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3章 第10話 利他の心!


 夏休みが明けて、進級試験が始まろうとする。

 

 Bクラスの教室にはミルクとアノン、シルビアが顔を合わせていた。

 

 「なんだか、本当に久しぶりね。2人とも。」

 

 「うん!会いたかったよ!シルビア!」

 

 「そ、そう?……私もよ。」

 

 「シルビアはたしか実家に帰っていたな。問題はなかったのか?」

 

 「なかったわよ。お父様もお母さまも爺もやたらと構ってきてウザイぐらいだったわ。……私が勝手に蟠りを作っていただけなのかもしれないわ。……お父様なんて学園祭にまで来るし!」

 

 「えっへへ。よかったじゃん!レトとも仲良くなれたみたいだし、サクラちゃんともあってるんでしょ?」

 

 「そ、そうね。」

 

 めんどくさいと言いながら、少し嬉しそうなシルビア。

 

 過去の大きな事件からかなり前進したように思える。

 

  そのきっかけを与えたのは紛れもなくアノンである。

 

 だが、当人はまったく気がついていない様子である。

 

 「ところで、フィーラはどこかしら?今日見ていないんだけど?夏休みも会えなかったし……」

 

  「え?シルビアも見てないの?ボクも会ってなくて……」

 

 「……私も見ていないな」

 

 ルネが見当たらないことに気がつく3人。

 

 教室を見渡してもその姿は視界に入らない。

 

 ルネの姿を探していると、教室にクバーツが入ってくる。

 

 ーーーーーー。

 

 「あれ?今日はクバーツ先生なの?」

 

 「ああ、ちょっとな。」

 

 教室に入り、教壇に上がるクバーツ。

 

 Bクラス内で少しざわめきが起こる。

 

 このクラスの担任はベラであるからだ。

 

 「先に話しておくとな。……しばらく、ベラ・ガーネット先生に変わってオレが担任になる。少しの間、お休みを取られてな。……あとルネフィーラだが、家庭の事情で少しの間休学だ。戻ってきても深く詮索するなよ。……それと今日から進級試験だ。俺が担任だが、やることはいつもと変わらない。集中するように。」

 

 要点だけおさえて説明すると、クバーツは教室を後にする。

 

 ーーーーーー。

 

 「先生!まって!」

 

 あとを追いかけたのはアノンとシルビアだ。

 

 「ルネ、何かあったんですか?」

 

 「いったろ、詮索するなって。」

 

 「でも!!!」

 

 「ベラ先生のお休みと何か関係してるんですよね?」

 

 鋭い眼光を向けるシルビア。

 

 クバーツは黙り込む。

 

 そうしていると、背後からイリスが声をかけてくる。

 

 「場所を変えよう。二人には話した方がいい。」

 

 「……イリス」

 

 ーーーーーー。

 

 「消息不明!?」

 

 一通り話を聞き、声を荒らげるシルビア。

 

 アノンは絶句している。

 

 「最後に関わったのはベラだというとこまでは調べがついてる。だが、イリスが記憶を読んでも、ルネフィーラと話していた所までしか引き出せない。本人も記憶が無いんだ。」

 

 「私たちはベラがやったとは思ってないけど。……今は監禁してる。……ルネちゃんのこと全力で探してるけど、なにも手がかりがないの。」

 

 「夏休みの中盤からって……もう3週間もすぎてるよ?お姉ちゃん。ホントに見つけられるの?」

 

 「……相手の目的にもよるけど。殆ど絶望的よ。」

 

 バンという大きな音を立てて立ち上がるアノン。

 

 「どこ行く気だ?」

 

 「探しに行く。ボクなら見つけられるはずだ。」

 

 「無茶よ。メア師匠の書庫でも情報は得られなかった。……相手は確実に魔王よ。」

 

 「尚更だよ。ボクは魔王を止めなきゃいけない。……ボクは行くよ。」

 

 「待って。記憶や力、戻ったの?」

 

 「まだだよ。それでも、ボクは友達を放っておくなんてことできない。」

 

 「はあ、仕方ないなあ。アノンちゃんは。」

 

 「アノンがこういう性格だって師匠も知っているでしょ?もちろん、私も行きます。」

 

 「そうね……まったく。」

 

 「お、おい?イリス?」

 

 仕方がないというような様子で立ち上がるイリス。

 

 もう答えが決まっているシルビア。

 

 困惑するクバーツ。

 

 「お前ら……」

 

 「ビスラ様の力を持つルネちゃんがやられて、恐らく次にやられるのはキキやバロゼ、テンダリアよ。それにシルビアちゃんも安全とは言えない。アノンちゃんも魔王にとっては脅威よ。……どうせ外には調査に行かないといけないし、私が行くわ。」

 

 「ったくお前は変わらんな。わかったよ。外の調査は3人に任せる。その代わり今年の進級試験は不参加だぞ?いいのか?」

 

 「「はい!」」

 

 声を合わせるふたり。

 

 微笑むイリス。

 

 3人の背中を見送るクバーツ。

 

 ーーーーーー。

 

 一方その頃。

 

 進級試験は着々と進んでいた。

 

 レトは善戦したものの3回戦止まり。

 

 六魔人たちは程々に戦闘すると、離脱。

 

 どれも2回戦や3回戦止まりだ。

 

 アノンとシルビアは不戦勝扱いとなり、失格。

 

 ライムとリタルトは着々と駒を進める。

 

 ーーーーーー。

 

 そして、決勝戦。

 

 もちろん残ったのはライムとリタルトである。

 

 「アノンじゃなくて残念だった?」

 

 「そりゃあね。でも目的は変わらない。僕は強さを証明するだけだ。」

 

 「みんなライムが強いってとっくに認めてるよ。」

 

 「進級試験、決勝!ライム・コリアンダーVSリタルト・チューリップ、試合開始ッ!」

 

 ーーーーーー。

 

 試合開始の合図が鳴り響く。

 

 刀を抜き構えをとるリタルト。

 

 武器も持たず、構えることもないライム。

 

 「いくよ!ライム!……リベレイト『風』!!」

 

 風のリベレイトを纏い、体を浮かせるリタルト。

 

 そのまま凄まじい勢いで、距離を詰める。

 

 目にも止まらぬ早さで切りつけられるが、ライムは微動だにしない。

 

 1度離れるリタルト。今度は上空に上がって両手で刀を握る。

 

 『風斬撃!!』

 

 斬りあげるように風の斬撃を解き放つリタルト。

 

 上空からライムに向かって直撃する。

 

 砂埃が舞い上がるが、その中をライムは闇の瘴気と共に駆け抜ける。

 

 「なっ!?」

 

 瞬時に背後に回るライム。

 

 リタルトの背中に握り合わせた手で強打する。

 

 あまりの衝撃に地面へと落ちていくリタルト。

 

 「アストラル・クロノス!!」

 

 落ちていく刹那、リタルトが呟く。

 

 ライムが次の瞬間、目を開けると落ちているのは自分となっていた。

 

 「なにっ!?」

 

 驚き困惑するが、舌打ちをすると体勢を整わせ瘴気を爆発させる。

 

 「魔導解放!!」

 

 全身から溢れ出す魔力。

 

 上空にいるリタルトに拳を繰り出すが、避けられ腹部に肘打ちをくらう。

 

 そのまま闘技場の中央に降り立つ二人。

 

 たった一撃で膝をつくライム。

 

 「君も……君もなのか!!!……僕を置いていくのか!!!」

 

 「置いていかないよ。そばにいたいって言ったじゃん。」

 

 「君の輝きにも、君の強さにもボクは釣り合わない!!!醜くて、弱いんだ!!」

 

 一瞬でリタルトの強さに確信を持つライム。

 

 Dクラスから学園祭に参加出来る実力。

 

 確かな想いとそれを実現させるだけの力。

 

 すでに彼女はアストラルを習得している。

 

 「ライム……強い人なんて、世の中たっくさんいるんだよ。その度に君は嫉妬するの?」

 

 「でも!!!強くなきゃ、強くならなきゃ、誰も認めてくれない!!!裏切られるだけだ!!!」

 

 「……ハルのことやお父さんのことでしょ?」

 

 「……っ」

 

 「最初の動機なんて自分勝手なものだったかもしれない。それでも、確かに関わっていく中で、あなたの事を大切になっていったんじゃないかな。……少なくとも、私はそうだよ。」

 

 リタルトは笑顔で話し続ける。

 

 身に纏うオーラは緑の優しい風から禍々しい瘴気へと変わっていく。

 

 「……え?」

 

 「私、魔人族なんだ。魔族と人のハーフ。」

 

 「なっ!?」

 

 闘技場の観客席にはまるで届かない声。

 

 風のリベレイトが音を逃がしているのかもしれない。

 

 だが、しっかりとライムには声が届いている。

 

 「人と魔族が暮らしていける世界になるように、ここに来たんだ。まずはここから始めたいなって。明るく振舞ってたけど、不安でいっぱいで。……ミルクとかハルとかみんな着いてきたり、先に動いてくれたりしたけど、それでも不安で。……でも、ライムと出会えたから。……だから私、頑張れたんだよ。」

 

 「僕は何もしてない!!!いつも光をくれるのは君だった!!眩しくて、そばにいたくて!!でも、僕には何も無くて!!」

 

 溢れ出すライムの魔導の力。

 

 ライムの気持ちとリンクするように暴走していく。

 

 「あああああああっ!!!」

 

 刹那、その魔導の力は簡単に打ち消される。

 

 リタルトがライムに抱きついたのだ。

 

 ライムの中に流れ込んでくるリタルトの魔力。

 

 中和されるように精神が落ち着いていく。

 

 「もう自分追い詰めるのやめようよ。苦しかったね、ライム。私はちゃんと、分かってるから。」

 

 特殊な生まれの二人。

 

 周りとの違いに苛立つことは多かっただろう。

 

 常に運命に従わなければならなかった少女。

 

 ただ、運命の歯車に身を任せるしかなかった少年。

 

 二人は二人の居場所を見つけたのかもしれない。

 

 「勝者、リタルト・チューリップ!!」

 

 ーーーーーーー。

 

 無事進級試験は終わる。

 

 ライムは心を閉ざしていたが、理解を示すリタルトの心に、我を取り戻した。

 

 医務室には横になるライムとクバーツがいた。

 

 「何度も魔族側に話を持ちかけたんだ。魔族の子を拾った。赤子なんだって。……だが、返答はなかった。当たり前だよな。俺たち人間が傷つけた結果なんだから。」

 

 「父上……」

 

 「でも魔族の子なんて育てたことなくてな。勝手が分からなくて。どうしてあげたらいいのかわからなかった。風邪をした時は?熱を出した時は?体の成長の遅さは?ってな。……この子は俺が育てるより、魔族の元で暮らした方が幸せだって思った。」

 

 「その腕は……?」

 

 クバーツはいつも右腕を隠している。マントを捲れば、そこには切断されたであろう腕がある。

 

 「人族の英雄、クバーツを殺せって言われたんだとさ。赤子を引き渡すように言われて、いざ行ったら殺されかけた。……軍を追放されたのも無断で魔族を殺したからだな。……やることなすこと全部裏目で、お前を本気で人間として育てようと思った。俺の知ってる汚い人間は魔族だと思ったら、簡単に殺そうとするような人間だ。……でも時代は変わった。好きに生きていいんだ。お前のやりたいことを、やりなさい。俺はいくらでも力を貸すから。」

 

 片手で頭を撫でるクバーツ。

 

 ライムは涙が止まらなかった。

 

 自分の父親は、家族はクバーツだけであると。

 

 人を信じられなくなっていたのは自分の方だと。

 

 「僕、たくさん酷いことをした……誰も信じられなくて。この力を使って、強くなれば認めて貰えるって。……でも違った。僕がやりたかったのは……そんなことじゃなかったんだ!!!……僕が魔族だろうと、人だろうと関係ない。……僕は世界をもっと平和にしたい!大切な人たちと何不自由なく、笑っていたいんだ。」

 

 「いいじゃねえか。やってみろ。俺は応援するだけだよ。」

 

 「うん!!!」

 

 ライムの瞳にはもう迷いはない。

 

 見失っていた自分を取り戻したからだ。

 

 なによりも、力なんてなくたってそばに居てくれる人がいると思い出せたからかもしれない。

 

 リタルトは医務室の前で微笑む。

 

 「……今はお邪魔だね。……私はライムのそういうところが好きなんだよ。」

 

 ーーーーーー。

 

 人を思いやる心が少年少女を成長させていく。

 

 ライムの心を開いたリタルト。

 

 アノン達はルネフィーラを探す。

 

 そこには紛れもなく利他の心があった。

読んで頂きありがとうございます!


消息をたったルネを探すアノン達。ようやく心を取り戻したライム。3章もあと2回で完結となります。


4章からは最終決戦ですね。一応ストックはあるんですけど、最終話だけまだ作れていない状況です。頑張って制作していきますので、見守って頂けるとありがたいです。


リタちゃんについては、たまたま『説法』というのを聞く機会があって、その中に『利他の心』というお話がありました。そのお話が本当に素敵な話だなと思い、構想をねっていた『チューリップのキャラ』に合わせました。


リタ・チューリップだと語呂悪く感じていまのリタルトになり、魔人族との名前の相性ともあっていい感じになりましたね。


人と思いやる心、愛情、ホントに相性のいい名前になったと思っています。


ライムくんはパクチーの『隠れた才能』という花言葉をどうしても使いたくて採用したキャラです。魔力を最初から持っている、実はとんでもなく強い、そんなイメージでしたね。そしてライムの『あなたを見守る』という花言葉でリタルトを傍で見守っていけるキャラクターになればなあと思い作りました。


そんな訳でライムくん騒動も一段落ついたということで、次回もお楽しみに!

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