3章 第4話 平和のために!
魔物が突然学園に現れた翌日。
あの日、アノンの知らないところで多くの出来事が動いていた。
だが、そんなこと知る由もなく一日は始まる。
ライムも普段通り出席している。まるで、何事も無かったかのように。
学園祭に向けて準備が進められていく中、イリスが教壇にたっていた。
「最近、少し物騒なことが続いていてね。我々教師陣は特別なベンダントの力で、能力をどこでも使えるようになったよ。…あくまでも君たちを守るための力だ。安心して、学園祭に取り組んで欲しい。」
実際に過激派の者に襲われた生徒もいるのだろう。
アノンとライム以外の生徒も安堵してみせる。
ーーーーー。
「貴様ッ!!!恥ずかしくないのか!!!元騎士団長たる貴様がなんという怠惰な生活を送っている!!!」
「偏った正義しか知らないあなたに教えてあげますわ。……これが今のワタクシの戦場です!!」
学園周辺を警護するように戦うベラ。
雷のエーテルを纏い、主力部隊を一掃していく。
「轟け、『ライメイ』!!!」
槍を構え、一直線に解き放つ。10人ほどの武装した男たちを簡単に一掃していく。
「おぉ〜やってるね〜じゃあ私も!」
ふわふわと浮かぶように話すヒマリ。
土のエーテルを解放し、男たちの足場を固めていく。
「ベラちゃん、やりすぎちゃうからね〜『イグジスト』」
ニコニコと微笑むと草と花、木に触れる。すると突然植物たちは動き出す。
そのまま操作し、茂みに隠れていた過激派たちを捕まえていく。
「うん。いいね、大人しくててね。」
ーーーーーー。
「因果なものだな。俺はまた、魔族と戦う訳か。」
「「我ら同胞の仇!!!」」
フードを被った者達は遠くから瘴気を解き放つ。
「もう、争う必要は無いんだよ。……だがまあ、気持ちは分かる。……『放撃剣』。」
クバーツは悲しげに呟くと、背中に魔法陣が展開され無数の剣が生成される。
それを解き放つ。
一瞬で魔族の体に突き刺さり、魔力を無効化する。
だが、死角から魔力が解き放たれ、クバーツに直撃しそうになる。
「……『絶撃剣』」
刹那、生成された剣を魔法陣から抜く。
左手で剣を握ると、魔力を切り裂く。
「……子供に罪は無いはずだ。立ち去れ。」
ーーーーー。
生徒を守るために、教師たちはその力を存分に発揮していた。
イリスは学園内を任され、生徒たちを見守る。
そして不意にベラやクバーツ、ヒマリの若かりし頃を思い出さずにはいられなかった。
ーーーーーー。
森の奥深く。幼きイリスは傷だらけで、泣いていた。
そこに一人の魔女が現れた。
幼い見た目に反し、独特な言葉遣い。
妙に歳を重ねた雰囲気があった。
紫髪に褐色の肌。丸い眉毛が愛らしい。
魔族に襲われていたイリスを助けたようだ。
そう、彼女こそがメア・ギャビーである。
「あなた、魔族ですよね。」
「そうなのだ、わたしは魔族なのだ。だったら、どうするのだ?」
「なら、構わないで。私はこのまま死んでいけばいい。……私は魔族に親を殺された。だから、殺そうとした。……殺したかったんだ!!!!」
血だらけで、全身に瘴気を浴びている。
過激派の魔族に村を襲われたのだろう。
交戦の末、父と母を殺されたイリス。
多くの魔族と人の血を浴びた。
それにより、魔力が彼女の中で目覚めたのだ。
その魔力で魔族を攻撃し、また攻撃されていたイリス。
メアは救いの手を差し出した。
だが、イリスは魔族に憎悪の眼差しを向け、助けてくれたメアに対しても怒りを向けた。
「私は人に親を殺されたのだ。」
「なっ……」
「でもだからといって、お前を殺そうとは思わないのだ。……家もなくて、家族もいないなら、うちに来るのだ。……私も同じなのだ。」
なんのことない普通のこと。
メアにとっては常識で、幼い彼女に手を差し出すことは普通のことだった。
イリスはこの日、メアに命を救われたのだ。
ーーーーーー。
さらに時代は流れ、かつてのイリスと同じように憎悪に身を焦がす青年がいた。
名をクバーツという。
元騎士である彼。
過激派の魔族の進行により街の結界を破られ、妻と息子を殺された。
その怒りから傭兵となり、各地の紛争地域に赴いては魔族を殺し回っていた。
それを見かねたメアに止められたのだ。
元を辿るとこの時代、魔族と人の戦いが落ち着いたことをいいことに、街に結界を張り安全圏から攻撃を仕掛けたのは人間の方だ。
そのせいか、魔物が現れ始めた時代であるが、過激派の魔族が各地に多く存在していた。
人も魔物は魔族による攻撃であると吹聴し、争いは激化していたのだ。
ただ、メアとイリスは世代交代を終えた王族により、正しい歴史を伝え戦争を終結させる目的で魔王城を目指していた。
「なぜ……殺したのだ。クバーツ、答えるのだ。」
「くっ!!あんたら、甘いんだよ!!!中途半端に助けて復讐されたら、家族を失うんだ!!!」
「君は、自らの復讐のために関係の無い人を殺したのだぞ。」
「それがどうした!!!俺はこいつらに妻や息子を殺されてんだ!!!」
「今殺したものたちが、お前の家族を殺したのか?」
「だが!!こいつらは魔族だ!!!」
「その魔族もお前に家族を殺されたのだ。」
「くっ……」
「師匠……。この人だって、分かってるよ。きっと、分かってる。……私も師匠に拾われなかったら、家族もいなくて、寂しくて同じことをしていたと思う。」
「イリス……」
「……ちっ、ガキに庇ってもらうとはな。」
「一緒に来るのだ。クバーツ。」
「なんでお前らあまちゃんなんかと……!!」
「後悔はさせないのだ。この戦争を終わらせる。そして真実を知る必要があるのだ。お前は。」
「バカ言ってんじゃねえ!!!お前らに付き合ってられっかよ!!」
「そんなに、怖がらなくていい。あなたは本心では分かってる。」
「先程、魔族を殺すとき躊躇っていたのだ。……本当はまだ、迷っているのだ。一緒に旅をすれば、答えを得られるのだ。」
「ちっ……」
まだ納得のいってないクバーツに微笑むイリス。
メアについて行けば、きっと答えを得られるその確信はイリスだからこそあった。
ーーーーーー。
旅を続ける中、イリス達はブラウン侯爵の世話になっていた。
大きな家にはたくさんの花と本があり、そこには成長したイリスと同じ年齢ほどの少女がいた。
彼女はヒマリ・ブラウン。
戦争を嫌い、命を大切にする。
そんな当たり前のことを当たり前にできる人だ。
イリスは年齢が近いこともあり、積極的に話しかけていた。
「お花、好きなの?」
「うん。……綺麗だから、好きなんだ〜」
「とっても、素敵だね!だから、いっぱい勉強してるの?」
「うん、お花たちを守れないかなって思って〜ほら、世襲制の名ばかりの貴族だから、私〜」
「そんなことないと思うよ。変な人には決して任せないと思うよ?」
「でもそれも結婚するまでだから〜」
「じゃあ、今のうちにやりたいことやっちゃえばいいんだよ。生まれや地位は立派な力だよ!」
「イリスちゃん……」
ーーーーーーー。
魔王を封印した後のことだった。
かつて共に戦ったベラ・ガーネットと戦うことになっていた。
理由は簡単だ。魔物が世界から消えると、魔族は攻撃を仕掛けてきたのだ。
国境を守っていたベラ。本来であれば、防衛戦だけを命令されていた。
もう今の王族に戦おうとする者はいない。
だが、下の兵士や騎士たちはそう簡単に割り切れなかった。
ベラもその一人で、防衛戦から掃討作戦へと切り替えていた。
戦争根絶を願い戦ったメア。
残されたイリスとクバーツが目にしたのは、大きな戦争の始まり。
各地の戦争に介入しては、その戦争を妨害していた。
当然と言えば当然だが、その結果、ベラに刃を向けられる結果となった。
「イリス・グレイス、ワタクシは魔族を許しません。邪魔をするなら、殺します!!!」
「くっそ!!!やめろ!!!ベラ・ガーネット!!!こいつを殺したら、お前はもう戻れなくなる!!!仲良かったはずだろ!!!なんでこんなことになる!!!」
一直線にイリスを狙うベラ。その刃を止めるようにクバーツが間に入る。
「なぜ止めるのです!!!クバーツ!!!あなたも恨んでいたでしょう!?魔族を!!!」
「ああっ!恨んでいたさ!今でもそうさ!……でもな、お節介な師匠に世界任されたからよ!変わらなきゃいけねえんだよ!……それに、お前はイリスを恨んでなんかいないはずだ!!!」
「くっ……邪魔をしないでください!!!あなた達が邪魔をしなければ、それでよかったのに!!!」
「それじゃあダメなんだ!!!同じことの繰り返しなんだ!!!」
「ぜんぶ殺すまで終わらないのですわ!!!!」
「このわからず屋が!!!」
「大丈夫だよ。クバーツ。……大丈夫。」
「なっ、なにを……!!」
イリスは微笑むと、ベラの槍に首を近づく。
刃先が触れ、イリスの喉からは血が垂れている。
ベラは動揺し槍を下げる。威嚇するだけのつもりだった。
だが、言葉の全ては本音。
イリスはその言葉を感化することなく、ベラの前に立ち塞がる。
「私を殺したら、気が晴れるんでしょ?いいよ、殺して。もう師匠もママもパパもいない。……魔王は封じられた。……だからお願い、私で最後にして。こんなのいつまで経っても終わらないよ。」
「くっ……お姉様……あなたは……あなたという人は!!!」
殺すつもりは無い。だが、この場を収めるためにはその刃を突き立てる他ない。
ベラは意を決してイリスに槍を向ける。
だが。
「そこまでです〜」
「……ブラウン侯爵!?」
大きな扉は開け放たれ、ヒマリがかしこまった姿で現れる。
ベラより上の階級の貴族。
いくら世襲制とはいえ、その地位はかなり高い。
突然の来訪に動揺するしか無かった。
「これより魔族と人との歴史を開示します〜。王からの命令です〜。直ちに軍を撤退してね〜」
「ですが!!!」
「もう魔族との会談は始まっています〜ベラちゃんが、イリスちゃんと揉めている間に、ね。防衛戦、お疲れ様でした〜」
「どういう……こと」
「人と魔族は同じだったんだよ。同じ人間なんだよ。」
「そんな……」
「俺も全く同じ反応だった。だが、実際に旅をして見てしまったんだ。飢えに苦しむ魔族の子を、戦火の中、親を呼ぶこいつを。」
「その子は……」
クバーツは荷物とともに置かれていた赤子を抱き上げる。
緑色の髪に、穏やかな瞳。
人と変わらないその姿ではあるが、計り知れないほどの瘴気を身にまとっていた。
「俺の子だ。俺が育てるんだ。この子のためにも、魔族と人が笑える世界にしなきゃいけない。」
「戦争で多くの植物や花、動物は死んでしまいました。人と魔族のつまらない戦いはもう終わらせましょう。」
「そんなの……無理ですわ!!今更、今さら元になんて!!!」
「できるよ、ベラ。貴方は間違った知識を信じていただけなんだよ。……一緒に、来てくれない?あなたの力が、人々を守ってきたあなたが必要なの。」
「イリス……姉さま。……私にどうしろって言うんですの……」
「生きて欲しいんだよ。私は」
「あなたを……殺そうとしたのに……?」
「死んでないよ、わたし。」
「お姉様……!!」
泣き崩れ膝をつくベラ。イリスは優しく涙を拭って、その手を差し伸べる。
ーーーーー。
「世界は確実に変わってきていますよ。師匠。……私もできることをしないとね。」
イリスは師匠との約束を守るため、今日も若い世代を見守る。
かつて自分を育て導いてくれた師匠のように。
そして、教師たちは今日も生徒たちを守る。
かつての自分の過ちを繰り返させないために。
それは紛れもなく、新時代の平和を守るためだ。
読んで頂きありがとうございます!
教師陣の過去の姿が描かれましたね!イリスはメアと出会った時シルビアちゃんと同じような発言をしていましたね。メアがかけてくれた言葉はイリスがアノンにかけてくれた言葉そのものでした。
今は立派で強い教師陣も過去に乗り越えた困難があるからこそ、いまの人間性があるのかもしれないですね。
次回からは視点が戻って、学園祭準備です!お楽しみに!




