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オムライス  作者: 六連
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 時間はとうに過ぎていたのだが職員は何事もなさそうに二人を迎え入れてくれた。

 二人以外に観覧者はおらず貸し切り状態だ。もし二人が来なければ上映しなかったのかもしれない。

 案内されて中央の座席に座る。

 徐々に暗くなる室内に彩香は小さな悲鳴を上げかと思うと天上に映し出される星々に感嘆の声を上げた。

 職員から星の説明がはいるが聞いているのかいないのか、彩香は逐一感想を述べていた。「綺麗」や「凄い」と言った簡単な感想ではあったがそれだけ目の前の光景に圧倒されているのだろう。

 星の光で僅かに映し出される彩香の顔。白い肌がプラネタリウムの星の輝きで青白く照らされて幻想的に見え、浩平には彩香が自分とは違う世界の人間に写った。

 目には星の光が写りキラキラと輝いている。それだけで浩平は連れてきて良かったと思えた。

 先ほど彩香が告げてくれた言葉を思い返す。

 これから先は彩香が居てくれる。自身の生まれを知りながらも傍に居てくれると言ってくれた。

 それだけで救われる。自分は生まれてきた事は間違いではないと言ってくれている。それだけが酷く嬉しい。

 となりで星に見入る女性に浩平は眼を奪われていた。

 結局浩平は星などほとんど見る事無く上映を終えた。

 幻想郷から現実へと引き戻される。

 目を瞬かせて開いた瞳孔を収縮させながら浩平は気落ちする。浩平はこの瞬間が苦手で仕方ない。

 強制的に夢から起こされる感覚。夢見心地が良ければ良いほど起きた時の侘しさは比例する。いや、この気分の落ち方は落胆に近い。ようやく眠れると思った矢先に無理やり起こされる感覚。

 背もたれを起こしながら隣を見ると彩香はまだ背もたれを倒したままだがその両目は大きく見開かれていた。

 予想は出来るが浩平は彩香の口から感想を聞きたくなった。

「どうでした?」

「……凄かったです。流れ星も夏の大三角形も見えるもの全部、凄かったです」

 ゆっくりと体を起こしながら彩香は興奮した様子で話す。

「実際の夜空だと分かりにくいのにこうしてプラネタリウムで見ると凄く分かりやすくて、点と点にしか見えなかった星が線を引かれるとその星座に見えてくる。凄く分かりやすくて、凄く綺麗な時間でした」

「なら良かった。そんなに喜んでくれたなら」

 浩平としては彩香のその姿が見れただけで来た価値があった。

 ならお昼ご飯や晩御飯も約束通り作ればもっと喜んでくれる事だろう。

 浩平の手が彩香に差し出される。

「じゃあもっと喜んでくれるようにお昼は頑張りますよ」

 言葉の意味を理解したのか彩香は手を取りながら、

「オムライスですか?」

 思いだしたように声を上げた。

「ええ。夜はハンバーグですよね」

「はい! 楽しみです!」

 まるで子供みたいにはしゃぐ彩香。図書館では浩平を慰めながら年上だと言っていたがもう元に戻り子供のようだ。

 おかげで図書館での陰鬱さも、プラネタリウムでの目覚めの悪さも吹き飛ばしてくれる。

 手を繋ぎながら出口に向かう二人の様は恋人の様にも見えるし、親子のようにも見えるし、友人のようにも見えた。



 二人はそのまま帰路につく道中、スーパーに寄ってオムライスとハンバーグの材料を買った。卵と玉ねぎ。鶏肉牛ひき肉。それと豆腐。トマトケチャップは冷蔵庫にまだあったのでそれを使うことにした。

 二つの買い物袋。幾分か重い方を浩平が持ち軽い方を彩香が持った。

「浩平さん」

 彩香が袋を覗き見ながら問いかける。

「何です?」

「本当にお豆腐がパン粉の代わりになるんですか?」

「なりますよ」

 先ほども豆腐を買う時に出た質問。どうやら彩香は豆腐をパン粉の代用になるのが納得いかないらしくスーパーでも同じ質問をしてきた。

 その質問に浩平は先ほどと同じ答えを返す。

「重石を置いて水を抜けばパン粉の代わりになるんですよ。パン粉よりはヘルシーに出来ます」

 先ほどスマホで検索した知識をさも初めから知っていたように話す浩平。

「……へるしー?」

 ヘルシーの意味が通じず言葉を繰り返す彩香。その顔はやはり懐疑的だ。

「そうですね。卯の花も豆腐じゃないですか。あれってなんかパン粉に似てません?」

「まあ、似ているような気もしますけど……」

「現代だとあんまりおからって売ってないんですよ。なので代わりに水を抜いた豆腐をおからの代わりに、そのおからをパン粉の代わりにつなぎに使うんです。パン粉よりもお豆腐の方がさっぱりしてますから」

「そういうものですか?」

 まだ納得がいっていないようで不満そうに眉を寄せている。

「あとはパン粉を買うよりお豆腐の方が使い勝手が良いですから。余ってもそのまま食べれますし」

「ああ、それだと良いです。無駄がないのは良いです」

 納得したように頷く彩香に浩平は少し驚いた。話を聞く限り銀座に行ったりプラネタリウムを知っていたりとそれなりに裕福な家の娘かと思っていたので無駄を意識していることに驚いた。

 現代社会に直ぐ適応したりと論理的で理知的ではあるが高飛車ではないし家柄をかさにきるわけでもない。

「彩香さんの家ってお金持ちなんですよね?」

「……どうしてですか?」

 家の話になると彩香の顔がまた怪訝なものに変わる。

「いや、話を聞く限りなんだか凄い家なのかなって。初めて会ったときも俺が彩香さんを知ってるだろうって言ってたし、銀座に行ったりしてるから村で有名なのかと思って」

「ああ。まぁ、そうですね。それなりだと思います。だから広島なんて遠いところにお嫁に行けって言われましたから」

 以前していた話を思い出す。親の決めた嫁ぎ先が広島だということを。

「埼玉から広島じゃ遠すぎですよね」

「そうですね。遠すぎます。でも今考えると広島でもまだ近いかもしれませんね」

 こうして未来に来ている訳ですから、と彩香は可笑しそうに笑った。

「いつも寝る前に思うんです。これは夢で目が覚めたらいつもの日常に戻るんじゃないかって。今こうしているのも夢で起きたら自分の部屋の布団で目覚めて部屋から出るとお父様とお母様がいて」

「お手伝いさんがいるって言ってましたよね?」

「はい。お父様もお母様も忙しいので……」

「お手伝いさんいるとか凄いですね」

「そうですか? でも、ひとりではなかったですけど寂しくはありましたよ。お父様も、お母様もいつも忙しそうでしたし」

「そう、ですか」

 話を聞きながら浩平は思い出す。自分が子供の頃はどうだったろう? 母が倒れたときの記憶はある。けれどそれ以前はどうだったろう。何を話していたろう。

 倒れた母の記憶が強すぎて思い出せない。

「それでも育ててくれたことには変わりありませんし、今回のお見合いも私の幸せを考えての事なのもわかりますけど、なんだか……」

 歯切れの悪い言葉に浩平も歯痒く思う。

「さっき図書館で戦争の写真や話を聞いて、なら広島に行かない方が良いのかなって思いました。爆弾を落とされて沢山の人が死んでいくのに、自分からわざわざ地獄に行かなくてもいいのかなって」

 思いだされるのは先ほど図書館で見たもの。浩平はそれを広島の平和資料館で見ている。

 荒野と化した町の写真。地面に焼き付いた人型。死者の遺品。被爆者の描いた絵。

 浩平が高校三年の時に行った修学旅行の行先が広島だった。その行先の予定の中にあったひとつが平和資料館だ。

 中の展示物や資料映像。それらを見て泣き出す生徒がいたのを覚えている。

 あんな地獄が具現化したような事がかつて日本にあったのだ。そしてその地獄は祖父や母。自分自身を今でも苦しめている。

 浩平としてはそんなところへ彩香を行かせたくはない。提案通りこのまま現代にいれば良いと思っている。

 残した家族の事もあるだろう。けれどそれを秤にかけても釣り合うと思えるほどの地獄が待っているのだ。

 何世代にも渡って人を苦しめる地獄が。

「……良いと思いますよ」

 気づけば肯定の言葉が浩平の口をついて出た。

「彩香さんのご両親には申し訳ないですが、俺としては彩香さんにあんな地獄に行って欲しいとは思いません。知っている人だから。経験していない俺でもわかるぐらいの地獄ですよ。あの時の広島は」

 被爆者の孫だから、という気持ちを持ちながら平和資料館を訪れたが、そんなものは何の役にも立たなかった。

 跡形もなく吹き飛んだ平野。燃え盛る火の光に照らされながら歩く幽鬼のような人間。死体で埋まる川。

 あんな事が数十年前にあったのだ。資料として形作られたものではなく、あの日の日本には確かに地獄が存在していたのだ。

 そんな地獄に彼女が行くかもしれない。今自分の隣で買い物袋を持って連れ歩いているこの人が。

「戸籍とか色々と問題はあるかもしれません。でも、記憶喪失の人でも代わりの戸籍を作ってもらったのをニュースで見た事があります。だから彩香さんも大丈夫だと思います。色々覚えたり学んだりは大変かもしれませんけど俺も手伝いますし、うちにずっと居てもいいですし」

「……本当に良いんですか?」

「かまいませんよ。それに家事とかしてくれて助かってますし。このまま居てもいいですけど、とりあえず戸籍とかは何とかしないといけないんで警察とか役所とか色々面倒かもしれませんが行かないと」

「え、と……私は有りがたいですが、その」

 何か気になる事があるのか彩香は言い淀んだ。浩平は特に強制はせずに彩香が話始めるのを待った。

 しばらく歩いて意を決したのか彩香が口を開く。

「……彼女さんとはいいんですか?」

 ああ、そのことか。

 浩平はどこか他人事のように思った。恐らくは彩香が口を挟んで良いことではないとわかった上での事だろう。

 一緒に生活をしていてわかっていることだが彩香は分を弁えている。土足で人の心に踏みいるタイプではない。わかった上で浩平に聞いているのだ。

 今更かもしれないが、自分がいることで彼女との関係が完全に終わる。もしかしたら彼女の親から貰った手紙の事を伝えれば話は変わるかもしれない。向こうの親から祝福はされなくとも優子は浩平の味方になってくれるかもしれない。そしてそれは恐らくそうなるだろう。

 真っ直ぐで、愚直な彼女だった。そこに惚れたのだ。自分が被爆者の孫だと知っても恐らくは対応を変えたりはしない。むしろそれを理由に縁を切るように言った親を糾弾するだろう。

 でも、だからこそ浩平は自ら別れを切り出したのだ。

 自分も親に愛され、大切に育ててもらったと思っている。祖父にも祖母にも。

 そんな自分が誰かが大切に育てた人を、大切にしている誰かを裏切るような真似はしたくなかった。だから浩平から別れを切り出した。分かっているから別れたのだ。大好きだから。

 自己陶酔かもしれない。自惚れかもしれない。

 それでも彼女の幸福を願う位には愛していたのだ。周りから祝福されるような幸福を望んだのだ。

 自分ではダメだ。自分では彼女を幸せに出来ない。

 孤独に生きようと決めた。なのに目の前に孤独な少女が現れたらそちらにうつつを抜かすような、あわよくば自分と共に生きてくれるのではと逃げるような下衆な人間だ。

 彼女に相応しくない。そして、それは目の前の少女に対しても同じで。

 だから言い訳のように、保険のように言うのだ。

『このまま居てもいいし』と。

『元の時代に戻るよりは』と。

『好きにしてていいんだ』と。

 嘯いているのだ。

 我ながらなんと醜悪な偽善者だ。心配や優しさを笠に着せ接している。

 けれど今更触れた温もりを手放す勇気もない。繋がりを断つ覚悟もない。だから――。

「いいんですよ、別れましたから。彩香さんは気にしないで下さい。居たければうちにずっと居ればいいし、出たくなったら出ていいんですから」

 相手に決定権を委ねたフリをして都合の良いようにしている。

 なんと呆れた生き方か。

 そしてまたいうのだ。

「好きにしてください」

相手に委ねたようにみせかけた言葉を。

「んー……」

 浩平の言葉に彩香は少し顔を俯かせて考えたかと思うと申し訳なさそうに視線を浩平に向け、

「……じゃあ、まだお世話になります」

 伺うように彩香は言った。

 応じるように浩平も頭を下げた。

「こちらこそ。これからもお世話になります」

 まるで初めて来た日のようだと思い笑いそうになると先に彩香の口から笑みが漏れた。

「ふふ。なんだか今更言うのも恥ずかしいですね」

 歩き出した彩香が振り返りながら言う。

 その姿が一瞬優子のものと重なるが、直ぐに頭から振り払う。

「……そうですね」

 自分の考えに蓋をするように思考を閉じると浩平は彩香に速度を合わせるようにゆっくりと歩き始めた。



 家に着いた二人は冷蔵庫に食材を入れると直ぐ調理を始めた。

 今回は浩平が調理をし彩香がそれを見守るように隣にいる。

「じゃあ始めますか」

 そう言うと浩平は鶏肉を賽の目に切るとバターで炒め始めた。台所にバターの匂いと鶏肉の焼ける良い匂いが広がる。

「良い匂いですね」

 隣では彩香が鼻をひくつかせている。

「油でも良いんですけどこっちの方が匂いが良くなるので」

 炒め終わった鶏肉を取りだし今度は玉ねぎを炒め始めた。手際よく行われる作業に彩香は観察するようにジッと見続けている。作業工程を説明しながら浩平の手は止まらずに動き続けた。

 中身であるチキンライスを作り終え次は玉子を焼く工程に移った。溶いた卵に牛乳を少し入れる。

「……牛乳をいれるんですか?」

 その工程を不思議に思ったのか彩香が問いかける。

 火加減を見ているのか浩平は視線をフライパンに向けたまま答えた。 

「牛乳を入れるとまろやかになるのと火が通りづらくなるんでトロトロに出来るんですよ。あんまり料理が上手くない自分はこっちの方が卵が固くならずに出来ます。なければ水でも良いです」

「へー……」

 感心しながら彩香も浩平と同じようにフライパンに集中している。

 そういえばかつて自分も彩香と同じように母に貼り付いて料理を作るのを見ていた。懐かしい記憶。

「母親に教わったんですけどね。優子も作り方が同じでどこの家庭も同じなんだなって思いまし――」

 不意に口をついて出た人物の名前に浩平は言葉を途中で止めた。何だかんだ言いながらもまだ無意識の中にいる元彼女の存在に自己嫌悪になる。

 ちらりと彩香を見るが特に気にも留めていないのか視線をずっとフライパンに向けている。

 どうやら聞き流していたようだ。

 胸を撫でおろしていると、

「火加減はこのぐらいですか?」

 言われて慌てて見るとフライパンから少し煙が立ち上り始めていた。

「あ、ああ。いや、これだと少し熱いんで濡らした布巾で少し温度を下げます」

 用意していた布巾にフライパンを置くと一瞬蒸気が上がった。直ぐにコンロに戻し火を弱める。

「玉子は熱を加えていけばいつかは固まりますから、弱火でじっくりやると失敗しませんよ」

 浩平の説明に彩香は頷いた。

 そして浩平はゆっくりと溶き卵をフライパンに落としていく。

 ゆっくりと気泡を吐きながら焼かれていく玉子。

「で、少し半熟のまま少しかき混ぜて」

 箸で混ぜると手際よくそれを包むようにオムレツを作る浩平に彩香は険しい顔を浮かべた。

「……今のどうやったんですか?」

 目の前で行われる作業に理解が追いついていかないらしい。

 説明を求められた浩平だがこれに関しては何とも言えない。浩平自身も何度も挑戦して覚えたものだ。優子の作業を見て、自身で行い覚えたものなので何とも言い難い。

「えー……滑らすように回りをぐるりと焼いていく、感じですかね?」

 我ながら何とも酷い説明だと思いながら続ける。

「滑らすようにフライパンをゆすって……」

 予想通りこの説明では彩香も理解できないのか首をひねっている。

「と、とりあえず何回もやってみるとそのうちできますよ。大事なのは火を弱くしてゆっくりとやる、ですかね」

「……ゆっくり」

 咀嚼するように口で反芻する彩香。もともと料理は得意なようなので直ぐに出来ると浩平はふんでいる。

 あともう一回焼かないといけないので今度は分かりやすく説明をしないといけない。

 考えながら焼き終えたオムレツを先ほど用意していたチキンライスの上に乗せた。これで作業は終わりだ。

 出来上がったオムライスに彩香は怪訝そうな視線を向けると、

「包まないんですか?」

 どうやら彩香が食べたオムライスはチキンライスを包むやりかただったようで浩平の出来上がりのこれがオムライスと思えないらしい。

 確かにオムライスと言うと包んでいるイメージがあるが昔からこれをオムライスとして食べてきた浩平としては包んでいる方が珍しく感じる。

 それに包むやり方だと半熟が少ないので味気なくも感じるのだ。

「最後にですね――」

 言いながら包丁を取り出す。何をするのかと彩香が見守る中、出来上がったオムライスに切れ目を入れた。

 するとそこから左右に割れ、中から半熟の玉子がとろりとあふれ出た。

 熱は通っており湯気と共に牛乳の微かな甘い匂いも運ばれる。

「わあああ……」

 まるでおもちゃ箱を開けたような感嘆の声を漏らす彩香。その驚き方に浩平も嬉しくなる。

「これがうちのオムライスです」

「これは……はじめて見ますね」

 彩香の喉から唾を呑む音が聞こえる。

「あとは上からケチャップかけて――」

 オムレツにかけていく。

「はい。これで完成です」

「ほおー」

 感心しながら食い入るようにオムライスを見つめる彩香。

「もう一個焼いてみますね」

「お願いします」

 もう一度同じ作業をする浩平。その動作を食い入るように彩香は見ていたがやはり動きが理解できないのか身振り手振りで浩平と同じ動きをしてみるが納得できないのか首を傾げている。

「今度やる時は一緒にやりましょう」

「むー……お願いします」

 不服そうな彩香に浩平は苦笑を浮かべた。だがその表情も次の浩平の言葉で変わった。

「それじゃ食べましょうか」

「はい!」

 オムライスを運び座ると彩香は早々に手を合わせて食べ始めた。浩平もつられて所作を行う。

 浩平ぐらいの年になると食事の前に手を合わせるという行為をしなくなる。せいぜい、いただきますを言うぐらいだ。律儀に毎回行う彩香に親の教育を感じる。確か優子もそうだったな、とぼんやりと考えながら浩平もスプーンを持つ。

「美味しいです!」

 食べようと口を開けた瞬間に彩香の声が弾けるように飛んだ。

「あ、すいません」

 口を開けて制止している浩平を見て中断させてしまったと思い直ぐに謝る彩香に浩平は笑いをこぼす。

 彩香の口元にケチャップが付いていたからだ。

 無言で口元を指し示すと気づいたのか彩香は慌てて口元を拭った。

「美味しいなら良かったです」

「……すいません」

 恥ずかしかったのかしおらしくなる彩香に浩平は笑ったまま食事を始めた。

 こうも反応が良いと今晩もハンバーグも作り甲斐がある。

 こういう時間が続けばいい。そう思いながら浩平は自身の作ったオムライスを一口食べた。

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