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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-081 飛空艇への搭乗


 軽快なエンジン音を立てて、俺達を乗せたトロッコは東へと進む。

 荷台は板を張っただけだし、周囲には手すりも無いような代物だ。前に乗った船のエンジンに似た音を立てているから、エンジンも小さいのだろう。それでも俺達が走る程の速度が出るんだから感心してしまう。


「さすがに鉄橋はスリルがあったわね。このトロッコ、もう少し何とかならないものかしら」


「贅沢言ってたら切りがないにゃ。歩くよりマシにゃ」


 エミルさんの呟きを聞いてリトネンさんが言い聞かせているけど、エミルさんの言うのも無理はない。

 峡谷に作った鉄橋を渡った時に、トロッコの板張りから下を覗いたら、深い谷底が見えたからなぁ。思わず荷台の真ん中に移動したぐらいだ。

 せめて、取り外しができる手摺りぐらいはあっても良かったと思わずにはいられない。


 切通が続く途中で、トロッコを停めて休憩を取る。

 ずっと乗せてあったブランケットを丸めて座っていたから、下りたら直ぐに腰を伸ばす。

 お茶を皆で飲むと、再びトロッコが動き出す。

 最初はゆっくりなんだけど、徐々に速度が増していく。

 帽子を飛ばされないように顎紐で結び、ゴーグルを掛ける。

 結構虫が飛んでくるんだよなぁ……。


「今日は線路を通るのは、私達だけみたい。『ポイントの切り替えは出来てるから、このまま進め』と連絡があったよ」


「なら安心にゃ。急に目の前に汽車が来たら、皆で飛び下りないといけないにゃ」


 出発前に確認したんだけど、リトネンさんは案外心配そうなところもあるみたいだ。

 とは言っても、ミザリーの言葉を聞いて俺達も安心しているんだけどね。

 トロッコの荷台は、横3ユーデ、長さが6ユーデほどある。

 トロッコの一番後ろにエンジンが付いているんだが、そのすぐ前にテレーザさんが座っている。

 ハンザさんと、後ろに移動してのんびりとタバコを吸うことにした。

 ここなら、煙が後ろに流れていくからミザリーに睨まれることも無いだろう。


「結構のんびりした旅ですね」


「客車なら良かったんだがなぁ……。だが、自動車よりは揺れがない。ブランケットの上に座れば線路の継ぎ目も気にはならん」


 昼食はトロッコを停めて、線路近くで焚き火を作る。

 お弁当はハムサンドだけど、何時ものビスケットのようなパンではないからね。スープと一緒に美味しく頂く。

 全く、皆でピクニックに来た感じだな。


 トロッコに揺られること、6時間。だいぶ東にやって来た感じだ。

 まだまだ切通しが続いているけど、夕暮れ前には到着するんだろうか?


「このままなら、暗くなってから到着することになりそうだな」


「それほど、遠いんですか?」


「歩いて5日は掛かるからな。線路をなるべく直線で敷こうとして切通をしを作ったんだ。蒸気機関車でも3時間近くかかるんだぞ」


 確かに蒸気機関車から比べれば速度は雲泥の差がある。

 バックスキンの上着を着てきたからそれ程寒くはないけど、夜になったら冷え込むんだろうな。

 まあ、その時にはツエルトを着こめば良いだろう。風を通さないだけ温かく感じるに違いない。


 夕食は東の砦で食べようと、そのままトロッコを走らせる。

 やがて、夕日の残照が大きな盆地を照らし出す。

 ようやく、見えてきた。あの遠くに一際大きく見える建物が東の砦なんだろう。


 線路の分岐はあらかじめポイントを切り替えてくれたから、そのまま倉庫のような建物に向かっていく。

 ライトで辺りを照らしながら、状況を確認していたのだが、前方にクルクルと誰かが回すライトの明かりに気が付いた。


「お迎えかな?」


「周囲に誰も居ませんからね。このままだと途方に暮れてしまいます」


 やがて、男性が手に持つライトを回している人物が見えてきた。


「ファイネルさんじゃないか!」


「確かにファイネルにゃ。私達が来るのを教えて貰ったに違いないにゃ」


 ファイネルさんの手前で、トロッコが停車した。

 背嚢を背負って、トロッコを下りるとファイネルさんがやって来る。

 笑みを浮かべたファイネルさんと握手をすると、もう片方の手で俺の肩をバシバシと叩いてくる。


「久しぶりだな。こんな体になったから一緒に動けないと思ってたが、飛空艇の操縦は問題がないぞ」


「また、ご一緒出来て嬉しいです。それで、飛空艇はどこに?」


「慌てなくても逃げては行かないさ。先ずは食事だ。今夜はゆっくりと休んでくれ。明日の朝食後に格納庫に向かう。……リトネン少尉、食事が終わったら砦の指揮官のところに御同行願います」


「引き渡し書にサインかにゃ? 仕方ないにゃ」


 全員が揃ったのを見て、ファイネルさんが砦の城壁に向かって歩き出した。

 それほど距離は無いから、直ぐに夕食を頂けるだろう。西の砦とどちらが美味いか楽しみだな。


「食堂の味はどこも一緒だな」


「皆、美味いってことだよ。味に差が出てみろ。それこそ士気に影響するだろうからなぁ」


 たぶんレシピが同じなんだろう。

 中にはもっと美味しい料理を作る小母さん達もいるんだろうけどね。

 あえて、同じ味にすることに拘るのも理解できる。


「だけど、ワインはこっちの方が美味いぞ。さすがにワインの味はレシピということにはならないからなぁ」

 

 自慢げにファイネルさんがハンズさんに言っているけど、別にファイネルさんが作ったわけでは無いと思うんだけどね。

 2人の会話に苦笑いを浮かべながら、カップ1杯のワインを頂く。

 

「ところで、飛空艇はどんな代物なのだ?」


 イオニアさんの問いに、ファイネルさんが笑みを浮かべる。

 これは話が長くなるかもしれないな……。

               ・

               ・

               ・

 用意された兵舎で一晩を過ごし、朝食を頂く。

 今日はリトネンさんも一緒に食べているんだが、同室のエミルさんに起こして貰ったに違いない。


「それじゃあ、そろそろ出掛けるか。忘れ物は無いよな。乗ったら、そのまま西の砦に戻ることになるぞ」


 ファイネルさんの言葉に再度荷物を確認したけど、持って来たのは背嚢だけだ。装備ベルトを着けているから忘れ物は無いだろう。


 ファイネルさんが席を立つと、俺達も席を立って背嚢を背負う。

 後は、ファイネルさんに付いて行くだけだ。


 砦を抜けて、南側に作られた大きな練兵場のような広場に出た。

 奥に横長の建物が数棟見えるんだが、かなり大きな建物だ。高さだけでも3階建てはあるんじゃないかな。

 あれに似た建物は……、王都の練兵場にあった飛行船の格納庫が思い浮かぶ。

 ひょっとして、飛行船も作っているのかもしれないな。


「あの一番左の建物だ。まだ格納庫に入ったままだけど、昼前には飛ぶことができるぞ。飛行船よりもその辺りの運用が容易なんだが、問題は建造費が高すぎるらしい」


「それで飛行船ってことか? あれは燃えやすいからなぁ……」


 軍用には向いていないと思うけど、それでも使い方次第だろう。

 砲弾が届かないほどの高さから爆弾をバラ撒くなら、それなりの効果が得られるんじゃないかな。

 1隻ではなく数隻で100発近い爆弾を投下されたなら、集積所は炎上するだろうし戦場は大騒ぎになるだろう。


「ここだ。まだシャッターは閉じているから、横から入ることになるんだが……」


 ファイネルさんの後ろをヒヨコのように付いていく。

 扉から中に入った途端、目の前にある異様な代物に目が丸くなる。


「これが飛空艇だ。全長30ユーデ、直径は8ユーデある。ほぼ葉巻型の胴体の真ん中に6ユーデの翼があるんだが、その先端に着いたプロペラで上下に動けるし左右にも動くことができる。

 もっとも、ラダーが船尾に付いているし、推進用のプロペラもある。そっちが主機だな。翼の先端のプロペラは補機という扱いだ。

 さらに、上を見てくれ。前と後ろにも大きなプロペラがある。あれが上昇下降の主機になる……」


 胴体の下を見ると、前後と翼の下に車輪が付いている。全てダブルタイヤだがかなり小さなものだ。着陸して格納庫に移動するためだけにあるのだろう。

 よく見ると、胴体の下に3イルム噴進弾の発射機が1門取り付けられている。

 左右には動かないようだが、上下には動くようだ。

 葉巻型の一番前は何枚ものガラス窓が合わさって半球状になっている。前方の見通しはかなり良さそうだな。

 ヒドラⅡの銃身が窓から飛び出している。左右と後方にも付けられているはずなんだが、胴体内に収納できるのだろうか?


「翼後方のハッチから中に入れる。乗り込んでくれ。今度は中を説明するよ」


 飛空艇は4本の足で地上6フィール(1.8m)ほどの高さに位置している。飛空艇の扉が外開きで、階段を作っている。

 ファイネルさんの後に付いて中に入ると、すぐ目の前に爆弾投下装置が設けられていた。


「飛空艇は4つの区画に区分けされている。操縦するためのブリッジ区画、前上部のプロペラを回すための前部機関区、爆弾を収める爆弾区画、最後尾の後部機関区だ。

 床下は、燃料槽が3つ並んでいる。後続距離は1500ミラル。予備貯槽を取り付ければ西の大陸にも行けるぞ」


「爆弾は1度に6発落とせるのか……。左右に並んでいるのが爆弾庫だな?」


「そうだ。この投下装置に下向きに入れて、先端のピンを引き抜けば後は落とすだけになる。装荷はドワーフ族の若者が手伝ってくれるはずだ。4イルム砲弾を元に、炸薬を増加させた代物だ。実質は5イルム砲弾に近いんじゃないかな」


「このハッチが開きそうですけど?」


「床の横長ハッチ開くと、3イルム噴進弾発射機の尾部が見える。このハッチを開いて装填するんだ。発射時には飛空艇の底部から3フィール(90cm)ほど吊り下げられるんだ。狙いは個々の照準器で行うんだが、左右の微調整は照準器に付いている操縦装置で飛空艇の向きを変えるしかない」


 砲弾庫は……、あれだな。大きさからすれば12発というところだ。使い道があまり無さそうな主砲だな。


 機関区の真ん中より左に位置した天井の低い通路を通ると、乗員区画に出る。

 前方は大きなガラスの窓だから、眺めが良さそうだ。

 数段の階段状になっているのは、座席位置から前が良く見えるようにとの配慮だろう。

 一番前が、ヒドラⅡの砲手席だ。

 その後ろに操縦席があるんだが舵輪が2つある。

 どちらでも操縦できるとのことだが、片方にはテレーザさん辺りが座りそうだ。

 最後尾は真ん中の座席と左右の壁に向かった座席がある。

 どちらもテーブルが付いているんだが、右手には通信機があるから、ミザリーの席になるはずだ。

 左手のテーブルはけっこ大きなものだ。

 地図を広げて航路を確認するためのものらしい。良く分からない計器がいくつかあるが、1つは時計のようだ。

 真ん中の椅子の前には、真鍮のパイプで作られた手摺りが作られている。あそこに立って指揮をするリトネンさんの姿が直ぐに想像できてしまう。


「いくつか戸棚があるし、一番後ろのベンチは背もたれを倒すとベッドになるぞ。その上にも簡易寝台があるから、仮眠をとることも出来る。それで足りない時は、床に寝ることになるな」


 さらに説明が続く。

 ブリッジの出口の左右に小さな部屋があり、片方はトイレでもう片方は給湯室らしい。

 給湯室には電熱器のコンロがあると教えてくれたから、スープとコーヒーは飲めそうだ。


「引き渡しは昨夜終えているから、このまま出掛けてみるか? もう直ぐ食料を持ってドワーフ族の若者が来るはずだ」


「試験飛行のついでに爆弾を落としてこいと言ってたにゃ。前線の集積所を狙ってみるのもおもしろそうにゃ」


 試験飛行で作戦を遂行するってことか?

 ちょっと危険な気もするけど、空から爆弾を落とすだけだからなぁ。それに照準器の確認もしておかないといけないだろう。

 

「私とハンズは爆弾区画で良いな。3イルム噴進弾の操作と、確かヒドラⅡが左右の壁にあったはずだ」


「お願いするにゃ。機関部のドワーフ族も一緒だから仲良く頼むにゃ。リーディルが前。フェイネルに操縦を任せるにゃ。テレーザは隣の席でファイネルに操縦をおしえて貰うにゃ。エミルは航路の確認と現在位置を把握して欲しいにゃ。ミザリーは通信機の傍にゃ」

 

 各々が席に座る。

 イオニアさん達葉後方に歩いて行った。ガラス越しに、倉庫に入ってきた2人連れのドワーフ族に気が付いた。大きなカゴを持っているからお弁当を運んできたのかな。


「それじゃあ、出発の準備をするぞ!」


 ファイネルさんが前方を照らすライトを点滅させると、数人のドワーフ族が現れて、格納庫の扉を開き始めた。

 4輪駆動車がやって来て、飛空艇の前輪付近にワイヤーを結び付けている。

 あれで動かすのかな?

 かなり大きさが違うけど、動くんだろうか……。


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