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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-080 個人装備は逃走仕様


 出発は3日後だと俺達に伝えると、クラウスさん達は帰っていった。

 それにしてもファイネルさんが操縦するのか……。

 リトネンさんが艇長になるんだろうな。ミザリーは通信士だから、残った俺達が砲手と爆撃手それにそのほかの雑事をこなすことになるんだろう。

 それにしても10人で動かせるんだろうか?

 飛空艇というからには、飛行船や空中軍艦よりもかなり小さいんだろう。

 自動車3台を並べたぐらいの大きさなのかな?


「荷は沢山積めるのでしょうか?」


「3イルム噴進弾が1門とは……、だいぶ武装が貧弱になってしまったな」


「ヒドラⅡが4丁あるなら十分でしょう。それに爆弾20発は、それなりに使えると思います」


 リトネンさんは腕を組んで考えてるだけなんだよなぁ。行動が先になる人だと思っていたんだけど、そうでもない時もあるみたいだ。

 色々と言いたいことはあるけど、4イルム砲弾を転用した爆弾20発はかなりの重装備じゃないのかな。

 数艇あれば、戦線を有利に展開できそうに思えるけど、クラウスさんの話では先行試作型らしい。

 俺達を使って性能を確認したいのが本音なんじゃないか?


「とりあえず、3日後にトロッコに乗っていくにゃ。一応着替えと食料は準備しておくにゃ。トロッコなら皆で一緒に行けるにゃ」


 背嚢に入るだけの装備ということかな。薄手のブランケットとツエルトも持って行こう。

 飛空艇への搭乗に必要な品物があるなら、向こうの砦で用意して貰っても良さそうだ。


 その日の夕食時に、母さんに飛空艇に乗ることになったと話したら、ちょっと驚いていた。


「話には聞いたことがあるけど……、まさかリーディル達が乗るとは思わなかったわ」


「空を飛べるんだって! 落ちる時もゆっくりと落ちるからだいじょうぶだと言ってたよ」


 重力中和装置『ジュピテル』は、故障しても突然効果を失うことにはならないらしい。ゆっくりと降下するそうだ。

 一応2基も搭載してるんだから、2基とも故障することは無いと信じたい。


「万が一にも敵地に落ちた時には、何があっても帰ってくるよ」


 俺の言葉に、母さんが小さく頷いてくれた。

 今までも、困難な作戦を遂行してきたんだからね。それなりに覚悟を決めた時もあるけどどうにか無事に帰って来られた。


 翌日から、皆で背嚢の中身を確認しながら装備を纏めていく。

 ミザリーの場合は、通信機が背嚢の三分の一を取ってしまっているから、革袋を背嚢の後ろにストラップで止めていくようだ。

 ブランケットは俺と共用で良いだろう。ツエルトだけはミザリーの分も俺の背嚢に丸めておく。


「全員の食器を調達してきたから、飯盒は2つで良さそうだ。ポットもあるから、まとめて俺が運ぶよ」


 ハンズさんが少し大きな革袋を持ってきて、俺達の食器を纏めている。

 飯盒の中には、携帯食料がたっぷりと入っている。2つあるから2日分になるはずだ。4パインも入る大きな水筒は、イオニアさんがいつものように持ってくれる。それとは別に、10パインの真鍮製の容器2つに水を入れて行くらしい。

 1つは俺が持って行こう。

 

「小銃は、ハンズとイオニアだけで良いにゃ。後は拳銃を持って行くにゃ」


 思わず、俺達が顔を見合わせる。

 確かに、トロッコは俺達の勢力圏内だからなぁ。それに飛空艇には既に武器が搭載されている。落ちたとしても逃走するだけだから、重装備は必要なさそうだ。

 となれば、拳銃弾を少し多めに持って行こう。

 ベルトには即応弾が12発だけだからな。1箱背嚢に入れておくか。


「装備ベルトはいらないということね。スリングを外して、銃弾ポーチと水筒を付けておくわ。銃剣は必要ないけど、ナイフはあっても良いわね」


 エミルさんの言葉に従って装備を偏向しておこう。

 だけどナイフねぇ……。俺は持ってないんだよなぁ。さすがに猟師時代のナイフは心許ない気がする。


「ナイフを持ってないのか。欲しいのはリーディルだけか?」


 おずおずとミザリーとテレーザさんが手を上げた。


「3人だな。待ってな」


 ハンズさんが直ぐに部屋を出て行ったけど、どこで手に入れるんだろう? 売店には無かったんだよなぁ。


 しばらくしてハンズさんが俺達にナイフを渡してくれた。俺とテレーザさんには刀身が10イルムもある大型のナイフで、ミザリーには折り畳み式の刀身6イルムほどのナイフだ。それぞれしっかりした革のケースが付いているから、そのままベルトに通して置ける。

 

 ナイフを抜いてよく見ると、かなり凝った造りなんだよなぁ。柄もしっかりと手になじむ。


「これって、高価な品なんじゃないですか?」


「ドワーフの知り合いに頼んだらすぐに渡してくれたぞ。ドワーフ族は凝り性だからなぁ。鋼の質は折り紙付きだ。長く使えるぞ」


「俺のもそうなんだ」と言って取り出したナイフはナイフというより片手剣なんじゃないか? 刀身だけで15イルム近くありそうだ。


「ドワーフ族に頼めば、願い通りの品を作ってくれるぞ。私はブランディー2本でこれを手に入れたからな」


 イオニアさんも同じような代物だが、厚みが半端じゃない。刃が無くなっても鈍器として使えそうな代物だ。


「リーディルも頼むと良いにゃ。私はこれにゃ」


 リトネンさんのナイフはかなり曲がっている。まるで鎌に見えるような代物だ。

 でも、とりあえずはこれで十分だろう。ナイフを使うような戦闘にならないようにしたいものだ。


「ついでに拳銃も新しくするか?」


「統一性が無かったにゃ。でも、イオニア達は44口径をつかうにゃ?」


「私とハンズは44口径リボルバーですから銃弾は互換できます。エミルは32口径だったと思うけど?」


「32口径リボルバーよ。この際だからリーディルと同じにしようかしら、ロングバレルなら数十ユーデ先を狙えるわ」


「それなら、4人とも同じ銃にするにゃ。テレーザ、一緒に来るにゃ!」


 ハンズさんの一言で、俺達の拳銃が新しくなりそうだ。せっかく予備の銃弾を背嚢に入れたんだけどねぇ。


「今の銃でも良さそうに思えるんですが……」


「どんな銃でも、寿命はあるからなぁ。リーディルの銃も、ある意味お下がりだ。この際だから貰っておくんだな」


 エミルさんが作ってくれたコーヒーを飲みながらタバコを楽しんでいると、大きなカゴをリトネンさん達が運んできた。


「新品が揃ってたにゃ。早い者勝ちだから、全員分を貰ったにゃ」


 そう言いながら、リトネンさんがテーブルの上に拳銃を並べていく。

 一際大きな2丁はイオニアさんとハンズさん用だな。バレルは6イルムの44口径リボルバーだ。


「これは……、強装弾仕様なのか! これなら200ユーデ先でも当たれば一発だな」


 それって、拳銃の範疇を越えているんじゃないか?

 俺の前に置かれたホルスターから拳銃を抜いて眺めてみる。

 これも強装弾仕様のようだが、標準弾も放てるようだ。バレル長は6イルムを越えている。操作しやすい最大の長さという感じに思えるな。


「これって、最初の小銃と同じに思えるんだけど……」


 ミザリーが首を捻っている。


「自動拳銃にゃ。別命『シャクトリムシ』8発弾が入ったマガジンを素早く交換できるにゃ。口径は32口径のままだけど、尖頭弾だから薄い鉄板なら貫通するにゃ」


 かなり物騒な拳銃のようだ。ハンズさんがミザリーから拳銃を課して貰ってしげしげと眺めている。整備してあげると言って直ぐに分解するに違いない。


「銃弾はこれにゃ。とりあえずこれだけ持って来たにゃ。射撃訓練を終えたら、新しい銃弾を貰ってくるにゃ」


 俺の銃は前と同じように思えるんだけど、構えて見ると少し重い。これもハンズさん達のリボルバーと同じで強装弾が使えるのか?


「38口径のリボルバーだな。リーディルでも十分に強装弾を片手射ち出来るぞ。

 それじゃあ、新しい拳銃を試してくるか。強装弾は結構跳ねるんだ」


 跳ねるという表現がどんなものか分かったのは、初めて強装弾を放った時だった。

 発射時の反動で銃身が上を向いてしまう。

 この銃のバレルが長いのは、単に命中率を上げるためだけではないようだ。バレルを重くして重心を前に移動しているのだろう。

 両手で撃つならそれ程気になることもないんだが、さすがに片手撃ちとなると、50ユーデ先の的に当てるのが困難になってしまう。

 俺に比べると、ハンズさん達はさすがトラ族だと感心してしまう。

 50ユーデ先の的に片手射ちが出来るんだからなぁ……。

 ミザリー達は、弾幕を張るように射撃をしていた。100ユーデ先に8発放って2発当たるんだから、牽制射撃は任せたいところだ。


 各自が新たに50程度の銃弾を貰って、俺達の準備が終わる。

 いまだに手榴弾は焼夷弾を持っているんだけど、2発背嚢に入れておけば少しは安心できる。

 ハンズさん達は装備ベルトのポーチに入れているんだが、今回は俺と同じで背嚢の中に入れているようだ。

 飛空艇がどんな代物だか分からないからなぁ。だけど、艇というぐらいだからそれほど大きなものではないはずだ。あまりごてごてと身に付けないようにしておいた方が良いだろう。


 3日目の朝。母さんと食事を終えると、背嚢を担いで砦の北門へと向かう。

 トロッコで出掛けると言ってたけど、誰が操作するんだろう?

 飛空艇の話で舞い上がっていたから、誰も確認しなかったんだが……。まさか、リトネンさんが動かすなんて言い出さないか心配になってきた。


「やって来たな。こっちで、お茶が飲めるぞ!」


「おはようございます。皆さん早いですね?」


「何時もの通りね。リトネンが先に来てたら、空を見上げてしまいそうだわ」


 エミルさんの冗談に、思わず笑みが浮かぶ。

 ミザリーがテレーザさんからお茶のカップを受け取って、俺にも渡してくれた。


 ベンチ代わりに置いてある丸太に腰を下ろして、エミルさんに俺の疑問を問い掛けてみる。


「トロッコの運転? テレーザよ。漁師町だから、トロッコも使われてたみたいね。見様見真似で覚えたと言ってたわ」


 リトネンさんじゃなかったんだ。それにしてもテレーザさんは色々と出来るんだな。

 大人しい女性だと思っていたんだけど、子供時代は活発な女性だったに違いない。


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