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3章 第12話 反撃の覚醒!


 再臨した魔王はテンダリアであった。

 

 目の前の事象が理解できないリタルト。困惑するように言葉が漏れる。

 

 「嘘……とっくに復活して……私たちに近づいたの……?……ど、どうして?」

 

 身に纏う圧倒的な瘴気。魔物や普通の魔族とは異なり、赤紫のような見ているだけで息を飲むオーラだ。

 

 王の風格を表すかのように着こなされたかつての鎧。

 

 薄汚れていて、黒く染っている。

 

 かつての仲間の血だろうか。こべりついた血痕が彼の人生の壮絶さを物語っている。

 

 そしてゆっくりと、ため息をつくように言葉を紡ぐ魔王。

 

 「アビュートとの戦いで力の大半を消耗した我は己の記憶を封印し、人としてこの世界をもう一度見た。……メアに言われたからな。人は変わると。ならば、戦後から20年……いや、最初の戦いからはもっと前からか。……かなりの時を経た世界は大きく変わると思った。」

 

 「大きく変わったじゃない!!!」

 

 「何も変わっていない!!レト・コスモの一件も、ライム・コリアンダーの件も、煽ったのは我だ。……世界各地にそんな火種は山ほどあった。みろ、あの逃げる生徒たちを。」

 

 一度声を荒らげたが、再び淡々と語り出す魔王。

 

 指さしたのは逃げる生徒たちだ。

 

 リタルト達に加勢する様子はなく、周りの学友を助けることも無く、ただ逃げている。

 

 「どこの国もそうだった。戦争中の方がまだ団結力があった方だ。平和に溺れて、好き勝手に暮らすものが増えただけではないか。……争いは耐えず、火種をおおく抱え、今度は人同士、魔族同士が争っている。ただ、大きな争いが無くなっただけだ。……だからこそ、我が苦しみから解き放ってやる。裏切られることも、飢えに苦しむことも、悲しいことも、ない。我は死という救済を与えているのだ。」

 

 「そんなの間違ってる。人と人が思いやって、生きていく。その中で、世界を平和にしていく。一つ一つの変化は小さいかもしれない。それでも、確かにみんな前に進んでた!!!私はライムやレトを見てそう思ったよ。記憶がなくて、苦しむアノンや過去の罪を背負うシルビア。救済の力と向き合わなきゃ行けないルネフィーラ。みんなこんな世界だからこそ、己と向き合っていた!!!……あなたの考えは悲しすぎるよ!!!」

 

 ーーーーーー。

 

 構えるリタルト。

 

 守るように力を解き放つ3人の魔人。

 

 「アクセル!!!」

 

 ココアは唱えると自分の複製体を多く作りだす。

 

 高速で移動し魔物たちを一掃、教師陣に向かっていく。

 

 向かってきたココアを同じスピードで迎え撃つベラ。

 

 一撃一撃に雷の力が宿り、一閃を描く。

 

 まともにやり合う気がないのか、ココアは攻撃し、後退するのを繰り返していく。

 

 幾重にも分身された肉体を生かし撹乱し、多方面から攻撃を繰り出していく。

 

  その全てをかき消すように雷鳴が轟く。

  ほぼ、一撃で分身は消えていく。

 

 「やってられないですね……さすが元騎士団長と言ったところですか…!」

 

 苦戦を強いられるココア。援護するようにイーネが一歩踏み出す。

 

 「加勢する!アストラル・ブースト!!」

 

 イーネも続くように唱えると筋肉を膨張させ、ココアが撹乱させた隙に強烈な一撃を放つ。

 

 解き放つ刀の一振に土のリベレイトが乗り、地面を穿つ。

 

 ベラを守るようにヒマリの土のリベレイトが展開され、イーネの攻撃を相殺する。

 

 その隙を狙って無数の剣がイーネを囲うように展開される。

 

 解き放たれる刹那、土のリベレイトを身にまとい攻撃の全てを無力化させる。

 

 だが、ヒマリのリベレイトに足を拘束され、どこからともなく現れたゴーレムのような土の巨人に掴まれる。

 

 「やりすぎだって……なんだその巨人……!」

 

 「『絶撃剣』!!!」

 

 苦悶の表情を浮かべる2人に容赦なく解き放たれるクバーツの剣技。

 

 どんな相手だろうと必中の奥義だ。

 

 二人を簡単に切り裂き、血が吹き出る。

 

 「くそやろうが…!」

 

 「魔人族舐めないでください…!」

 

 決意をみなぎらせる二人。

 

 瘴気とエーテルを身に纏うと、全くの無傷で地面に降り立つ。

 

 「姉様だって、不意をつかなければ、誰にも負けなかったんだ!!!……いっつも、誰かを優先して、自分のことは後回しで…!!!」

 

 「戦いに集中しなよ。ココア。あの剣技魔導も切り裂く。」

 

 「分かってるよ。ただ、防げない攻撃じゃなかったのが、悔しくて。」

 

 「俺も同じだよ。キクやミルクさんが負けるような相手じゃない。たとえ、かつての英雄でも。この学校の先生でも!!!」

 

 ーーーーーー。

 

 「アストラル・龍!!」

 

 ハルが唱えると、その姿をドラゴンに変えていく。

 

 美しい水色の龍は翼と鱗を持ち、凶悪な瞳でキキとバロゼ、イリスを睨みつける。

 

 「へえ、ドラゴンか。俺様の相手に相応しいな。」

 

 「……魔獣化は魔人族の中でも、希少。……なにより、強い。」

 

 「………。」

 

 楽しげなバロゼ。警戒を強めるキキ。洗脳の影響がかなり強いのか黙っているイリス。

 

 「……ミルクさんのこと騙していたんですか?」

 

 威嚇するように一歩踏み出し、会場を大きく揺らすハル。

 

 「まあ。そうなるな。……だが、あの日々に偽りはねえよ。」

 

 「……みんなで過ごすの、たのしかった。」

 

 「なら、どうして!!!」

 

 瞳を大きく開き、大声を発するハル。その声は周囲の音をかき消すほど巨大で生徒の大半は耳を塞ぐほどだ。

 

 バロゼ達は気にすることなく、話を続ける。

 

 「お前になら分かるんじゃねえのか。」

 

 「あなたも…ライムに同じこと、してた。」

 

 「……っ」

 

 「俺様たちは終わりがくるその日まで、ただ楽しく過ごしただけだ。……友達を殺してだって、やらなきゃいけないことだ。お前たちの理想は甘すぎる。」

 

 「いつか……痛い目を見る。かつて、理想を語った天使たちのように。人々や信じるものに裏切られて、悲しい思いをする。」

 

 「でもっ…!!殺したら、終わりじゃないですか!!!」

 

 「これ以上の嘆きを止められる。」

 

 「世界を救う唯一の方法…。」

 

 「もう、言葉は不要ですね。」

 

 全身からエーテル、リベレイトを同時に発動し、そのうえで瘴気を身に纏う。

 

 「全ての力を身に纏うアストラルに魔導の重ねがけ。……魔人族の強みだったな。」

 

 炎のアストラル・ベヌーを纏うパロゼ。

 

 瘴気を纏うキキ。

 

 瘴気とアストラルを纏うイリス。

 

 だが、ハルが翼をはためかせると、全員の能力が掻き消される。

 

 「……。」

 

 だが、イリスの能力だけは再び発動する。

 

 「くっ……」

 

 「……争いが嫌い……なんだね。」

 

 微笑むキキ。

 

 「イリス、あいつを楽にしてやってくれ。」

 

 「……はい。」

 

 イリスの肩に手を乗せるバロゼ。

 

 ハルは数歩下がり、飛び立つ。

 

 追いかけるようにイリスも飛び上がる。

 

 魔導の力だろうか。

 

 バロゼとキキはリラックスしながら、アノンとミルクの死体に近づく。

 

 「これでいいはずだ。人間は醜いから。」

 

 「そうだね……」

 

 ーーーーーーー。

 

 「リベレイト・風!!」

 

 上空に上がるリタルト。

 

 「最期の戦いだ。楽しませてくれよ。リタルト。」

 

 不敵に微笑むと、瘴気をまとい上昇していく。

 

 同じ位置に到着すると、構えるリタルト。

 

 「この一撃に全てを……クロノス。『刹那一閃』!!!!」

 

 綺麗な一直線。

 

 静かで、その一振はまるで空間を切り裂くように鮮やかだ。

 

 その剣技は圧倒的なスピードで魔王を貫く。

 

 「学ばぬな。小娘。……『リジェクト』」

 

 一撃を食らったあとで、呟く魔王。

 

 攻撃は無力化され、リタルトは地面目掛けて落ちていく。

 

 「慢心したな……魔王……!!」

 

 「……なに?」

 

 圧倒的な不利にも関わらず微笑みながら落ちていくリタルト。

 

 刹那、背後に懐かしい気配を感じ振り返る。

 

 「……ルネフィーラ」

 

 魔王の目の前に、突如して現れたのは行方不明のルネだった。

 

 『……ビスラ。』

 

 微笑みながら唱えられた言葉。

 

 

 

 それは再臨した魔王の親友『ビスラ』の名前だった。

 

 動揺を隠せない魔王。

 

 ルネの神々しいその姿に瞳を奪われていると、強烈な一撃が飛んでくる。

 

 「ルネを返せっ!!!!」

 

 「アビュート!?」

 

 圧倒的な一撃に地面に落ちていく魔王。

 

 殴りつけたのはアノンであった。

 

 怒りの眼差しを向けるアノン。

 

 ルネを抱き上げると、ゆっくりと魔王の前に降り立つ。

 

 「久しぶりだね。テンダリア。……いや、10年ぶりだね。……サタエル。」

 

 「くっ……取り戻したか。力と記憶を。」

 

 闘技場の中央に降り立つと、再び微笑むルネ。

 

 歌のような詠唱は世界全体を包み込む。

 

 光り輝き、全ての命を癒しているようだ。

 

 何事も無かったかのように起き上がるライムやレト。

 

 殺された生徒たち。

 

 消えていく魔物。

 

 倒れる教師陣。

 

 焦ったように魔王の横に立つバロゼとキキ。

 

 「主。……各地の暴動や戦争が収まった……死んでしまった者たちが生き返ってる。」

 

 「こいつは、やべえんじゃねえか?教師陣の洗脳も解けたみてえだ。」

 

 「くっ……ビスラ。あくまでも我の元に来る気は無いのか。」

 

 「行きません。だって、私。ルネフィーラですから。」

 

 「ふっ、そのようだ。だが、我の考えは変わらない。また死ぬだけだ。何度助けようともな。」

 

 全員がルネのチカラで回復し、立ち上がる。

 

 「図に乗るなよ。『グラビティ』」

 

 魔王が唱えると、アノンとルネ以外の全員が地面に叩きつけられる。

 

 「食いあらせ我が眷属。」

 

 続けて詠唱するとまた大量の魔物が出現する。

 

 そのまま3人は上空に上がっていく。

 

 「どこに行く気だ。」

 

 「魔王城だ。……我をとめたいなら、来るがいい。我は再び世界を破滅させるまでだ。」

 

 闇の空へと消えていく魔王。

 

 鋭い眼光で睨みつけるアノン。

 

 目の前には大勢の魔物。

 

 動けない仲間たち。

 

 ルネとアノンが構え、その一歩を踏み出す。

 

 ーーーーーー。

 

 再臨した魔王。

 

 命を吹き返した仲間たち。

 

 そして、リタルトの力だろうか。救出されたルネフィーラ。

 

 彼女は力を覚醒させた。

 

 そして、記憶と力を取り戻したアノン。

 

 魔王との最終決戦が始まる。

読んで頂きありがとうございます!


これにて3章はおしまいです。いかがだったでしょうか。リタちゃんのチート技のおかげで絶望的な状況回避出来ましたね。具体的な説明は4章でありますので、お楽しみに。


最初の予定だとルネちゃんの目の前で現れたテンダリアや教師陣に皆殺されて……みたいな流れで覚醒だったんですけど。誰が犯人なのか何が起きているのかわからないという展開にしたくて、今回の11〜12話の展開となりました。


最初の構想だとリタもライムも魔王側になるというオチでした。今のバロゼやキキのポジションの予定だったんですよね。そのため展開的にリタやライムが怪しく見えるみたいになってます。


テンダリアの名前のモチーフは天竺牡丹とダリアなんですね。なので最初から『裏切る』という想定でした。


勇者ルキファーや魔王サタエルは最初からそのままです。堕天使ルシファーと魔王サタンがモチーフです。同一視されることが多い存在で神に反逆した天使、神と敵対する悪魔ですね。


アノンの本名アビュート=ハイルケーレは天使ミカエル(ミハイル)、ミカエルが使った剣アトリビュートがモチーフです。サタンと戦った大天使で、実は兄弟だったんじゃないか、悪と正義の反転など絵画や文献によって色んな解釈のされている天使ですね。


色々考えた結果、今作では同じ異世界からやってきたという設定に私の中では作り上げました。


ほかのウルローズやビスラ、メア・ギャビーもそれぞれ罪人を炎で責め立てたというウリエル、眼病を癒し旅人の守護者として有名なラファエル(ラビエル、イスラフェル)、神の言葉を伝える審判の天使カブリエルです。


そんな天使たちを元に作ってみました。


さて、次回からは第4章です!一応本編の最終章となります!お楽しみに!

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