2話 魔剣士への憧れ
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時は流れ10年後
土龍暦1054年 4月10日 春の季節
「ハッ」「エイッ」「十字切り」
カンカンと心地よい木剣のぶつかり合う王城の訓練場の一角に小さな子供と銀色の鎧を纏った戦士が居た。
子供のほうは言わずもがなジルフレッドである。
ジルフレッドは訓練着の小さな皮鎧を着ていて手には皮のグローブを着けている。
ジルフレッドの身長は同年代と比べて少し高めであろうか。
片手にはロングソードを模した木剣を持ち、もう片方には木の小さな盾【スモールシールド】を持っている。
「ふむ、本日はこのくらいにしておきましょう」
そう言った銀色の鎧を纏った戦士、王の右腕と呼ばれる男。
名をハインツ=タガールという。
戦争ではどこからともなく現れ王の窮地を何度も救ったことから付いたあだ名が虚空の魔槍士ハインツ。
ハインツの年齢は42才ということだが、見た目はまるで20代後半のように若々しい。
茶色のヒゲを綺麗に整えており、髪もフサフサである。
肉体は王の様にガッチリではなく、線は細いが筋肉が付いている感じだ。
ハインツは辺境の地を統治している伯爵である。
戦争中でなければ、ハインツも辺境へと帰還するものの未だルシエダ共和国との小競り合いが続いているため、王城の一室に宿泊している。
辺境のすぐ近くには古びた遺跡があり、そこから這い出た魔物を討伐しなくてはならないから実力が伴わない限り辺境を任されることはまずない。
ハインツはジルフレッドの剣を軽く受け流した後まだまだ力の底が見られないほど優雅にジルフレッドの剣を弾く。
カランカランと甲高い音が響き渡り、ジルフレッドが肩で息をする。
「はぁ、はぁ、はぁ、ふー」
ハインツに技量により木剣が弾き飛ばされて二人の打ち合いは終了となった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
お互いに礼を交わし、今日の打ち合いの感想を述べあうのがここ2年ハインツの休日以外続けていた。
「ハインツさんは凄いや!2年も訓練しているのに1本もとれる気がしないよ。
せっかく覚えた十字切りですら、簡単に防がれちゃったし」
「ハハハ、ジルフレッド坊ちゃまも中々ですよ。
私が見るに坊ちゃまは剣の才能があるようですね。
とはいえその才能を磨き、伸ばすためには日々鍛錬あるのみですがね」
その言葉にジルフレッドは歳相応の笑みをうかべる。
「でも本気で戦う時は魔法も使うんでしょ?」
「ええ、正確には王より賜った雷のオーブを槍に組み込んだ魔槍【迅雷槍】に雷をまとわせて戦います」
ハインツは腰に携えた魔槍を見やり、ジルフレッドへ視線を戻した。
「雷をまとわせるとどうなるの?」
「そうですな、何も対策してない剣と打ち合えば、一瞬で相手を感電させたり、魔力を大量に送り込みそれを打ち出しせば、この槍の先端より雷を放出してっ、、、
失礼しました。こんな話は坊ちゃまにはまだ早かったかもせれませんな」
「えぇーそれくらい大丈夫だよ、僕も戦争について少しは学んでいるし。でもそんな凄い槍があるんだね!いいなぁー僕も使い捨ての道具や魔石じゃなくてオーブが欲しいなー」
ハインツの持っている魔槍は槍に組み込まれたオーブに魔力を送り込み、属性を纏わせたり、組み込んだ属性の魔法を相手に打ち出したりと様々な用途ができるとのこと。
オーブは魔力を送り魔法を放ったとしても中に溜め込んであるエーテルが極めて絶大且つ、24時間ほど経つと使用したエーテルが復活するためオーブはとても貴重な代物だ。
通常の属性魔石や戦いが主目的のエーテル量を蓄えた道具を剣に組み込んだり、持ち運んだ物は消耗品となる。
魔石のエーテルを全て放出した時、魔法触媒の役割が無くなり魔法は使えなくなりただの武器になる。
ハインツの持っている【迅雷槍】は優れた鍛冶屋が何本も何千も槍を作成し、その中でできた一振りの業物にオーブが取り付けられた魔槍だ。体内の魔力が多ければ多いほど、または組み込んだ魔石やオーブのエーテルの濃度が濃ければ濃いほどに強大な力を発揮すると言われている。
尚、極小の属性魔石は生活を便利にするために使用されている。例えば火の魔石を暖炉に投げ入れた後、魔力を送って火を点けたり。
光の魔石はランプの中へ魔力を送ると何時間も明りが灯る。
もちろんランプのスイッチを操作して途中で消すことも可能だ。
「坊ちゃまはあの魔法大国の才女マルチナ様の子なのですから、いずれは私を超える魔力の持ち主になって隣国との戦争を終結させ、この国をもっと豊かにして頂きたいですな」
「えへへっそうなるといいな」
ジルフレッドは自身が魔剣士となる未来を想像して満面の笑みでハインツにそう言った。
土龍暦1048年、ジルフレッドの妹プラスチナ=マーガス生誕
土龍暦1051年、ジルフレッドの弟ナベリウス=マーガス生誕