第十一話 推しの押しのワケ
お父さんには卒業記念パーティーの準備を手伝うことと、私が直接注文を受けること、そしてシェルトが挨拶したいと言ったことを伝えた。
シェルトと帰った時に本人の許可は取ったから、炭の飾り物の話もその時にした。お父さんもそのことについて話したいらしくて、いつでもいいと返ってきた。
ということは、またシェルトと一緒に帰ることになって。その上家に来るってことよね?
この間までただ遠くに見てるだけだったのに。急に近くなりすぎて何がなんだかわからない。
どうしよう? どうしよう??
じっとしていられなくて、部屋を片付けたり家を掃除したりしてみたけど。
結局全然落ち着けなかった。
次の日シェルトに伝えると、明日行くと言われて。
そうして家に来たシェルト。自己紹介の後、購買の値段のことにお礼を言われたお父さんは驚いてたけど嬉しそうだった。
学校の関係者の人達にはお礼を言われることはあるだろうけど。学生から言われることなんてなかったものね。
お父さんからは、シェルトが考えた飾り物について。後日ご両親も交えて話がしたいと申し出たお父さんに、今度はシェルトが驚く番だったみたい。
その日はそんな風に、応接室で三人で話すだけだった。
炭の消臭効果に気付いたのは私だってシェルトに話を振られた時は慌てたけど、偶然気付いただけだってなんとかごまかせたかな。
シェルトのご両親に挨拶しておきたいからって、その日はお父さんが送っていって。これでもう終わったと思ってたんだけど――。
「なんで?」
家族でご飯を食べる……まぁリビングみたいな部屋で。
なんでわたしは葵と一緒にクッキー食べながらお茶飲んでるのかな?
「なんでって言われても」
そう笑う葵だけど。
そもそもこんな状況になってるのは、あれから葵がなんだかんだとうちに来てるからだよね?
今日なんか学校休みだよ? 午前中は訓練に行ってたらしいけど。なんでうちにいるの??
お父さんもいつの間にかシェルトの家に行ってたし。うちに来てもほとんどお父さんと話してばっかりだけど。
今日はお父さんに急な来客があったから、こうしてわたしが一緒に時間潰してる。
お母さんはなんか勘違いしてるから。ゆっくり話すのよとかなんとか言って出てっちゃった。
まぁだから葵に聞けるんだけど。
「セグさんにはいつでも来ていいって言われてるから」
「そうかもしれないけどそうじゃなくて! 急にマヨネを実行委員に誘ったり、こうしてうちに来たりするのはなんでなのって」
急に憧れの人にお近付きになりすぎて、マヨネはキャパオーバーみたい。それにクラスでも……って、明日はちょっと荷物多いけど頑張らなきゃ。皆張り切ってるもんね。異世界っていっても結局同い年だからノリは変わらないかな。
「飾り物のこともあるけど、セグさんから聞く話が面白くって。それに……」
ヤバ、脱線してた。
葵の言葉に逸れてた頭を戻すと、蜂蜜色の目がこっちを見てる。
「私のことを知ってるのはひかりだけだから。もっと話したかったの」
「葵……」
そう、だよね。当たり前だけど皆葵のことをシェルトとして扱うから。女の子の葵のこと、気遣う人はいないんだよね。
わたしとマヨネは性格は違っても同い年の女の子同士だから、周りからマヨネとして扱われたって違和感ないし。女神様とロブはひかりとして話してくれてたし。
でも葵は記憶が戻ってからずっと、シェルトとしての家族や友達はいても、葵としてはロブと男の子のフリして少し話しただけなんだよね。
絶対さみしかったよね。
それなのにわたしってば浮かれたり慌てたり疑ったりして。悪いことしちゃったな。
「……ごめんね、葵」
「どうしてひかりが謝るの?」
葵はそう言って笑うけど、なんだかちょっと落ち込んだような顔をしてる。
「……それに謝るのは私の方だよ。シェルトと一緒だとマヨネが緊張してるのもわかってるんだけど、それでもあれっきりにしたくなくて。知り合ったばっかりの男子が家に入り浸ってるとか、怖いよね」
申し訳なさそうな葵。
怖いとかじゃなくて、シェルトはマヨネの憧れの人だから恥ずかしいだけ……って、こんなこと本人に言えないよ!
「もしかして好きな子に誤解されたりとか――」
「そっ、そんなのないない。大丈夫大丈夫!!」
言えないけど、このままじゃ。
マヨネはシェルトが苦手なんじゃなくて、憧れだから恥ずかしいだけなのに。
葵もシェルトも絶対誤解してるよね。
じわじわ、胸の中に悲しい気持ちが広がってる。
わたしはひかりだけどマヨネでもあるんだから。
誤解されたままなのは、わたしだって悲しいよ。
「……マヨネはね、おとなしくて恥ずかしがり屋だから、すぐ下を向いて黙っちゃうけど。思ってないことを言ったりしないよ」
わたしはひかりだけどマヨネだから。マヨネがどんな風に思ってるかなら、きっと誰よりもわかってる。
まっすぐに葵を――シェルトを見て。
わかってあげてって。そう願いながら。
「シェルトのこと、すごいって言ったでしょ? そんな相手のこと、怖いって思うわけないよ」




