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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-069 最初の目標は集積所


 降る雪で見通しが悪い。

 1時間程走ったところで、最初の休憩を取る。

 炭のコンロでお茶を沸かそうとしていたが、お茶の葉を入れずにそのまま沸かしている。コーヒーが作れそうだな。


 今の内にと、ツエルトを取り出して座席の前に風よけを作っておく。ツエルトの端は乗り口のバーに結わえたから、簡単に飛んでいくことは無いだろう。

 作業が終わったところで、コンロ傍に行ってカップを受け取った。

 案の定、コーヒーだった。

 車の影で風邪を避けながら熱いコーヒーを頂く。


「中々考えたな」


「ツエルトの長さが丁度良いですよ。走ると結構風が当たりますからね」


「前はガラスがあるから問題ないんだけど、後席はもろに当たるみたいね。この作戦が終わったら、ドワーフ族に考えて貰えばいいわ」


 できれば、帆布でも良いから全体を覆って欲しいところだ。


「今、この辺りにゃ……。この辺りで待機して、日の出とともに集積所を叩くにゃ!」


 車体を白い布で覆えば、雪に紛れることができるだろう。朝日が当たれば雪が乱反射するから、それだけ俺達を見付け辛くなる。

 曇りでもそれなりに効果はありそうだ。一番良いのは、雪が降ることなんだけどね。

 だけど、強く降るようなら目標の集積所が見付け難くなりそうだ。

 やはり良く晴れた朝ということになるんだろうな。


「尾根から少し北側ということですか。ここから3時間程になりますね。集積所までの距離は、待機する場所からおよそ2時間です」

 40ミラル程度ということかな?

 平野部だからなぁ。自動車で進むのは楽なんだろうけど、危険が半端じゃなさそうだ。


「そろそろ出発するにゃ。やはり自動車は疲れないにゃ!」


 再び自動車に乗って南へと進む。

 少し小止みになってきた雪だけど、周囲は真っ暗だ。

 ライトが照らしている範囲だけが良く見える。


 どうにか2時間程揺られたところで、襲撃を待つ場所に到着した。

 何も変化がないところなんだけど、ここで待つことに何か意味があるんだろうか?


「中々良い場所ですね。あの崩れた場所が藪になってるんですね」


「そうにゃ。これ以上南に行くと、この監視所に見つかる可能性が高いにゃ。ここならバレないにゃ」


 イオニアさんが腕を伸ばした先は俺には見ることができない。

 やはり夜目が効く種族はちょっと違うな、と感心してしまう。


 集積所の後方2カ所にある監視所の体制がどうなっているのか分からないけど、常に監視していると考えた方が良いだろう。

 ましてやこの雪だからなぁ。それだけ監視を強化しているに違いない。

 リトネンさんが言うように、雪が晴れた早朝なら監視は緩むんじゃないかな。


 ハンズさん達がテントを山側に張っている。

 車体の横に3本の棒を立てて、その棒に引っかけるようにして三角柱が横になったようなテントができる。

 車を2台横にしたから、空いた場所はシートを掛けて代用する。

 直ぐに炭を使うストーブでエミルさん達が調理を始めた。

 

 できるまではしばらく掛かりそうだから、車の端に移動して、ハンズさんと一緒に一服することにした。

 車の影で楽しむなら問題なさそうだ。たまに車の影から体を伸ばして周囲を見回す。


 1時間程過ぎると、テレーザさんとエミルさんが監視を替わってくれた。

 体の雪を払ってテントの中に入る。


「シートで覆っただけですけど、だいぶ寒さが違いますね」


「スモックは脱いでもだいじょうぶにゃ。風が来ないし、このストーブが結構温かくしてくれるにゃ」


「だいぶ雪が止んできました。明日は晴れるかもしれません」


「薄明と共に出掛けるにゃ。監視所は、こことここにゃ。尾根を抜けたら一旦東に向かって、それから南西に移動するにゃ。集積所まで1ミラルほどに近付いて2回射撃をするにゃ。合計8発なら1発ぐらいは当たるかもしれないにゃ」


 再装填を素早く行う必要があるな。砲弾は近くに用意しておかないと……。


「そのまま、西に向かって進むにゃ。この監視所が動くと面倒にゃ。手前で南に向かうつもりにゃ」


 その場から真っ直ぐ西に向かうと監視所の1つにぶつかりそうだ。当然連絡は行っているだろうから、近づかない方が良いに決まってる。


 居眠り運転が怖いから、イオニアさんとエミルさんには軽く睡眠をとって貰う。

 ミザリーも砦と通信を行ったところで、一緒に眠らせることにした。俺と同じで夜間視力が良いとは言えないからなぁ。

 明日、周辺監視を頑張ってくれれば十分だ。

 残った4人で、コーヒーを飲みながら夜明けを待つ。

               ・

               ・

               ・

 いつの間か、雪が止んで星空に変った。

 新しい防寒服のおかげで、前よりは十分すぎるぐらい暖かだが、顔だけは出ているからねぇ。背嚢の中からマフラーを取り出して軽く巻いた上に三角巾で顔を覆うことにした。


「星が消え始めたな。見張りを替わってやろう。テリーザ達が朝食を作ってくれるだろう」


 ハンザさんの言葉に頷くと、少し早いけどリトネンさん達と見張りを交代する。

 俺達なら一服しながらでも見張りができるし、段々と俺にも周囲が良く見えるようになってきた。


 星が消えて段々空が明るくなって来る頃、俺達の朝食が始まる。

 カップ1杯のスープは暖かだ。香辛料のおかげで体の中から温まる。

 ビスケットのようなパンを浸しながら、温かい内に食事を終えると、今度はコーヒーが出てきた。

 もっとも俺とハンズさんだけで、女性達はココアのようだ。

 どちらが良いのか少し迷うところだが、やはり朝食にはコーヒーだろうな。


 食事が終わると、自動車のエンジンを掛ける。

 寒さで掛からないかと思ったが、すんなりと掛った。

 荷物を畳んで、後ろの荷台に積んでおく。燃料は、まだ三分の二ほど残っているらしい。補給は、攻撃時準備を行っている間に行うのかな?


「出発にゃ!」


 リトネンさんの声に、2台の自動車が南東に向かって進みだした。

 あまり速度を上げないのは、車の状況を確認しているのだろう。

 尾根が切れると、速度が上がり始めた。

 周囲は一面の白だが、さすがに6輪車だけあって走行に問題は無いようだ。

 チェーンを撒いているから、後方に雪煙が上がっている。

 たまにリトネンさんが後方を振り返るのは、雪煙の状況を見ているのかもしれないな。


 2時間ほど走ったところで一休み。

 ここで燃料を補給する。なるべく攻撃準備に時間を取りたくないのかな。

 休憩を終えると、今度は南に向かって進み始めた。

 やがて、遠くに煙りが見えてきた。

 自動車の速度が半減し、煙に向かって少し東に進み始めた。


 10分ほど進んだところで、リトネンさんが車を止める。直ぐ隣にエミルさんが運転する後続車が止まった。

 直ぐに車を降りると、3イルム噴進弾の発射準備が始まる。

 運転席側に設けられた2つ縦に並んだ砲身に砲弾を装填すると、砲身の後ろに外側に張り出した板を取り付ける。

 あらかじめ車体に金属板を差し込むスリットが付いているから、そこに差し込むだけだ。

 安全装置を確認して、撃鉄を起こしているのはイオニアさんだ。

 撃発装置から伸びる紐を引けば発射するらしいが、まだ安全装置が利いているから引いても何も起こらない。試そうとは思わないけどね。


 砲身先端の布を取り外して、エミルさんが算出した砲撃諸元に基づき砲身の仰角と目標の方角を調整している。

 もっとも目標方角の修正は左右5度だと言っていたから、車体の方向が重要らしい。


「次弾装填は可能かにゃ?」


「車の後ろに準備してあります!」


 リトネンさんの問いに、大声で答える。


「了解にゃ。安全装置解除。全員ゴーグルを掛けて、三角巾で顔を覆うにゃ! ……発射!」


 イオニアさんが2本の紐を引くと、シュン! と小さな音を立てて砲弾が炎を噴き出しながら飛んで行った。

 凄い煙だな。一瞬車の周囲が真っ白になったぐらいだ。


「次発装填を始めるにゃ!」


 リトネンさんの言葉に、急いで砲弾を抱えれイオニアさんに渡す。次の砲弾を持って来た時には最初の砲弾の装填が終わっていた。

 2本の砲身に再び装填されたところで、着弾点を観測していたエミルさんが砲撃諸元の再設定を伝えてくる。

 それほど大きくは違わないけど、着弾点を少しずらす感じだ。

 再び砲弾を発射したところで、急いで車に乗り込む。

 エンジンは掛かったままだから、全員が乗り込んだのを確認して直ぐに車が走りだす。


「リーディル、後方警戒を頼むにゃ!」


「了解です。場合によっては射撃をしても良いんでしょうか?」


「来るとしたら自動車になるにゃ。やってきたら、私と場所を替わるにゃ」


 ヒドラⅡを使うってことか?

 16発しかないから慎重に狙わないといけないだろう。


 しばらく後方を眺めていたが、追手は来なかった。

 それよりも、何度も爆発音が聞こえてくる。

 集積した弾薬が誘爆しているのかもしれないな。俺達を構っている暇など無いのかもしれない。


 既に帝国軍の集積所は見えなくなってるが、黒い煙が南に流れていくのが見える。

 あの付け根辺りが集積場なのだろう。

 自動車が南に進路を変える。

 これも予定行動だ。集積所から西に向かえば敵の監視所の索敵範囲に入ってしまうからだろう。まだ8時前だから周辺偵察には向かっていないだろうが、集積場が襲われたぐらいの連絡は行っているはずだ。

 東と北東方向は監視の目が強化されているに違いない。


 自動車は真南というわけではなく南西方向に進んでいるようだ。

 1時間程走ったところで、自動車を止め小休止を取る。


「エンジンは掛けたままにゃ。10分ほど休憩して輸送隊を待ち伏せする場所を探すにゃ」


 自動車に寄り添うようにして、タバコに火を点ける。

 周囲は一面に雪原だ。

 俺達が通ってきた箇所にはくっきりと轍が残っているんだが、その先を双眼鏡で眺めても追っ手の姿が見えない。


「さすがに6輪駆動の自動車だけのことはあるわね。ハンドルが重いのが難点だけど」


「帝国軍は違うんですか?」


「後輪駆動だけよ。4輪駆動も無いみたい。荒れ地を走行するなら蒸気戦車や内燃機関を搭載した戦車があるからでしょうけど……」


 軽快性よりも踏破性を重視したということなんだろうか?

 蒸気戦車の移動速度は最大でも時速15ミラル(24km)程度らしい。後ろに歩兵を引き連れて前進して来るらしいから、あまり速度を上げる必要性も無いのだろう。


「さて、出発にゃ! 輸送部隊の轍を探すにゃ」


 再び自動車が走り出す。

 進路はかなり西に寄っている感じだ。

 途中、何度か遠くに村が見えたが、俺達を追ってくるような車は全くない。

 少し拍子抜けしているところで、急に自動車の速度が落ちてきた。


 何事かと思って前方に身を乗り出すと、深い轍の跡がある。

 昨日の輸送で出来たものだろう。轍の上に雪が乗っているけど、東西にずっと続いているから間違いは無さそうだ。


 轍を見失わないように、轍の北がに距離を取って西へと進む。

 時刻は10時近くなってきた。

 このまま行けば昼過ぎには輸送部隊と遭遇しそうな感じだな。


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