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3章 第11話 魔王再臨!

元々ひとつだった11話を分けました!すみません!


 「なんだよ、これ。」

 

 目の前に広がる瓦礫の山。

 

 王都近くの街はもはや消滅している。

 

 アノン達が駆けつけた頃には、既に人一人存在していなかった。

 

 「これで3つ目。周辺の街はもう、これで最後よ。」

 

 「何でこんなことになってるの!?結界だってあるのに!!!」

 

 「結界内に入れる指輪を持った者がこの惨劇を起こした。そうとしか、考えられない。それもたった一日で。」

 

 「貴族がって……こと?それとも、過激派?」

 

 「……もしくは、学園関係者ね。」

 

 「ルネフィーラちゃんを探すどころじゃない。一度学園に戻った方がいい。みんなが危ない!!」

 

 「そんな!!!待ってよ!!!僕は探すよ!!!」

 

 周辺地域の制圧。

 

 それも学園関係者が関わっている可能性が高い。

 

 イリスは一刻も早く戻るべきだと主張する。

 

 だが、アノンは納得がいかない様子だ。

 

 その様子を見かねて、やれやれとキクが影から現れる。

 

 「やめた方がいいっすよ。各地は今戦争中です。過激派同士の戦争、そして魔物の大量出現。」

 

 「あなたは……」

 

 「キク・ヨモギっす。外の調査をしていた魔人のひとりっすよ。学園には俺の複製体を置いておいったっす。ああ、ミルクさんやチョコさんもここにいますよ。」

 

 イリスが質問しようとすると、まくし立てるように話すキク。

 

 背後からチョコやミルクも現れる。

 

 「各地で戦争!?」

 

 「わからないか?アノン。」

 

 「わかんないよ!!急に何が起きているって言うのさ!!!」

 

 「復活したんだよ。『魔王サタエル=ルキファー』がな。」

 

 「サタエル……」

 

 「ルキファー……!?」

 

 ミルクから告げられる魔王の名。

 

 シルビアとアノンは驚きを隠せない。

 

 サタエルは魔王の名。それは広く周知されている。

 

 だが、もうひとつの名。それも広く周知されている。

 

 古の天使、勇者の名だ。

 

 サタエル=ルキファー。その名前が合図となるように、話し始めるイリス。

 

 「勇者は大戦後人々に絶望し、姿を消した。その後は魔王となって世界を破壊しようとした。……人間たちに仲間を殺されたから。」

 

 イリスが説明してくれる。あたかたもそれが真実であるかのように。淡々と、機械のように。

 

 この世界の住人のほとんどが知ることの無い知識。なぜ、イリスは知っていたかのように話すのだろうか。

 

 魔人たちは10年ほど前に神候補であるアノンと会っている。魔王に対しての情報を持っていてもおかしくはない。

 

 イリスに関してもメアから聞いていた可能性はある。

 

  だが、あまりにも動機を事実のように語る姿には違和感がある。

 

 だが、その内容が真実であるなら、全てに辻褄があっていく。

 

 魔王がアノンを襲った理由。

 

 天使を警戒し、ルネフィーラをさらった理由。

 

 魔王の正体。それが神候補のひとりであり、かつて三人の天使と共に世界を救った勇者であるからだ。

 

 ーーーーーー。

 

 イリスの変化に気がつくことなく、思考を続ける面々。

 

 瓦礫の山、各地の戦争。

 

 冷静ではない。

 

 「それでもボクはルネやテンダリア達を諦めたくない!!!ボクたちが助けなきゃ!!!」

 

 「少なくとも、村や街、国には見当たらなかったすよ。テレポートで世界各地を回りましたっすけど。」

 

 「くそっ!!!ボクに記憶さえ戻れば!!!」

 

 「……アノン」

 

 膝をつき拳を地面に打ち付けるアノン。

 

 見かねてチョコが止めさせる。

 

 「今は守れるものから守ろう。アンタにはそれだけの力がある。……悔しい気持ちは痛いほど、わかる!!」

 

 血が出そうなほど拳を握り込むチョコ。

 

 ルネを守れなかったのは自分の責任だと思い詰めているのだ。

 

 「……わかった」

 

 その想いに何も言えなくなるアノン。

 

 「……いこう、アノン。必ず、探し出そう。私たちの友達を。そしてさ、みんなでまた遊ぼうよ。」

 

 「……うん。そうだね。」

 

 シルビアはアノンを立ち上がらせる。

 

 お互いに大切な友達の失踪だ。

 想いは同じだろう。

 

 仕方がなく、その場を後にする面々。

 

 刹那。

 

 魔導が解き放たれ、ミルクが倒れる。

 

 「……え」

 

 振り返るアノン。

 

 回復に向かうキク。

 

 動揺し叫ぶシルビア。

 

 アノンが顔を向ける目線の先にはイリスがいた。

 

 「どういう……こと!?」

 

 動揺のあまり上手く声を出せないアノン。

 

 イリスがミルクに攻撃した。

 

 ミルクが腹部から血を流し倒れている。

 

 なぜ?何が起きている?

  そう思考しているうちに、次はキクが倒れる。

 

 再びイリスから放たれた魔導を受けて、頭から血を流し倒れる。

 

 チョコに手を引かれ、逃げるアノンとシルビア。

 

 

 二人とも思考が追いつかない。

 

 「…ホーリー。」

 

 イリスから解き放たれるその光。

 

 なにも反応出来ずに三人は攻撃を喰らう。

 

 辛うじて瞳をあけられるアノン。

 

 目の前には全身を焼かれたように身を焦がすシルビアとチョコが視界に入る。

 

 アノンは突然現れた土のリベレイトに守られている。

 

 全員不意をつかれたことで致命傷だ。

 

 「なんで……なんでだよ、なんでだよ!!!」

 

 刹那、アノンの意識は途絶える。

 

 何が起きたのか理解できないまま。

 

 アノンは意識を失う寸前、自分がどういう世界に生きているのか痛感した。

 

 そして、学園がどれだけ生徒たちのことを守ってくれていのかを。

 

 外の世界は紛れもなく戦争をしていて、リベレイトや魔導は簡単に人の命を奪えるということを。

 

 鳥籠から解き放たれたが最期、自由に飛び立つことなんて出来なかったということを。

 

 自分の無力さを痛感した。

 

 ーーーーーー。

 

 闘技場。

 

 表彰台に立つリタルト、ライム、レト。

 

 3種類のメダルをクバーツが首にかけていく。

 

 笑顔が絶えない3人。

 

 だが、会場が少しざわめいているのが気になった。

 

 3人の前に立つクバーツ、ヒマリ、ベラ。

 

 そう、監禁されているはずのベラが目の前にいる。

 

 「あれ、センセお休みしているんじゃ……」

 

 リタルトが言葉を紡ぐ刹那、隣のライムとレトから血が吹き出す。

 

 二人ともヒマリとクバーツのリベレイトによって、腹部を貫かれたのだ。

 

 「なっ……」

 

 動揺しつつも、冷静に距離をとるリタルト。

 

 ペラから解き放たれる雷槍を容易く避ける。

 

 そして、ハル、ココア、イーネがリタルトを守るように現れる。

 

 だが、ライムとレトは何も反応することが出来ず、血を流して倒れる。

 

 即死だ。

 

 「あら?外しましたわ。」

 

 「おいおい、頼むぜベラ。」

 

 「もぅ、ベラちゃんったら〜」

 

 眉を顰めるリタルト。

 

 生徒を手にかけたというのに、いつも通り話している。

 

 それに闘技場であるにも関わらず、血が流れるのは不自然だ。

 

 だが、教師陣は非常事態に備えて、ペンダントを身につけていた。それはどこでも力を解放できるものだ。

 

 教師陣の力を考えれば許容を超える力を出せてもおかしくは無い。

 

 だが、ライムとレトが天使像の加護がある中、即死は考えにくい。

 

 

 天使像全てが機能停止していると考えても良いかもしれない。

 

 そんなことを冷静に分析していくリタルト。

 

 友が手にかけられたというのに酷く冷静だ。冷静に見えるだけなのか助けられる算段があるのかは分からない。

 

 だが、落ち着こうとしていることは明白だ。

 

 「姫、外も戦争や魔物の出現が確認されてます。……姉様も、ミルクさんも、キクも………っ。……何者かに命を奪われました。アノンくんやシルビアさんも同様です。」

 

 姉が殺されたというのに冷静に報告するココア。

 

 以前から覚悟していたのだろうか。それとも、考えないようにしているのだろうか。

 

 「くっ…」

 

 ココアの報告に歯を食いしばるリタルト。

 

 刀を抜く四人。

 

 「あら?ワタクシたちとやる気ですの?」

 

 「な、なんで先生方が……!!」

 

 「お、おい!!ライムのやつ死んでるぞ!!!」

 

 「いやあああああっ!!!」

 

 状況を理解し、逃げる生徒たち。

 

 だがそこに大量の魔物が出現し、生徒たちを食っていく。

 

 「魔王の手先って訳ですか、先生方!!!」

 

 声を荒らげて生徒たちの方へと向かうリタルト。

 

 だが、ベラが妨害する。

 

 刀と槍の激突。

 

 不快な金属音が闘技場に響く。

 

 舌打ちをして、元の位置まで下がるリタルト。

 

 実力は同程度らしい。だが、歴戦を生き抜いた戦士相手だ。

 

 簡単に行きそうにない。

 

 「いや姫。恐らく、洗脳の類だ。操られていると理解していない。」

 

 「完全に魔王側の作戦通りだよ。これ。」

 

 イーネとハルが解説してみせる。

 

 目の前の惨劇。

 

 友の死。愛する人の死。

 

 泣き叫びたいほどにリタルトは体全身を震わせている。

 

 怒りなのか、憎しみなのか、悲しみなのか、それは分からない。

 

 それでも、目の前の敵と戦うしか道はなかった。

 

 「せっかく、最期なんだ。親玉の姿ぐらい、見せなさいよ!!」

 

 震えながら、叫ぶリタルト。死ぬかもしない突然の死闘。

 

 敵の正体ぐらい暴かなければならないだろう。

 

 それに答えるように3人の人影が目の前に現れる。

 

 「やあ、久しぶりだね。リタルト・チューリップ。……劇以来かな?直接会話をしたことは無かったね。」

 

 「あなたは……ミルクといっしょにいた……『テンダリア』!!!」

 

 「生き残った学友ぐらい見ておかないとね。本当はアノンやミルクと話したかったけどね。」

 

 微笑みながら、話すと掌から瘴気の塊を生み出す。

 

 その中からアノン達の死体が出てくる。

 

 無造作に積み上げれる死体の山。

 

 リタルトは必死に泣くのを我慢している。

 

 仲間や学友の命が簡単に奪われたのだ。

 

 絶望し、恐怖するのが当然の反応だ。だが、リタルト達はそんなことはしない。慣れているのか、そんな暇がないと思っているのか、強い心根で耐えている。

 

 そしてイリスがテンダリアに跪きながら現れる。

 

 「……イリス・グレイスまで!!!」

 

 かつて英雄と言われたイリスまでも洗脳されて牙を剥く状況。

 

 最悪としか言いようがない。

 

 「教師陣はどこでも力を使えたからね。王都の中心である学園で事を起こすにはちょうど良かったんだよ。……いくら俺でも時間かかっちゃうからね。優秀な学友に、主力部隊、死闘を超えてきた英雄たちと戦うのはね。」

 

 「ルネフィーラをさらったのもあなた!?」

 

 「そうだよ?あいつはビスラの器だからね。俺の城に監禁してるよ。……さ、どうする?こっちは教師が4人、キキとバロゼ。それから、俺もいるけど。まだ、抗う?」

 

 「目的を話しなさい。こんなことして、何になるって言うの!?あなたみたいな人がなんで魔王に手を貸してるの!!ミルクに誓ってくれたんでしょ!ミルク話してくれたよ!?『魔王の手先でも、器でもない』って!!あれは嘘だったの!?学園祭でのミルク達と楽しそうにしていたのも全部嘘だったの!!?」

 

 「嘘じゃないさ。だって……」

 

 語りながら瘴気を高めていくテンダリア。

 

 美しい銀髪は黒く染まり、瞳は紅に怪しい煌めきを放つ。

 

 「我が魔王だからだ。」

 

 

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