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3章 第5話 青春の日々!


 学園祭に向けて準備を進めるアノン達。

 

 戦争を起こそうと目論む過激派の襲撃や影で動く魔王の存在がありつつも、生徒たちの安全は守られていた。

 

 魔王に一度乗り移られたライムであったが、翌日にはいつも通りの様子になっていた。

 

 いよいよ本格的に学園祭に向けて、動き出すというところだ。

 

 ーーーーー。

 

 アノンとミルクは授業を終えると、テンダリア達と合流する。

 

 机を囲み、話し合う5人。

 

 リベレイトを使った天井のアートという案が出た。

 

 プラネタリウムや花火のイメージに近いだろうか。

 

 テンダリアのリベレイトを使って、各人のリベレイトで大空に絵を描くイメージだ。

 

 そのためには、アノンのリベレイトを覚醒させる必要があるのだが、あっさりと本人は快諾した。

 

 「なら僕のやることは変わらないってことだね!!」

 

 「別に展示にこだわらないで、屋台や演劇でも良かったと思う。」

 

 ミルクはノリノリなアノンに、冷静に返す。

 

 「でもさ!とってもいいと思うわない?平和になった世界では争う力は必要ないでしょ?こういう取り組みってそういうのに繋がらないかなって!」

 

 「主が言った『それぞれの個性を活かす』に合ってると思う」

 

 「俺様も異論はねえな!他とちげえでけえことってのが気に入ったぜ!」

 

 「うんうん。まとまったみたいで良かったよ。でも、本当にいいのか?アノン。」

 

 「大丈夫!必ず当日までに身につけてみせるよ!!」

 

 「まあ、身につけられなくてもこうやって、話し合って作りあっていくのが大切なのかもしれない。」

 

 「うわ!ミルクさん、いいこと言うね!!」

 

 「そ、そうか?」

 

 「ああ、素晴らしい考え方だよ。ミルク・アーモンド。」

 

 「あとは構想……」

 

 「それに宣伝も大事だな!」

 

 「場所は闘技場だね。みんなに見えるように大きくしないとね。」

 

 「伝え方は私が風を使える。それで宣伝すればいい。言葉を風に乗せる。」

 

 「闇は映える?」

 

 「ああ、もちろんだよ。闇があるからこそ、光が美しいんだ。」

 

 「なら俺様はその闇に炎の花でも咲かせてやるよ。ドカンとな!」

 

 「コンセプトは平和と能力の可能性。どうかな。」

 

 「いいね!いいね!!あとは危なく行えるって先生たちに証明できないとね!」

 

 それぞれに積極的に意見を出し、話はどんどん進んでいく。

 

 準備はそこまで手間はかからない。

 

 問題は5人の息が合うかどうか。

 

 アノンのリベレイトが覚醒するか。

 

 このふたつにかかっている。

 

 ーーーーー。

 

 シルビアたちはBクラスで話し合いを進める。

 

 女の子4人に、男の子一人。

 

 ココアは肩身が狭そうに、チョコにくっつく。

 

 「暑いよ、離れな。」

 

 「いや、だってぇ。」

 

 くっつかれるのが嫌なのかココアを引き剥がすチョコ。

 

 「ふふ、ココアくんはお姉ちゃんが大好きなのね。」

 

 「うぅ……」

 

 ルネがココアを可愛らしく思ったのか微笑む。

 

 照れくさいのかココアは顔を隠している。

 

 「それで?何にするか考えてきた?」

 

 「テーマを貴族と平民にしてみては……どうかな。野菜や果物を沢山使う……みたいな」

 

 シルビアが全員に聞いてみせると、レトが自信なさげに答えてみせる。

 

 「いいですね!レトさん!とっても素敵です!」

 

 「確かに……今は難しくてもいずれは手を取り合っていく……そうしたいと私は思ってる。」

 

 「へえ、面白いじゃないか。なら、もっと大きく行かないか?」

 

 「多様性……とかってこと?」

 

 「ああ、それだ。魔族、人、貴族、平民。みんな違って、それぞれ正しい。そんなテーマだ。」

 

 レトの意見をシルビアとルネが賛同し、ココアとチョコが広げる。

 

 まだチームを組んで数日だが、バランスのとれたチームになりそうだ。

 

 「ならメイド喫茶にしましょう!!!」

 

 「め、メイド!?そんな従者みたいなこと……!!」

 

 「レトさん!違いを受け入れるための多様性ですよね?なら、立場に囚われては行けません!」

 

 「そ、そっか。つい、立場に引っ張られちゃう。」

 

 「いいんですよ!そういうことを考えるのが大切なんです!」

 

 「なるほど。いいかもね。メイド喫茶。2人はどう?」

 

 「いいんじゃねえの?」

 

 「ええっ!?いやだよ!僕男だよ!!」

 

 「いいじゃない、男でも。執事みたいな格好すれば?爺に頼めば準備できるわ。」

 

 「そ、そっか!それなら、全然いいよ!!」

 

 「ええっ!!ココアさんにはメイド服着て欲しいです!!」

 

 「な、なんでえっ!?」

 

 「絶対可愛いですよ!」

 

 「絶対嫌です!姉様もなんとか言ってよ!!」

 

  「ん〜?お前女みたいだし、似合うと思うぞ。」

 

 「フォローの方じゃない!止めて欲しいの!」

 

 「……とりあえず決まりね。メイド喫茶で!」

 

 「そ、そんなあ!!!」

 

 

 仲良くなるにはまだ時間はかかるのかもしれない。

 

 だが、少しずつ関わりが増えていくことだろう。

 

 見ての通り、シルビアとチョコはコミュニケーションにおいて、消極的だ。

 

 だが、ルネが積極的に関わろうとする。

 

 居心地の悪さを感じていたココアとレトを違和感なく会話に参加させていく。

 

 やはりバランスのとれた五人なのかもしれない。

 

 ーーーーーー。

 

 「勉強の成果を見せる!コミュニケーション!!それはもう、演劇だよ!演劇!!それしかないよ!!」

 

 「そ、そうなの?お花の展示も素敵だと思うけど……?」

 

 やや興奮気味で机から身を乗り出すリタルト。

 

 ライムは落ち着くように促すと、リタルトを座らせる。

 

 「でも、私たちがやり始めたのは最近だよね?ヒマリ先生の展示になっちゃう!」

 

 「それはよくないっすね!」

 

 「だよね!?」

 

 「珍しく意見が合うみたいだねえ。」

 

 「そうか……それもそうだね。わかった、演劇で話を進めよう。」

 

 ハルが花の展示に否定してみせると、キクとイーネが賛同する。

 

 話が演劇に傾いたところで、ライムが演劇の方に話を進める。

 

 「やった!!こういうのやりたかったんだ!」

 

 「そうなんだ?」

 

 「うん!!!ね、題材!どうする!?」

 

 またまた興奮し、立ち上がるリタルト。やや押される形で、ライムが話を聞く。

 

 「スタンダードで行くなら、授業で聞いた天使や英雄の逸話を題材にするとか?」

 

 「創作という手もありますよ!」

 

 「いいっすね!!俺難しいの苦手だし!」

 

 「ご飯食べれるならなんでもいーよ。」

 

 「「食べられるか!!!」」

 

 やる気のないイーネに突っ込むハルとキク。

 

 でへへ〜とイーネは笑ってみせる。

 

 「もうっ!真面目に考えて!3人とも!」

 

 「まあまあ。リタは創作と逸話どっちがいい?」

 

 「どっちにしても、脚本作る必要ありそうだよね……」

 

 「そうだね」

 

 「でも5人で演劇って厳しくないかなあ」

 

 「場面をひとつに搾って登場人物をメインに当てるとかどうすっか?」

 

 「とにかく、演劇にするとしてもいちばん準備が大変かもね。」

 

 自由な3人と、暴走しがちなリタ、まとめるライム。

 

 一番不安要素の強い五人だが、上手くいくのだろうか。

 

 五人は「うーん」と悩み始めた。

 

 ーーーーーー。

 

 そして、翌日。

 

 闘技場にて、リベレイトを学ぶアノン。

 

 話はまとまったが、全員のリベレイトを合わせる必要があった。

 

 「まず、アノンはリベレイトを完成させよう。一通りリベレイトを受けて、感覚を掴むといいと思う。」

 

 「よーし!ドーンと来い!!」

 

 身構えるアノン。それに対しテンダリアは微笑む。

 

 「グラビティ」

 

 容赦なく重力のリベレイトを叩き込む。すると、アノンは地面に膝をつき苦悶の表情を浮べる。

 

 「くおおおおおおっ!?お、重いぃいいい!!」

 

 全身が重くなり、地面に押し付けられるような感覚が襲う。

 

 それに抗うため、エーテルを解放させるアノン。

 

 「……エーテル、解放!!!」

 

 なんとか立ち上がることが出来たアノン。

 

 「うーん、やっぱり君は強いからリベレイトが目覚めないみたいだね。」

 

 「どういう……こと!?」

 

 「リベレイトは人類が身につけた魔族の魔力に対抗する力。……エーテルを解放させて精神的エネルギーを物質的エネルギーへと変換するんだ。」

 

 「それが……できたら、苦労しないって!!!」

 

 「君の想いをそのまま力に変えるんだ。スピリットを使える君ならできるはずだ。」

 

 テンダリアは更に力を高めていく。

 

 「ぐおおおっ!?」

 

 立ち上がることのできたアノンだったが、再び体を地面へと戻していく。

 

 立ち上がろうとするエネルギーと地面に叩き付けようとする力。

 

 両方が働き、かくつくような動きがアノンに起こる。

 

 本来リベレイトの力はリベレイトでしか対応ができない。

 

 だが、元々の身体能力が高いアノンはエーテルを纏うだけで、ある程度対処出来てしまう。

 

 先程のライムとの戦いではその限界を大きく超えたために、スピリットを覚醒させた。

 

 本来であれば、精神的なエネルギーへとアクセスを体に染み込ませた状態でなければ、発現は難しい。

 

 だが、人より感性が優れているアノンはエーテルやリベレイトよりもそちらのちからに適性がある。

 

 以前エーテルを身につけるのに、1年かかったように、彼は肉体の外に広がるエネルギーに対して鈍感である。

 

 本来、魂を擬似的に具現化するスピリットは、エーテルのさらに外側にあるアストラルを手繰り寄せる力。

 

 だが、記憶が無いことで自分の魂へと目が向いているアノンには、魂への理解が優れていたのだ。

 

 「もう、だめだ……!」

 

 ようやく力尽き倒れるアノン。

 

 テンダリアは優しく立ち上がらせる。

 

 「少し休憩をしよう。」

 

 「うん……」

 

 ーーーーーー。

 

 観客先でボトルの水を飲む二人。

 

 ミルクとバロゼ、キキはリベレイトを合わせる練習をしていた。

 

 「俺様の炎!!燃え上がれ!!!」

 

 「炎よ、さらに燃え上がれ。風の祝福。」

 

 「……漆黒にそまれ」

 

 バロゼが炎のリベレイトを作り出すと、ミルクが風の力でさらに燃え上がらせる。

 

 燃え上がり青く染った炎をキキの闇が覆うと強大な闇の炎が生まれる。

 

 「す、すご!!!めっちゃ綺麗だ!!」

 

 「うん、これは使えそうだね。炎の色を変えられるのはなかなかに面白い。」

 

 2人は観客席で盛り上がる。

 

 「難しく考えなくていいんだ。自分を解き放つ。それがリベレイトだ。」

 

 「なるほどあ。ボクには記憶が無いから、自分が分からないのかな?」

 

 「自分自身、魂は誰にも犯すことの出来ない領域だよ。君はイリスからそう学んだはずだ。」

 

 「うん、確かにそうだね。……もう少し、頑張るよ。」

 

 「その意気だよ。」

 

 「テンダリアはどうやってそんなに強くなったの?進級試験凄かったよね!」

 

 「俺は俺に出来ることをやっているだけだよ。……できることを諦めた時、簡単にこの手から零れ落ちるから。」

 

 自分の手を強く握るテンダリア。

 

 過去に失ってしまったものがあるのだろうか。

 

 その後悔が彼を進ませているのだろうか。

 

 「自分に出来ること、か。みんな戦う理由があって、どんどん進んでいくよね。」

 

 「君にはないの?」

 

  「あった……はずなんだよ。でも、今は空っぽ。……自分の魂を信じて、ここまで来た。みんなが進ませてくれた。」

 

 「なら、それでいいんじゃない?」

 

 「うん、そうなんだけど。……最近、昔のボクを知っている人に会ってね。その人も何も変わってないって言ってくれたけど、たしかにボクにはやることがあった。でもボクは、今のボクは……知りたいと思った。」

 

 「知りたい?」

 

 アノンは世界と己を知るためにここまで進んできた。

 

 そして、ついに自分のことを知る機会に恵まれた。

 

 だが、その答えがアノンを悩ませていたのかもしれない。

 

 魔王を倒し、世界を救う。

 

 それが正しいことだと今のアノンには思えなかった。

 

 世界を救うことを放棄した勇者のこと、それでも世界を救おうとしたメアやイリス、クバーツ。

 

 世界を滅ぼそうとする魔王。

 

 その全ての理由を知りたいと強く思うのだ。

 

 「ボクはある人を倒さないといけないんだけど。……その人のことをもっとちゃんと知りたいんだ。そして、できるなら、友達になりたい。」

 

 「……君らしくて、いい答えなんじゃないかな。応援しているよ。君には力がある。後悔しないようにその力を使うといい。」

 

 アノンはすんなりテンダリアに「」想いを吐露する。

 

 そのアノンらしい答えに微笑んでみせるテンダリア。

 

 二人は互いに言葉を交わし、自分の中の答えを形にしたのかもしれない。

 

 「うん!!なんかスッキリしたよ!!続きやろ!!」

 

 「いいね、やろうか。」

 

 闘技場へと降りていくアノン。

 

 その背中を見つめ、テンダリアは笑ってみせる。

 

 ーーーーーーー。

 

 一方、衣装作りを進めるルネ達。

 

 シルビアとレトは街へ買い物だ。

 

 「ふふ!楽しみですね!ココアさん!」

 

 「あ、はい。そうですね。」

 

 ルネには何を言っても無駄だと観念するココア。

 

 その横でくつろぎ眠っているチョコ。

 

 「女みてえなことはココアに任せろ。私は少し寝る。」

 

 「姉様!!!少しは手伝って!!」

 

 「布と糸、用意したんだからいいだろ。試しに着るの担当してやるから文句言いうな。」

 

 「もお!!!」

 

 まるで、女の子のように頬を膨らませて怒るココアに、気怠げなチョコ。

 

 「ふふ、本当に仲良いですね。」

 

 そんな2人を見つめるルネ。手を少しづつ進めながら丁寧に縫っていく。

 

 「昔から、姉様はビクビクしてる僕を守ってくれました。僕はなんでも驚いて、逃げちゃうから。」

 

 そんな慈愛に満ちたルネを見たからかココアは自分の弱みを吐露してしまう。

 

 ふと強く戦うルネの姿が脳裏に過ぎったからなのかもしれない。

 

 「自分の危機が分かるというのはいい事だと思いますよ。」

 

 そんなココアに優しく言葉をかけるルネ。決して否定をすることは無い。

 

 「そうですかね。……ルネフィーラさんは、どうして戦えるんですか?怖くないんですか?あなたの力は……その戦わなくてもいい力だと思うんです。」

 

 優しく言葉を返してくれるルネに心を開いていくココア。

 

 強くありたい、守られるだけでは行けない。どこかにそんな想いがあるようだ。

 

 だからこそ、戦う力と無縁のはずのルネに言葉が漏れる。

 

 「そう、ですね。私も最初は諦めて去年で学園を去るつもりでした。」

 

 「じゃあどうして?」

 

 「傷つく人を助けたい。守りたい。それがこの力を得た始まりだったと思い出せたんです。逃げ続けていた私の背中を押してくれた人がいたんです。」

 

 「でも……戦わなくていいなら、僕は戦いたくない。」

 

 「私の力って誰でも癒せるわけじゃないんです。」

 

 「え?」

 

 「自分のことは回復できないし、大きすぎるダメージも回復できません。それに、命を失った人までは助けられないんです。」

 

 「それは……別にそこまでしなくても。あなたは守られるだけの力と人間性を持ってます。そんなに無理しなくていいんじゃないですか?」

 

 「村では、色んな人が私の存在を隠して、貴族から守ってくれました。みんな親切で、でもそんな人達に守られるばかりで私に守るための力はありませんでした。……そんなのは嫌でもっと力をつけたかった。……でも実際に学園に入っても私は守られるだけでした。……紛争地域に飛ばされることや貴族の下に着くこと、いいように扱われること、利用されること、その全てから先生たちは守ってくれたんです。」

 

 「それだけあなたが世界にとって必要だったんだと思います。……実際、戦えないあなたは有力貴族に雇われれば、奴隷のような扱いを受けます。それだけ必要とされ、独占しようとする輩はいます。だからこそ、戦える力を身につけて欲しかった。……紛争地域も同じです。狙われるリスクが高いあなたにいちいち護衛をつけていては戦力を削がれる。前線で癒して貰っても直ぐに命を落とす可能性があった。……なにより、あなたの性格的に守って死なれる方が嫌だったでしょう。……だからこそ、先生方は自由でいられるために、あなたを守った。……ということですね。」

 

 「そうですね。私は人が傷つけられるのも傷つくのも見たくありません。守るために戦うことが必要なら、私は戦うと誓ったんです。でも、私も戦いたいわけじゃないんですよ。だからこそ、最初、迷ったせいで、戦う力が目覚めなかった。……いいえ、戦うことをしなかった。」

 

 「つよい、ですね。……僕もそういう心のあり方で居られればいいのに。」

 

 「強いお姉さんが、きっとあなたを進ませてくれますよ。」

 

 「そう、ですね。」

 

 ココアは戦いたくない。怖いことが嫌だ。そんな性格だ。

 

 そんな弟だからこそ、チョコは強気でいつも守っているのかもしれない。

 

 そんなココアにかつての自分を重ね、自分の経験を話すルネ。

 

 彼女も戦いたくて戦っている訳では無い。

 

 守るために戦っているのだ。

 

 その言葉に勇気を貰えたのか、ココアは少しだけ元気を取り戻した。

 

 チョコは横目でそんなココアを見て、安心して眠る。

 

 ーーーーーー。

 

 さらに翌日。

 

 「吹き飛べ、アノン!!」

 

 ミルクが唱えると、アノンは突風に全身を吹き飛ばされる。

 

 「うわあああああああっ!!!」

 

 「俺様の炎をくらいな!アノン!!」

 

 「ぬぅあああああっ!!!」

 

 バロゼの炎に身を焦がすアノン。

 

 「闇。アノンを包め。」

 

 ぼそっと呟き、アノンに闇の力を解放させるキキ。

 

 「やっぱりこれが一番、きつっ……」

 

 「なら、これで終わりかな?グラビティ!!」

 

 「ぬぅああああああっ!!!」

 

 畳み掛けるように重力の力をぶつけるテンダリア。

 

 砂煙が上がるが、中からアノンが出てくる。

 

 「まだ、まだあ!!!」

 

 立ち上がりさらにエーテルを高めるアノン。

 

 テンダリア達は協力しリベレイトの精度を上げていく。

 

 対して、アノンも確実にリベレイトを効率よく耐えられるようになってきた。

 

 傍から見れば、ただのいじめのように見えるがアノン達はエーテルと、リベレイトを通じて友情を育んでいく。

 

 「流れてくるんだ……みんなの思いが!!学園祭を成功させたいって!!」

 

 楽しそうに微笑むアノン。そこにもう迷いはない。

 

 バロゼやキキはいつものようにテンダリアに従うだけ。

 

 だが、どこか楽しそうな様子が伺える。

 

 訓練以外も構想や更なる企画のために話を進めていく五人。

 

 授業以外では毎日一緒だ。

 

 最初は三人を恐れていたミルクも徐々に打ち解けていた。

 

 「あなたはやっぱり明るいな。みんなを照らしてくれている。」

 

 「そうかな?」

 

 汗を拭い観客席で休むアノン。

 

 ボトルを渡すミルクは横に座り、一緒に休憩するようだ。

 

 「なにも進んでいないのに、不思議と無駄だという感覚がない。」

 

 「これも大切だよ、きっと。」

 

 「そうだな。……少し昔話をしてもいいか?」

 

 「うん!聞きたい!ミルクさんの話!」

 

 何か思ってきたことがあるのか不意に切り出すミルク。

 

 アノンは瞳を輝かせて、身を乗り出す。

 

 「私は昔住む場所を追われてな。……流れて流されて今の村に移り住んだ。家族は幼い頃に離れ離れになって、ずっとおじいちゃんに育てられたんだ。……でもそんなおじいちゃんも寿命を迎えて死んだ。流されてやってきた村には何も無くて、何も出来なくて、時間だけが過ぎたんだ。大人しくしていれば、何も起こらない。だから、何もしなかった。」

 

 「確かにミルクさんは大人しいところあるよね。ボクは全然いいと思うけど。」

 

 どこか悲観的に話すミルクにフォローを入れるアノン。

 

 ミルクはそっと微笑む。

 

 「わたしもそれでいいと思ってたんだ。でも次第に感情が欠落していった。なにも思わなくなっていた。……気がつくと村は大きくなっていた。そんな頃だった、姫が生まれたのは。……その時ようやく感情が動いた。この子を守りたい、可愛いって。姫が生まれて、ようやく自分が新しい場所で生きていると実感できたんだ。壁を作っていたのは私で、どんどん村は大切なものへと変わった。」

 

 それは本当にふとした瞬間だったのかもしれない。

 

 姫と呼ばれる存在の手がミルクに触れた時かもしれない。

 

 仕方なく抱き上げた時かもしれない。

  それでも流されて生きてきたミルクにとっては大切な瞬間となった。

 

 世界が色付いたのだ。

 

 どうしようもない理不尽に襲われて、ただ生きるだけのミルクに感情が蘇った瞬間だったのかもしれない。

 

 「素敵な話だね。」

 

 アノンは多くの言葉は使わずに微笑んでみせる。

 

 するとミルクは手を取る。

 

 「だからこそ、今が楽しい。それは私にとって特別なことだ。アノン、あなたが姫と村を守ってくれたからこそ、私は今この日々を楽しむことが出来ている。」

 

 周りを引っ張っていくテンダリア。

 

 多くは語らないが、文句を言わずに特訓に付き合うキキ。

 

 言葉は悪いが、親しみやすいバロゼ。

 

 周りを照らすアノン。

 

 ミルクはこの青春の日々を誰よりも楽しんでいた。

 

 「こちらこそ、一緒にチーム組んでくれてありがとう。とっても楽しいよ!!」

 

 突然の昔話。わかりづらいが、ミルクなりにアノンへのアドバイスだったのかもしれない。

 

 アノンはそう感じた。そして、日々は確実に過ぎていく。

 

 そして積み重なっていくのであった。

 

 ーーーーーーー。

 

 

 季節はめぐり、確実に学園祭が近づいてきた。

 

 夏休み期間に行われる学園祭。

 

 アノンはテンダリア達とミルクと共に闘技場でのリベレイトアート。

 

 シルビアはルネとレト、チョコとココアと共にメイド喫茶。

 

 ライムとリタルト、ハル達は演劇。

 

 それぞれ学園で学んだこととテーマを持って、取り組む。

 

 ーーーーーー。

 

 「さすがに昨日の料理はダメね。」

 

 「チョコかなり、不味そうに食べてた」

 

 街へ買い出しに出ているレトとシルビア。

 

 すっかり買い物当番である。

 

 「材料は悪くなかった。でもリベレイトを使って料理っていうのがハードね。」

 

 「私もシルビアさんも火加減が強すぎるし、ルネフィーラさんは水の量が多い。」

 

 「チョコとココアは土のリベレイトで、色々作ってくれるけどね。料理はそこまで上手じゃないしね。」

 

 「料理と材料は悪くないよ。あとはリベレイトさえ上手く行けば何とかなるはず!」

 

 「そ、そうね!頑張ろう!」

 

 「うん!!」

 

 買い物当番をするうちに自然と会話をするようになった二人。

 

 以前のわだかまりが嘘のようだ。

 

 お互いに悪かったところを認め、寄り添ったからだろうか。

 

 大人に向かって成長しているからだろうか。

 

 確実に仲を深めていた。

 

 ーーーーーー。

 

 「あれ、チョコさんまた居ない。」

 

 「姉様はいつもそんな感じだよ。」

 

 「どうして、あんなにやる気がないのでしょう?楽しくないのかな。」

 

 「そんなことないよ。ただ、昔村おこしを張り切って怪我しちゃって。頑張ることをやめたんだよ。」

 

 「あらあら、そんなことが。」

 

 「もうキズは治ってるんだけどね。怖いんだよ、きっと。だから今は僕が頑張らないと!!」

 

 「そうですね。」

 

 詳細はわからない。

 

 だが、容易に想像がつく。

 

 恐らく臆病なココアに変わって、やる気を見せたチョコ。

 

 張り切った結果、怪我をするというから回った結果となったのだろう。

 

 未だにふたりが、何故シルビア達とチームを組んだのかはシルビア以外知らない。

 

 だが、ルネは既に心を許していた。

 

 決して邪悪な目的がある訳では無いとわかるからだ。

 

 ーーーーーー。

 

 一方その頃、ようやく方向性が決まったライムたち。

 

 衣装や舞台作りに専念していた。

 

 空いた時間は準備へ。

 

 全員揃える時は演劇の練習へ。

 

  5人でやるのは中々ハードだが、ハル、キク、イーネが舞台を一生懸命作り、台本や演技をリタルト、衣装や小道具をライムが気合いを入れることでなんとか成り立っている。

 

 「ハルちゃんはよく頑張るね。」

 

 「ええ!こういうの好きなんです!」

 

 精を出すハルに声をかけるライム。

 

 「あ、そこ!ちゃんと色塗ってよ!」

 

 「わかってるっすよ……」

 

 「だめだ、お腹すいた〜」

 

 「もう!さっき食べたよ!」

 

 「はは、ありがとね。3人のおかげでかなり進んでるよ。」

 

 「ライムこそ、ひとりであそこまでありがとう。」

 

 ハルと話しているとリタルトご話しかけてくれる。

 

 ライムは後ろを振り返ると、刀や鎧を使わなくなった余り物の銅や鉄、紙、木材で何とか作っている。

 

 「本物を演劇で使って怪我したら大変だからね。それに闘技場じゃないからチカラは使えないし。」

 

 「私たちエーテルしか使えないし、ある意味良かったんじゃない?能力に縛られないいいものができるよ!」

 

 少し自分の作った物に納得いっていないライムだが、リタルトが励ます。

 

 明るい笑顔に何度もライムは救われている。

 

 「みんな凄いよ。本当に最初はどうなるかと思ったけど」

 

 完成が近づく中やる気を見せていく面々。

 

 ライムは感心していた。

 

 「みんな根は真面目だからね。……ハルは争いの中生まれて、魔物に襲われる生活の中なんとか、村にたどり着いた。だから、戦いは嫌いだし、どうにかしたいと思ってる。」

 

 「すごく頑張るのはそこが根幹なんだね。」

 

 「キクはそんなハルの事情を聞いて、自分が世間知らずだったって、強く影響されてる。なんだかんだ言って、ハルのことお姉ちゃんみたいに慕ってるからね。」

 

  「キクは人懐っこいよね。特にハルに懐いてる感じがする。」

 

 「イーネは食いしん坊で食べること大好き。だからこそ、ひもじい思いをしてきた争いがとても嫌い。」

 

 「ほんと、幸せそうに食べるからたらふく食べて欲しいよね。」

 

 二人は休みながら、3人の頑張りを見つめる。

 

 「ちょっと!2人とも!手伝って!」

 

 「頼むっすよ〜俺もう限界っす〜」

 

 「お腹すいた」

 

 「はいはい、ごめんて。交代ね。」

 

 「あとは僕たちがやるから、ハルも少し休みなよ。」

  「え、でも……」

 

 「君のやる気はこれからも必要だよ。だから、ね?」

 

 「休むのも立派な仕事だよ!ハル!」

 

 「は、はい!!」

 

 頑張りすぎるところはあるが、みんなのエンジンとなるハル。

 

 そんなハルに影響され、頑張るイーネとキク。

 

 3人のことをよく見て理解しているリタルト。

 

 リタルトの明るさに助けられて、みんなをまとめるライム。

 

 バラバラで自由だった五人がひとつのものを作っていく。

 

 確かにそこには信頼が生まれていた。

 

 ーーーーーー。

 

 そして、さらに月日は流れていく。積み重ねてきた青春の日々。

 

 いよいよ学園祭が始まる。

読んで頂きありがとうございます!


学園祭の準備が着々と進められていきますね!個人的な話ですが、こういった日常の中でこそ人物の魅力や考え方が出るのかなと思っています。


キャラクターが増えた分、理解が深まればと思っております。


ちなみに本当に余談ですが、和服を着ているリタ以外のキャラは昔飼っていたペットがモデルです。シナリオを考えてる時に夢に出てきて出して欲しいのかなと思って追加したキャラクターですね。


ヨモギは今も飼っているインコちゃんで、私が作品の理解深めるために小説読むと一緒に鳴いてくれるんですよね。モノマネとお喋りが得意なインコちゃんで可愛いんですよ〜。


さて。いよいよ、次回からは学園祭開催です!お楽しみに!

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