24. 成長
ルベルジュ公爵領で浄化を始めてから時が経ち。
いま、私は皇城でヘルフリート皇帝陛下と相対していた。
「聖女エムザラ。お主のおかげで、ルベルジュ公爵領は活気を取り戻しつつある。すでに民の住まう領域は取り戻され、復興が進んでいるそうではないか」
「はい。しかし、私の力だけではありません。復興に尽力してくれたグリムや民の協力があってこそ、今の形まで戻ることができたのです」
最近はずっとルベルジュ公爵領に入り浸っていた。
というのも、故郷を取り戻した民たちと話すのが楽しいから。
復興を手伝うグリムも民から慕われていて、あの場所で過ごすのは楽しそうだ。
「ふむ、そうか……民からの信頼も厚いと聞く。聖女であるお主ならば、やはりルベルジュ公爵領を継ぐに相応しいのかもしれんな。それにグリムの居場所も……」
グリムの居場所。
私は陛下の言葉を聞き逃さなかった。
やはり陛下も、宮殿でグリムが過ごしづらそうにしていることに気づいているのだろうか。
「すでにバルトロメイに命じ、叙爵の準備は整えてある。諸侯の了承も得ているため、お主が望むのならばいつでも爵位を授けられよう」
「近いうちにお願いします。今はペドロ侯の補助も受け、ルベルジュ公爵領の領地を引き継ぐ準備を進めておりますので」
「うむ。そして、聖女よ。ルベルジュ公爵領がある程度浄化できたら、他の領地の浄化も頼みたいのだが……」
「もちろんです。遠慮なくお申し付けください。それが聖女の役目ですので」
「助かる。よろしく頼むぞ」
他の領地の浄化を進めていけば、そこの領主とも親交が結べる。
とにかく近隣の領主から敵視されないことが重要だ。
未だに聖女の力を疑っている貴族も散見される。
そんな彼らにこそ、実績をもって真実を証明しなければならない。
まずは公爵位を継ぐ準備をしよう。
私は陛下に挨拶をして、ルベルジュ公爵領へ帰還した。
***
「お帰りなさい、聖女様!」
「聖女様、お疲れでしょう? ウチのリンゴをどうぞ!」
「わーっ、聖女様だ! きれいー!」
復興中の街に戻ると、住民たちに囲まれる。
日増しに私に接してくれる人が多くなっているような気が……それだけ信頼されていると思っていいのだろうか。
人の波が割れる。
グリムが困ったような表情をしてやってきた。
「グリム殿下!」
「聖女様と一緒だと絵になるなぁ……」
「殿下、いつもありがとうございます!」
グリムは向けられる視線に困りながら、そっと私の手を引いた。
人に囲まれることに慣れていないのは彼も私も同じ。
「ずいぶんと慕われたものだな。君も、俺も」
「ええ。慕われるだけの功績を残したということでしょう」
「君はともかく、俺は暇だから復興しているだけなんだが……まあいい。こうして見られているのも落ち着かないし、早く屋敷に戻ろう」
急ぎ足でグリムの後を追う。
去り際、民たちに手を振ると彼らも振り返してくれた。
馬車で向かった先はルベルジュ公爵領の中央。
オダリス元公爵の居城だ。
あの城も瘴気に汚されていたが、隅々まで私が浄化して使わせてもらっている。
しばらく馬車に揺られ、降りる。
見上げると視界に収まりきらない大きな城が。
やはり帝国は領土が広いだけあり、貴族の邸宅も桁違いに大きいようだ。
……維持が大変そう。
城の中は静かだった。
というのも、まだ使用人をほとんど雇っていないから。
グリムが雇用した信頼のおける従者を、リアナが侍従長としてまとめている。
私たちはよく使っている客間に入る。
グリムは復興作業の疲れからか、深々とソファに体を沈めた。
「それで、父上……陛下とはどのような話を?」
「叙爵についてです。準備が整っているので、いつでも爵位を授けられると言われました。あとは他の領地の浄化もお願いされましたね」
準備ができている……と陛下から言われたが、私たちの方はまだ準備が整っていない。
圧倒的に人材や資材が不足している。
グリムやペドロ侯の支援があっても足りないほどに。
「陛下からすれば聖女は何としても帝国で囲っておきたいだろうからね。迅速に爵位を授ける準備を進めたのも納得できる。しかし、まだ領地経営の準備が整っていない」
「そうですね。優秀な文官も雇わないといけませんし、何より復興作業が最優先です」
「聖女が領主となれば、取り入りたい周辺諸侯が復興に協力してくれるだろう。ルベルジュ公爵領は、帝国全体で見ても重要な貿易ルートだったから。とはいえ、利用されないように注意する必要もあるが」
私は帝国の政治事情について疎い。
領地経営の技能はそれなりに培っているものの、協力者の存在は不可欠だ。
そこで私はかねてよりグリムに話そうと思っていた提案を示した。
「グリム。よろしければ、あなたが領地経営を手伝っていただけませんか?」
「……元よりそのつもりだ。君に頼まれた範囲で干渉はするつもりだったが……あまり深入りしすぎないようにも考えていた」
「私はルベルジュ公爵領の根幹にグリムが関わってほしいと思っています。民からの信頼もあるグリムならば、問題ないと考えました」
帝王学を修めているグリムなら問題ない。
それどころか、領地経営に携わってほしい最適の人物だと思う。
彼の助力がなければここまで来られなかったのだ。
だから、これからも彼に付き添ってほしい。
「受け入れよう。俺も、エムザラが慕ってくれる民と共に生きるべきだと思うしな。あとは人材の登用だ。それについては俺に任せてほしい。ある程度見繕ったら、君に報告するよ」
「わかりました。お願いしますね」
こうして月日は流れていく。
私は人形から抜け出し、一人の聖女として、貴族として。
次第に成長している気がした。




