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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-068 待っていた雪が降ってきた


 リトネンさんが車庫にいたドワーフに、いくつかダメ出しをしたようだ。

 燃料容器の増設は当然だけど、その他にも色々とあるらしい。

 女性達は自動車を毎日のように動かしているから、俺とハンズさんはヒドラⅡの操作を学ぶために新しく出来た射撃場で射撃練習をすることにした。


「1イルム半(37mm)だからなぁ。さすがに手で持っての射撃は無理か」


「正直な話、これって大砲ですよねぇ。砲弾の長さだけで8イルム(20cm)はありますよ」


 的は峡谷の対岸に板で自動車を模ったものだった。距離は800ユーデ(720m)とのことだが、ここから北東にもう1枚の的がある。そこまでの距離は1000ユーデ(900m)とのことだ。

 橋の下にも同じように的がロープで吊り下げられている。500ユーデとのことだが、さて順番に撃ってみるか……。


 照準器はゴブリン用の照準器を改良したものだろう。

 照準目盛りが3から15まで数字が目盛ってある。3の目盛りの下に1つ目盛りが付いているのは、300ユーデ以下はこの目盛りということなんだろう。


 射撃を開始したのは、ハンズさんが先だった。

 ドォン! という銃声とは全く異なる音がして、橋の下の的が揺れている。


 照準器で当たった場所を確認すると自動車の的が描かれた板の右上に赤い塗料が付いていた。


 次は俺の番だな。

 何時ものようにゆっくりと息を整えてレティクルの「T」形に自動車を合わせる。

 照準器の三分の一を占めるぐらいだから、運転席を狙ってみよう……。


 ドォン!

 頑丈な三脚の乗せられているヒドラⅡだが、肩を蹴飛ばされたような反動を受けた。

 的がかなり揺れているから当たったことは間違いない。

 照準器で確認すると、運転席の真ん中に赤い塗料が飛び散っていた。


「やはりリーディルは腕は良いな。ど真ん中じゃないか!」


「照準はかなり良く出来てますね。問題は衝撃です。肩を蹴飛ばされた感じです」


「それは、ある程度軽減できそうだ。肩にパットを付ければ良いからな。俺も作っておこう。任せておけ」


 射撃訓練は2発でおしまいにする。

 数発撃ったら肩を捻挫してしまいそうだ。


 ハンズさんと別れて俺達の部屋へと向かう。

 部屋に入ると誰もいない。まだ運転練習を繰り返してるんだろう。


 日が傾く頃になって、皆が戻ってくる。

 お茶を飲みながら、今日の練習成果を話すのは何時ものことだ。

 俺達からは、ヒドラⅡの射撃について話すことになったのだが、衝撃が思いの外強烈だということを伝えた。


「兵站部に、肩パットを作って貰えるよう伝えておいたから、少しは軽減できるだろうが、現状では2発撃つのがやっとだ」


「作戦はもう少し後になりそうにゃ。でも予定日までは、まだ間があるにゃ」


 クラウスさんの指示が出てから、既に4日目だからなぁ。

 あれから急に寒くなってきたから、そろそろ本格的な雪の季節になりそうだ。

 寒空の下で、自動車の上ともなるとかなり冷えそうだ。

 防寒対策も厳重にしておく必要があるんじゃないかな?


 翌日の昼過ぎに、イオニアさん達が大きな布袋を持って現れた。

 ドサリ! とテーブルに乗せられたのは、新しい防寒服だ。


「今度のは内側がウサギの毛皮が張ってあるの。ズボンもあるけどさすがにそっちは薄いフエルトね。ブーツも毛皮張りよ。ミトンはフエルト張りだけど、銃が撃てるように人指し指が独立してるわ」


 確かに温かそうだ。防寒ズボンは、今着ているズボンのまま着られるぐらいにたっぷりしている。

 これを着てスモックを被れば自動車の上でも寒くは無さそうだな。


 夕暮れ近くになると、今度はハンズさんが肩パットを持ってきた。

 柔らかな革と硬い革を交互に重ねたような作りで、厚さが半イルムほどもある。

 肩だけでなく、左胸上部全体で衝撃を受けるような作りなんだろう。

 明日の射撃が楽しみだな。

                ・

                ・

                ・

 何度か射撃を行ったが、肩パットの効果は絶大だ。

 これなら、何発でも撃てそうだな。


 射撃の方も800ユーデの標的なら問題なく狙撃できる。さすがに1000ユーデとなると、狙撃カ所から1ユーデほどばらついてしまうが、自動車に当てることはできる感じだな。

 ハンズさんの方は相変わらずヅレが大きいけど、800ユーデなら確実に自動車を取らえることができるようだ。


 クラウスさんがやって来てから8日目の朝。

 外が真っ白になるほどの雪が降っていた。

 結構吹雪いている感じだから、このまま根雪になりそうだ。

 朝食を終えて俺達の部屋に向かうと、リトネンさんが待っていた。


「これで、全員にゃ! 今夜、出発するにゃ……」


 広げた地図を指差して、今回の作戦の再確認を行う。


「この辺りで一泊するにゃ。攻撃は明日の午前中に行うにゃ。4発の噴進弾を放った後に、この道路を目指すにゃ。

 輸送隊は相変わらず蒸気自動車にゃ。この道を東に進み、輸送部隊と遭遇したら、ヒドラⅡで蹂躙するにゃ」


 輸送部隊を攻撃した後は、尾根の西を巡って帰ることになる。

 何発撃てるだろうか?

 

 固定射撃ならそれなりに自信はあるが、場合によっては走る自動車からの射撃になりそうだ。

 距離800ユーデなら、およそ1秒で着弾する。

 自動車の速度が互いに時速20ミラル(36km)程度ならば、発射してから10ユーデほど照準点からズレてしまうだろう。

 ほぼ、車両1台半ほどになるんじゃないか?

 すれ違う距離が問題だな。距離と速度を変えてエミルさんに計算して貰おう。


「集積所への攻撃は2回行うということですか?」


「出来れば3回撃ちたいけど、無理だと思うにゃ。早めに逃げ出すにゃ」


 イオニアさんの問いに即答してぐらいだから、最初から2回と諦めてるんだろう。


「ヒドラⅡでの攻撃ですが、どの程度の距離を想定してるんでしょうか? それと移動しながらの攻撃も視野に入れてますか?」


「800ユーデなら2人とも初弾命中が可能にゃ。固定して2発。その後すれ違うような形で移動攻撃を想定してるにゃ」


「となると、互いの自動車の動きでかなり狙いが逸れますよ。簡単に計算したんですが、距離800で互いに時速20ミラルであれば自動車1台半ほどズレてしまいます。

 エミルさんに、互いの自動車の速度と距離を変えてどの程度ずれを補正すれば良いのか計算して貰いたいんですが?」


「おもしろそうね。それって、艦隊の砲撃船の計算に似ているかもしれないわ。いくつか計算してあげる」


 ハンズさんが俺の方に顔を向けて、本当なのか? という目をしている。

 エミルさんなら、詳しく計算してくれるに違いないし、砲撃諸元の計算には慣れているはずだ。


「夕食を食べたらここに集合にゃ。お弁当を貰っておくにゃ。攻撃前に頂くにゃ」


 リトネンさんが解散を告げたところで、買い出しに向かう。

 タバコは1箱で十分だろう。スキットルにはブランディーが入れてあるし、飴玉もまだ残っているからね。

 ミザリーが付いてきたけど、どうやらココアを買い込むようだ。コーヒーは苦いと言っていたからなぁ。

 粉をお湯で溶かすだけの代物だけど、真鍮の缶入りだから零れることは無さそうだ。

 俺も同じようなコーヒーを買い込んだ。

 豆を擦った物も売っていたけど、作戦時なら粉のコーヒーが一番だろう。

 角砂糖も20個ほど買い込んだから、休憩時間にゆっくりと味わえそうだ。


 母さんとの夕食時に、今夜出掛けることを告げると少し驚いていた。

 ずっと一緒だったからなぁ。まだ作戦は先だと思っていたんだろう。


「今度は自動車を使うんでしょう? 危ないと思ったら、直ぐに下りて尾根に逃げるのよ」


「西の尾根を一回りする感じの作戦だから、何かあればそうするよ。帰りは明後日以降になるのかな? 途中で作戦の追加があるかもしれない。自動車には結構色々詰め込めるからね」


 母さんの働く部署は通信局だから、案外俺達よりも状況が分かるかもしれないな。

 食堂でお弁当の包を貰って、母さんと別れる。

 さて、俺達の部屋に向かうか。

 まだ雪が降っているから、防寒対策をきちんとしないといけないだろう。


 防寒服が結構ふっくらとしているから、少し大きめの白いスモックを着るとまるで雪ダルマのようになってしまう。

 あの自動車の座席は結構ゆったりとしているから問題はないだろう。


 背負いベルトを緩めた背嚢を背負い、ドラゴニルを肩に掛ける。

 マフラーとゴーグルも持ったし、ミトンも背負いベルトに挟んである。

 装備が整ったところで部屋を出ると、車庫へと向かう。

 既にエンジンが掛けられているから、直ぐにも出掛けられそうだ。


 最初にミザリーを乗せて、小銃を銃架に固定する。座席の後方に鉄のカゴが付いているから、皆の背嚢を中に入れて帆布のシートを被せておく。

 このシートは本来屋根になるらしいが、もっと大きいのを探してきたようだ。自動車全体をすっぽり覆えるんだが、真ん中付近に「T」形の切れ込みが入っている。

 シートの中から砲弾を撃てるとのことだ。

 雪の中なら、確かに目立たないだろうな。

 包帯を貰って来たらしく、ヒドラⅡも可動部分以外は包帯がぐるぐると巻かれていた。


 防寒服のフードを防止の上にしっかりと被せて、その上にスモックのフードを重ねしっかりと紐を結んだ。

 マフラーは何時ものように三角巾で代用しているからこれも目元付近にまで引き上げてゴーグルを掛ける。

 最後にミトンを手袋の上に付ければ、準備完了だ。

 ミザリーに顔を向けると、すでに終わったみたいだ。


「座席の横の棒も固定したんだろう?」


「全て終了してるよ。兄さんも終わったの?」


「準備ができたら、出掛けるにゃ。イオニアの方はどうなのかにゃ?」


 隣の車も準備ができたようだ。助手席に乗ったテレーザさんがリトネンさんに親指を上にあげてアピールしている。


「それじゃぁ、出発にゃ。雪が結構積もってるから、車輪にチェーンが巻いてあるにゃ。時速30ミラル(48km)ぐらいまでならチェーンが切れないと言ってたから、20ミラルぐらいで進むにゃ」


 俺達の車が先頭になり、砦を時計回りに巡って南に出る。

 道はあったらしいが、帝国軍は余り整備していなかったらしい。荒れた道だけど、雪が積もっているから思ったほど揺れが少ない感じだ。


 それにしても、前を見ていると顔がどんどん冷えてくるのが分かる。

 ミザリーを見ると風を避けるように俯いている。

 少し考えないといけないな。最初の休憩時に、ツエルトを使って簡単な風よけを作ってみるか。

 直ぐ目の前にあるヒドラⅡの架台に引っ掛けて、左右に伸ばせば容易にできそうだ。


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