第一話 これって噂の転生だよねっ?
……何ここ。
気がついたらわたしは一面真っ白な中に立ってた。前も真っ白。上も真っ白。下も真っ白。うしろも――。
振り返ったわたし、びっくりして飛び上がりそうになる。
わたしのうしろ、女の人が立ってるんだもん。
なんかもう見るからに普通の人じゃない。生きてる感じがしないって言うのかな? 顔も作り物みたいにキレイで、髪も目もアニメみたいな金髪で。しかも真っ白で裾ズルズルの服なのに上半身だけ水着くらいしか布がなくて、谷間が下まで見えちゃってる。
……おねーさん、ナイスバディだね。
……いいなぁ。
おねーさんはわたしにニコリと微笑んだ。
「今はまだ覚醒したばかり。詳しい説明はまたにしますね」
「説明ってなんのこと……?」
おねーさんはニコニコしてるだけで、何も答えてくれなかった。
そのうちにおねーさんの姿もなんだか白くなって、周りに紛れていく。
「あっ! ちょっと待ってよ、ねぇ!」
真っ白い中、わたしの声だけ響いてる。
「待ってってば〜!!」
がばっと起き上がって、辺りを見回す。
目に入るのは見慣れたクローゼット。壁沿いに辿ると机と椅子がある。
やっぱり自室のベッドの上よね。
カーテンの向こうはうっすら明るくなっていたから、私はベッドから降りて開けに行く。
窓からは前の道と向かい側の家。もう夜は明けて、朝日が差し込んでくる。
少し明るくなった部屋の中、机の上の鏡を覗き込む。肩過ぎまでの少し癖のある茶色い髪に、茶色い瞳。痩せても太ってもなくて、背もそんなに高くない。鏡に映るのはいつもの私だけど、頭の中にもうひとつ、浮かぶ姿がある。
背中半ばまでのサラサラの黒髪に、黒い瞳。もうちょっと細身で背が高い。
「思い出した……」
私はサクラヒカリだった。
私はマヨネ。十六歳。
ここハルエルムの街の商家の一人娘。
王立学校では最終学年で、卒業したら家業を継ぐため家で働くことになっている。
成績も普通、何も特筆することのない、本当に平凡な女の子。
あまり表に出るのは好きじゃない。友達には商人向きの性格じゃないよねってよく言われる。
そんな私がたった今思い出したこと。
私は以前、サクラヒカリという名の女の子だった。
私と同じ十六歳で、コウコウという学校に通っていた。
とっても明るく元気で、なんにでも一生懸命で。失敗はちょっと多くても、くよくよせずに前向きで。いつも皆に囲まれて、いつの間にか周りを笑顔にするような女の子。
私の中のヒカリの記憶はキラキラと眩しい。
いつも皆の輪から一歩下がっている私とは、全然違ってた。
その日学校はお休みだったから。家の手伝いをしながら、自分の身に起きたことを考えていた。
ヒカリの記憶から、私のような人をテンセイシャというのだと知った。
私の中には十六歳のヒカリの記憶も感情もある。こんな事があってこう思ったとか。この時はこんな事を考えていたとか。そんなこともちゃんと『覚えて』いるけど。
それでも私はマヨネのままだった。
ヒカリのように明るい女の子じゃない。
おとなしくて引っ込み思案な、これまで通りのマヨネでしかなかった。
どうせだったらヒカリみたいな性格に変われたらよかったのに。
そしたらあの人に話しかけたりできるかもしれないのに。
そんな風にちょっと落ち込みながら、一日を終えてベッドに入った。
また真っ白の中にわたしはいた。
一度目は慌ててたから気付かなかったけど、よく見ると姿は今までのわたしじゃない。目の前に引っ張ってきた髪は茶色だし、身体つきだって違うもんね。
どうしてかはわからないけど。何があったのかはわかってるよ。
わたしは佐倉ひかりであって、マヨネでもある。
つまり!
これって噂の転生だよねっ?
お読みくださりありがとうございます!
ひかりの思考では「わたし」
マヨネの思考では「私」となります。