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4章 第4話 受け継いだ魂!


 キキと対峙するイリス。

 

 部屋の光は眩しく、その光はまるで暗闇を避けているようだ。

 

 イリスはキキにメアを重ねずにいらない。

 

 かつての勇者ルキファーが魔王として降臨している。そして、テンダリアという人として学園を過した。

 

 それならば、キキもメアが人となった『生まれ変わった姿』なのではないか期待する。

 

 だが、無情にもキキは自らのことを『偽物』と表現した。

 

 「なんで戻ってきたの?せっかく通したのに。」

 

 「ひとつはあなたを知りたいから。もう一つは通した意味がわからなかったから。世界を滅ぼしたいんじゃないの?だから、テンダリア……魔王に従っているんでしょ?」

 

 「私に出来ることは……それだけ。……たくさんくれた、主に。……ずっと苦しんでいる主を助けられる。」

 

 「ねえ。そんなやり方間違ってるとは思ってないの?……あなたがもし師匠なら、きっと、きっと。そんな風には思わないよね?」

 

 「わたしはメアじゃない。……私はその方法しか知らない。……イリスだって、メアから聞いたやり方しか知らない。……だから世界は醜いまま。」

 

 「……っ!そんなことない!確かに受け継いだものたちが、世界を変えている!」

 

 「本当にそう?あなたはそう思ってる?こんなことしている今も、あなたのように父親や母親を家族を殺されている人は沢山いる。……あなたは知っている。いくら強くても、救えるものに限界があるって。」

 

 「っ……」

 

 言葉に詰まるイリス。

 

 姿勢を崩すことなく座ったままのキキ。

 

 イリスだけ興奮し、言葉をかけ続ける。

 

 強く拒絶してみせるのはイリスの中でも揺らぎがあるからなのかもしれない。

 

 果たして本当に世界を変えられたのか。

 

 自分のしていることは本当に正しいのか。

 

 本当の平和とは何か。その答えはまだイリスの中で明確に出ていないからだ。

 

 そんなことを今さら思い知らされる。

 

 イリスはメアが亡くなってから、進むしかなかった。

 

 それはもしかしたら、ただの模倣だったのかもしれない。

 

 そんな揺らぎがどこかにあったのだ。

 

 だが、それが正しいことだと進むしかなかったのだ。

 

 キキの態度は一貫して淡々としている。

 

 ーーーーーー。

 

 一度深呼吸をして、気持ちを整える。

 

 「……私はあなたを知りたい。きっと分かり合える気がする。」

 

 「……どういう意味?」

 

 「さっきのバロゼにしてもあなたにしても、あっさり私達を通した。……まるで、魔王を止めて欲しいみたいに。」

 

 イリスも止まる訳にはいかない。

 

 キキたちが間違えている。そう確かに思っているのだから。

 

 そしてなによりもキキが救いを求めているように感じたからだ。

 

 それはメアと重ねて擁護しているのかもしれない。

 

 それでも、イリスは放っておくことはできない。

 

 「イリスには何も分からない。」

 

 「わからないよ。あなたがなにものなのかも。何を思っているのかも。……私が本当に正しいのかも。……それでもひとつだけ、分かる。」

 

 「……なに?」

 

 「アノンちゃんなら、何とかしてくれるんじゃないかって、思ってる。あなた達ではどうすることも出来ないこの状況さえも、ひっくり返せるって。」

 

 「いい加減しつこい、イリス。……どうせみんな殺される。それが正しいんだよ。……せめて、終わりの時まで。眠っていて。……『ファントム』」

 

 「なっ!?」

 

 図星だったのだろうか。イリスの言葉に激しく反応するキキ。

 

 唱えられた言葉は闇を形成し、イリスとキキを包み込む。

 

 ーーーーーー。

 

  森の中。木々が優しく揺れながら、少女の耳を刺激する。


 草むらの上で寝転ぶ少女。土と草の香りが鼻をくすぐる。


 ゆっくりと瞳を開けていくと、日差しが眩しい。


 「まぶしっ……」


 眉をひそませ、視界を両手で遮る。


 ゆっくりと上体を起こす。


 どうやら、森の中で眠っていたらしい。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、欠伸をする。


 「うぅーん!よく寝たあ!」


 気持ちよさそうに体を伸ばし徐々に意識を覚醒させていく。

 

 「あれ……なにしてたんだっけ?」

 

 少女は困惑したように言葉を漏らす。

 

 「なーんか大切なことやってような?してなかったような?」

 

 額に手を当てる。

 

 まだ寝ぼけているかのようにハッキリしない記憶。


 「うん、なんも覚えてないなあ」

 

 必死に思い出そうと一瞬努力したようだが、すぐにやめる。

 

 「まいっか!歩いてたら何か思い出すかも!」

 

 ゆっくり立ち上がる。どうやら、森の中を歩くようだ。

 

 歩きながら、自分の顔や体、まとっている服を入念に触っていく。

 

 すると、黒いローブの中から手鏡が出てくる。

 

 鏡で自分の顔を確認する少女。

 

 「うん!いつも通り可愛い!」

 

 手鏡に映し出されたのは銀髪の幼い少女。白い肌に使い古された黒いローブ、トンガリ帽子を身にまとっている。

 

 ーーーーーーー。

 

 それからしばらく歩いていると森の奥から轟音が響き渡る。

 

 「ん?」

 

 異変を察知し、耳を澄ます少女。

 

 「どぅわわわわわわ!!!!」

 

 青年の声が木霊し、こちらに向かってきているのがわかる。

 

 「無理無理!でけえって!!俺には無理だって!!!」

 

 視界を凝らすと黒髪の青年が向かってきているのがわかる。

 

 ボロボロの服に折れた剣。

 

 後ろから巨大な虫のような魔物が襲ってきているのがわかる。

 

 「大丈夫ー?助けようかー?」

 

 咄嗟に声をかける少女。

 

 青年はようやく少女に気がついたのか、両手を合わせてお祈りするように叫ぶ。

 

 「頼む!!助けてくれ!イリス!!」

 

 「あいよっ!」

 

 イリスは快諾すると、飛び上がり掌に魔力を集中させる。

 

 「魔導弾!!!」

 

 そう叫ぶと掌に形成された魔力をそのまま巨大な虫にぶつける。

 

 触れた刹那、大きな爆発となってその魔物は一撃で瘴気となり消える。

 

 「さ、サンキュ……イリス。相変わらず魔物は一撃だな。」

 

 「気にしないでよ。クバーツ。あなただって、傭兵の中じゃ『デーモンキラー』なんて呼ばれてたじゃない。」

 

 「それいじんのやめろっての。」

 

 「あっはは。ごめんごめん。ダサくて。」

 

 「おい!」

 

 ーーーーーー。

 

 安心して腰を下ろすクバーツ。横に座るイリス。

 

 木を背に風を感じる。ゆったり流れる時間にどこか懐かしさを感じる。

 

 「あれどうやって倒してんの?」

 

 「魔物は魔力の塊だから、そのまま魔力ぶつけて爆発させてる。……それだけだよ?」

 

 「聞く相手間違えたな。俺には真似できねーよ。」

 

 「エーテルじゃ倒せないの?」

 

 「倒せるかよ。お前じゃねえんだから。」

 

 「そうなんだねえ。……人間換算で50倍だっけ。」

 

 「らしいな。よく今まで倒せてきたなって思うよ。」

 

 「アストラル?だっけ。無意識に使ってたって師匠言ってたね。」

 

 「ああ、そして魂の固定化。もともとリベレイトもスピリットも使えない俺にとってはキツイハンデだぜ。」

 

 「それだけ強い復讐心だったんだよ。今はそれが揺らいでるだけ。」

 

 「だな。お前らのせいでな。」

 

 「それはどうも。」

 

 「イリスは揺らいだりしないのか?自分の信念ってやつ。」

 

 「さあ?いまはわかんない。師匠について行くだけだよ。私にはもう家族いないからね。」

 

 「それは、俺も師匠も同じだろ。あんまひとりで大人になろうとすんなよ。たまに頼れよ。」

 

 「うん、そうだね。考えておくよ。」

 

 「おうよ!」

 

 「って、悩んでるのクバーツの方でしょ?アンタこそ年上ぶらないでくれる?」

 

 「おいおい!年上だろうがよ!」

 

 「えぇ?そうだっけえ?」

 

 「そうだよ!」

 

 ニコニコと微笑み、立ち上がる2人。

 

 服についた泥を落として、メアが待つ家へと足を急がせた。

 

 ーーーーー。

 

 「おお!イリス、クバーツ!!戻ってきたのだ!さ、一緒にご飯食べるのだ!」

 

 家にたどり着くと、褐色の幼い少女が出迎えてくれる。

 

 これでもイリスより長い年月を生きる英雄なのだから恐ろしい。

 

 「修行は順調なのだ?2人とも。」

 

 食卓に並ぶスープやパン、サラダ。

 

 至ってシンプルなメニューだが、イリスはとても美味しそうに食べる。

 

 クバーツはあまり手が進まないようで、少しずつ食べていく。

 

 「うむ。元気ない時は元気ない時。それこそが魂の在り方なのだ。無理に取り組まなくても、その葛藤こそが強さに繋がる。そう焦るな、クバーツ。」

 

 メアは立ち上がると、クバーツの頭を撫でる。

 

 「や、やめろっての!」

 

 少し照れながら手をどかすクバーツ。

 

 切り替えるようにご飯を食べる。

 

 その一連の流れが、この食卓が、強烈にイリスの鼓動を動かす。

 

 懐かしくて、温かい。そう強く感じた。

 

 なによりもご飯が美味しかったんだ。

 

 「うむ!元気そうなのだ!……それにしてもイリス?随分、美味しそうに食べているのだ。」

 

 不思議そうにイリスを見つめるメア。

 

 「え?」

 

 「気がついてなかったのだ?」

 

 「うん……いつも通りの味……それなのに、なんかあったかくて、おいしくて。いつもと変わらない師匠がここにいてくれて、言葉もなんだかあったかくて……」

 

 ぽつりぽつりと呟かれる言葉。なにか紡ぐように声に出していく。

 

 「あれ……おかしいな……さっきまで普通だったのに……」

 

 「たまに正直になるのも悪くないものだぞ?イリス。お前は昔から頑張りすぎるのだ。……魂のまま、泣くといいのだ。我慢しないで。それが今のイリスの魂なのだ。」

 

 優しくかけられる言葉。なぜだかイリスは胸が熱くなる。

 

 いつもと変わらない景色。

 

 そのはずなのに、イリスはどうしても懐かしいと感じてしまう。

 

 どうしようもなく今という時間が愛おしかった。

 

 どこまでも遠くかけがえのないもの。

 

 忘れていた何かを取り戻せそうな尊い何か。

 

 その景色が今のイリスに焼き付く。

 

 ーーーーーー。

 

 イリスが涙ながらに顔を上げる。

 

 すると、世界は白一色に染まりイリスとメア2人だけの世界が作り出される。

 

 「大きくなったのだ。イリス。」

 

 「え……?し、師匠?」

 

 優しく抱き寄せられるイリス。幼い姿から元の姿に戻る。

 

 メアの身長は低くて、それでもイリスの頭を優しく抱き寄せる。

 

 イリスは懐かしくて、今までの頑張りが認められたようで、心が安らいでいく。

 

 「少しは楽しめたか?最近のお前は張りつめすぎていたのだ。」

 

 「なんでもお見通しだね、師匠。……楽しかったよ。……懐かしかった。……あの旅に後悔はなかったってやっぱり思えたよ。」

 

 「それは良かったのだ。」

 

 「それにね、なんだか今なら師匠の気持ちや考えが分かるんだ。……ああ、同じだったんだって。」

 

 「……迷いは晴れたのだ?」

 

 「うん!」

 

 「なら、伝えてくるのだ。その想いを。……私が伝えきれなかったことを。」

 

 「わかってるよ、師匠。私があなたの魂を繋いでいくから。私の意思で。」

 

 「うむ!その意気なのだ!」

 

 最後にメアは満開の笑みで消えていく。

 

 イリスは涙を拭った。

 

 『イリス、お前の好きなように生きていいのだ。……それが魂の在り方なのだ。』

 

 胸の奥に響くメアの最期。

 

 もう答えはとっくに得ていたのかもしれない。

 ーーーーーー。

 

 「また……戻ってきた。」

 

 「ふふっーん!何度だって戻ってくるよ〜!ちゃーんとキキちゃんとお話したいからね!……なんで、師匠と同じ力使えるの?なんで魔王に従ってるの?どうして、色々私のこと知っているの?」

 

 キキの作り出した幻想空間から抜け出したイリス。

 

 開口一番にキキに呆れられるが、構うことなく質問を始める。

 

 「アノンみたい……デリカシーない。」

 

 「えぇ?そうかなあ?あんま似てるって感じしないけどなあ。どっちかって言うとシルビアちゃんじゃない?」

 

 「ふたりともあなたの影響を強く受けている。……それはメアの意思?」

 

 「さあ?どうなんだろうね。そうかもしれないし〜そうじゃないかもしれない!」

 

 「……どっち?」

 

 「私はただ、知っていることを、私の信念を弟子たちに『伝えた』だけだよ。……でもそれは間違いなく師匠と過ごした時間あってこそだし、きっと今の私はあの時の師匠と同じように弟子たちをかけがえのない家族として大切に思ってる。……一緒に楽しく暮らせたらなって。」

 

 「……そんなのはただの理想だよ。何年もかけて実現出来ていない。」

 

 キキは苛立つように立ち上がると、ぬいぐるみを床に置く。

 

 「やっぱりあなたは邪魔。主の代わりに私が……消す。」

 

 「とことんやろうか。キキちゃん!」

 

 戦闘態勢を取るイリス。

 

 再び、瞳を開けるとそこは森だった。

 

 「またファントム?私には効かないよ。」

 

 「あなたは記憶の力を持っている。だから偽りの記憶は効かなかった。それだけ。……ここから抜け出すことは出来ない。」

 

 「やってみないと分からないよ!」

 

 イリスは両手を広げ、瘴気を纏う。

 

 「そのまま、重ねて『アストラル』!」

 

 「あなたにできることが私にできないと思った?『魔導・アストラル』」

 

 呟くように唱えるとイリス同様、瘴気とエーテルを纏うキキ。

 

 「ホーリー!」

 

 「……ダークネス」

 

 そのまま2人はノーモーションで掌からリベレイトを発現させる。

 

 黒と白の閃光が激しくぶつかり合うと、爆発する。

 

 燃え盛る炎が森を紅に染め、煙が舞いあがる。

 

 「……ドラグーン」

 

 続け様に唱えるキキ。

 

 燃え盛る炎は龍のように舞い上がり、イリスに飛んでくる。

 

 「魔導弾!」

 

 叩き込むように掌に集中させた魔力をぶつけるイリス。

 

 ドラグーンは黒く染まり瘴気となって消える。

 

 だが、背後に回ったキキの手刀を直に喰らい一瞬意識を飛ばす。

 

 だが、踏みとどまり拳を解き放つ。

 

 強烈な拳がキキの腹部にヒットする。

 

 「あぐっ!?」

 

 苦痛に悶えるキキであったが、なんとイリスの拳を掴みそのまま地面に叩きつける。

 

 「がはっ!?」

 

 隙をついての攻撃と強い衝撃によって呼吸が止まるイリス。

 

 構うことなくキキは最大出力でリベレイトを解き放つ。

 

 「魔導・ダークネス!」

 

 暗闇に飲み込まれるイリス。

 

 視界も音も、全ての感覚を遮断される。

 

 「消えたなら……思い出せばいい!!『リコレクション』」

 

 暗闇の中から解き放たれる光。

 

 完全にキキのダークネスから抜け出す。

 

 「相性……わるい」

 

 「そうでもないよ……結構しんどい。」

 

 肩で息を整えながら膝に手を着くイリス。

 

 相当押し負けている様子だ。

 

 「……そう。魔族でも魔人族でもない。……体力の消耗が激しい?」

 

 「ご明察……オマケにこのファントムってやつあんたに都合よく働くみたいね。……アストラルと魔導なんて魔人族の得意技。普通に使っちゃってさ。私これ何年修行したと思ってんのよ!」

 

 「安心していい。この空間の中でしか使えない。私に都合のいい幻を生み出している。……だから負けはしない。頑張ったみたいけど……でももう、時間の問題だと思う。」

 

 「いってくれるねえ!」

 

 キキに飛び込むイリス。両手を広げ大量に魔力の塊を生成する。

 

 逃げようと飛び上がるキキ。だが、囲むように展開された魔力の塊から逃れられない。

 

 「ちっ……」

 

 舌打ちをし両腕を交差させるキキ。

 

 森の木々が蠢き、土や葉、ツルがイリスを捉える。

 

 「なっ!?ヒマリのイグジスト!?」

 

 宙ずりとなり動きが取れなくなるイリス。

 

 「……ライメイ」

 

 手を地面に着くキキ。電流が地面を通り、イリスへと流れ込む。

 

 「あああああああっ!!!」

 

 悲痛の声を上がる。ダメージを受けたことで集中が解かれ、キキを囲んでいた魔力の塊は爆散していく。

 

 「ここは私の作りだした世界。どんな事でも起こりうる。……あなたは私に勝てない。諦めて。」

 

 「へへ、つまり全部幻覚ってことだ。……私を殺すことなんてできない。ヒマリもベラもこんなもんじゃなかった!!」

 

 「……そう。私は偽物だから。これぐらいしか出来ない。」

 

 パチンと指を鳴らすキキ。世界は再び元の部屋へと戻る。

 

 ーーーーー。

 

 「もともと殺す気無かったでしょ?」

 

 膝をつきながら、微笑むイリス。

 

 キキは顔を背ける。

 

 「ちゃんと話して。きっと、力になるから。」

 

 「私は……メア・ギャビーの魔力から生まれた。」

 

 「師匠の魔力……?」

 

 「主はかつての仲間を求めていたから。」

 

 「ルネフィーラちゃんをさらったのって…………」

 

 「ビスラと同じ力……それ以上を持っていたから。もしかしたら、ビスラが蘇るかもって。……ほかの天使も蘇らせようとしていた。……でもできなかった。寿命を全うしたから。」

 

 「寿命……?」

 

 「この世界を作った神によって、この世界の人は寿命を定められている。それを変えることは出来ない。」

 

 「ならルネフィーラちゃんの力って……」

 

 「助けられるのは定められた寿命以外で死んだ者。」

 

 「……っ。」

 

 「それはつまり、あんな酷い死に方をした仲間の運命が決まっていたということ。……主はそんな世界が許せなかった。……だからこの世界を壊すことを決めた。」

 

 「……その後は?」

 

 「全ての神と神候補を殺すこと……世界は変えられないから。……それを主は知ってしまったから。」

 

 「本当にそうなのかな?」

 

 「何度も試した。人や世界を見て回った。覆らない。」

 

 「なら神候補だったアノンちゃんや魔王が関わることも最初から定められていたと思う?この世界に来てこんなことになるなんてさ」

 

 「それは……」

 

 「きっとね、この世界を作った神様は私たちや世界を『設定』しただけなんだよ。」

 

 「どういうこと?」

 

 「師匠は自分で死を選んで、満足そうに死んで行ったよ。それは決して、神なんかに決められたものじゃなかった。……私は知ってる。絶望して死んで行った人達を。……だからこそ、望む死なんて選べるなら、まだまだ可能性があるってことだよ。」

 

 「そんなのおかしいよ。それでも死ぬ時期は決まってる。どうにもならない。」

 

 「きっと、決められた時間の中で人生を全うするからこそ尊いんだよ。道中は絶対に決められていないんだから。……私は自分の意思でここに来て、自分の意思で師匠の想いを継いだんだから。」

 

 「できっこない。」

 

 「できるよ。私が証明してみせる。だから、あなたも自分の意思に従ってみて。……もうどうしたいか、決まってるんでしょ?」

 

 いつかのようにイリスはキキに手を伸ばす。

 

 自分が差し伸べられたように、今まで差し伸べてきたように。

 

 イリスの揺るがない意思がキキにとって、眩しかった。

 

 苦しむ主を一番近くで見てきた。

 

 だからこそ、どうしても縋ってしまう。

 

 もっといい方法があるなら。

 

 主が笑える方法があるなら。

 

 イリスなら。

 

 アノンなら。

 

 もしかしたら、変えられるのかもしれない。

 

 学園祭の時、微笑んでいたテンダリア。

 

 学園で何に囚われることなく過ごした日々。

 

 有り得たかもしれない舞台のエンディング。

 

 キキはずっと心の奥底にためていたのかもしれない。

 

 魂の叫び。

 

 「お願い……主を止めて……」

 

 「任せて。」

 

 キキは大粒の涙を流し、イリスは微笑む。

 

 受け継いだ魂が、少しだけ未来を変えたのかもしれない。

読んで頂きありがとうございます。


キキちゃんの想いが少し伝わる話となったのではないでしょうか。ちなみにキキの名前は桔梗をイメージしてしています。花言葉のイメージとかなり合うのではないかと思っております。


イリスの過去回想は二度目ぐらいでしょうか。見た事のある文面が並びましたね。旅をしている途中、クバーツを鍛えるためにあの森にしばらく住んでいたのでしょうか。想像が膨らみますね。


さて、次回からはアノンくん視点へと戻ります。どんな結末を迎えるのかお楽しみに!残り2話で完結となります!応援のほど、よろしくお願い致します!

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