メンバーのその後
本格的なリハビリが始まった。毎日同じような運動を決められた時間に決められた回数行う。
つまらない。それでも自分が徐々にまた動けるようになるのが実感できるのが嬉しかった。
あのときの丞との、『いつか怪我を乗り越えた強い姿を丞に見せる』という約束を柚希はずっと大切に胸にしまっている。
いつか、実現できるのはいつになるかは分からないけど丞が自分のことをずっと見ていてくれるというのはずっと心の支えになっていた。
ある日、蒼依がやってきた。
「みんなは言わない方がいいって言ってたけど、やっぱり柚希ちゃんに伝えておきたくて」
「何を?」
「私たち、全日本吹奏楽コンクールで金賞とったよ」
「えっ!?」
毎日リハビリに邁進していたからだろうか、知らなかった。柚希の学校の吹奏楽部は柚希も出場した都道府県大会で金賞を受賞、その後の支部大会でも金賞、そして、全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞したらしい。
以前だったらその情報を耳にしていないなど考えられなかった。
(今のわたしにとって音楽ってそんなに重要な位置を占めてないのかもな)
「おめでとう」
嬉しさ半分、悔しさ半分、それでもどちらかというと悔しさが勝る「おめでとう」だった。
「柚希ちゃんのお陰だよ」
「え?」
蒼依は寂しげに微笑む。
「あんなに上手くて、私たちを導いてくれてた柚希ちゃんがこんなことになるなんて信じられなくて……。それでも全員で……出場できなかった人も含めて、決めたの。柚希ちゃんに全日本の金賞をプレゼントしようって」
「…………わたしに?」
「そう。私たちが上手くなれたのは柚希ちゃんがいてレベルを上げてくれたから。柚希ちゃんに感謝を伝えるなら金賞以外ないよねって」
「なんで……すぐに、教えてくれなかったの?」
全日本からは期間が開きすぎている。忙しかったとかではなく、意図的に来ていなかったことは明白だ。
「それは……」
「それは?」
「柚希ちゃんがあの事故を思い出しちゃわないか心配してたの」
思わず柚希は笑い出す。
「柚希ちゃん?」
蒼依が怪訝そうに尋ねてくる。
「ふふふ。ごめんね。だけど大丈夫だよ」
「えっ?」
「わたし、あの事故忘れたことなんて一回もないし、あの事故思い出さない日なんて一日もない」
「そうなの……」
「だけど、あの事故がなかったらって思う日もあるけど……わたしは今はそう思わないようにしてる」
「柚希ちゃんって、強いね」
「そう?」
「前向いてるんだなって……。ちょっと私が恥ずかしくなった。ずっと悔やんでるんだろうなって思ってたから」
柚希は蒼依に対して今まで言えていなかったことをしっかり伝えることにした。
「ねぇ、蒼依ちゃん。これは蒼依ちゃんだけじゃなくて、みんなに伝えてほしいんだけど、別にそんなに気にしなくていいからね。わたし、もう足切断したこと受け入れたし、今は正直リハビリに無我夢中って感じで他のことあんま考えられないんだよね」
「そうだったんだ……私たち誤解してたかも」
「みんなの優しい気遣いはありがたく思っているけど、もう前みたいに接してくれて構わないよ」
蒼依は暫く俯いていたがやがて顔をゆっくり上げた。その目は強い光を浮かべていた。
「柚希ちゃん、私たち柚希ちゃんのことなんも理解してなかった。でも、私たちの思いも柚希ちゃんは理解してないよ。事故に遭って目が覚めないって聞いて、私たちがどんな気持ちになったのか、柚希ちゃん抜きでコンクール挑むって言われて、私たちがどんなに泣いたか、金賞取れてどんなにみんなが喜んだか、なんも知らないでしょ?」
蒼依の言葉は問いかけているようで柚希のことを非難しているようにも感じた。
「それは知らないに決まってるでしょ」
「柚希ちゃんは確かに辛かったと思うし、その辛さはまだ終わってないと思う。だけど、苦しんでるのは柚希ちゃんだけじゃない。私たち部活のメンバーも、廣瀨くんも、きっと柚希ちゃんの家族も」
「…………」
「だから、知っててほしい。柚希ちゃんが本当に倒れそうなぐらい苦しいとき、寄りかかれる木はたくさんあるんだって。みんな柚希ちゃんがまたあの頃みたいに笑ってくれる日を待ってるから」
「あの頃みたいに……ね、」
「花楓先輩も柚希ちゃんの事故を電話で伝えたら絶句してたわよ」
「でも……あの人たちは多分喜んでるんじゃないかな?」
「どうだろ。でも、部長と副部長の連名で二度と関わるなとは通告した、というかまずあの時のメンバーは全員呼び出されてるから」
「そうなんだ……」
「だから、柚希ちゃんはもう気にしなくていいからね」
「分かった」
答えたあと、柚希は苦笑する。
「だけど、後味は悪い終わり方だね。しっかり勝利したかった」
「柚希ちゃんの負けずぎらいはいいところだと思うけど、ここはこれで終わっておいたほうが今後のためだよ」
「ま、分かってるけどさ」
思っていなかった形ではあったがこの虐めが終了したのは嬉しかった。それでも自分の実力から始まった虐めは自分の実力で終わらせたかった。
蒼依は帰り際言ってくれた。
「柚希ちゃん、これから柚希ちゃんがどんな道に進んでも、どんな人生を送ろうと私たち吹部のメンバーはずっと柚希ちゃんを応援しているからね! それだけは忘れないで」
(蒼依ちゃんはわたしが音楽やめようと思ってるの分かってるのかな……)
ふとそう思った。
ごめんなさい!!!
またもや寝落ちて朝になってました……
時間は『出発点』、今日の夜の投稿予定です。
お楽しみに♪




