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出着点 ~しゅっちゃくてん~  作者: 東雲綾乃
第1期 第2章 世界一へ
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台の上

「パラリンピックチャンピオン、ジャパン! ユキ・ハズミ!!!」


 表彰式の会場に響いた声に、柚希は表彰台の上に飛び乗って大きく礼をした。会場中に歓声と暖かい拍手が鳴り響く。


 柚希は満面の笑顔で手を振る。正面を真っ直ぐに見つめた柚希の目に映ったのは、笑顔で惜しみ無い拍手をくれている大勢の観客と、たくさんのカメラマンたちだった。そこには何度も撮影してくれて顔馴染みになったカメラマンさんもある程度いる。


 柚希の隣には栞奈の姿がある。名前を呼ばれた栞奈は笑顔だが少し不服そうな顔をして表彰台の二番目に登った。


「…………おめでと」


 不満の籠った小さな呟きが聞こえた。


「えっ!?」


 栞奈に視線を向けた柚希は思わず瞬きした。栞奈は涙のたっぷり浮かんだ、今にも泣きそうな顔をしていたのだ。

 そして、彼女は柚希のことを睨み付けて言った。


「何でそんなに間抜けな顔してるの。表彰式よ。あんたのための式じゃない。こっちじゃなくて、前向きなさいよ」


 相変わらずきつい話し方ではあったが栞奈は少し変化した。スキー界に入ってから追いかけ、追われ、を繰り返してきた栞奈と共に立てたことが嬉しかった。そして、二人とも今できる最大限の滑りができたから良かった。




 一位二位を日本勢が独占した。二つの日の丸が空高くになびいている様子は本当に誇らしかった。

 柚希は栞奈と君が代を歌った。


 歌っている途中に目頭が熱くなってきた…………と思ったときには柚希の両目から雫が溢れた。


 今までの苦しみ、悔しさを乗り越え続けてきた自分へ。ずっと支えてくれた家族と紫苑へ。ずっと応援し続けてくれた吹奏楽時代の友達へ。成長させてくれたスーザンとスーザンスキークラブの仲間たちへ。ここまで応援に来てくれた丞とファン、テレビ越しに声援を送ってくれた世界中のファンへ。そして、共に最高の舞台で滑ったライバルたちへ。


 これまで自分に関わってきたすべての人たちへの感謝の思いが籠った涙だった。


「ありがとうございました!!!」


 表彰台の上で大きく叫んだ柚希の目に丞の姿が飛び込んできた。

 何故か観客席の最前列で、テレビ局が作ってくれた柚希の応援バナーを振っている。


 思わず柚希は吹き出してしまった。


「ちょっと、あんた! なんで今笑ってるの!!」


 栞奈に怒られる。


「ごめん」

「別に謝ってもらわなくていいわよ!!! 私は迷惑被ってないんだから」


 やっぱり栞奈との会話は難しい。柚希は苦笑する。


「……栞奈ちゃん、ありがとう」

「なんのこと?」

「私が滑る前に拳を握ってくれたでしょ。あれにすごく励まされた」

「はい!? なんのこと!? そんなことしてないわよ!!!」


 栞奈は早口で否定した。それでも耳がほんのり赤くなっている。

 柚希は栞奈に知られないようにそっと笑った。


「…………あんなのが、あんたの役にたったのならいいけど」


 ぽつりと呟かれた栞奈の言葉が嬉しい。


「何、笑顔になってんの。怖いんですけど」

「やっとライバルって認めてもらえたのかなって思ったら嬉しくて」

「認めてないですけど」

「認めてないなら応援とかしないでしょ?」

「あれは、日本勢みんなで表彰台独占するつもりだったから咄嗟に出たことだし!! つか、あんたに金メダル譲る気なんて全くなかったんだからね!」

「次は栞奈ちゃんが勝つ番だね」


 まだ試合は続く。これからも一緒に全力で頑張ろうという意味で柚希が言った言葉は誤解されたようだ。


「何を偉そうに言ってるの!? 金一つ手に入れて満足? 全部私に勝ってやるくらいの気持ちで行きなさいよ。ま、無理だけどね」


 たとえ負けたとしても栞奈のこの勝ち気なところを柚希は決して嫌いではない。


「…………じゃ、また」

「そうね」


 インタビューなどは残っていてもひとまずこれで一旦解散だ。

 柚希はスーザンのところに一直線に歩いていく。


「ユキ、おめでとう」

「ありがとう。スーザン」


 スーザンの首に明るい色が輝いた。スーザンは微笑んだ。


「いくつになっても愛弟子のとってくる金メダルほど幸せなものはないわね」

「スーザン……」

「ありがとう。あなたは本当にすごい子よ」

「ここまでわたしが成長できたのはスーザンがいたからだから」

「私は何もしてないわよ」



 スーザンからのハグは暖かくて、少し塩辛かった。







 インタビューを終え、選手村に荷物を置き、柚希とスーザンはあるテレビ局の人たちがいるところへと向かった。一応、独占インタビューという形でだ。


 柚希が部屋に入るときに中央で立って迎えてくれた男性には見覚えがある。


「羽澄選手、金メダルおめでとうございます」

「ありがとうございます。……もしかして、フィギュアスケートの中継をされている……?」

「はい。今回のオリンピックでも実況を担当させていただきました本藤直政(もとふじなおまさ)と申します。今日はよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします」





 少々撮影の段取りを話し合い、メイクを手直ししてもらい、ピンマイクを着用し、用意されていた椅子に腰掛けるとビデオの電源がオンになる。


「羽澄柚希選手がお越しくださいました! 改めまして金メダルおめでとうございます!!」

「ありがとうございます」

「初めてのパラリンピックで圧巻の金メダル、いかがですか?」

「正直、まだ信じられない気持ちです。取りたいと思っていたし、取れるとも思っていたのですが、本当に取ってみると実感が湧いて来ません。今はただ……応援してくださった方々への感謝の気持ちでいっぱいです」

「ゆっくりと幸せを噛み締めてください」

「ありがとうございます」

「これからもまだ試合は続くと思いますがこのパラリンピックでの目標を教えてください」

「もちろん、すべての種目で金メダルをとりたいです。そのための練習はしてきたし、そのためにできることは今日からもしていきたいです。そして、今までわたしを支えてくださった皆さんに感謝の気持ちと成長した姿をお見せしたいなと思っています」

「日本でも多くのファンがテレビ越しに応援していました。最後に日本のファンの方へのメッセージをお願いします」

「皆様、応援ありがとうございました。この金メダルは本当は応援してくださった全員の首にかけたい気持ちです。まだ、終わりじゃないので、最後まで応援よろしくお願いします」


 短いインタビューだ。



 そしてインタビュアーの本藤が去ると奥から丞が顔を出した。


「柚希ちゃん………!」

「丞くん!」


 朝と同じように丞の腕の中に飛び込む。朝より緊張もせずに抱き締めてもらえた。


「柚希ちゃん、お疲れ様」

「丞くん…………」


 丞からの『お疲れ様』が誰からもらった『おめでとう』よりも胸に響いた。


「柚希ちゃんは約束守ったね」

「丞くんとの約束だから」

「僕はダメだったけど………」

「……何処を怪我したんですか?」


 丞からのメールが柚希の心にずっと引っ掛かっていた。


「腰をね…………ちょっと」

「安静になさってくださいね」

「うん。これ以上悪化させないように頑張る」


 丞との会話も短いものだった。それでもメール越しではない、現実として丞が隣にいる状況が嬉しかった。


「また日本で」

「はい。丞くんもお元気で」


 丞はオリンピックの凱旋公演が待っている。金メダルをとること前提で企画されたこの公演はファンからの熱き祈願により、無事に開催されることとなった。

 そして何より、世界選手権が待っている。現役続行を表明した以上、丞は日本代表として出場が決まっている。そのため、早く帰国して練習しなければならない。


 丞が唯一みてくれる試合で最高の色を勝ち取れて本当に良かった。そう柚希は思う。


 丞は一度柚希と拳を合わせると穏やかな笑みとともに帰国していった。










 そして、柚希の快進撃も止まらない。栞奈と毎試合一位二位を独占し続ける。

 海外では『表彰台以外を知らない姉妹』という、異名が着いたらしい。事実、二人は全部の種目で表彰台へ乗り続けた。二人の関係もパラリンピック中にだんだんと良くなっていった。



 結局、柚希は金メダル二つ、銀メダル一つ、銅メダル二つを獲得した。出場した五種目すべてで表彰台に登った。もちろんそのそばには常に栞奈というライバルと丞や家族、友達という強い味方の存在があった。





 柚希にとってのパラリンピックは今までの自分と周囲に改めて感謝をし、新たに歩み始める空間だった。

次回は『電話の向こう』です。

お楽しみに♪

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