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3章 第3話 悪魔の囁き!


 本当の名と自らの役割を知ったアノン。

 

 だが、何も実感が湧かなかった。

 

 目の前に対峙する白い和服を着たミルク。

 

 彼女は語り始める。

 

 「あなたがこの世界に来たのはおよそ10年前。まだ姫が幼かった頃だ。」

 

 「え?……ボクって何歳なの?」

 

 「私が出会った時には100歳を超えていた。」

 

 「ひゃ、100!?」

 

 あまりの理解できない年齢に驚く。

 

 「この世界とは違う世界から来たと話していた。」

 

 「う、うん。その感じは何となく覚えてるけど……」

 

 「幼い姫を守ったことも、村に結界を張ったことも、魔王を倒すためにやってきたことも……忘れたのか?」

 

 「うん。なんも、なにも覚えてない。」

 

 「恐らく、あなたの力を警戒し記憶を奪ったのだろう。」

 

 「お姉ちゃんもそう言ってた!ところで、ボクは十年間何をしていたか知ってるの?」

 

 「そこまでは……」

 

 「そうなんだ。じゃあボクはミルクさんと10年前に会っているの?」

 

 「ああ、私を含め、村の子供たちや赤子だった姫とも出会っている。」

 

 「……ボクは変わっちゃった?」

 

 「なにも。全くと言っていいほど、変わってない。」

 

 「そっか……やっぱりそう簡単に魂は変わらないんだね。」

 

 淡々とアノンの質問に答えていくミルク。

 

 ココアとチョコは黙って二人のやり取りを聞いている。

 

 「ミルクさんは一体いくつなの?」

 

 「……覚えてない。」

 

 「え?見た目はボクたちより少し上ぐらいだよね。」

 

 「……ちょっとした事情で年齢が止まっているんだ。私たち一族は。」

 

 「ならボクも同じってこと?」

 

 「いいや。あなたは私たちとは種族が異なる。そもそも、生まれた世界が違う。常識が異なる。」

 

 「じゃあ、どうしてボクにはこの世界の力が使えたり、言葉が話せたりするの?」

 

 「あなたは『この世界に来た時に神になるため、世界の理を全て理解できる』と話していた。」

 

 「本当にボクは神様になるために、この世界に来たってこと?でもなんで、魔王を倒さないといけないのかな?」

 

 「あなたは勇者ルキファーと、同じ世界で育ったと言っていた。世界を知り、人と関わり、世の中を救う。それが神候補の役割だと。」

 

 「そうか、だから世界を破壊しようとする魔王は倒さなきゃいけないのか!でも、なら勇者はどうなったの?」

 

 「……授業で習ったかもしれないが、勇者は大戦後行方不明になっている。神になることを放棄したのかもしれない。それによって、あなたが転移してきたのかもしれない。」

 

 一通り話を終えるミルク。

 

 考え込むように思考をめぐるせるアノン。

 

 彼の中で多くの疑問があり、知りたいことがあるのだろう。

 

 だが、何を聞いても理解はできるが、自分の記憶であると理解はできない。

 

 チョコは咳払いをし話を遮る。

 

 「ミルク姉、そろそろ。」

 

 「ああ。……アビュート様。どうか私たちにお力を貸して貰えないか?」

 

 先程まで普通に話していたにも関わらず、跪き頭を下げるミルク。

 

 「おわわわ!?やめてよ!そう言うの!普通にしてよ!昔はどうか知らないけど、ボクはアノン!そんな長い名前じゃないよ!!!」

 

 手を差し伸べ、ミルクを立ち上がらせる。

 

 するとミルクはふっ、と笑ってみせる。

 

 「……やはり、変わってない。」

 

 「え?」

 

 「昔のあなたも同じようなことを言っていた。あなたを上位種と崇める私たちに対し、『同じ命だから。』と。『ボクは君たちと仲良くなりたい』と。」

 

 「そうなんだ……えっへへ、なんだか安心した!!」

 

 自分が本当に何も変わっていないと理解出来たのだろうか。

 

 アノンはその言葉に納得してみせる。

 

 「だからこそ、勝手を承知で頼みたい。私と学園祭チームを組んでくれないか?」

 

 「うん!もちろんだよ!!!」

 

 快く承諾するアノン。

 

 そこにはいつもの無邪気さと笑顔があった。

 

 「なにも事情は聞かないのかい?」

 

 「教えてくれるなら、聞くけど。言えないんでしょ?」

 

 チョコの質問にあさっりと返すアノン。

 

 チョコは「さすが神候補、器がデカイな」と納得してみせる。

 

 ーーーーーー。

 

 「でも、あと3人必要だよね?……というか、学園祭ってなんだっけ?」

 

 書庫を後にするアノン達。

 

 チョコとココアとは別れ、ミルクと行動を共にする。

 

 話しながら、廊下を歩いていく二人。

 

 「Dクラスの選ばられた人とその他の上級クラスが参加する学園の催しだ。人との関わりで力をつけようという試みだ。スピリットやアストラルを獲得するために行われることが多い。去年、君はDクラスだろう。だから参加していない。ごく稀に選抜される人もいるが。」

 

 「え!?じゃあ、ルネやシルビアは昨年参加してるの!?」

 

 「そういうことになる。」

 

 「ひっどい!!!」

 

 「参加の知らせは来ていたはずだ。あなたは森に篭っていたな。」

 

 「え!?夏休みにやってたの!?」

 

 「そういうことだ。」

 

 「あぅ、夏休みに気が取られていたみたいだ……」

 

 「あとは残りのメンバーについてだ。Aクラスにいる。」

 

 目的地が分からず、着いてきていたアノン。

 

 ようやく目的地が判明する。

 

 「え?別クラスじゃん。いいの?」

 

 「問題ない。学園祭のチームはクラスがバラバラでも良い。」

 

 「そうなんだ?ところで、ミルクさんは何クラスなの?」

 

 不意に疑問に思ったことを口にするアノン。

 

 ミルクのことは先程あったばかりで何も知らない。

 

 突拍子もなくアノンの口から質問が飛び出でる。

 

 恐らく、クラスの話題が出たからだろう。

 

 「あなたと同じくCクラスだ。隣のクラスだがな。」

 

 「さっきのふたりは?」

 

 「Bだな。」

 

 「3人とも進級試験出てた?まったく見覚えなかったけど。」

 

 「目立たないようにしていたからな。姫を守る準備のために。」

 

 「そうなんだ?」

 

 ーーーーーー。

 

 目的地であるAクラスに到着するアノン。

 

 同じタイミングで戻ってきたテンダリアと遭遇する。

 

 「あっキキちゃん!久しぶり!」

 

 「……だれだっけ?」

 

 「ひどい!!!!」

 

 「キキ、君が進級試験で戦ったアノンだよ。」

 

 「覚えてない。」

 

 「えぇ、あんなに熱くこぶしを交えたのに!!!」

 

 「気にすんな、多分キキの意地悪だろうよ。」

 

 呆れたように説明してくれるバロゼ。

 

 「余計ひどいよ!!!」

 

 アノンにさらにダメージを与えることになった。

 

 「学園祭のお誘いかな?こっちとしてもお願いしたくてね。」

 

 話を進めるようにミルクを見つめるテンダリア。

 

 ミルクは警戒するように一歩下がる。

 

 「ミルクさん?」

 

 「なにも感じないのか?」

 

 「え?うん。」

 

 「そう!そうなんだよ。皆君みたく怖がってね。ダメかな?ぜっさん振られっぱなしなんだよ。」

 

 「ボクは大丈夫だよ!!えっへへ!!」

 

 アノンはテンダリアの手を取り微笑む。

 

 「へえ。仲良くできそうだね。」

 

 微笑み合う二人。

 

 刹那、アノンの脳裏に記憶が巡る。

 

 ーーーーー。

 

 「また……守れなかった……」

 

 「気にしないでください。……君のせいじゃない。」

 

 ーーーーーー。

 

 「ん?どうかしたのかな?やっぱり怖い?」

 

 一瞬、脳裏に浮かんだ記憶。

 

 アノンは何事も無かったように、また微笑む。

 

 恐らく、ミルクから過去の話を聞いたことで記憶が刺激されたのだろう。

 

 テンダリアに嫌な気持ちを抱かせることなく、アノンは手を握る。

 

 「ううん、なんでもない!ね、一緒にチーム組もっ!!」

 

 「いいでしょ?」と言いたげにミルクに視線を送るアノン。

 

 ミルクは呆れたように微笑む。

 

 「まあどちらにしろ組むつもりではあった。」

 

 「うん!決まりだね!」

 

 「よろしくね。アノン、ミルク。」

 

 テンダリアは優しく微笑む。

 

 後ろのふたりもテンダリアに言うことなら、文句は無いのだろう。

 

 ーーーーーー。

 

 放課後、花壇の手入れをするリタルトとライム。

 

 すっかり仲が良く、微笑み合いながら手を進めている。

 

 「私ね!学園祭、出てもいいことになったよ!」

 

 「へえ、すごいね!!中々Dクラスでは選ばれないんだよ?」

 

 「えっへへ!凄いでしょ!あとね、あとね!イーネ、ハル、キクも一緒なの!」

 

 「それはすごい事だね。今年の新入生は豊作だね。」

 

 「それで……なんだけどさ。もし、もし良かったらでいいんだけど……私とチーム組まない?私、ライムと一緒がいい。」

 

 「僕でいいの?」

 

 「ううん。ライムがいいの。」

 

 「こちらこそ、お願いするよ。」

 

 「えっへへ!!やった!」

 

 仲良く笑顔が絶えない二人。

 

 だが、二人を邪魔するように魔物が出現する。

 

 結界の中。

 

 しかも学園。

 

 ありえない事だ。

 

 ライムは一瞬なにが起きたか理解できなかった。

 

 一直線にライムを襲ってくる魔物。

 

 大きく、そして禍々しいほどの黒だ。

 

 「ライムっ!!!」

 

 「どうして……なんで……」

 

 理解が追いつかず、身体は動かない。

 

 なによりも恐怖が先行して、震えることしか出来ない。

 

 だが、ライムが襲われると分かると、リタルトは夢中で彼に飛び込む。

 

 リタルトは彼を庇うことに成功するが、魔物の刃は直撃し吹き飛ばされる。

 

 「リタ……!?」

 

 リタルトが吹き飛ばされ、ようやく意識を取り戻すライム。

 

 このままではダメだと、立ち上がり勇気を振り絞る。

 

 戦うのだと、覚悟を決めたのだ。

 

 「え、エーテル!!エーテル解放!!!!」

 

 力を高めるように、叫ぶがエーテルは彼に答えない。

 

 「なんで!!!なんでだよ!!!」

 

 突然、能力を使えなくなるライム。

 

 当たり前だ。

 

 学園内では闘技場以外、能力の使用を禁止されている。

 

 「ふざけるなよ……なんのための力だよ!」

 

 怒り声を荒らげるライム。

 

 容赦なく黒き刃はライムに襲いかかる。

 

 三体ほどの大きな魔物。

 

 なぜか、全てライムに向かって襲ってくる。

 

 「ちきしょう!!!!!」

 

 ライムはどうすることも出来ず、瞳を閉じる。

 

 刹那、三体の魔物は簡単に消えていく。

 

 「大丈夫!?ライム!!!」

 

 「……え?」

 

 黒い瘴気が晴れると、中からアノンが出てくる。

 

 「なんで……なんで君は……戦えるんだよ……」

 

 自分はまるで、動くことが出来なかった。

 

 大切な人を守るために、父のような英雄となるために磨いてきた力。

 

 だが、ライムは何も出来なかった。

 

 彼の心にはぽっかりと大きな穴が空いた。

 

 目の前で輝くアノン。

 

 どうしようもないチカラと勇気の差が、ライムをさらに苦しめていく。

 

 今まで目を背けて、我慢してきた自分の力のなさ。

 

 それを思い出させるような出来事。

 

 力を求め続けて彷徨う今の彼には、辛い現実だ。

 

 ーーーーーー。

 

 その後、ライムとリタルトはルネによって治療される。

 

 アノンは安心したように微笑むが、ライムの中で黒い感情が渦巻いていた。

 

 「でもよかった!ライム助けられたよ!」

 

 アノンは優しく微笑む。

 

 そこにはただ純粋な真っ直ぐな想いしかない。

 

 綺麗で美しく、眩しい。

 

 「ありがとう……たすかったよ。」

 

 「ううん!友達じゃん!」

 

 「そうだね……君にはいつも助けられるよ。」

 

 感情なく笑うライム。

 

 リタルトはその様子の変化に気がついていた。

 

 「ライム?どこか痛む?」

 

 「ううん。僕はなんともないよ。二人に助けてもらったからね。……それにしても、リタは無茶するなあ、ほんとに。」

 

 切り替えるように、悟られないように、微笑むライム。

 

 「あはは、ライムが危なくて必死で……」

 

 「ううん。ありがとう」

 

 「うん!!!」

 

 いつもの変わらない様子。優しい微笑み。

 

 気のせいだったと安心するリタルト。

 

 ルネは治療を終えて、立ち上がる。

 

 「私、先生に報告してきますね。魔物が出たなんて、それにビスラ様の力が効かない魔物なんて、一大事です。」

 

 「誰かが……魔物を持ち込んだ……それも、結界を掻い潜り、ビスラ様のチカラを受け付けないような魔物を。」

 

 「そんなことできるのは……魔王だけ。……もしくはそれを手引きするな過激派。」

 

 リタルトが確信をつくように呟く。

 

 「もしかすると、もう魔王は目覚めているのかもしれないってこと?」

 

 「前者ならそうかもしれませんね。現実的に考えるなら、後者ですかね。でも後者なら、場合によって再び戦争が起きかねません。事を大きくしない方がいいかもしれません。」

 

 「良くない方に話が進むと、魔族が魔物を、人間が魔物をという話になりかねない。」

 

 さすが年上の2人だろう。

 

 冷静に分析し、ことの重大さを伝える。

 

 「でもなんで、ライムは狙われたんだろう?」

 

 「それは僕にもわからない。でも、父上はいつも僕が街の外に出るのを禁止していた。もしかしたらなにか知っているのかもしれない。」

 

 「なら、クバーツ先生に話しましょう。魔王との闘いも経験されていますしね。」

 

 「なら、僕の方から伝えるよ。」

 

 ーーーーー。

 

 「ああ、その件ならもう対処した。わかってるとは思うが、機密情報を含む。詳しくは言えない。」

 

 「ですよね……」

 

 誰もいない個室でのやり取り。情報の漏洩を防ぐためだろう。

 

 ライムは直ぐにクバーツに報告したが、さすが英雄。

 

 もう既に対処していた。

 

 対処出来たということは、恐らく人か魔族の過激派による行動だったのだろう。

 

 争いの火種を作る狙いだろうか。

 

 「なに、心配するな。お前たちを守るために俺たち教師がいる。それに無事でよかった。だが、対処が遅れて済まなかったな。以前から学園付近に不振な動きを見せる者が多く確認されていてな。行動を起こすまで捕まえられなかったんだ、すまない。(もう少し慎重に動く相手のはずだったが、急に動くとはな。教員が少ないとはいえ、もう少し生徒を守れないとダメだな。)」

 

 「いえ、僕は……」

 

 「ほら、もう遅い。寮に戻って寝るんだぞ。」

 

 「あっ、まって!!僕、魔物に狙われたんです!……なにか、知っていますか?」

 

 「強い力。」

 

  「え?」

 

 「魔物は人と魔族を滅ぼすための存在だ。お前がその場で一番強かったんじゃないか?」

 

 「そう……なんでしょうか。僕は……なにも、何も出来なかった。アノンの方が強かった!!!」

 

 「……誰しもが実戦慣れしているわけじゃない。お前の反応は正常だ。リタルトは村育ちだし、アノンは森でイリスと魔物狩りをしていた。経験の差だよ。」

 

 ライムの肩をぽんと叩くクバーツ。

 

 ライムは震えるように拳を握りこんでいた。

 

 ーーーーー。

 

 「チカラだ。……力が必要なんだ。守るためには力が……アノンのような、理を超える力が……リタのような、強い心が……」

 

 深夜の学園。

 

 無心で歩き続けるライム。

 

 ぶつぶつと呟くように、虚ろな瞳のまま歩く。

 

 たどり着いたのは、選ばれたものしか入ることを許されない書庫。

 

 「あいて……る?」

 

 たどり着いた書庫。

 

 固く閉ざされている扉は少しだけ開いていた。

 

 導かれるように扉を開けて中に入ろうとするライム。

 

 刹那。

 

 ライムの手を掴む少女がいた。

 

 「だめだよ、ライム。入っちゃダメだ。」

 

 「リタ……」

 

 いつもの様子とは違うライム。

 

 リタルトの姿を見ても、正気には戻らない。

 

 「そこはあらゆる知識を得る場所。君は……少なくとも今のライムは入っちゃダメだ。」

 

 力強く引き止めるリタルト。その刹那、圧倒的な瘴気がライムを包み、その手を振りほどく。

 

 「貴様程度の実力で我を止められるか?」

 

 「……ライム?」

 

 一瞬で理解出来てしまう。明らかに目の前にいるのはライムではなかった。

 

 震えるように声をかけるリタルト。だが、時は既に遅い。

 

 「無駄だ。ライム・コリアンダーは我の支配下にある。貴様には止めることは出来ない。」

 

 「あなた……は?」

 

 「我は魔王。まあ、気にする事はない。ただの余興に過ぎぬ。」

 

 「何を企んでいる!!」

 

 一瞬で魔王だと受け入れるリタルト。瞬時に距離を取り、戦闘態勢をとる。

 

 そのまま力を高め、刀を抜く。

 

 「ほほう?やる気か?震えているぞ?」

 

 いくら魔王が乗り移っているとはいえ、肉体はライムのもの。

 

 それを傷つけることがリタルトには出来ない。

 

 止めなくてはならない。わかっているはずなのに、リタルトの中で躊躇いが生まれている。

 

 「そこの書庫には入れないはずよ!!メア様はあなたを拒絶する!私を止めることも出来ない!!ビスラ様がわたしを守るから!」

 

 「我を舐めるな。友のことは我が一番理解している。貴様に言われる筋合いはない。……むしろ、制約を受けているのは貴様だ。」

 

 「やってみれば、分かる!!!」

 

 リタルトは刀を抜くと容易にエーテルを纏う。

 

 「ほう。殺意と悪意を捨てたか。アビュートと同じように。……いや、少し違うな。この行いが正しいと言うつもりか。ビスラよ。……ライムの肉体であるがゆえに、この娘は我でさえも傷つけることはしない。つまり、その想いは正しい、と。……クックック、さすが、我が友だ。相変わらず、誰彼構わず助けおって。」

 

 嬉しそうに微笑む魔王。

 

 何かが彼を楽しませているようだ。

 

 「お覚悟!!!」

 

 リタルトは全身に聖なる風とエーテルを纏う。

 

 「ほう、アストラルか。やはりただの田舎娘ではなかったか。……だが。」

 

 圧倒的なエネルギーの高まり、刀で魔王を切りつける。

 

 だが、その攻撃はまるで通ることがない。

 

 まるで空間を切りつけたように、手応えを感じない。

 

 「なっ!?」

 

 力無く、その場に倒れるリタルト。

 

 「あれ……チカラが抜けて……いく……」

 

 自分がなにをされたのかも理解出来ずに、その場に倒れ意識を失う。

 

 だが、魔王の目の前に六人のフードを被った人影が現れる。

 

 まるで、リタルトを守るように魔王に対峙する。

 

 「勘違いするな。その娘をどうこうするつもりは無い。……我はライムにしか用がない。深追いするなら、その娘ごと殺すぞ」

 

 その人影が現れるとわかったいたように、話す魔王。

 

 フードの人影。その真ん中にいる人物が話を始める。

 

 「……戦争を起こすつもりか。魔王。」

 

 「ほう?さすが魔人。ライムが何者か知っているのか。」

 

 「姫が守ろうとしたお方だ。傷つけさせたくはない。」

 

 「我は人の可能性を知りたいのだ。……メアは我に言った。人も魔族も変われると。ならば、試してやろうではないか。引き金は我が引く。」

 

 「レト・コスモの復讐心を煽ったのもそのためか?」

 

 「答える道理はない。」

 

 「なら、最後だ。」

 

 「許す。」

 

 「ライムを殺すな。」

 

 「元よりそのつもりだ。」

 

 魔王がそう答えると、六人の魔人とリタルトは姿を消す。

 

 「さて、邪魔者は消えた。行くぞライム。お前に真実を告げてやろう。」

 

 悪魔の囁きのようにつぶやく魔王。

 

 意識を取り戻したライムだが、魔王の言葉が頭に響く。

 

 『力を求めるなら、その扉を開けよ。』

 

 「……僕は……チカラが……欲しい!!!」

 

 躊躇うことなく開け放つ扉。

 

 『良い。貴様が手にするのは、万能の力。魔力だ。』

 

 「っ!?そんな……!!!」

 

 扉を開けた刹那、ライムの中に真実が刻み込まれていく。

 

 「僕が……魔族……?」

 

 絶望するように膝をつくライム。

 

 そこには乾いた笑いと流れ続ける涙があった。

読んで頂きありがとうございます!


ついに、学園祭編ですね!……そんなテンションでは無いようですね。アノンくんに続き、ライムくんの秘密も明らかになりましたね。そして、いよいよ魔王が動き出しましたね。


どう物語が展開していくのかお楽しみに!次回は先生方のお話です!


ぜひ、読んでみてくださいね!

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