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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-008 狙撃班を作るらしい


 母さん達が帰ったところで食堂に向かう。

 今日はワインが出ないようだ。たまに出るのかもしれない。

 今日の出来事を話しながらの食事が始まる。ミザリーが最初になったけど、どうやら調薬班に回されたらしい。

 外のログハウスのいくつかで野草を乾燥させているようだ。

 小母さんや子供達が村の近くで集めた薬草の分類をしてカゴに入れる作業を手伝ったらしい。


「そんな作業がもうしばらく続くらしいの。秋にしか取れない薬草もあるんだって。冬は毎日乳鉢を擦らないといけなくなるみたい」


「大勢が暮らしてるんだからね。頑張って続けてくれよ」


「分かってるわ。それに薬草も覚えられるし、調合だって教えて貰えるみたい」


 嬉しそうに答えてくれた。町ではなかなか調合を教えて貰えなかったらしいからなぁ。


 母さんの方は、一日中、無線機の前で聞き取りをしていたようだ。

 昔とコードは一緒らしいけど、暗号で送られてくるから、その場では何のことか分からないと言っていた。

 明日は一緒に電文を記述して、前任者と照合するらしい。

 さすがに最初から任せては貰えないようだ。

 

 俺も、小銃を撃ったことを話した。かなり成績が良くてクラウスさんが驚いていたと言ったら、母さんが笑みを浮かべている。

 父さんのことを思い出したのかな?


食事が終わって部屋に戻ると、母さんが革製のバッグを持ち出してきた。四角い箱のような品だけど、これは家から運んできたものではないはずだ。


「ミザリーにも母さんの手助けをして貰おうと思って借りてきたの。教える人がいないからずっと放っておいたらしいんだけど、中身は新品同様よ。これは通信機の訓練に使う機械なの」


 あのコードを聞いて聞き取れるようになるんだから、それなりの訓練があるってことなんだろう。

 道具はあっても、それを教える人物がいなかったってことかな?

 通信士が足りないってことは、そういうことから来てるのかもしれない。


「私にも使えるの?」


「それなりに覚えることはあるんだけど、難しいとは思えないわ。全部で40文字も無いんですもの」


 文字と数字ってことだろう。だけどピーピーする音が意味を成すとは、俺には信じられないんだよなぁ。


 取り出したのは、シーソーのような電鍵と呼ばれる部品が2つだけだった。

 電鍵から伸びるコードの先端の端子を箱に差し込むと、電鍵を叩くたびに音が鳴る。

 これで教えるってことなんだろう。

 早速母さん達が始めたけど、ミザリーはちゃんと覚えられるのだろうか?

 しばらくは2人の練習を見ることにした。


「長点は短点3つ分、文字の間隔は短点4つ分……と色々取り決めがあるんだけど、慣れで覚えるしかないわね。ミザリーを文字で送るとこうなるのよ……」


 しばらくピーピーと音がする。

 やはり俺には同じに聞こえてしまう。俺には向いていないに違いない。

 電信の音がこもり歌に聞こえてくる。

 今日はシャワーを浴びて、早く寝た方が良さそうだな。


 シャワーを浴びて来ると言って、共用の男子用シャワー室に入る。シャワー数個が設置してあるんだが、運よく3カ所が空いていた。衣服を脱いでさっさとシャワーを浴びて体の汚れを落とす。

 このお湯の出所が気にはなるが、遠くから聞こえてくる低い振動のような音が、お湯の出元になっているに違いない。

 案外、地下に炭鉱があるのかもしれない。結構ふんだんにお湯を使っているし、ランプの明かりだって電灯によるものに違いない。

 大型の蒸気機関と発電機が地下にあるのは間違いなさそうだ。

                ・

                ・

                ・

 2日目は、目覚まし時計の音で目が覚めた。

 3人で食堂に向かい、そのまま各爺の仕事場に向かう。地上への階段を上り、村の奥にある岩山の岸壁に向かって歩く。

 第一小隊の部屋に入ると、数人の男女がストーブに集まっていた。


「お早うございます!」と挨拶すると、俺を手招きしてくれた。

 小さく頷いて傍に寄っていくと、ベンチの1つをポンポンと叩く。

 どうやら『座れ』と言うことらしい。

 もう1度頭を下げて腰を下ろすと、壮年の男が話し掛けてきた。


「確かリーヴェルと言ってたな。あの成績を出したのは初めて見たぞ。父さんが生きてたらさぞかし自慢したに違いない」

「父を知ってるんですか?」


「鷹の目を知らない兵士はいなかった。他の師団でさえ名前だけは聞いたはずだ。だがそれは敵にとっては恐ろしいことに違いない。王国が降伏したと知った途端に逃走したのは懸命だったな」


「帝国軍が探していたと?」


「当たり前だ。帝国の多くの士官が倒されたんだからな。帝国の士官は王国以上に貴族が食い込んでいる。大事な息子や当主を倒されたとなればタダでは済まんだろうよ。

 運が無かったようだ。既に亡くなってしまったからな。だが俺達に、息子を残してくれた。父親以上に頼りになりそうだ」


 戦は2か月ほど続いたらしいのだが、父さんは活躍したということなんだろうか?

 王国はほとんど無条件降伏したらしいが、やはり多勢に無勢と言うことなのかな。


「クラウスが珍しく部隊長に掛け合ったらしいぞ。どうやら、新しい部隊ができるかもしれん」

「さらに兵士が増えるってことですか?」


 若いイヌ族の兵士が年嵩の男に問い掛けた。


「そうじゃねぇ。言い方が悪かったか? 新しい兵科と言った方が良いのかもしれん。数日もしないでクラウスが発表してくれるはずだ。俺達の分隊も少し人が変るかもしれんぞ」

「せっかく慣れたんですから、このまま行きたいですけどねぇ」


 だんだんと兵士が集まってきた。

 ストーブの傍から離れて、リトネンさんのところに向かう。今日はどんな訓練になるんだろう?


「今日は。屋外で射撃をするにゃ。ファイネルも手伝ってほしいにゃ」

「了解です。そうなると的を用意しないといけませんね。直ぐに取ってきます」


「これが銃弾にゃ。10発使うにゃ」


 条件を変えての10発か。今日は厳しい訓練になりそうだ。

 ファイネルさんが丸めた的を持って現れたところで、3人で外に出る。どこで練習するのかと思っていると、南の門を出て段々畑を下に降りていく。


 だんだん畑の先には断崖があった。さすがに断崖越しでの射撃とはならずに、断崖に沿って西に歩いて行く。谷間が広がって見通しも良くなったところで、リトネンさんが足を止めた。

 

「ここが練習場にゃ。薬草採取もここでは行わないにゃ。ファイネル、的を留めて来てほしいにゃ」

「あそこと、あそこの2か所ですね。ついでに周辺も見てきます」


 屋外の射撃訓練は使うのが実弾だからだろう、細心の注意を払うようだ。流れ弾に当ったらタダでは済まないからな。


 ファイネルさんが戻ったところで、リトネンさんが射撃開始を指示してくる。

 何時も通りだ。距離が岩の奥の射撃場と違って掴みにくいな。

 それでも距離は200ユーデ(180m)までは離れていないだろう。伏射の姿勢を取って、慎重に狙いを定めながら呼吸を整える。


 銃弾を5発放って再装填をすると、リトネンさんが次の的を、腕を伸ばして教えてくれた。

 先ほどの的が見えなくなってしまったから距離感が掴みにくい。

 的の人影がかなり小さいから、200ユーデを越えているのかもしれないな。

 少し頭の上に狙いを付けた方が良さそうだ。

 

 呼吸を整え、慎重に1発ずつ放って行く。

 5発撃ち終えると、ファイネルさんが急いで的を回収しに向かった。


「これで今日は終わりにゃ。体力をつける訓練を戻ったら始めるにゃ」


 巻き取った的を持ってファイネルさんが帰ってところで俺達の部屋に向かって歩き始めた。


 部屋に入るなり、フェイネルさんが的をテーブルに広げる。

 そんなことをするから他の分隊の連中までこっちに集まり、興味深々の表情で的を見ている。


「本当に屋外か?」


「本当にゃ。それも的のAとBを使ったにゃ」


「Aが全弾ヘッドショット。Bは2発外れてるが、3発はヘッドショットだ。こんな事が出来るのか?」


「出来るんだろうな……。丁度集まってるな。今度小隊直属の分隊を1つ作る。分隊の人数は3人だ。リトネンにファイネルとリーヴェルの3人になる。

 リトネンの第一分隊は、ドレッドが分隊長だ。今度は嫌だとは言うんじゃないぞ。2人だけになってしまうから、第3分隊からケレスとエリアン、第4分隊からガネットとハーレルを移動するぞ」


「少尉はどうなるんですか?」


「俺は引き続き第1分隊に所属する。俺達第1小隊は狙撃班を持つ部隊になる。かなりの難度を要求されるかもしれんが、基本はさほど変わらない。

 相手は多くなるだろうが、それを指揮する人物を1人ずつ葬っていけるはずだ」


 頭を刈り取るってことか。野犬を狩る常套手段らしい。ボスが倒れれば野犬は逃げてしまうと聞いたことがあった。


「午後はこれで練習だ。リトネンもこれの使い方を午後までに覚えるんだぞ。ファイネルは今リーヴェルが使っているゴブリンに換えておけ。この命中率を誇る銃だ。ファイネルなら存分に使いこなせるだろう」


 ファイネルさんが、俺がテーブルに下した銃を手に取って笑みを浮かべている。

 直ぐに部屋を出て行ったから、室内練習場で自分の腕を確認してくるのかな。

 リトネンさんは複雑な表情をしている。50cmほどの革製の筒と、もう1つは小さな双眼鏡だ。

 筒の蓋を開いて、金属製の筒を取り出したんだが、何に使うんだろう?」

 中に入っていた説明書を開いて頭を捻りだした。

 使えるまでには少し時間が掛かるようだな。


 3丁目の銃は、レシーバーの上に筒が付いている。革製の蓋が付いているから外してみるとレンズが見えた。

 これって、照準鏡付きの銃ってことか?

 一昨日始めてみた父さんの銃にも同じようなものが付いていた。


「これがその照準器の説明書だ。良く呼んでおくんだぞ。それと持ち運びをする際にはこのカバーで照準器を守るんだ。藪ぐらいは問題ないだろうが、大木や岩にぶつけると照準が変ってしまうらしいからな」


 丈夫な革製のカバーがレシーバーごと照準器を包み込むように作られている。革製のカバーがしっかりと閉じられるように、革帯を留め金に差し込むようになっていた。

 再度カバーを開けて、照準器を覗き込む。

 視野の中に『T』字の交点部が空いた画像が見えた。これがターゲットポイントになるのだろう。

 午後の射撃で、どの程度ずれがあるか分かるだろう。何度か調整しないといけないようだ。


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