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出着点 ~しゅっちゃくてん~  作者: 東雲綾乃
第1期 第2章 世界一へ
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丞の二度目の夢舞台 (シンシア視点)

 ねぇ、タスク。ずっと聞きたいことがあったの。

 スケート教室なんて世界中に山ほどあるのに、あなたは何故うちに来てくれたのかしら。私よりも教えが上手いコーチなんて大勢いるのに、あなたは何故私を選んでくれたのかしら。


 高校一年生なんてまだ、たかが十六歳よ。親元を離れるには早すぎるわ。あなたの親はよく許可してくださったわね。私がタスクの母だったら絶対に言ってるわ。『まだ家を出るのには早い』と。


 あなたと初めて面会したとき思ったの。なんて可愛い顔をした子なの。テレビで見た試合のときの情熱的な子とはまるで違い、お人形みたいね、と。

 その可愛い顔の子が言ったのよ。目の奧に炎を吹き上げながら。『世界一になるために来た』って。

 それを見て聞いたとき、悟った。この子は世界一になるなと。そして、思った。この子が世界一になるとき、隣に立っていたいと。

 だから私はあなたのコーチとなったのよ。




 いろいろあったわね。怪我もしたし、病気にもなったし、ついこの間だって不調になった。


 だけど、あなたはいつだって恐ろしいくらいに明るく前を向いている。ポジティブなのよね。スポーツ選手として大事なことよ。


 辛かったわよね。滑りたくても滑れない時期は。それに、滑れるようになっても思うように身体が動かない時期は。




 それでもあなたは全てを乗り越えて四年前、高校二年生のとき私に最高のプレゼントをくれた。

 あのメダル、誰にも言ってないけど家族よりも先に私に掛けてくれたこと、とっても嬉しかったのよ。『シンシアがいなかったらこのメダルは僕の手にはなかったから』って言っていたわね。

 あの言葉に思わず涙してしまった私をあなたは優しく抱き締めてくれたわね。もう四年も経つなんて信じられないわ。





 ねぇ、タスク。あなたはここに来て良かったと言ってくれてる? シンシアと練習できて幸せだったと言ってくれてる?


 もし、あなたが『シンシアと練習できて幸せだった』と言ってくれるなら私も伝えるわ。





『タスクが来てくれて良かった』





 だけど、タスクの引退までは伝えないでおくわ。まだ引退なんて早いわよね。まだしてはダメよ。あなたに追い付こうと頑張っている後輩たちがいるんだから、まだ頂点に君臨してなさいね。





 いよいよ明日、オリンピックに向けて出発するわね。緊張してるのかしら。それはそうよね。私だって同じように緊張してる。四年ぶりに本当の戦へと出陣するんだもの。



 だけど、あなたは間違いなく日本のエースであり、世界のプリンスであり、キングよ。


 何があってもそれは変わらない。

 だって間違えようがない事実だもの。


 だから、思いっきり二度目の舞台を楽しみなさい。後で後悔することがないように、その一瞬を全身で感じなさい。

 喜びなさいね。あなたは日本で三人しか体験できない舞台に二回も行くのよ。世界一熾烈な日本代表選考会を再びトップで勝ち抜いて。


 タスクあなたは今、絶好調よ。だから何も恐れなくていい。


 自分を信じて、やり抜いてね。それが今の私の願いよ。

 そうすれば結果なんて後からついてくるから。





 私はあなたが折れそうなときは全力で支えるから。

 オリンピックの舞台はすごい雰囲気だもの。四年前も緊張で、一日だけとても不調になってしまった日があったわ。今回もないとは言いきれないわよね。


 あなたが自分を信じることができなくなったら私が教えるわ。





『あなたはキングよ』





 だからね。大丈夫。きっと全部うまくいく。


 あなたにはたくさんの人が付いてるから。支えているから。応援しているから。

 思いっきり滑ってきなさいね。


 リンクの中央でスタートのポーズを取るときも、滑り出した瞬間も、ジャンプも、スピンも、ステップも、スケーティングも、フィニッシュポーズの瞬間まで、終えたあとも含めて、あなたはいつも輝いてる。

 あなたはフィギュアスケートをやるために生まれてきた。だから、スケートの神様に愛されている。



 だけどね、あなたは世界一の努力家よ。才能だけではどうしようもないもの。やっぱりあとは本人次第よね。

 あなたは見失わなかったわね。自分が何処を目指しているのかを。

 そのためには、何が必要かを。あなたが知っていたように、基礎が何をするにしても大切なのよ。


 大切な基礎をここで精いっぱいに磨いてきたあなたは世界一輝く宝石になってるわよ。

 その宝石から放たれるまばゆい光はいろいろな人に届いているわ。

 そして、たくさんの人がそれぞれ持っている宝石と反射してより多くの人に、より遠くの人に届いている。

 あなたのスケートが多くの人を救っているのよ。

 だから、あなたはエースなの。プリンスなの。キングなの。





 試合前の二十一歳のあなたに言うことはあまりないわ。でも、二十一歳のタスクへ、今の私から率直に伝えたいこと。

 ずっと私にとってあなたはずっとここに来た頃の可愛いタスクだったのに気が付けばもう大人になっていたわね。

 ちょっと寂しいわ。でも嬉しい。

 よく考えればあなたはもうだいぶ前に巣だっていたのね。



 私は今、名前をコールされてリンクに滑り出していくあなたを微塵も心配せずに見送れる。

 何故って?

 あなたは大空を自由に羽ばたいたあと、何があったとしても必ず私の元に帰ってきてくれるから。

『帰ってきたよ。ただいま、シンシア』と笑顔で私の胸に収まるあなたは昔に比べると高くなって、固くなっているわね。

 それだけ中も外も逞しく成長していたのね。嬉しいわ。





 私の愛するタスク。私の第二の大切な子どもみたいな存在で、それでいながら大切な相棒、ともに戦う仲間だったわね。

 今回も最後まで戦い抜きましょう。


 思い切りあなたらしく舞って『帰ってきたよ。ただいま、シンシア』と言って帰ってきなさいね。

















 さあ、あの子は準備は完璧かしら。一度確認に言っておきましょうか。

 きっと部屋で音楽をかけながら居眠りでもしてるのよ。


 ええ、分かってるわ。

 だって、それがタスク・クジョウだものね。

今回はシンシアの回想録でした。


次回は『テレビ越しのスター』、明日の更新予定です。

お楽しみに♪

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