4章 第1話 託された想い!
世界に再臨した魔王。
正体はテンダリアだった。
教師陣の洗脳や各地の紛争、凶暴化する魔物たち。
世界は混沌に満ちていた。
事件の中、命を落とすアノンたち。
だが、リタルトの力により、帰還するルネ。
覚醒したルネは死者を甦らせ、世界の悪意を取り払うことに成功する。
そして、蘇るアノン達。
同時に記憶を取り戻し、アノンとルネは魔王に戦いを挑むことを誓った。
ーーーーーーー。
目の前には大量の魔物たち。
重力のリベレイトの力で、身動きの取れない仲間たち。
この状況で動けるのはアノンとルネだけだった。
「さすがに量多いけど、いける?ルネ。」
「なんとか……でも、半分が限界でしょうね。」
「じゃあ、みんなは?助けられそう?」
「どうでしょうか……私とアノンくんには効かなかったようですが……」
大量の魔物たちは瘴気の塊で、闘技場のほとんどをその影で埋めつくしている。
重力の力で動けない生徒や先生たち。
蘇ったライムや魔人たちも同様だ。
「いらない心配ですわよ!!!」
刹那、高らかに叫ぶベラの声。
目の前の魔物たちをライメイを纏い一掃していく。
「これ以上、生徒に迷惑はかけられませんわ!!!」
槍を構え線を描くように魔物を一掃していく。雷鳴があちこちで煌めき、魔物たちが消えていく。
「ベラ先生!!!」
ルネが声を上げる。
「なんだか、酷いことしたみたいで……いえ、いまはそんなこと言ってる場合じゃないですわね。ここは教師に任せて、行きなさい。あなた達なら、魔王を止められるはずですわ!!!」
1度ルネとアノンのところまで戻ってくると、光の速さで再び魔物を蹴散らしていく。
視線を移すと身動きの取れなかった生徒たちが近くに転がっている。
どうやら、魔物を倒しつつ生徒たちを助けているようだ。
「うわ!!!これが、ベラ先生の本気!!!」
「さすがアストラルの使い手ですね!!」
二人とも覚醒を終えたからなのか冷静でマイペースな様子が伺える。
どんなことが起きても、動じていない。
ーーーーーー。
「……重力がなんだってんだ!!!絶撃剣!!!」
ベラの圧倒的な強さに目を奪われていると、次はクバーツが声を上げる。
クバーツは重力に抵抗しながら剣を振るう。
かくつくような動きの後に斬撃が重力の壁を打ち破り、なんとか脱出する。
ライムやシルビアも抜け出せたようだ。
まだ中にはイリス、リタルト、レト、六人の魔人たちが取り残されている。
中でもリタルトは能力の影響か意識を失っている。
そして、イリスも洗脳が強かった影響で力の大半を消費したのか動きが取れていない。
魔人たちも既に戦闘をしていたせいかボロボロだ。
「ふぅ、みんな動けなさそうですね〜。『イグジスト』」
見かねたヒマリがゆっくり起き上がり唱える。
すると、重力の力は消えてなくなる。
「二人とも、すげえ!!!!」
間近で見るアストラルの数々に感動するアノン。
ライムは急いで、リタルトの元へと駆け寄る。
「リタ!!リタ!!!」
懸命に声をかけるが、目を覚まさない。
「落ち着くっす。ヒール。」
キクも同時に駆け寄り、コピーしたヒールをかける。
だが、傷が癒えるだけで目を覚まさない。
「ねえ!!起きないじゃないか!!!」
「リタルトは……クロノスを使ったっす。」
「クロノス……?僕と戦った時も使ってた……」
「そうっす。あれは時間を切り裂く力。起きうる未来の可能性、それを今の時間まで引き寄せる力っす。……切り裂いた時間の距離が長いほど、その分寿命を減らす。……そういう力っす。」
「な……っ。」
あまりのとんでもない力に言葉に詰まるライム。
「だが、そのおかげでルネフィーラは帰還し、全員蘇った。…そう案ずるな。魔力を扱えるものは寿命が長い。そう簡単に死なない。」
何も出来なかった自分に怒りが湧いてくるライム。
その姿を見て、肩にポンと手を置くミルク。
「僕が守るよ。……君が守ろうとしているもの、全て。君が目を覚ました時に隣にいたいから。」
決意を固め、立ち上がるライム。
己の力に溺れ、我を失い力を奮ってきたライム。
今更ながら、リタルトの背負っているものを感じ、立ち上がる。
「みんないない間に吹っ切れたもんねえ。ライム。こないだのクソ野郎ライムよりマシな顔だよお。」
「ライムらしくて、わたしはいいと思うな。一緒に戦うよ。」
「俺も加勢するっす。いまのあんたなら、背中を預けられるっす。」
「みんな……うん、ごめん。やっと自分取り戻せたから。……力を貸してほしい!!」
ライムの横に並び立つイーネ、ハル、キク。
もうそれ以上の言葉は不要だった。
「……アノン、世界は任せたよ。僕は僕の世界を守る。」
「うん!任せてよ!!ホントに吹っ切れたんだね!……でも、次戦う時は負けないよ?」
「まだ2勝2敗だもんね。」
「うん!!」
魔物たちへ飛び込んでいくイーネ、ハル、キク。
ライムはアノンに少しだけ話しかけると、遅れて着いていく。
こんなピンチの状況にも関わらず、微笑む二人であった。
ーーーーーー。
「ほら、俺らも加勢行くぞ」
「えぇ〜やだよ〜いっぱいだよ〜魔物〜」
「はあ!?みんなかっこよく行ってるんだから、付き合えよ。」
「私の力魔物に効かないも〜ん。」
「わぁーったよ。リタルトとイリス守ってろ。」
「あい〜!」
ヒマリの間の抜けた空気に押されるクバーツ。
仕方がないというような様子で、魔物たちに向かっていく。
ヒマリは魔物が苦手なようで、眠ったままのリタルトと動けないイリスを守るようにゴーレムを生成する。
「ほーら、リタちゃんは任せて。3人とも行きなさい〜。」
「ですが、先生は……人には強いけど……」
ココアがなにやら賛成できず、言葉を発する。
ミルクやチョコも同じ様子だ。
「もぅ、頭硬いなあ君たちは。」
再びヒマリが地面に手を触れると、三体ほどゴーレムが生成される。
ゆっくりとした足取りで、魔物に近づくと踏みつけ、殴りつけ、簡単に倒していく。
「ほら〜、ね?」
「……これはすごいな。」
「ココア、任せてもいいかもしれないぞ?」
「う、うん。さすがついこないだまで戦ってた人だね。」
ヒマリの能力に感心してみせる3人。
リタルトをまかせる決意が出来たようだ。
「アノン、あのバカ3人の目を覚ましに行ってきてくれ。頼めるか?……私はまだ甘いのかもしれない。だが、あの3人が魔王とその手先だなんて思いたくはない。……事情があるんだと思うから。」
「もちろんだよ。ミルクにもたくさん魔力との戦い方教わったしね。……一緒に学園祭成功させた仲なんだ。気持ちはわかってるつもりだよ。……絶対、何もかも解決してみせるから!」
「安心した。……任せたぞ!」
いつも通りに軽く会話する二人。
ミルクはチョコとココアと共に魔物の中へと飛び込む。
本来であれば、自分の責任。だが、その不甲斐ない気持ちよりも理解してあげられなかったのがか悔しいと言うような様子だ。
複雑な感情を全てアノンに託すミルク。
それだけ、ミルクにとって信頼を寄せている存在なのだ。
ーーーーー。
疲れたように座り込むシルビアとレト。
横になり動けないイリス。
目を覚まさないリタルト。
それらを守るヒマリ。
アノンとルネはイリスとシルビア、レトに近づくと話しかける。
「大丈夫?3人とも。」
「イリス師匠、回復させますね。」
「いい。大丈夫よ。……ただの、後遺症だから。」
頭を抱え無理やり起き上がるイリス。
「それより、アノンちゃん、シルビアちゃん、怖い思いさせてごめんね……」
「ううん。ボクこそお姉ちゃんから色んなこと学んで、この学園で色んな知識を得たのに、テンパってなんも出来なかった。」
「……それは私も。そしてフィーラ。無事でよかった。」
「はい……!会いたかったです!ルビアちゃん!」
抱き寄せ合う二人。
イリスはアノンの頭を撫でる。
「みんな……すごいね。……ホントに私は小さな世界にいたんだなって思うよ。」
そんな4人と戦っている学友の様子を見て、何かを決意するレト。
「あんたたちの居ない進級試験、クソつまらなかったわ。……行くんでしょ、魔王城。帰ってきてよね。……ちゃんと、仲良くなりたいから。」
頬を赤らめ立ち上がるレト。
「レト……さん?」
「私は自分に出来ることをします。コスモ家がずっと、落ちぶれてたまるものですか!!」
「決意が……固まったようね。」
「はい!」
全身に炎のリベレイトを纏うレト。
「……シルビア、あなたも魔王城に行くべきよ。あのフェニックスの力は、ウルローズ様の力そのものよ。……なんであなたにそんなに力があるのか知らないけど、ルネフィーラさんにはビスラ様の力、イリス先生はメア様の弟子、アノンくんは規格外だし。……全員、魔王と因縁あるのかもよ。」
夏休みを終えてだろうか。
アノンたちよりも知識を持っているレト。
シルビアやアノン、ルネは驚いた、というような表情を見せる。
「魔王の鎧、明らかに天使ルキファー様のものだった。……ライムさんもそうだと思うけど、わたしあの魔王に何かされた記憶があるのよね。まんまと利用されて。何となくモヤモヤしてたから、色々調べてたのよ。……本当は私がぶん殴ってやりたいけど、任せたからね。」
柔らかく微笑むレト。その表情にかつての邪悪さは感じない。
彼女も少しずつ変化しているのだろう。
そしてそのうえで貴族として、アノンやシルビアに今度こそはと考えていたのだろう。
台無しにされた進級試験。利用されていたと思い出した記憶。
だが、彼女は全てをアノン達に託し、自分の出来ることを選択した。
かつて、シルビアに魅せられた少女だからこそ出来る選択だろう。
『正しいことのために正しく力を使う。』それが、今のレトだ。
「うん、任せてよ。レト!!戻ってきたら、たくさん話そうね!!」
以前なら邪険にしていたが、進級試験、学園祭、そして今。数々の変化をしていたレトを見て、受け入れるアノン。
「死なないでよ、レト」
「誰に言ってんのさ。そっちもね。」
「うん。また……買い物とか行こうね」
その言葉を聞いて、「うん!」と微笑み真っ直ぐに魔物たちに突っ込む。
ーーーーーー。
レトの背中を見送ると、立ち上がるシルビア。
「私も連れて行って欲しい。あなた達2人と違って、何も出来なかった。……だから、迷ってた。……進む勇気も、覚悟も足りなかったんだって。死んでようやく気がついたから。……今度は、今度こそは、戦う。」
「力を貸してくれて嬉しいよ。シルビア!」
「歓迎します!ルビアちゃん!」
微笑み合う三人。三人には固い絆があるのだろう。
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「わたしも連れて行って欲しい……魔王城を知ってる。……三人の役に立たせて欲しい。」
満身創痍ながら、立ち上がるイリス。
一瞬ふらつくが、ヒマリに支えられる。
「相変わらず無茶するね〜。私たちのこと利用したテンダリアくんたちにガツンと言ってやってね〜」
「止めないの……?」
「このままじゃ、私の大切な世界がなくちゃうからね〜。無理してでも、魔王倒してもらわないと〜。……それに止めても無駄でしょ〜?クバーツくんも、ベラちゃんも分かってるよ。」
「……子供たち、任せたよ。」
「うん〜!頑張って〜!」
「(魔王は任せるぞ、イリス。)」
「(お姉様、ご武運を。)」
イリスが最初から魔王城行くと分かっていた三人。かつて、世界を救った英雄とその仲間だ。深い仲なのだろう。
クバーツ、ベラも戦いながら、想う。
イリスの同行に一瞬驚くアノン達だが、全員イリスの弟子だ。
信頼し、どこか安堵する。
全員の決意が固まると、アノンに向き直る。
アノンはよし!と気合を入れると高らかに宣言する。
「じゃあ決まりだね。四人で行くよ!!魔王城へ!!」
読んで頂きありがとうございます!
ついに本編最終章となります!学園に残る組と魔王城行く組に別れましたね。
最終章ということで、メインとなる人物は魔王と因縁があったり、天使と繋がりがあったりというメンツになりましたね。
ここまで色んなことを学んできたアノンくん。学びの果てに何を見出すのか届けてください。
楽しんで頂ければ、幸いです。次回もお楽しみに!




