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25. 私の言葉

統治体制が整った。

元々オダリス・ルベルジュ公爵が統治していた領地は、私に引き継がれることになる。

住民たちも故郷を取り戻した私ならばと、快く受け入れてくれた。


目下の問題は外交。

周辺諸侯と協調する姿勢を示し、聖女の力で寄与していかなくてはならない。


また、王国との外交もどうするべきか。

公爵という立場上、隣合ったサンドリア王国との外交は必須。

王国貴族には私の顔を知っている者も多く、どうしても対面は避けられない。

今は代理を立てるという策を考えているが、そのうち深く検討していかなければならない課題だろう。


人材の登用も管理した。

リアナを侍女長に任命し、ほか優秀な文官や執事などを雇った。

公爵家のわりに使用人の数は少ないが、そのうち規模を拡大していく予定だ。


「エムザラ。式の準備が整った」

「グリム。いま行きます」


そして欠かせないのが彼。

グリムは宮殿を離れ、執務の拠点をルベルジュ公爵領に移してくれることになった。

私だけでは不足した知識を補ってくれる、心強い味方と言える。


新装成ったルベルジュ城にて、まもなく式が開かれる。

私がルベルジュ公爵となった祝いの式典が。

初めて顔を合わせる重鎮も数多くいる。

失礼がないように気をつけないと。


「こういう祝いの場でこそ、気を引き締める必要がある。聖女に言い寄ろうとする諸侯、潜んでいるかもしれないゼパルグ王子の手の者、それにオダリス元公爵だって地位を取り戻そうと間者を忍ばせているかもしれないし……」

「考えたらキリがありませんね。警戒するのはもっともですが、素直に式典を楽しむことも大事でしょう」

「楽しむ……か。君がそんなことを言うとは、成長したものだな」


グリムは目を丸くした。

ああ、そうだ……私にはパーティーを楽しむなんて感情、なかったはずなのに。

今は素直に喜ばしいと感じている。


自分でも変わったと思う。

そしてこれからも、私は成長し続けていくのだろう。


「さあ、行きましょう。賓客の皆さまがお待ちです」


私はグリムと共に大広間へ向かった。


 ***


多くの重鎮が集まっていた。

新たな公爵の誕生、それも聖女が後を継ぐとなれば注目されるのは当然だ。

バルトロメイ殿下、ペドロ侯爵、隣国のロックス伯爵まで……見知った顔も散見される。


まずは挨拶をしなければ。

位の高いバルトロメイ殿下から礼をとっていく。


「バルトロメイ殿下、お越しくださりありがとうございます」

「帝国の公爵が新たに生まれたとなれば、来ないわけにもいきますまい。それに……これから帝国を救ってくださる聖女様が、いかに重要な存在であるか……この式典で私がアピールしなければなりませんから」

「お願いします。私が必ず、帝国を救ってみせますから」


殿下は鷹揚に頷いた。

自国のことを真っ先に考えるバルトロメイ殿下が帝位を継げば、将来的に国も安泰だろう。

それに、彼ならば私の立場も重んじてくれる。


殿下に礼をとったら……次はグリムに挨拶するのが適当なのだろう。

しかし、彼の方に視線を向けると首を横に振られてしまった。

俺に挨拶はしなくていい、そう言っているようだ。


では、その次は帝国の宰相に……順番を考えて挨拶をしていこう。


 ***


参加者に挨拶を終える。

これから私の演説のようなものがあるのだが……緊張はしていない。

私は元来そういう性格なのだと、最近になって気づき始めた。


素直に考えを言えばいいだけだ。

言葉の裏を読まなくてはならないときも貴族にはあるが、今は猜疑心に駆られるときではない。


聖女として、公爵として。

どちらも民を庇護する地位なのに変わりはないから。


「みなさま、本日はお集まりいただきありがとうございます。私がこの度ルベルジュ公爵となった――聖女"エムザラ・ルベルジュ"です」


もうエイルの姓ではない。

私は皇帝陛下より拝命し、明確に帝国貴族の一員となった。


名前を変えただけで、過去が消えたわけではない。

しかし、意識の中にはたしかに変わるものがあった。


「私は公爵として民を救うとともに……聖女として、帝国を救うことを誓います。ただし、私ひとりの力で為し得るものではありません。瘴気などの穢れから帝国を救うには聖女の力は必要不可欠ですが、私がそこに至るまでには多くの助力がありました」


グリムに助けられたこと。

ロックス伯やリアナ、皇帝陛下たちから支えがあったこと。

それらの支えがなければ私は今の立場までたどり着けなかった。


あのまま王国で殺されていたか、それとも人形として永遠に働かされていたか……どちらも嫌だ。

私は私の意思で生きたいと思う。


「ですから、どうかみなさまも私に力をお貸しください。みなで一つになり、帝国の未来を作っていきましょう」


拍手喝采が響く。

形ばかりの演説だが、噓偽りのない本心を述べたつもりだ。

この帝国で生きると決めたから。


観衆の中から、グリムが晴れやかな笑みでこちらを見ていた。

私もまた彼に笑い返す。


あなたと共に、幸せな未来を生きたい。

それが私の願いだから。

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