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3章 第1話 可愛い新入生!


 進級試験を終え、学園での一年はすぎていく。

 

 アノンとライムはCクラスに進級した。

 

 アノンは実力的にBクラス相当だが、やはり知識の低さが懸念された。

 

 それにリベレイトを使えない中、スピリット発動。

 

 異例中の異例である。

 

 教師陣の中ではゆっくり段階的に、関わっていくべきという声が上がった。

 

 ライムもまた未知の力『バースト』を発動させた。

 

 リベレイト倍率でのエーテル『リミット』。スピリット能力とも解釈できる『バースト』。

 

 実力も知識も充分高いと判断されたが、彼もまた異例の能力の持ち主。

 

 アノンとともにCクラスに上げられた。

 

 念願の進級であるが、ライムは焦りを感じていた。

 

 周りと違いすぎる力。

 

 これ以上成長出来ないかもしれない。

 

  そんなことを思ってしまうのだ。

 

 特殊な力を持つ2人を担当することになったのは『イリス』である。

 

 教師として学園に雇用されたのだ。

 

 設立にはもともと関わっていたが、魔力を持つことから良い印象を持たれない。

 

 そういった点から教師になることは避けていたのだ。

 

 だが、弟子を増やし特殊な2人を面倒を見ることをベラに強く懇願され、断ることが出来なかった。

 

 それに、イリスは進級試験に現れた三人の生徒テンダリア、キキ、バロゼを放っておくことは出来なかった。

 

 ーーーーーーー。

 

 「今日からこのクラスを担当することになったよ。イリス・グレイスです。よろしく。」

 

 「わーい!お姉ちゃんだ!!」

 

 「あれが……英雄イリス……」

 

 「まあCクラスにいる君たちならわかると思うけど、私は魔力を使えます。でもみんなと同じ人間だから、仲良くしてくれると嬉しいな。」

 

 イリスは優しく微笑む。

 

 「わー!!!」

 

 アノンは楽しそうに拍手をし、イリスを歓迎する。

 

 他の生徒も同様に温かく迎えてくれる。

 

 イリスはほっとした様子で、授業を始めるのであった。

 

 ーーーーーーー。

 

 「イリス先生、僕にも修行をつけてください。強く……強くなりたいんです!!!!」

 

 授業終わり。イリスを呼び止めたライム。

 

 進級試験でアノンに負けたこと、これからの成長への不安。

 

 そんな気持ちからすがるように声をかける。

 

 「君はなんのために力を求める?」

 

 「……え?」

 

 「クバーツのように強くなりたいから?それともアノンちゃんを倒したいからかな?」

 

 「えっと……」

 

 「私は誰でも弟子をとるわけじゃないよ。……強さは信念、魂から生まれる。……君はまず、心からじゃないかな?」

 

 今のライムはただ、チカラを渇望しているだけだ。

 

 まるで本能に動かされるように、ひたすらにチカラを求めているだけだと、イリスに見抜かれる。

 

 「……僕が弱いから……取り合ってくれないんですね。」

 

 「違う、そうじゃないよ。あのね……」

 

 「もういいです。自分でなんとかします。」

 

 イリスの言葉を最後まで聞かず、立ち去るライム。

 

 自分を追いつめ周りが見えなくなっているのかもしれない。

 

 苛立ちが先行しているようだ。

 

 「教師初日からこれとは……中々ダメね。師匠みたいに上手くできない物ね。」

 

 イリスは頭を抱え、苦笑いしてみせる。

 

 ライムの苛立ちも焦りも、力を欲することも理解出来るはずなのに上手く言葉がかけられなかった。

 

 自嘲気味に笑って見せた。

 

 ーーーーーー。

 

 「えっと……?」

 

 自席に座っていると、目の前に見知らぬ少女が立っている。

 

 白を基調とした髪に赤のハイライトカラー。メッシュを入れるように、美しいショート髪の女の子だ。

 

 黒と青のドレスを身にまとっており、家柄の良さが伺える。

 

 アノンは困惑し声をかけているのだが、少女は顔を真っ赤にして頬を膨らませている。

 

 「あなた、シルビア・クリムゾンと仲良いみたいじゃない。」

 

 「え、うん。仲良いよ?」

 

 「お願いします!!!!!!仲を取り持ってください!!!!」

 

 勢い良く机に頭を打ち付ける少女。

 

 大きな音が教室に響く。

 

 「えええええっ!?頭大丈夫!?」

 

 「ダメですか!?」

 

 「おわっ……起き上がった。」

 

 心配するように声をかけるアノン。

 

 少女は額を真っ赤にして、顔を上げる。

 

 「いや、ダメも何も君は?」

 

 「レト・コスモです。進級試験で、シルビア・クリムゾンと戦いました。」

 

 「ああっ!!シルビアのこと、クソ女って言ってた人だ!!!」

 

 「うぉおおおおおっ!!」

 

 アノンは思い出したかのように、大きな声で事実を告げる。

 

 だが、ダメージが大きかったのか頭を再び打ち付ける。

 

 「おわっ!?ほんとに頭大丈夫!?」

 

 ーーーーー。

 

 しばらくしてようやく、落ち着きを取り戻したレト。

 

 アノンの隣に座りハンカチで額を冷やしている。

 

 「落ち着いた?」

 

 「はい、取り乱しました。」

 

 アノンは優しく声をかける。

 

 まずは話を聞こうと思っているようだ。

 

 「家の人に連絡して、クリムゾン家に行きましたわ。過去の件はこちら側に非があると謝罪しました。しばらく経てば酷いことを言われることも無いでしょう。」

 

 「それを伝えたいの?」

 

 「はい。もう関わらない方がいいでしょうか。」

 

 「伝えてみれば、分かるんじゃないかな。」

 

 「協力はしてくれないの?」

 

 「応援はするよ。ただ、僕は友達に酷いことをした君をどうしても、よく見ることが出来ないんだ。結果だけ見れば、シルビアが悪いかもしれない。でも、君がやった事が正しいとは思わない。」

 

 「……そうですよね。」

 

 「でも心入れ替えたみたいで、良かったよ。」

 

 「あの炎ですよ。フェニックスの力。あれに包まれてから、憎しみが消えていきました。……そしたら、すんなり自分が悪かったって思えたの。もう、あの頃の私ではないわ。……私に非があるって、とうの昔にわかっていたはずなのに。」

 

 「そうなんだ。……まあ、頑張りなよ。邪魔はしないからさ。」

 

 「はい、ありがとうございます。アノンくんは誰彼構わず優しいと、少し侮っていました。」

 

 「ん?」

 

 「周りのおバカさんたちに、訂正しておきますね。……心根が真っ直ぐな方なのだと。……厳しく意見貰えたおかげで、決断できました。行ってきますね。」

 

 「うん!がんばってね!」

 

 ーーーーーー。

 

 シルビアとルネはお互いにBクラスへ進級していた。

 

 ルネはもともとスピリット能力を覚醒させていたが、力がないと判断されていた。

 

 だが、現在Aクラスに属するテンダリアとの攻防は戦える事の証明となったようだ。

 

 なんとか進級でき、まだ学園にいることが許された。

 

 どこか笑顔が絶えない様子だ。

 

 シルビアはリベレイト能力の制御に加えフェニックスの力を発現。

 

 確実に悪い噂は消えつつあった。

 

 確実に進んでいるだろう。

 

 それだけに力及ばなかったバロゼに悔しい想いをさせられた。

 

 勉強不足を指摘され、より一層勉強に励んでいた。

 

 ーーーーーー。

 

 「今日から担任となりますわ。ベラ・ガーネットです。よろしくですわ。」

 

 もともとCクラスを任せられていたベラ。

 

 イリスが教員として入ったことで、ベラは自動的に上のクラス担当になったのだ。

 

 「お姉様……いえ、イリス先生が赴任されて、ワタクシがBクラス担当となりました。もともとワタクシはリベレイト能力に長けており、長らくCクラスを担当しておりましたわ。……ですが、ご安心なさい。教師陣は全員アストラルを使用できます。しっかり指導して差し上げますわ。」

 

 不安そうに見つめられてなのか、ベラは自信満々に話す。

 

 「……アストラル。スピリット、リベレイト、エーテル、全てを効率化させた究極の力……」

 

 調べた知識を小声で漏らすシルビア。

 

 負けて以来その力を調べ続けているのだ。

 

 「さすが、お姉様の弟子ですわ!!!」

 

 その小声を聞き取ったのかベラはニコニコしながらシルビアを褒める。

 

 視線を集め、ばつが悪そうなシルビア。

 

 「すごいよ!ルビアちゃん!褒められたよ!!」

 

 「と、当然よ!!!」

 

 「うん!当然だね!!!」

 

 だが、ルネが優しく声をかけることで、シルビアは普段の調子を取り戻す。

 

 その様子を微笑ましそうに見つめ、切り替えるように解説を始めるベラ。

 

 「でも、アストラルは知識を得るものではなく、感じるものですわ。ゆっくり基礎を磨き、知識を高める。基本的なことを忠実に、そして心根を正しく持つこと。これが大切ですわ。強い精神の力はアストラルへの最大の近道です。自分を見つめ直し、精進していきましょう。」

 

 「はい!!!」

 

 生徒一同が返事をし、授業が開始される。

 

 ーーーーーー。

 

 放課後。一年がたっても学園の様子はあまり変わらない。

 

 授業を受けたり、闘技場で訓練したり、風景はさほど変わらない。

 

 ただ、進級試験や夢に向かって進む想いは強くなっていくのかもしれない。

 

 ある人はさらに、力を求める。

 

 ある人は、新しい環境に心を踊ろせる。

 

 ある人は学友との時間を大切にする。

 

 そして、ある人は劣等感に苛まれる。

 

 ーーーーーー。

 

 「……うん、よく咲いてるね。」

 

 ライムは学園の庭、花壇に水やりをしていた。

 

 赤、ピンク、黄色、オレンジ。

 

 多様な色が美しく咲き誇り、可愛らしくライムを見つめているようだ。

 

 「ありがと〜ちょーっと先生、予定あってね〜、今日転入してくる女の子が見当たらなくて〜」

 

 「大丈夫ですよ。ちょうど、息抜きしたかったですから。」

 

 ライムは闘技場でトレーニングしていたが、疲れて休んでいたところ、ヒマリに声をかけられたのだ。

 

 「ごめんね〜私が見つけてきた子なんだけどね〜ちょっと変わってる子でかなり自由なのよ〜」

 

 「へぇ、元気でいいじゃないですか。でも先生が探して今日ずっと見つからないなんて、すごい人なんですね。」

 

 「私が見つけた子だからね〜才能の塊だよ〜」

 

 「それは、会ってみたいものですね。」

 

 「意外と相性いいかもね〜まあ、ともかく探してくるから水やりよろしくね〜」

 

 「はーい。お気を付けて!」

 

 ふわふわとスキップするようにその場を去るヒマリ。

 

 相変わらずマイペースだ。

 

 「さて、まだまだお花はあるから頑張らないとね。」

 

 気合を入れるライム。

 

 次の花壇へ向かおうとした刹那、小さい女の子と衝突する。

 

 「うわっ!?」

 

 「ええっ!?」

 

 突然目の前に現れた少女。

 

 ライムは彼女の下敷きとなる。

 

 「あわあわあわ!!!大丈夫かな!?」

 

 「……いっててて、一体どこから……」

 

 痛みに耐えつつ、瞳を開けるライム。

 

 ライムはその少女の美しさに言葉を失う。

 

 「だ、大丈夫?……もしかして、頭打ったりしたかな?」

 

 少女は綺麗な黒髪を大きなリボンで結んでおり、見慣れない着物を纏っていた。

 

 綺麗な装飾のなされたオレンジ色の羽衣。

 

 腰には長い刀が1本。

 

 和風な雰囲気を感じさせる彼女にライムは釘付けとなる。

 

 「おーい!あれ?ほんとに大丈夫!?」

 

 「え!?あああ、うん。ごめん。」

 

 ようやく我に返ったライム。

 

 鼓動が高鳴りうまく言葉が出てこない。

 

 「よかったあ!!!」

 

 「きみ……は?」

 

 「ん?名前のことかな?」

 

 「うん。僕はライム。ライム・コリアンダー。君は?」

 

 「わお!ライム!!素敵な名前!!!私はリタ!卯月リタ!こっちだと、リタルト!リタルト・チューリップだよ!!」

 

 「リタ……可愛らしい名前だね。」

 

 「えっへへ!照れるなあ!!」

 

 「もしかして、遠くの国出身なのかな?」

 

 独特な見慣れない格好。特徴的な名前。この辺の出身では無いことは明らかだろう。

 

 「うん!!アズマ・ミぃ……い、田舎!そう、田舎から来たの!!!」

 

 歯切れ悪そうに誤魔化すリタルト。

 

 どうやら、出身国は言いたくないらしい。

 

 「そうなんだ。あと、それとさ。そろそろ降りてもらえると嬉しいかな。」

 

 「ああっ!?ごめん!!あなたとお話するのなんだか落ち着いて!!!」

 

 慌てて、ようやくライムから降りるリタルト。

 

 「今更だけど、ぶつかって、ごめんね?痛かったかな?」

 

 「ううん、びっくりだけど。突然現れたから。」

 

 話しながらゆっくりと立ち上がるライム。

 

 少しづつ緊張がほぐれたようだ。

 

 「ふぅ、びっくりしたよー。ぶつかっちゃって、反応無いから〜」

 

 「ああ、うん。ごめん。……なんだか、見とれちゃって。」

 

 「ええっ!?わたしに!?」

 

 「うん、こんなの初めてだったから、ドキドキしちゃって。」

 

 「あわあわあわ!!!」

 

 そんなこと言われたことがないのか、手をバタバタとして照れてみせるリタルト。

 

 「実は……私もだったりして……あはは。」

 

 照れくさそうように瞳を伏せるリタルト。

 

 どうやら、二人は互いに惹かれあっているようだ。

 

 「僕が……?」

 

 「うん、最初、お花綺麗だなって見てたら近くに綺麗な横顔あって……なんか見てたら吸い込まれそうで、ぶつかってた!」

 

 「ほんと?そんなこと、言われたことないよ……」

 

 照れくさそうに頬をあからめるライム。

 

 リタルトはライムの手をそっととる。

 

 「ほんとだよ!心の色がとっても綺麗。澄み切っていて、色んなものに染まりやすい色!……だからこそ、ちょっと心配。今とっても、迷ってるみたい。波紋が広がって心を揺らしているの。強くて綺麗な心をしているのに……自信を持ててないみたい。」

 

 「……きみは……一体。」

 

 手を握り会う二人。

 

 互いに惹かれあい、出会ったばかりなのにか不思議と心を許していた。

 

 まるで、前にあったことがあるように共鳴する魂。

 

 二人の瞳は赤く輝く。

 

 「ライム……あなた、もしかして……」

 

 ーーーーーー。

 

 「あっ〜!!!見つけたよ〜!リタルトちゃん!」

 

 何か口にしようとしたリタルト。

 

 だが、遮るように間の抜けた声が響く。

 

 ヒマリが探していた生徒は、リタルトだったようだ。

 

 「あれ、センセどうしたの?」

 

 「どうしたの?じゃないよ〜。今日入学だよ〜あなたはDクラス新入生なんだから〜」

 

 「ええっ!?今日だったの!?」

 

 「そうよ〜相変わらずマイペースなんだから〜」

  「センセが明日って言ったんだよ!?」

 

 「あれ〜そうだったけ〜」

 

 「ちょっと!!!」

 

 「あはは、なんだ、リタが探してる人だったんだね。」

 

 「ごめーん。ライム!また今度話そう?ちょっとセンセと話してくるから」

 

 「うん、大丈夫だよ。大変だね。僕はCクラスにいるからいつでも遊びに来て。」

 

 「うん!!!!絶対いく!!!」

 

 「あれ〜あれあれ〜二人とも仲いいね〜」

 

 「いいから、いくよ!センセ!」

 

 「ああ〜もう〜聞かせてよ〜」

 

 リタルトに押されていくヒマリ。

 

 リタルトはライムにニコッと微笑み別れる。

 

 「……リタか。……可愛い新入生だったな……」

 

 ライムはまだ消えない手の温もりを感じ、胸をときめかせるのであった。

読んで頂きありがとうございます!


今日から3章ですね!またまた新キャラが登場したり、ライムくんの雲行きが怪しくなったりしてきましたね。


3章は大きく展開が動きます!人物の心情変化や関係性に重きを置いているので、バトルは少なめです!それでも楽しんで頂けるように制作してまいりますので、よろしくお願い致します!

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