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出着点 ~しゅっちゃくてん~  作者: 東雲綾乃
第1期 第3章 家族になりたい
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紫苑と流鏑馬、紫苑の流鏑馬

 紫苑に連れられて柚希がやって来たのは的が三つある流鏑馬用の練習場だった。


「ここ座って」


 紫苑が一人用の椅子を持ってきてくれた。柚希は素直にそこに座った。紫苑が気を遣ってくれたことが分かったからだ。


「カナエ行くよ!!!」


 大きくはないがよく通る声がした。柚希がそちらに目をやると既にカナエに騎乗している紫苑がカナエの脇腹を蹴ったところだった。


 砂ぼこりを上げながら紫苑はこちらへやってくる。


 そして、柚希の前で止まった。


「紫苑、すごいよ!!! めっちゃかっこいい!」


 柚希が興奮してそう言うと紫苑は少し照れたような表情になった。 


「柚希は間近で流鏑馬見たの初めて?」

「うん。というより乗馬見るのも初めて」

「そしたら今日しっかり見てって」


 そう言うと、紫苑とカナエは戻っていく。

 そして、またこちらに向かって走ってくる。





 何度それを繰り返しただろうか。一度紫苑はカナエから降りた。

 更衣室がある小屋に入っていった紫苑は次に姿を見せたときには紫苑は弓を手に持ち、腰には矢が入った筒を提げていた。


「柚希。よく見ときな。これが羽澄神社の祭礼だからね」


 そう言うと紫苑はカナエに飛び乗った。仮装束のうえから甲冑のような者を身に付けているのだからやはり重くて動きにくいはずだ。それなのに、軽やかな身のこなしの紫苑の姿からは疲労感なんてものは欠片も見受けられない。


 そして、その集中力は今までの走りとは全く違っていた。


「はっっ、はっっ、はっっ、はっっ!!」


 掛け声とともにスピードを上げながら紫苑が騎乗で手放しになる。弓を構えて思いっきり引いた。そのまま的を睨むように見つめる。そして的の真ん前に到達したときに矢を離した。


 矢は的の中心に吸い込まれるように刺さり、的が真っ二つに割れた。


 そのまま紫苑たちは次の的へと差し掛かる。

 紫苑はささっと矢を取り出し、また引く。








 紫苑はすべての的を綺麗に割った。


 練習を終えて、カナエの背から降りた紫苑はカナエのことを軽く叩いた。


「お疲れ様。今日もありがとな」


 その言葉にはカナエへの確かな信頼があることが伝わった。


 そして、紫苑はカナエにエサをやる。


「今日は練習に付き合ってくれたからリンゴね」


 カナエは幸せそうな表情をしながらムシャムシャと食べている。


 それを紫苑が見守っていた。





 後で紫苑に聞いたところ、練習をした日にはご褒美でリンゴをあげているそうだ。


「カナエはりんご食べたいから練習頑張ってるんだよ」


 そう紫苑は笑っていたが、柚希は違うと思う。

 素人目線で見ていたとしても、確かな信頼関係と絆で結ばれていた。

 そして、一心同体とはこのようなことを言うのだと実感した。





「柚希。どうだった?」

「すごいかっこよくて感動した」


 柚希の素直な感想に紫苑は嬉しそうに笑った。


「そう思ってくれてよかったよ」

「……なんで今日見せてくれたの?」

「柚希が金メダル取ったでしょ? それを見てて思ったんだ。僕も見せたいって。だから、今日は僕からの金メダルのお祝い」

「お祝いが流鏑馬なんて、紫苑くらいだろうね」

「……これでも結構考えたんだよ?」

「ふふふ、ありがとね」

「なんか不満?」

「んなわけ。嬉しいよ。いつか見たいと思ってたし」

「だから、絶対今度は柚希が見せる番だよ」

「まかせて」


 そして、二人は紫苑が着替えた後に、羽澄神社に戻る。






 柚希が紫苑と帰路に着いたとき、帰り道で紫苑が話し出した。


「いつだったか……初めて柚希と再会したときだったかな、柚希に聞かれたじゃん? 将来が決められた人生って辛くないかみたいなこと」

「うん、言った」

「僕、ずっと考えてた。それで気が付いたんだ。僕にとって弓道も神社の跡取りっていう立場もなくてはならないものなんだって」

「え?」

「やっと気づけた。もし羽澄家以外に生まれていたら全然違う人生送っていたかもしれないけど、僕にとっての家はやっぱりこの神社なんだなって。弓道も流鏑馬も僕の人生になくてはならないものなんだよ」

「じゃあ、全然辛くはない?」

「うん。今まではやらされてるって思って渋々やっていたような感じがあったからつまらなかったけど、楽しんでみたら全部が楽しくなった。だってさ、家に弓道場が常備されてるのはうちぐらいだろうし、生まれた瞬間からこんなにもたくさんの人と出会えて、支えられてもらえるのはうちぐらいだと思う」

「紫苑……」


 紫苑は帰ることのできない自分の環境を受け入れるだけではなく、それを楽しもうとしていた。


「すごいね」

「え?」

「だって、そう思えるなんてすごいなって」

「柚希を見てて、柚希と再会できたから思えたことだよ」

「私!?」

「柚希は突然足を失うっていう残酷な経験をしただろ? 僕はそのとき近くいられなかったから詳しくは分からないと思うけど、やっぱりつらかったと思う。それでも僕の知ってる柚希はいつも笑っていた。前を向いていた。足のないことを僕の前で嘆いたことなんて一度もないじゃん。僕は何を嫌がっているんだろうって思ったら変えられないことを悩んでいるのがバカらしくなったんだ。だったら、現在(いま)を変えようと」


 紫苑は乗り越えていた。そのきっかけには柚希がいた。ずっと誰かを笑顔にできるようにと練習していたが、本当に現実として達成できていたのだと知れて嬉しさと同時に照れくさくなる。


「柚希、金メダルおめでとう。それと今まで本当にありがとう」

「わたしこそ、ずっと支えられてた。ありがとう」


 柚希と紫苑は笑った。


「柚希も乗ってみる?」

「え?」

「さすがに弓はひけないけどさ、乗るだけなら別に柚希なら大丈夫」

「怖いよ」

「柚希にはたぶんあの茶色のキララが会うと思うよ」


 気が付いたら柚希は紫苑によって流され、馬の上にあげられていた。


「わぁぁぁ」


 視界が高くなると視野が広がる。

 スキーと同じようなスピード感は楽しく、柚希は全力でキララと楽しんだ

なんとか23時代にすべりこみできました(・・;)(;^_^A

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