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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-063 次の作戦はブンカーの奪取


 俺達の部隊は俺とハンザさん以外の5人が女性だから、夏は視線のやり場に困るんだよなぁ。

 胸元を開いてバインダーでパタパタと風を送っているエミルさんは、俺に顏を向けて笑みを浮かべている。

 さっきちらりと視線が向いたのをおもしろがっているようだ。

 困ったお姉さんなんだよなぁ……。


「さすがに岩の中は外よりは涼しいが、ジッとしてると汗ばんでくるな。次の作戦はまだなんだろうか?」


「あれから10日も経ってないわよ。王都の火事は収まったらしいけど、再建が始まったと連絡があったみたい」


「さすがに野積みはできないだろうからなぁ。輸送船を留め置くのも問題があるだろう」


 小型の潜水艇を使った通商破壊工作は余り進んでいないようだ。

 それでも毎年2、3隻は沈めているらしい。

 大陸の戦が終わったみたいだから、輸送艦や護衛艦も増えたのだろう。夏になってから、2隻の潜水艇が出撃して戻ってこないらしい。


 王都に潜伏している反乱軍はほとんどがこの拠点に移動してきたけど、いまだに数人の通信員が残っているらしい。何カ所かのアジトから王都の情報を送って来てくれているようだ。


「作戦も良いですけど、この間のような作戦ではちょっと困りますね。冷や汗ものですよ」


「あれだけ王都に接近して砲弾を撃ち込むのは、久しぶりの快挙だ。だが再び砲弾を撃ち込むのは問題だろうな。案外、西の港町辺りかもしれないぞ。

 主力は南東の膠着した戦線で一進一退を繰り返しているからなぁ。東の砦も輸送封鎖が続いているからもう少しで帝国兵が逃げ出すだろう。今動いていないのは、西の町だけになる」


 どんな町なんだろう?

 いまだに占領下になるはずだから、中隊規模の兵士が駐屯しているに違いない。

 橋の西側から監視を続けているだけで、橋を渡ろうとすることが無いのも気になるところだ。


「変に藪を突くと、王国軍が増員しそうですね」


 テリーザさんの言葉に、ハンザさんが頷いている。

 それもあり得るってことかな?


「孤立化を図っているのかもしれんな。東の2つの砦が落ちるのも時間の問題らしいからな」


「連日のように砲弾を撃ち込んでると聞いたけど、よく持っていると感心してしまうわ。でも秋には何とかしたいと言ってたわよ」


「秋まで持つかどうか、というところだろう。総攻撃に移らないのはそれだけこちらの被害を小さくしたいようだな。だが、あの砦を奪えると反乱軍は北に回廊を持つことになる。北からの攻勢で、南東の戦況がかなり動くんじゃないか?」


 新たな戦線が北にできることになる。

 そうなると、切通しから南に延びる尾根が新たな攻防の地になりそうだ。

 尾根を制すれば、南東の戦線だって補給路を断たれかねないからね。

 それ頬標高は無いんだが、尾根から撃ち出す新型の75mm砲弾なら大部隊が押し寄せて来てもそれなりの被害を与えられるだろうし、空中軍艦だって1隻落とされているんだから、尾根に近付くことはないんじゃないかな。


「拠点の戦闘員は1個中隊にも満たないのよねぇ……」


「小隊の編成も3個分隊だからなぁ。非戦闘員を動員しての防衛体制を敷いたとしても、実質の攻撃力は2個小隊というところだ。一時は、4個分隊の3個小隊を越えていたんだが……」


 やはり兵員数が少ないのが難点ということなんだろう。

 今まで通り、破壊工作を主体とした帝国軍への撹乱工作ということになるんじゃないかな。

               ・

               ・

               ・

 夏が終わりに近付いてきたある日のこと、クラウスさんが俺達を集める。

 いよいよ次の作戦かなと思って、黒板近くに皆が集まってくる。

 オルバンが黒板に張った大きな地図を黒板に張るのを待って、小脇に挟んだ棒を使って状況説明が始まった。


「帝国軍の大部隊がやって来たが、いまだに南を抜けずにいる。ヒドラⅡが敵の蒸気戦車と蒸気機人の前進を阻んでくれているようだ。

 新型の移動砲台は射程が野砲よりも短いが、敵の突撃を何度もくい止めている。

 依然として、南東の戦線は膠着状態と見て良いだろう。

 切通しの橋の東にある帝国軍の一大拠点は、連日の砲撃で外壁を何カ所も崩しているようだ。

 いよいよ、東の拠点を潰せるだろう」


 東の拠点は、石垣を持った砦ということだ。盆地の中に作られた旧王国軍の砦を接取して使っていたらしい。

 東側から攻撃して砦を取り戻すとのことだから、当然のごとく西へ逃げ出すだろうな。

 逃げ出す先は、鉄橋を守備している砦になるのだが、それだって第1、第2小隊が移動砲台で連日砲撃をしているぐらいだ。

 

「橋のたもとの砦の連中も逃げ出すに違いない。そのまま逃げ出してくれれば問題は無いのだが、付近に地雷を仕掛けられると厄介だ。リトネンには、尾根の東のブンカーを奪取して欲しい。

 第3小隊は谷の出口から南へ向かい、線路沿いに布陣してくれ。線路沿いに逃げ出す連中を叩いてくれ」


 第2小隊で橋の砦を奪取するようだ。

 尾根の東沿いに逃走できるんだが、尾根から狙撃できる範囲なら俺達で狙撃できそうだな。


「東の拠点攻撃は5日後になるが、その前にリトネン達はブンカーを頼む。東の状況を見て、俺達は橋の砦を奪取するつもりだ」


「了解にゃ。半ミラルの範囲で近寄らせなければ良いにゃ?」


「十分だ」


 他の小隊はそのまま残ってクラウスさんの話を聞くようだけど、リトネンさんは俺達を集めて、何時ものテーブルに向かった。


「さて、聞いた通りにゃ。1度ブンカーを掃除したけど、今度はしばらくブンカーに住むことになりそうにゃ」


「あそこは飲料水がありませんよ。少なくとも水の運搬容器を1つ運ばないといけません」


 20パインの容器だからなぁ。1日で消費してしまいそうだ。俺達の水筒にたっぷりと入れて、背嚢にも水筒入れて持って行くことになりそうだ。


「しばらくはいるとしても、移動砲台は必要なさそうにゃ。代わりにグレネードランチャーで十分にゃ。手榴弾は10個予備を持って行くにゃ」


 帝国軍の反撃が、直ぐには始まらないということかな?

 もっとも、俺達がいつまでブンカーに留まるかという問題もあるんだけどね。


「先ずは、ブンカーの奪取。その後は敵の反撃への対処という考えで、装備を備えることになりますね」


 イオニアさんの言葉が一番納得できるな。先ずはブンカーを奪わないと話の外だし、その後の敵の襲来を考えて、装備を整えることになるだろう。

 

 まだ熱い季節だからなぁ。着替えだって必要だ。

 ブンカーの奪取は俺達だけでの作戦だから、少し早めに出発することになってしまった。

 明後日ということだから、直ぐに準備が始まる。


 ハシゴを背嚢代わりに使うのは、イオニアさんとハンズさんに俺の3人だけだ。

 イオニアさん達が水の容器を1つずつ持ち、俺は手榴弾を10個入れた木箱を持つ。それ以外に、ドラゴニルの予備の銃弾と焼夷手榴弾が2個だ。

 後はキャンバス地の袋に詰めた着替えと、一回り小さな飯盒に食器と予備の食料を入れておく。

ミザリーの着替えも布袋に入れて預かることになった。

 

「私は、食料を受け持ったの。私とリトネンさんで全員の5日分よ」


「1日、2食にゃ。それ以上食べたいなら、自分で運んでいくにゃ」


 思わずハンズさんと顔を見合わせてしまった。

 

「ビスケットを沢山仕入れて来るよ。ブンカー内でしばらく暮らすことになりそうだからな。動かないとしても、昼には何か食べたいところだ」


「俺も少し持って行きます。……ところで、リトネンさん。5日で足りるんですか?」


「近くまでドワーフ族が食料を運んでくれるにゃ。クラウス達の作戦が終われば、補給ができるにゃ」


 それで5日分ということか。

 余るかもしれないけど、食料だけはたくさんあった方が安心できる。

 

 後は……、前回はブンカーの銃眼に手榴弾を投げ込んだんだが、相手も同じことを考えると厄介だな。

 その対策について、リトネンさんに聞いてみたら、簡単な答えが返ってきた。

 金網を内側に張るらしい。

 確かに投げ込めなくなる。問題は金網の止め方なんだが、木の幹を隙間に挟み込んで保持するらしい。

 激発装置を作動させて5秒着に炸裂するから、押し込むようなことはできないだろう。投げ込もうとして手榴弾が網で跳ね返ったら驚くに違いない。


 翌日は、弾薬や食料を補給して袋詰めにしてハシゴに乗せる。荷物全体をツエルトで包めば、夜露に濡れることも無いだろう。

 もう1枚ツエルトを追加しとくか。毛布変わりに使えそうだ。


 衣服は朝晩涼しくなってきたから、革のジャンパーにしておく。前を止めなければそれほど汗をかくことも無いだろうし、脱いでハシゴに乗せておいても良さそうだ。

 装備ベルトには銃弾が40発。予備の銃弾は、着替えと一緒に20発が入っている。


「これで終わりですね。後は出発するだけです」


「もう入らないのか?」


「かなり重いですけど、何かありますか?」


 俺の問いに笑みを浮かべたハンズさんが、ポケットからワインの瓶を取り出した。

 受け取ったボトルを布袋の間に差し込んでおく。


「2本入れてあるんだが、さすがに3本は持てないからな」


「無事にブンカーを手に入れたら、これで祝えますね」


 そんな話をしていると、エミルさんが俺達を見て笑みを浮かべていた。


「チーズを持ったわよ。摘みも欲しいでしょう?」


 俺達がワインを運ぶことを知っていたみたいだな。

 コーヒーはミザリーが確保してくれたようだから、それ程不自由なく過ごせそうだ。


 翌日。母さんと一緒に朝食を取り、何時ものようにハグして別れる。


「ちゃんと帰ってくるのよ。それと祈りは欠かさずにね」


「守ってるよ。できれば天国に行って欲しいからね」


 俺から離れると、今度はミザリーを抱き寄せている。

 そろそろお年頃だからなぁ。でもこの拠点ではよい出会いがありそうもない。

 母さんが相手を探してくれるかもしれないな。

 その辺りは、優しく見守ってあげよう。


 小隊室に向かうと、まだイオニアさんだけだった。まだ秋には程遠いけど、ストーブが点いている。

 上に乗ったポットからカップにお茶を注いで、タバコに火を点ける。


「出掛けるのか?」


「切通しの南のブンカーを狙います。あそこを押さえれば尾根伝いに逃げる連中を狙撃できますし、下は線路ですからね」


「そういうことか……。俺達は明後日だ。早めに落としてくれよ。それと怪我をしないようにな」


 俺の肩をポンと叩いて笑みを浮かべる。

 名前は知らないけど、確か第2分隊の男だったはずだ。

 軽く頭を下げて、礼を伝えた。


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