへへ!いいじゃんいいじゃん!テンダリアにルネさらわれてさ、そのあと色々あって遊んだり話したりしなかったじゃん!」

 

 「そうですよ!聞きたい話沢山ありますからね!私5年前の夏休み、またみんなでプールに行こうとしてたんですから!!!」

 

 「えっ!じゃあ今年行く!?」

 

 「いいじゃない!行きたい!!」

 

 「僕も賛成だよ!行こうよ!!」

 

 思い出と話したいことが溢れていく4人。かつての友。

 

 色んなことがあってすれ違った時もあった。

 

 それでも今はただ、楽しそうだ。

 

 

 

 ーーーーーー。

 

 「あ〜ぁ、アノンちゃんとシルビアちゃんにも沢山来てるんだけど!……聞こえてないか〜……まあ、2人は自分で決めるだろうし、いっか〜」

 

 とても盛り上がってイリスの話は耳に入らなそうである。 それをわかってかイリスはリタルトとミルクに近づく。

 

 「全然関係ないけどさ?……魔人族の中に過去の王族とか混じってない?後継者不足なのよね〜今の王国って。」

 

 「何を当たり前のことを。100人はいるだろうさ。皮肉なことにな。」

 

 「だよねー!ミルクちゃんとかそうなんじゃない?」

 

 「……さあな。例えそうでも興味が無い。私は姫を守ることに魂を実感した。それだけだよ。」

 

 「そっか。惜しいね。……でも、気が変わったならいつでも言って。世界がもっと、住みやすくなった時にでもさ。」

 

 「ふっ……考えておこう。」

 

 「センセはまだここで教師を?」

 

 「ううん。辞めるよ。やっぱ私は私のやり方で世界を飛び回ったり、森に引こもる方が性に合ってるからね。……それに、ベラがいればなんとかなるよ。」

 

 「センセはちゃんと、先生してたよ。ただ、人の努力は見に見えるものじゃないから。」

 

 「さすが、お姫様は違うね〜」

 

 「やめてったら!!」

 

 ーーーーーー。

 

 「お姉ちゃん!お姉ちゃんも、今日のパーティ来るでしょ!」

 

 「もっちろん!いくよ!」

 

 話が一段落着いたところで、引っ張られるイリス。

 

 まだまだ時間はある。その中に無数の選択肢がある。

 

 アノンは勇者としての称号を得て、世界を飛びまわるかもしれない。

 

 シルビアはレトと共にギルドに所属するかもしれないし、貴族の仕事をなすかもしれない。

 

 それでもただ、今は友と喜びを分かち合い、少しづつ変化していく環境を受け入れて進んでいく。

 

 ーーーーーーー。

 

  何も知らなかった少年は人を知り世界を知った。


 これからも彼は受け入れて進んでいく。


 その先には新たなる世界の創造があるかもしれない。


 これは後に神に成る少年の創世記。


 そんな創世記の始まりに過ぎないのかもしれない。


 だが、この世界には神になった少年と神を目指す少年がいることは確かだろう。


 これから世界がより良くなることを願い、希望に満ちた道をアノンは歩き始める。


 記憶を失った少年アノンが見知らぬ世界で奮闘する。その奮闘によって多くの人々は突き動かされ、変わっていく。それは何も変わりはしない。


 それこそが『神成』なのだから。


 それでも今は、ただのアノンであることも確かであろう。


ーーーーーー。

 

 夏休みを終えたアンジュ学園。今日は進級試験の日だ。

 

 もはや彼らにとっては、ほとんど意味をなさないのかもしれない。

 

 それでも、生徒たちは2人の戦いを見届けたかった。


 闘技場で向かい合う二人。

 

 使命も運命も何者にも邪魔することは出来ない。


 憚りなどない神聖な戦い。

 

 今ライバル同士の戦いが始まろとしていた。


 「行くよ!ライム!!」


 「来い!アノン!!」


 「進級試験決勝!ライム・コリアンダーVSアノン!!試合開始ッ!!!」


 

 

 

 

 

 神成のジェネシス〜記憶喪失の少年、見知らぬ世界で奮闘します〜


 

 完結。



最後まで読んで頂きありがとうございます!


あとがきになります!ちょっと長いので見なくてもいいです!ただ、感謝だけはさせてください!


ここまで応援して下さり、ありがとうございます!評価やブックマークとても励みになっていました!感想などお待ちしているので、ぜひ、よろしくお願い致します!



さて、なんとか毎日投稿を終え、無事完結させることが出来ました!いかがだったでしょうか。


私の考える限り最高の結末を迎えられたと思っています。


本当は後日談的なエピソードを考えていましたが、これ以上の話は蛇足かなと思いやめました。


それによって、よりいい話になったなと思っています。


本当は魔王とライムの戦闘シーンやバロゼとテンダリア達のお別れシーンはなかったんですけど、最後ってなるとどうしても描きたい部分だなと思い追加いたしました。


4日ぐらい前から完成していたんですけど、名残惜しくて色々追加しましたね。進路のシーンも構想にはありましたけど、後日談でやるつもりでカットしてましたし。


ルネちゃんやライム、リタルトや魔人達はたぶん進路変わらないなと思って、具体的に描きました。しかし、シルビアやアノンは色んな行動が考えられるので、濁してます。


細かいところも色んな設定を練った作品だったので、描写しきれていないところやあえて書いてないところも沢山あります。それでも私が持てるものはすべて出し切ったと思っています。(例えば、シルビアが最初からイリスの魔力に気がつくことやイリスの森に沢山魔物が出ていたこと、作中に出てきた年表の細かい内容、能力値の倍率、全員のステータスなど)


何名かの友人に事前に読んでもらったり、自分の作品を見つめ直したりしましたね。花言葉や貴族社会、エーテル、天使や悪魔色んなことも調べましたね。


ずっと昔から『鈴蘭の花言葉』を超えてる作品がないと友人数名から言われてて、毎回それを超えるつもりで描いてはいたんです。


ただ、今回は本当に全力で描いたと思っていて、ここまでプロット考えてストックして同じぐらいの時間帯に投稿してとやったことは無かったですね。かなり時間はかかりましたか、自分には合っているやり方だと思いました。かなり筆が遅くて、構想に時間はかかりましたが、結果まとまりはあるのかなと思っています。


途中で展開を変えても修正がきくというのが良かったです。学園祭や魔人6人なんて構想になかったですからね。ライムやリタルトも敵になる想定でしたし。


これで短編含め8作品完結致しました。今回は今までの作品の良くかけたところをふんだんに使って自分の中では1番のクオリティになっています。


たくさん読み返して作中では見られなかった日常など想像して楽しんでもらえると嬉しいです。


それでは長くなりましたが、ここで終わろうと思います。最後までご愛読いただきありがとうございます。


いつになるかわかりませんが、新作も予定しております。また、どこかで会えるのを楽しみにしております。


本当にありがとうございました。皆様が楽しんで、何か一つでも心に響けばいいなと思っております。失礼致します。

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