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4章 第3話 紅蓮の炎!


 炎がこの身を焦がす。どこまでも、熱く苦しく、我が肉体は燃えゆく。

 

 子孫よ、この苦しみを、後悔を決して忘れるな。

 

 愚かな貴族を忘れるな。

 

 ーーーーーー。

 

 記憶。

 

 記憶だ。

 

 俺様の中にある唯一の記憶。

 

 貴族を恨み憎む炎。

 

 この身を焦がして離れない。この痛み。

 

 俺様に唯一残ったウルローズの記憶。

 

 俺様の根源。

 

 主はかつての仲間を蘇らせようとしていた。

 

 愚かな人間に殺された天使たちを。

 

 だが、ウルローズの魂は俺様には宿らなかった。

 

 引き継いだのはこの憎悪の炎だけ。

 

 俺様はウルローズの死ぬ間際の記憶をその身に宿し、生まれてきた。

 

 主によって作られた存在だ。

 

 ただ記憶と感情しか存在価値を見出すことの出来ない。

 

 人でも天使でもない。

 

 中途半端な紛い物だ。

 

 だからこそ、この炎しか俺様にはない。

 

 これしかねえんだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 魔王城に乗り込んだアノン達。

 

 シルビアはバロゼと対峙していた。

 

 以前の戦いの時よりも格段に腕を上げたシルビア。

 

 素早い動きと繊細な剣技がバロゼを翻弄していく。

 

 「ちょこまかと!!!こい!ベヌー!」

 

 「くっ!来て!フェニックス!!」

 

 大ぶりなバロゼの大剣。それを軽い身のこなしで避け、剣を差し込む。

 

 その剣を乱暴に手や足で防ぎ、再び大剣を振るう。

 

 互いにアストラル状態にあり、体から炎が迸る。

 

 バロゼの纏う炎は激しく燃え上がり、全ての攻撃に炎が乗る。

 

 斬撃から遅れて放たれる炎。

 

 普通の人間なら全身に触れるだけで、炎に身を焦がすだろう。

 

 だが、シルビアのフェニックスが炎を全て掻き消し純粋な剣と大剣の攻防となる。

 

 「くそがぁあああああっ!!!」

 

 さらに力を高め、激しさを増す炎。

 

 我を失ったようにバロゼの肉体を炎が包み込む。

 

 悲しくベヌーの鳴き声が木霊し、周囲の温度が一気に上昇する。

 

 いくら炎を無力化できても、室内の酸素はどんどん失われていく。

 

 シルビアの動きは次第に鈍くなっていく。

 

 「あ、あんた!!!死ぬ気!?」

 

 「世界を滅ぼせるなら、関係ねえ!!!俺様は貴族を全て許さねえ!!!それだけが、俺様の魂だ!!!」

 

 苦しむように燃え上がる炎。

 

 ベヌーが苦しそうに鳴き声を上げている。

 

 「ちょっとは落ち着きなさいよ!なにあったか、知らないけど。自分の魂……ベヌー泣かせてんのよ!!!」

 

 膝をつくシルビアだったが、力を振りしぼり立ち上がる。

 

 剣を鞘に収めると、フェニックスの力を全身に集約する。

 

 刹那、圧倒的なスピードでバロゼの背後をとるシルビア。

 

 加速に合わせて渾身の蹴りを叩き込む。

 

 「だぁああああああっ!!!」

 

 「ぐっ!?」

 

 シルビアの蹴りに対応できず、扉を突き破り外に放り出されるバロゼ。

 

 追い打ちをかけるようにシルビアも魔王城から抜け出し、さらに拳をぶつける。

 

 顔面にクリーンヒットした一撃。

 

 枯れた大地の上をバロゼが転がる。

 

 「はぁはぁはぁ……ふぅ。」

 

 肩で呼吸をし、息を整えていく。

 

 外に出てしまえば、酸素を取り戻せる。

 

 シルビアは万全な状態へと戻り、再び構える。

 

 ーーーーーー。

 

 「ちっ……やっぱ、勝てねえか。さすが本物だ。」

 

 苦しそうに立ち上がるバロゼ。彼の心身はボロボロなのかもしれない。

 

 「本物……?なんの話よ」

 

 「子孫のくせに何も知らないのな。……だが、そんなのはどうでもいい。お前が本物だろうが、俺様のやることは変わんねえ!!!他者を陥れ、利益を貪るクソ貴族は全員殺す!!」

 

 「全部が全部そうでは無いっての!!私もそんなに好きじゃないけどさ!なんでそんなに頭硬いのよ!バカ!!!ちょっとは話聞きなさいよ!」

 

 「理解されようだなんて思わねえさ。ウルローズの意志を忘れて、未だに貴族社会に溶け込んでるようなお前にはな!!!!そのうち大切な仲間を失うことになるぞ!……って言ってもわかんねえよなあ!?お前がその奪う側の貴族なんだから!!!」

 

 再び炎を纏うバロゼ。

 

 大剣を軽く片手で持ち上げ、叩き込むように一撃を放っていく。

 

 シルビアはぴょんと飛ぶように全ての攻撃を避けていき、地面に大きなクレーターがいくつも形成されていく。

 

 「言わせておけば!!!貴族社会に溶け込んでる!?……馬鹿じゃないの!!!昔からずっと、上手くいってないわよ!!!!……貴族だろうと平民だろうとね、勇気や強い力を扱う覚悟、それがなきゃなんにも守れないのよ!!!……私は選択して悩んで、苦しんでここまで来たの!!勝手に見くびってんじゃないわよ!!!」

 

 バロゼの一撃を避けると高く飛び上がるシルビア。

 

 そのまま、炎をまとい回転しながら蹴りをお見舞いする。

 

 その蹴りを前腕で受け止めるバロゼ。

 

 ニヤリと微笑む。

 

 「誘われた!?」

 

 バロゼは剣から手を離し、両手でシルビアの足を掴む。

 

 「うわっ!?ちょ……!!」

 

 「吹き飛びやがれ!!!!!」

 

 ぐるぐると回転しながら、シルビアを振り回すバロゼ。

 

 そのまま手を離し吹き飛ばす。

 

 「うわあああああああっ!!!」

 

 地面に強く叩きつけられるシルビア。

 

 振り回されたことによる目眩と衝撃により動くことが出来ない。

 

 「おわりだぁああああああっ!!」

 

 バロゼは大剣を両手で握ると高く飛び上がり、シルビアに強烈な一撃を叩き込む。

 

 ギリギリで鞘に収めた剣で守るシルビア。

 

 だが、額に当たる直前で防いだため、衝撃で脳を揺らす。

 

 意識を失うシルビア。

 

 バロゼは疲れたように大剣を手から離し、地面に転がす。

 

 肩で息を整え、尻もちを着くバロゼ。

 

 「やってやったぞ。主。……あと少しだ。」

 

 ーーーーーー。

 

 『……起きろ』

 

 微かに聞こえる女性の声。

 

 脳に直接語り掛けてくるように、響き渡る。

 

 「……え?」

 

 困惑しながら瞳を開けるシルビア。

 

 体の感覚がまるで感じられない。

 

 体は炎で燃やされ全く動くことが出来ない。

 

 よく視界を凝らすと、白い空間が目の前に広がる。

 

 『起きたか。我が子孫。』

 

 声のする方へ意識を向ける。

 

 姿が虹色に輝くシルエットのみの女性が目の前に現れる。

 

 『うむ。兄上によく似た魂を持っているな。』

 

 「だれ?ここどこ?……体動かないんだけど。」

 

 『魂だけ連れてきたからな。そうだろうな。』

 

 「た、魂……?」

 

 『お前ちょっと今死にかけているんだよ。だから私が干渉することが出来たんだ。』

 

 「死にかけてる!?……そ、そうだ!!!私、あのツンツン頭と戦ってて!!」

 

 『そうそう。思い出してきたか?……イリスちゃんに殺された時に1回話してるんだけど、そこまでは覚えてないか。』

 

 「え?全然話についていけないんだけど……てか、だれ?」

 

 『ああ、名乗るのを忘れていたな。……ウルローズ・クリムゾン。お前の遠い親戚だよ。』

 

 「う、ウルローズ!?……クリムゾン!?」

 

 『驚くことは無いだろう?薄々気がついていただろ?』

 

 「それはそうだけど……。ほんとにご先祖さまだったなんて。」

 

 『そうだよ。魔族を守った不名誉な貴族。……だったかな。友達だったんだ。メアは。』

 

 「メア……メア・ギャビー?」

 

 『そうそう。今の時代だと天使って言われてるのか。当時は魔族って言われてたのにな。変わったもんだ。』

 

 「ずっと聞きたかったの。なんでそんなことに?」

 

 『メアは魔力を使えたからね。突然変異で生まれた魔族なんだ。……まあそもそも魔族ってそういう存在なんだけどね。……ただ、当時は間違った情報が拡散されていたからね。メアは確かに魔族だったさ。だが、両親は普通の人間だった。でも、魔族の親ってことで殺されたよ。……ずっとあの子は寂しい思いをしてきたんだ。そばにいるうちに守らなきゃって思ってね。』

 

 「嫌な時代……」

 

 『そう思うよ。……魔族の長と盟約を交わしたあと、王国に戻ってな。……私は王家から再び魔族を討伐することを命令された。……そして、ルキやメア、ビスラを殺せって。』

 

 「ひどい」

 

 『ああそうさ。やってられるかと思ったよ。でも、私の行動も読まれていたんだ。仲間に伝えて逃げるってね。……そもそも王家は魔族と渡り合えてしまう私たちをよく思ってなかった。魔族を倒したらもう用済みだったのさ。』

 

 「許せない。なによ、それ。……でもどうして、そんな話を私に?」

 

 『今世界が大変なことになっているだろう?……あいつは今でも仲間を守れなかったことを後悔してる。……そして極端な思考に至ってしまった。』

 

 「そんなこと言われても……」

 

 『わかってるさ。許されることでは無い。ただ、知っておいて欲しかったんだ。そして、バロゼに。私の記憶と憎しみを受け継いでしまったあの子に伝えて欲しい。………私が死ぬ間際に憎んでしまったのは、後悔したのは自分の不甲斐なさだ。なによりも、彼が背負うものじゃないんだ。』

 

 「まあできるだけのことはしたいけど。でも、どうやって?私死にそうなんでしょ?」

 

 『魂の限界を決めてはいけない。何度挫けても、何度倒れても立ち上がる。決して、理不尽にまけない。むしろ立ち向かう。それがクリムゾンなんだ。………紅蓮の炎を燃やせ。』

 

 「無茶言うなあ。」

 

 『できるはずさ。頼んだぞ。シルビア。』

 

 「仕方ない。やってやりますか。……何回も死んでたまるもんですか!!!………やりたいこと沢山あるし!償わないといけないことも沢山ある!……起きなさい!!シルビア・クリムゾン!!」

 

 シルビアの魂が紅く燃え上がる。

 

 その炎はあまりにも強大で、白き世界を紅蓮に染めていく。

 

 シルビアの魂が息を吹き返したのである。

 

 ーーーーーー。

 

 「な……に!?」

 

 気を抜いていたバロゼの頬をフェニックスが掠める。

 

 「ああああああああっ!!!」

 

 驚愕する隙もなく、その一撃だけでバロゼの肉体は炎に包まれていく。

 

 「ば、馬鹿なッ!?なぜまだ生きている!!!」

 

 「それは私がクリムゾンだからよ。」

 

 バロゼを通り抜けたフェニックス。

 

 その咆哮は炎を形成し、中からシルビアが現れる。

 

 とても静かな炎。魂を感じられる者でなければ、捉えることは出来ないだろう。

 

 シルビアの魂が小さく、だが決して消えることの無い炎が燃えている。

 

 身に纏うオーラは紅で、洗練されている。

 

 激しく燃えることはないが、消すことは出来ないだろう。

 

 「クソ貴族がぁああああああっ!!!」

 

 対照的に炎を溢れさせるバロゼ。

 

 辺り一面を燃やし尽くしながら、駆ける。

 

 その拳を簡単に受け止め、腹部にカウンターを決める。

 

 シルビアの拳から遅れてバロゼの体内から炎が爆発し、貫く。

 

 「ぐっ!?」

 

 「落ち着けよ。……あつすぎるんだよ。あんた。」

 

 腹部を抑えながら、後退するバロゼ。

 

 膝をつき、再び立ち上がることは出来ない。

 

 出来たとしても、暫くは力を振ることは出来ないだろう。

 

 シルビアはしゃがみバロゼの目の前でパン!と手のひらを合わせる。

 

 「はい!おしまい!私の勝ちね!」

 「は?」

 

 「だーかーら!おしまい!私勝ったし。……あんたの事情とか知らんし、ご先祖さまの因縁とかまあ、同情するけど。今はこれで終わりでいいんじゃない?」

 

 「なっ……バカなのか!お前!」

 

 「貴族を恨んじゃう気持ちも、酷いことしてる連中も知ってる。ウチが完全に正しいかって言われたら、まあ汚いこともしてるでしょ。私からはなんも言えない。……ただ、あんたのその恨みや憎しみってほんとにあんたが背負うもんなの?」

 

 「俺様にはこれしかない!!それが、存在理由だ!!!」

 

 「なら、一緒に世の中変えようよ。悪い物知ってるからこそ、できることがあるんじゃない?」

 

 「なっ……」

 

 「少なくともご先祖さまもアンタに今みたいなのことさせたくないっぽいよ。」

 

 「ふざけるな!!!あいつら貴族は平気で人を殺す!使えなくなったら、もみ消す!権力を使って、人を陥れるんだ!そのせいで、ウルローズは死んだ!だから主は今でも苦しんでる!……それに!俺様はたくさんの人間を殺した!今さらそんな真似できるか!!」

 

 「間違いを間違いだと認められるのも強さだよ。それにルネがみんな甦らせたしさ。まだ、遅くないんじゃない?やり直すの。あんたはきっと、やり直せるよ。……だから一緒に進もう?もうさ、色々背負わなくていいんだよ。あんたの人生を生きればいいんだよ。」

 

 決着が着いたからだろうか。ようやくまともに会話が成立する。

 

 死の間際で知ったバロゼや魔王のこと。

 

 己の祖先のこと。それがさらにシルビアの魂を強くしたのかもしれない。

 

 何の迷いもなく差し出される手。

 

 シルビアだからこそ紡がれるその言葉。

 

 本来であれば許されることも無く、やり直すことなんてできない。

 

 償うことしか出来ないシルビアだからこそ言えるのかもしれない。

 

 だが、バチンとバロゼはその手を弾く。

 

 「やってられっかよ。……俺様はそんな風には考えられない。俺様にはこれしかねえんだ。これだけが生きていると実感できるんだ。この復讐の炎がなきゃ、俺様じゃねえ。」

 

 「なら、探してみつけようよ。新しい生き方を。」

 

 「本気で見逃すつもりか?……後悔するぞ。」

 

 「しないよ。だって、あんたも天使ウルローズのいいえ。クリムゾンの炎を持ってるから。」

 

 「ちっ……言ってろ。」

 

 

 

 舌打ちをしながらバロゼは立ち上がる。

 

 シルビアに背を向けて、頭の後ろで腕を組む。

 

 フラフラになりながら、宛もなく歩き出す。

 

 「……私、貴族って悪いことばっかじゃないって証明してみせるから。そして、いつか。いつの日か。貴族や平民、魔族と人が笑っていげる世界作ってみせるから。……見ててよね。」

 

 「好きにしろ。どうせ無理だろうよ。……だが、まあ。負けは負けだ。いけよ、あいつのところに。」

 

 「ありがと。……アノンもきっと、アンタと話したかったと思うよ?」

 

 「……祭りの時は飯美味かった。……アノンとミルクと過ごしたのも悪くはなかったのかもな。」

 

 「え?なに?」

 

 「うっせ!なんでもねーよ!!!さっさと行きやがれ!」

 

 「はーい!」

 

 遠くでブツブツと話すバロゼ。シルビアの耳にその声は届かない。

 

 去りゆくバロゼの背中を見送るシルビア。

 

 その場を後にするバロゼ。

 

 ひとまずの危機は去ったのかもしれない。

 

 バロゼはきっと認めることなんてできないのかもしれない。

 

 でもだからこそ、シルビアが紡ぐ世界に希望を見出してしまうのも事実だ。

 

 深い赤で繋がっているふたりはこれからどうなるのだろうか。

 

 それは同じく紅蓮の炎を持つ彼らにしか分からない。

読んで頂きありがとうございます!


バロゼくん、無事倒しましたね!そして、ようやくシルビアちゃんとウルローズの関係性が分かりましたね!


アノンくんが世界や人を知るというコンセプトの作品ですけど、シルビアちゃんがホントに大きく成長する物語でもあるなと思っております。


バロゼくんは名前を何回も変更したキャラですね。ウルローズの要素を入れたくて。


そもそもウルローズも天使の設定が定まっていない時は男にするか女にするかで1番悩んだキャラですね。結果、ウルローズをちょっと強気なお姉さん、バロゼを俺様な男の子となりましたね。


名前の由来はバラとロゼからです。


何か色々描きたいことあったんですけど、これを書いてるついさっき、最終回を書き終わりまして。なんかもう達成感でいっぱいですね笑


興奮して寝付けなかったですもん笑(朝5時)


ホントに1話1話大切に作っている作品ですので、最終回まで見届けてくださると嬉しいです。


では、明日はイリス視点です!お楽しみに!

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