4章 第5話 リジェクト!
虚無な空間に3人の人影。
アノンが話をしようと声をかけた刹那、問答無用で攻撃は放たれた。
魔王はアノンと話す気がないということなのだろうか。
悔しさが残る中、アノンとルネは応戦するしか無かった。
ーーーーーー。
戦いが始まって一時間。
アノンは必死に攻撃を繰り出し、ルネは支援をするように立ち回る。
魔王はその場から動じることなく、全ての攻撃を無力化し微笑む。
一方的な戦いが繰り広げられていた。
「サタエル!!!」
魔王に飛びかかるアノン。
しかしグラビティを喰らい、そのまま攻撃を当てることなく元の位置まで吹き飛ぶ。
「がっ!?」
「アノンくん!!」
虚無空間に叩きつけられるアノン。たった一撃で骨が碎ける。
アノンの運動エネルギーごと方向を変えられたようなダメージだ。
まるで、自分から地面にぶつかりに行くように加速したようだ。
駆け寄りヒールをかけるルネ。
ルネのおかげで何度も立ち向かうことが出来ている。
「くそお……攻撃が当たらない!!」
「……どうしたその程度か?あの時はこんなものでは無かったはずだ。『グラビティ』」
「それは効かないっての!!!」
魔王のリベレイトによって形成される重力場。
アノンはなにも感じることなく、歩き出す。
「ならこれはどうかな。『ディレクション』」
「あがっ!?」
魔王が指を鳴らし唱えると、アノンの体は捻れるように曲がっていく。
悲痛の声を漏らしながら、その痛みに耐える。
「支援します!『バリア』!!」
ルネは後方からアノンに両手を向ける。
アノンの全身に見えない壁が作り出され、重力場から抜け出す。
膝をつくアノン。駆け寄りヒールをかけるルネ。
魔王に近づくことすら出来ず、ひたすらに持久戦が続く。
ディバインに到達し、魔王の攻撃を対処できるようになった。
しかし能力やレベルは遥かにかけ離れていた。
遊ばれるようにあらゆる攻撃を無力化されている。
リベレイトを放っても『リジェクト』され、物理攻撃は『グラビティ』で届くことは無い。
支援するように回復と防壁をルネが展開するが、全てその場凌ぎ。
アノンが攻撃に転じると支援ごと無効化されるのだ。
「バリアを張りながら近づいてもリジェクトされるし、そもそも大体の攻撃がリジェクトされて届かない!!」
「アノンくん、一度落ち着きましょう。話を聞いてもらいたいのは分かりますが、闇雲に向かっていっても繰り返しです。」
「ルネ……どうしたらいいと思う?」
「私たちはそもそも闘うステージにすら立っていません。話を聞いてもらうにはその壁を越える必要があります。」
「なにか考えがあるの?」
「まずは分析するんです」
「分析……」
「はい。現状分かっているのは能力を無力化するスピリット『リジェクト』、重力場を形成するリベレイト『グラビティ』、その派生系……重力方向を変える『ディレクション』ですね?」
「うん。リジェクトは何してもどんな対策をしても対処できなかった。」
「そうです。能力を重ねがけしても、全て無力化されましたね。でも、それっておかしくないですか?」
「え……?なにが?」
「私、リタルトさんの能力で助かったんですよ?それに私の力で皆さん蘇りました。」
「あっ!ほんとだ!なんでそれは無力化しなかったんだろう?」
「しなかったのではなく、できなかったとしたらどうでしょう?」
「まだ可能性はある……!」
「はい!」
話し合いを進めるふたり。
魔王は腕組みをして、動くことは無い。
「死ぬ準備は終わったか?」
「ああ、時間をくれたおかげでね。……君に一発ぶちかます準備をしてたんだ。」
微笑むアノン。魔王は冷たい眼差しで睨みつける。
「我はただ慈悲をくれてやってるだけのこと。……覚悟が決まったのなら、本気でこい。」
「言われなくても!!!『閃光』」
「なにっ!?」
アノンが光のリベレイトを発動させ、魔王目掛けて飛び込む。
「小癪なあ!」
あまりの光量に目が開かない様子だ。
「くらえぇええええっ!!!」
アノンが全力の一撃を拳に込める。
「魔導・グラビティ!!!!!」
だが、魔王も同時に圧倒的な出力で魔力とリベレイトを解き放つ。
「ぐがぁあああああっ!?」
今までの攻撃がお遊びだったと言わんばかりに解き放たれる力。
アノンは全身の骨を砕きながら、地面に体を打ち付ける。
「ぁあああああああっ!!!」
激痛に襲われ悲鳴をあげる。
「バリアっ!!!ウォーター!!」
しかしアノンの後方に隠れていたルネが魔王をパリアに閉じ込め、辺り一面にリベレイトを解き放つ。
辺りの温度が冷えてくると、霧が魔王の周囲に立ち込める。
「ヒール!!!今です!!!」
重力場の中に囚われていたアノン。
ルネのヒールによって一時的に回復する。
「アクセプト!!!!!」
絞り出すように声を上げるアノン。
全身が青白く光り輝き、魔王のリベレイトを飲み込んでいく。
「パリア解除!!!行ってくださいアノンくん!!!!」
「これがボクの本気だァああああああっ!!!!」
「なっ……!?」
状況を理解出来ず、リジェクトを使うことの出来ない魔王。
霧を突き抜けてくるアノンの拳を無防備に喰らう。
腹部にめり込んだ一撃。
「かっ……」
息すらまともにすることが出来ない様子だ。
「さ、さあ、いい加減話聞いてもらうよ!サタエル!!」
「……なるほどね。やっぱりお前記憶取り戻した訳じゃ……なかったのか。」
腹部を抑えながら不敵な笑みを浮かべる魔王。
「うそ……きいて……ないの?」
アノンの表情は次第に恐怖に染っていく。
ルネも膝をつき絶望している。
どう考えても勝てる気がしなかった。
本気の一撃がまるで効いてないように、動き出す。
まるで対応することすらできず、アノンの目の前から姿を消す魔王。
「……え」
ルネが顔を上げると目の前にその姿があった。
「っ!?やめ、やめろ!!!」
アノンは大きすぎる能力を使った反動で満身創痍だ。動けそうにない。
声を絞り出すが、魔王は手をとめない。
ルネの首を絞めるように持ち上げて、アノンに見せつける。
「く……!あがっ……はな、して……!」
必死に振りほどくが、まるで緩むことは無い。
次第に強く握られ、意識が遠のいていく。
「やめろ……やめろって言ってんだろ……!!」
歯を食いしばりなんとか立ち上がるアノン。
だが、まるで力が入らず魔王を、睨みつけることしか出来ない。
「お前は今どう思う?俺が憎いか?殺したいか?……俺もそうだった。」
不敵な笑みを浮かべてアノンを見やる。まるで自分とアノンは何も変わらないと言いたげだ。
「理不尽だと、関係ないと思わないか?」
「くっ……!!!!」
「だから俺は正しい……正しいんだよ。」
魔王は乾いた笑いを浮かべると、アノンに向けてルネを投げ飛ばす。
「うぐっ!?」
飛んでくるルネを受け止め、下敷きになるアノン。
「けほっ!けほっ!」
なんとか起き上がったルネは首を抑えながら、むせ込んでいる。
下敷きとなり完全に動けなくなったアノン。
魔王はゆっくりと近づき、アノンの足を掴む。
そのまま持ち上げると、地面に何度も叩きつける。
「残念だなあ。アビュート。10年前のお前なら、あの一撃で俺を倒せただろうよ。」
狂っているかのように叩きつけながら平然と話す魔王。
ルネは苦しそうに声を上げる。
「やっと……わかりましたよ。あなたが……どういう人なのか」
「なに……?」
ルネのその言葉に手を止める魔王。
アノンは既に意識が飛んでいる。
「あなたはまだ……この世界がどうにかなるって望んでる……少なくとも、少しは可能性があるって思ってる……振り切れないんですよ、悪に。……あなたは魔王なんかじゃない」
「なんだと?」
「だから私たちを殺さない。……人々も自分の手で殺さない。……どうにかできるって信じたいから!!……それでもどうにか出来ないって絶望してるから、心のどこかでアノンくんを求めているんです。……助けて欲しいんでしょう?あなたをきっと、理解してくれるから!!受け止めてくれるから!!!」
「黙れ!!!!!!」
ルネの言葉が不快だと言わんばかりに、大声を放つ魔王。
感情に比例して魔力が肉体から溢れ出てくる。
「ならばいいだろう。……お前の言う希望をこの手で断ち切ってやる。世界に希望なんてない。この俺に唯一残された希望がアビュート……いや、アノンだというのなら。この手で終わらせてしまえばいい。」
「私の力忘れたんですか?この命を捨てても、助けますよ。」
「知ってるさ。……以前のお前もそうだったからな。」
気絶しているアノンの頭を押さえつける魔王。
「……じゃあな。アノン、お前は優しすぎたんだ。初めて会った時から変わらず。……リジェクト」
「……え……え?」
嫌な予感がルネの中で走った。
一時的に高まった魔王の瘴気とエーテル。
何が起きたのかまるで分からないのに、激しく不安が駆け巡る。
ルネはゆっくりとアノンに近づき心臓に耳を当てる。鼓動がたしかに伝わってくる。
アノンの肉体はそこに確かにある。気絶はしているが死んではいない。
「なに……したんですか……?」
「お得意のヒールをすればいいだろ」
「ひ、ヒール」
恐る恐るヒールを唱えるルネ。
何事も無かったかのように瞳を開けるアノン。
「アノンくん!!!よかった!!!」
ルネは心配など杞憂であったと思うように抱きついた。
だが。
「えーっと、君は誰?」
「……え?」
読んで頂きありがとうございます。
いよいよ明日で最終回となります。この先どう展開していくのか見届けてくださると嬉しいです。




