第十話 特別クラスの生徒達
先生から、昼休みに実行委員が説明に来ると言われた。
卒業記念パーティーの実行委員は全員特別クラスの人達。顔と名前は知ってても、話したことのある人はシェルトさんしかいない。
シェルトさんが言い出したのだとしても、理由がわからない。
ビクビクしながら迎えた昼休み。話しに来てくれたのは、やっぱりシェルトさんだった。
「突然ごめんね、マヨネさん」
特別クラスのシェルトさんが私なんかを訪ねてきたものだから、もうクラス中の皆がこっちを見てる。
シェルトさんはそんな皆ににっこり笑ってから、実は、と少し声を小さくして話しだした。
「準備品は購買に頼むって話をしたよね。準備段階だけでもマヨネさんに間に入ってもらえば、円滑に進むかなって」
なんだ、そういうことだったのね。
購買部からうちに連絡してもらうより、私がうちに伝えた方が早いし、購買部に余計な手間を取らせない。どれくらいで用意できそうかもある程度わかるし、こういうものが使えるかもという提案もできるかもしれない。
それもそうだという納得で、なんとなく浮かれた気持ちを覆い隠す。
「わかりました。私にできることなら」
「ありがとう! 助かるよ」
シェルトさん、嬉しそうに笑ってくれた。
こんな笑顔が見れたんだもの。もうそれで十分よね。
放課後また迎えに来るよと言って、シェルトさんは戻っていった。
シェルトさんが帰ってからはクラスの皆に何がどうしたのかと囲まれたけど、家が購買部に卸してるからだろうと説明した。
放課後に迎えに来てくれたシェルトさんが、準備のために借りている多目的室で他の特別クラスの人達に紹介してくれた。
シェルトさん、購買の値段のことも話してたみたいで。口々にお礼を言われて恥ずかしかった。
今日はいきなりだし帰ってもいいと言われたけど、急ぎの用事もないのに帰るのは気が引けて。できることは手伝いたいって言って残ることにした。
最初は気を遣った皆から話しかけてもらううちに、少しずつ共通の話題も見つかって。そこにいた二時間で、だんだん私も構えずに話ができるようになった。
「私達、なんていうのかな、通常クラスの人達には距離を置かれてるのかなって」
「全然普通の学生なんだけどね〜」
卒業式で胸につける布のお花を一緒に作りながら、ラブさんとドリームさんがそんな話をしてくれた。
特別クラスだからって、本当はちょっと近寄りがたく思ってたけど。話してみるとそんなことなかったんだってよくわかる。
壁を作っていたのは私の方。ここにいるのはクラスの皆と変わらない、同い年の学生達だった。
ただ、衛兵団に出入りするシェルトさんのように、特別クラスの人達はもう進路先に仮所属しているような状態で。もう大人に混ざって過ごしているからだろうけど、私達通常クラスの生徒達より大人びてるような気はするかな。
「創設した頃に揉めることが多かったから、合同の授業や行事をなくしたって話だけどさ。こっちからしたらいい迷惑だよな」
「そっちと知り合う機会すらないからね」
「唯一の合同行事がこのパーティーだから。せめて楽しんでもらえたらって思うよ」
周りにいる他の人達も、口々にそんなことを言ってくれた。
クラスの皆が聞いたら喜ぶだろうな。
私達からも特別クラスの人達に、何かできたらいいんだけど。
時間いっぱい作業をして、帰ることになったんだけど。
家に帰る私の隣、並んで歩く背の高い金髪の男の子。
どうしよう、歩くのも緊張する。
「マヨネを引き込んだのはシェルトなんだから。責任持って送っていきなさいよ」
こんなことになっちゃったドリームのひと言。
ラブとドリームだけじゃない。皆、同級生なんだからお互い呼び捨てでって言ってくれたり、優しいけど。
この優しさは、私にはとっても荷が重すぎた。
「ごめんね、マヨネ。連絡なしに遅くなっちゃって」
だって、シェルトさんまで私のこと呼び捨てに……。
名前を呼ばれるたびに飛び上がりそうになっちゃうんだけど。
「シェルトさん、本当に大丈夫ですから」
「シェルト」
うぅ、訂正されちゃった……。
家も近いし何より並んで歩くなんて恥ずかしすぎる。だから大丈夫って断ったのに。
「送らなかったら明日クラスの皆に怒られるからね」
シェルトさ……シェルト、は、そう言って一緒に来てくれた。
歩きながら、あのパン屋の店長もそうだとか、覚えある食べ物や飲み物も増えてきたとか話しかけてくれるけど、もう全然頭に入ってこない。
下を向いてても視界に入る手や足。
腕、触れてしまいそうで。
胸が苦しい。
「そうだ。近々学校帰りにお父さんに面会できないかな?」
「えっ??」
耳に入った言葉になんのことかと思わず立ち止まると、シェルトも足を止めて私を振り返る。
「こんな形でお世話になるんだし、直接挨拶しておきたいと思ってて」
にっこり笑うシェルト。
私は頷きもできずに彼を見返した。




