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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-087 出撃直前の作戦変更


 夏の盛りが終わろうとしている8月末。リトネンさんが飛空艇の大改造が終わったことを俺達に伝えてくれた。

 毎日が狙撃訓練と銃の手入れだったからなぁ……。皆の顔が緩んでいるのは、それだけ待ち望んでいたからに違いない。


「それでは、明日は試験飛行ということですね?」


「それもあるにゃ。でも、早速クラウスが攻撃目標を指示してきたにゃ」


 思わず、俺達が顔を見合わせてしまったのは仕方のないことだろう。

 改造の目的は汎用機から戦闘特化に変えたようなものだ。

 そうなると、攻撃目標は単なる爆撃ではないことになる。


 テレーザさんが棚から地図を持ち出してテーブルに広げる。

 さて、どこに向かうんだろうか……。


「炸裂焼夷弾は地上攻撃にも有効らしいにゃ。西の前線に爆弾を落として……」


 リトネンさんの指がさらに西に向かった。

 

「ここはアデレイ王国の砂浜ですが?」


「上陸したらしいにゃ。規模は1個師団だから、東の王国も大変な騒ぎにゃ」


「進軍方向は、東だろうな。この港を押さえられるとこの国と同じことが起きるぞ」


 エミルさんがすばやく定規で距離を確認している。俺達の仲間が戦っている前線の後方、およそ120ミラルに上陸したってことか。

 ファイネルさんは隣国の王都に向かうだろうと考えているようだが、そうとも限らないんじゃないか?

 場合によっては、反乱軍の背後に、大軍が押し寄せてくることになりそうだ。


「それなら、この浜に爆弾を落とすのが良いように思えるんですが?」


「こっちも苦労してるにゃ。義勇軍が戻ってしまったにゃ。それにアデレイ王国には飛行機があるにゃ」


 飛行機はアデレイ王国からの技術提供で作られたらしい。

 俺達の使っている飛行機よりも大型のものがあるらしいから、爆撃に特化した飛行機なんだろう。

 とは言っても、それ程搭載できるんだろうか?

3イルム砲弾の改造爆弾が数個ぐらいに思えるんだけどなぁ。


「確か、中隊規模が2つと聞いたぞ。砲兵部隊も蒸気トラクターを改造して自走化したらしい。エンデリア王国が滅んだからなぁ。次は自分達だということで、軍の近代化を進めたに違いない」


「そうなると、私達の目標は侵攻軍に直接攻撃ではなく、海岸線から離れた艦隊ということになるのでしょうか?」


 ファイネルさんの言葉に、イオニアさんが言葉を繋げる。

 うんうんとリトネンさんが頷いているところを見ると、その通りということなんだろう。


「飛行機による偵察結果では、浜から10ミラルほど離れて十数隻の軍艦がいるみたいにゃ。近付くと盛んに銃弾を撃って来るらしいにゃ」


「飛行機が近づけないと?」


「機体に銃弾の穴が沢山空くと聞いたにゃ」


 ヒドラⅠに近い小銃を開発したということになるのかな?

 有効射程が1000ユーデ近いんだから、確かに近付けないだろう。

 だけど、飛空艇なら船殻の装甲が段違いだからなぁ。数百ユーデまで接近して3イルム噴進弾を発射できそうだ。


「だが、3イルム噴進弾では軍艦の装甲を破れないぞ。爆弾を途中で落とさずに、アデレイ王国の沖合で落とす方が有効じゃないのか?」


「輸送船を狙うだけで良いにゃ。軍艦は爆撃機が新型爆弾を使うと言ってたにゃ」


 義勇軍を、今まで出してくれた返礼のようなものかもしれないな。

 少しは隣国に寄与しておかないと、後々の付き合いが拙くなると上層部は考えたに違いない。

 これまでと同じように帝国軍の補給を叩くことで、上陸した部隊の戦力を削ぐ作戦なら協力できるということなんだろうな。


「確か、満月だったんじゃないか。夜間攻撃でいくのか?」


「片道400ミラルというところね。巡航速度で7時間というところよ」


「なら、明日の夕食後に出掛けるにゃ。20時に車庫に集合にゃ。航行が全てブリッジに移ったから、今回からドワーフ族が乗り込まないにゃ。砲弾の装填はハンズたちに任せるにゃ」


「船尾のヒドラⅡも担当だな。万が一、空中軍艦が出てきた時には、イオニアも手伝ってくれよ」


「上部のヒドラⅡもあるからな。了解だ」


 上部にあった大きなプロペラが2つ撤去されたから、装甲板で囲まれた直径2ユーデほどの小さな砲塔が付いている。丸い縁を滑るように、ヒドラⅡの架台が動くんだけど、ヒドラⅡの左右に1.5フィールほどの防盾が付いている簡素な造りだ。

 でも初めてその場所に上がった時には、思わず笑みが浮かんでしまった。

 ここなら、気兼ねなく一服が楽しめるし、何と言っても眺めが良い。


 出撃が決まれば、何時ものように装備品の準備だ。

 背嚢ではなく、小さなショルダーバックだ。中身はカップ1個に携帯食料2食分と水筒1つ。それにシャツに包んだ拳銃弾の予備だけだからね。

 逃げるなら、なるべく身軽にということになってしまった。

 とはいえ、イオニアさんとハンズさんは背嚢を1つ別に持って行くようだ。グレネードランチャー付きのフェンリルを持って行くからなんだろう。


「それで、この暑い時期に防寒服も用意するんですか?」


「改造結果の確認もあるからなぁ。それに船団に近付くなら高い方が見つかりにくいんじゃないか」


 俺の質問に、ファイネルさんが答えてくれた。

 ミザリーはブランケットまで用意してるけど、足に掛けるのかな?


 夕食時に、母さんへ作戦が決まったことを告げる。


「今度は隣国に行くのね? 向こうも苦労してるみたいだけど、上空からの攻撃ならあまり心配は無さそうね」


「唯一の心配が帝国軍の空中軍艦なんだけど、この頃あまり話題になってないね?」


「通信局でも、確かにこの頃は話題にも上がってないわ。帝国内に何かあったのかもしれないわね。それとも改造を施しているのかしら?」

 

 母さんが首を傾げている。

 前の方なら問題は無さそうだけど、後者になると問題が出て来るなぁ。

 空中軍艦は飛行機に弱い。それと思ったより装甲が薄い。

 その欠点が克服されたら始末に負えない存在になるんじゃないか?

               ・

               ・

               ・

 翌日は昼からの雷雨が夕方に納まり、俺達が車庫の前に集まった頃には東の尾根に月が丁度昇る頃あいだった。

 砦の北の広場に引き出される飛空艇を、皆が遠巻きに眺めている。

 まだ、リトネンさんとエミルさんがやってこないのは、作戦の最終確認をクラウスさんの部屋で行っているからに違いない。

 

 ファイネルさんやハンズさんと車庫の隅でタバコを楽しむ。ミザリーはテレーザさん達とお茶を飲みながらおしゃべりに興じているようだ。


「作戦変更があったのでしょうか?」


「エミルが一緒だし、夕食後だからなぁ。リトネンが寝過ごしたとも思えない。となれば、作戦の変更ってことなんだろうが……」


「予想以上に侵攻速度が速まっているのかもしれんぞ」


 ハンズさんが困った顔をして呟いたけど、その可能性はかなり低いんじゃないか。

 アデレイ王国はエンデリア王国を遥かに凌ぐ大国だ。帝国軍がエンデリア王国に攻め込んでから、王国軍の近代化を説教区的に進めているし、兵員の数も大幅に増やしたらしい。

 帝国軍の侵攻がどの場所で行われても、ある程度の対応計画が出来ていたはずだ。

 西の前線のような深い溝を幾重にも作るぐらいは直ぐにやるだろう。

 そうなると、帝国軍の誇る蒸気戦車や蒸気機人の脅威もある程度防ぐことが出来るし、何と言っても飛行機部隊を持っているからなぁ……。

 

「やって来たぞ。搭乗してから教えてくれるだろうが、2人とも荷物を持っているってことは、出発することに変更は無いってことだな」


 リトネンさんが俺達を呼び寄せる。

 直ぐにリトネンさんを囲む俺達に、搭乗を指示した。

 詳しい話は中で、ということなんだろう。飛空艇に乗り込むと、直ぐに発進準備が始まる。


 主機が撤去されて、翼端のエンジンが強化されているし、船尾にも少し短い翼が付いている。その両端にあるエンジンは前の翼にあるものと同じらしいがプロペラの角度は垂直と水平にしか変えられないとのことだ。

 素早く上昇する際に上を向いて、通常は水平になるのだろう。


 10分ほどエンジンの暖機を行って、ゆっくりと飛空艇が広場を離れて行った。高度1000ユーデを維持して、先ずは北西に向かう。

 ここまでは、作戦計画通りということになる。


「クラウスから1つ悪い知らせを受けたにゃ。帝国軍の空中軍艦がいるらしいにゃ」


「常時ということでしょうか?」


「アデレイの南にある島を落としたらしいにゃ。その島を輸送艦の拠点にしたと聞いたにゃ」


「私達の攻撃目標から、南南西およそ300ミラルにある島よ。それほど大きくはないけど、広い砂浜があるみたいね」


「出会う可能性が無いとは言えないということなんだろうけど、島に駐屯しているなら、俺達の攻撃には間に合わないんじゃないか?」


 ファイネルさんの言葉に俺達が頷く。


「可能なら、叩けと言うのよ! 飛空艇の航続距離からすれば、ぎりぎりなんだけどね」


「こちらから島に行くことはないにゃ。輸送艦隊を襲撃した後、上空で2時間待機。それで現れない時には帰還するにゃ。3イルム噴進弾は3発残しておくにゃ。やってきたら一当たりして逃げ出すにゃ」


 積極的ではないけど、優先順位としては低いということかな?

 一度攻撃してみれば、飛空艇の武装がどれほど役立つか分かるかもしれないな。

 向こうだって、改造をしているんだろうから上空でどちらかが沈むまで砲撃を繰り返すということではないらしい。


「いずれ、対戦することは間違いない。早いか遅いかの違いだろう。それに必ずしも撃ち合うことにはならないんだからな」


 ハンズさんが残念そうな表情で呟いた。

 ちょっと怖くもあるけど、リトネンさんのことだから、一撃離脱で終わりにするつもりなんだろう。

 2連装になった、目の前にあるヒドラⅡ改を眺める。

 装弾手段が変えられたから少し戸惑うこともあるだろうが、マガジンに3発入っている。薬室に装弾しておくならもう1発、マガジンに入れられる。これで新たなヒドラⅡの性能が確かめられそうだ。


 最初の爆撃目標まではかなり時間がある。

 コーヒーやお茶を飲みながら時間を潰すことになりそうだ。

 今回は装置やエンジンの多重化が出来たおかげで、ドワーフ族が乗らないんだよなぁ。ハンズさんも出番が来るまでは、ブリッジの後方にあるベンチで俺達と過ごすんじゃないかな。


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