蒼穹の騎士の初戦闘①
姉さんと遊んだ後、俺は家族と一緒に夕食を取っていた。
はっきり言ってここに出てくる料理の全てがすごく美味しい。
やっぱり金持ちなだけあって良いもの食べてるんだな。
いつかこの家を出る時までありがたくこの恩恵を受け続けることにしよう。
『なあシエル』
『どうしたレオン。腹減ったのか?』
『そうだなすごく美味そう……じゃなくて!』
『じゃあどうしたんだよ』
『その料理、魔法薬が入ってるぞ』
『へえ、吐き出した方が良い?』
『いや、大丈夫だ。もう解析アンド分解済みだ』
『良かった。吐くのって疲れるからな』
食道も胃酸で痛くなるのも中々につらいしな。
『まあ汚い話は置いておいて、問題は誰がこんなことをしたか、だな。あとその動機もか』
もしやこの家に十二星座龍神教もしくはフォルの使徒でもいるんじゃ無いだろうか。
まあ、可能性としてはこの一週間散々エンカウントした十二星座龍神教の方が高いが。
少なくとも良からぬことを考えている奴に違いない。
『レオン、魔法薬の効果は何だったんだ?』
『強制睡眠だな。それも遅効性の』
『なるほど、暗殺が目的では無いのか』
今もなお平穏に食事を続ける家族は気付く様子もない。
それほど高い魔力効果のある薬なのか。
作った奴の魔法騎士としての相当な実力が窺えるな。
みんなには何も知らせずに俺一人で夜、行動を起こそうとしている犯人を捕まえた方が良さそうだ。
『ひとまず今は何も気付かないふりをして過ごそう。レオンやみんなは怪しい奴がいないか魔力感知で調べといて』
『ああ、分かった。十二人体制でしっかり目を光らせておく。何か気付いたらすぐ知らせる』
『よろしく』
俺は目立った行動をしない為にレオン達に裏で魔力感知してもらいながらみんんが寝る時間までおとなしくやり過ごす事にした。
「姉さん、ちょっと良い?」
「どうしたの?」
「よっ、と」
「?」
「じゃあ、おやすみ」
しかし、寝る前に少し気付かないくらいのおまじないを姉さんに掛けるくらいはこっそりしたのだった。
少し経ちみんなが寝静まった頃、俺は怪しまれないよう十二星座龍の一人ジェミンの力で分身を作り出し、部屋の隅で息を殺しその時が来るのを待っていた。
十二星座龍の力は別に完全に身体を預けなくもちょっとだけなら俺のままで行使できるらしい。
だからこうして必要な時にちょっとだけ協力してもらっている。
ともかく何かをしでかそうとしている奴は絶対に今夜動きを見せる。
そう確信している俺は眠い中、頑張って集中してレオン達と屋敷中を見張っていた。
俺の心のさらに奥にいるレオン達が魔力感知すれば、相手には十中八九バレない。
ゆえに俺は五感を頼りに、レオン達は魔力を頼りに敵の動きに警戒していた。
『シエル、動き出した奴がいるぞ。しかもこいつ、人のいる部屋を順番に確認して回っていやがる』
『来たか……』
『オレが出て一撃でぶっとばしちまおうぜ』
『いや、何もしてない内はこちらからは何も出来ない。そいつが何か事を起こしたら俺が直接仕掛ける』
『シエル一人でか? 危険すぎるだろ。オレじゃなくても誰かしらに代わった方が確実じゃないのか?』
レオンの言い分は尤もだ。俺単体では魔力による身体強化をしているとは言え、戦闘経験皆無で手練れの敵には苦戦を強いられる事間違いなしだからだ。
けど。
『それじゃダメだ』
『何でだよ』
『何でもかんでもみんなの力に頼ってたら俺が前に進めないだろ。世界を救うには様々な障害を乗り越えなくてはいけない。俺はみんなの器になる為に転生させられた訳じゃないと思うんだ』
自惚れているかもしれないが、俺が選ばれた意味は必ずある。
恐らく近くにいた兄さんではなく俺が転生した意味が、何か。
『だから、俺一人でやらせてほしい』
『分かった。でも、危なくなったらすぐ代われよ。オレじゃ無くても良いからさ』
『ああ、ありがとうレオン。他のみんなも良いかな?』
『ああ、全会一致で良いってよ』
レオンと心の奥から聞こえる微かなみんなの肯定の声に俺は安堵した。
普段他の奴とは収拾がつかないから直接話さないようにしてもらっている。もちろん大事な用がある時は別だ。
その代わりにこういうみんなの意見を求める時はレオンを通して意思疎通をしている訳だ。
この一週間、みんなとはそれぞれ身体を貸したり話したりで色々と知れたと思う。
どうやら十二星座龍という存在は俺にとって力としてでは無く、心の支えとしての恩恵が大きかった事にしみじみ思った。
まあ若干一名ろくに口を聞かない間柄の奴もいるけど。
ともかく話は済んだ。
俺は予想の範囲内だった犯人の目的をこっそり盗み見る。
奴はぐっすり眠る姉さんを抱き抱え、屋敷の外へ連れ出そうとしていた。
俺は先回りし、屋敷の入り口に繋がる玄関ホールで奴を待つ事にした。
そして、俺はついにやってきた今回の首謀者である存在とシエル・エトワールとして相対するのだった。
「やあ、ジル先生。こんな夜更けにどうしたの?」
そう今回の事件の首謀者の正体は俺と姉さんの魔法騎士としての先生であるジルだったのだ。
国の騎士団に所属している彼がなぜこんなことをするのか想像はつかないが、なんにせよ碌でもない理由に違いない。
俺の問いかけにジルはバツの悪そうな顔をした後、代わりに真っ当な疑問を返してきた。
「どうして君が? まさか、私の計画を全て知っているのか?」
「さあな。少なくとも動機や正体は知らないさ。けど、姉さんを連れて行くって言うなら倒すだけだ」
そう言って俺は訓練で使っている剣をジルに向けた。
レオン達は事前に話した通り手を出さないで見守ってくれているようだ。
「ハッ、君が私を倒すだと? 心騎武器も持たない人として不完全な君がか? 笑わせてくれる。良いだろう、やれるものならやってみるが良い。殺す前に冥土の土産に私の全てを教えてあげよう」
悪役しかも小物のテンプレみたいな事を言い出したジル。
そういう慢心とフラグは俺からしてみれば凄く嬉しい。
だが、奴が言う事にも一理ある。
心騎武器を持たない事はすなわち誰でも出来る魔法の行使が出来ないと言う事だ。
ちなみに十二星座龍のみんなも心騎武器は持っていない。
使っている武器は全て創世者が作った凄いものらしい。
とにかくこの戦いで心騎武器の重要性が明らかになるだろう。
「では改めて、私はジル。フォル騎士団所属の魔法騎士にして栄光あるフォルの使徒の一人である!」
「なるほど、フォルの使徒だったか」
ジルは予想していた通りフォルの使徒だった。
まあ今まで出会った十二星座龍神教は分かりやすくお揃いのケープなのかローブなのかよく分からない服を着ていたからな。
それを正体をばらす時でさえも着ていないジルは消去法でフォルの使徒だと決まっていたのだ。
「ほう、我々の事を知っていたのか。ますます殺すしか無いな」
そう言いジルは担いでいた姉さんを床に置き、心騎武器を構えた。
「君の姉を英雄の後継にする為攫った訳だが、果たして君は私を止め姉を取り戻せるかな?」
そして、目的を明かしたジルは己の心騎武器である剣で俺に斬りかかってきた。
それに対し俺も持っていた剣で受ける。
ジルの連続攻撃に俺は防ぐだけで精一杯だ。
伊達に王国の騎士団に所属している訳ではないらしい。
潜ってきた戦場の数が違うのだろう。
だが、俺にだって出来ることはある。
まず俺は魔法を使わず舐めて掛かってきているジルの剣捌きを見切り攻勢に出た。
ジルが斬りかかろうとする前に魔力による身体強化で先に攻撃を叩き込み、攻撃のリズムをずらす。
体勢が崩れたところを見逃さず、空いた胴に魔力付与を施した剣による攻撃を繰り出す。
渾身の一撃はすんでのところで防がれたてしまったが、それでもダメージが全く無かった訳では無さそうだ。
「教えて間もないのにその剣の強さ、少しはやるようだな」
「まあな」
昔から大抵の事はすぐに出来たからな。今回も見本になる人が周りにたくさん居て良かった。
「睡眠薬も無効化したとなると、本当に末恐ろしい子供だ」
「そんなことよりのんびりしてて良いのか? 俺が他の人の睡眠薬も無効化しているかもしれないぞ」
ジルが睡眠薬の話を出したので俺はそれに乗っかり鎌をかけた。
「はったりだな。それにしてはみんなぐっすりだったし、君にそんな素振りは無かったはずだ」
「さあ、どうかな」
「心理戦は時間の無駄だぞ。なぜなら君はこれから俺の魔法によって為す術もなく殺されるからだ」
ジルはそう言うと心騎武器を先程とは違った形で構えた。
「炎よ、彼方へ行き、煌々に咲き誇れ!」
剣の先を真っ直ぐ俺に向け、その場で詠唱を始めたジルを阻止する術は今の俺には無い。
良い感じに距離を取られたせいで今から走っても至近距離で魔法を喰らうだけだ。
あれこそが心騎武器の従来の使い方の一つだ。
言わば魔法使いの杖の役割を担っている心騎武器は魔法発動の要だ。
魔力だけを持っていても人間では魔法として使うことが出来ず、だからこそ魔法騎士には質の良い魔力と質の良い心騎武器の両方が求められると言う訳だ。
まあ心騎武器を持たない俺は論外だけどな。
この世界に心騎武器を持たない人間は存在しないと言う。
その点で俺はまず人として論外らしい。
しかし俺が思うに心騎武器には真の力がある。
読み漁った文献の中にそう言った記述もあり、姉さんのような使い方をするのが正しい心騎武器の使い方ではないかと考えている。
だからあんなに姉さんは強いんだし。
そんなことを一瞬にも満たない時間で考えていたらジルから魔法が放たれそうだ。
「レベル1魔法炎花球!」
一見するとただの火球だが、あれは着弾時に炎の花を咲かせ辺りに炎を撒き散らす魔法だ。
避けたら屋敷が大火事になるだろう。
よって俺は魔法を斬って消滅させる事にした。
着弾前に斬る事で空中で霧散させ、火の粉すら落とさない方法だ。
だが、俺の行動を奴も読んでいたらしい。
ジルは詠唱を破棄し質よりも量で勝負を仕掛けてきたのだ。
初歩的な魔法だからか詠唱破棄をしても威力はさほど変わらず、ジリ貧になっていく。
ついには諸に腹に直撃し、俺は後方に吹っ飛ばされてしまった。
幸い魔力による身体強化のおかげで大きな怪我では無かった。みんなの魔力のおかげだな。
しかし、痛いものは痛い。
一つだけ手は残っているが中々に厳しい状況と自分の力の無さを痛感した事で俺は倒れたまま静かに目を閉じた。




