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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-007 鷹の目の息子


「それじゃあ、射撃練習場に行くにゃ。付いてくるにゃ」


 リトネンさんが部屋を出ようとしているから、慌てて部屋の皆に頭を下げると通路に駆けだした。

 今度は通路を左手に向かって進んでいく。


「こっちは倉庫になってるにゃ。その先に射撃練習場があるにゃ」


 通路を歩いて3つ目の扉を開けると、かなり細長い部屋に出た。

 奥行きが半端じゃない。一定間隔に柱が立っているけど、奥行きは100ユーデ(90m)を越えてるかもしれない。


「ここで良いにゃ。このテーブルにゴブリンを置くにゃ」


 テーブルに置いたゴブリンの各部の名称を教えてくれた。

 ゴブリンは、全長3フィール8イルム(1.1m)重さ8パイン(4kg)のボルトアクションの小銃だ。装弾数は5発と聞いている。

 小銃の部位をあちこち指差して名称を教えてくれたけど、直ぐに覚えられるものではない。とはいえ、大部分は猟銃の各部の名前と同じだから問題は無さそうだ。


「次に使い方にゃ。先ずはこれを使って動きを覚えるにゃ」


 そう言って、ポケットから2個のクリップを取り出した。

 クリップには5発の弾丸が薬莢の溝を使って挟み込んであるんだが、取り出したクリップには薬莢だけが付いている。


「カラ射ちすると壊れてしまうみたいにゃ。だからこれを使うにゃ。レシーバーを動かしながら操作を覚えるにゃ。

 先ずは銃の後ろに付いているセーフティを上にするにゃ。そしたら、ボルトを上に上げて後ろに引くにゃ……」


 ボルトを一杯に引いて、横に倒す。弾丸を装填するボックスマガジンが顔を出したら、クリップをマガジンの溝に合わせて弾丸を押し込むと、クリップが外れてテーブルに落ちた。


「それで装填は終わりにゃ。ボルトを上げて前に戻せば最初の弾丸が銃身の後ろにある薬室に装填されるにゃ。さっきのボルトを後ろに引く動作で、撃針がセットされているから、セーフティレバーを横にして、トリガーを引けば弾丸が発射されるにゃ。

 さあ、練習にゃ!」


 セーフティレバーは射撃をしない場合だけ上にしておけば良いらしい。

 作戦時には、隊長が「セーフティ解除!」と言ってくれるというから、その指示に従えば良いのだろう。


 ボルトを引いて戻して射撃姿勢を取りトリガーを引く。カチン! とレシーバー内で撃針が薬莢を叩く音が聞こえてくる。

 ボルトを引くと、打ち終えた薬莢が飛び出す。

 5発を撃ち終えると、再びクリップの弾丸を銃に装填して、同じ動作を繰り返した。


 1時間程訓練をすると、かなりスムーズにボルトを動かすことができるようになってきた。

 とはいえ、銃を持つ手がしびれてきた。やはりこの銃は結構な重さがある。


「ちょっと休憩にゃ。だいぶ良くなってきたにゃ」

「ありがとうございます。でも重い銃ですね」

「唯一の欠点にゃ。でも重いと撃った時に銃身が跳ねないにゃ」


 それはあるだろうな。俺の使っていた猟銃でさえ、撃った瞬間に少し跳ねるぐらいだ。

 銃身が短いと、暴れると表現される時もあるそうだ。拳銃弾の装薬量を増やすとそうなるらしい。「銃弾の改造はするなよ」と何度も猟師仲間から釘を刺されている。

 だけど拳銃弾は非力だからなぁ。装薬を増やせないかと相談したら、そんな話をしてくれたんだよね。


「次は実弾を撃ってみるにゃ」

 

 水筒の水を飲んでいたリトネンさんが、俺に顏を向けて呟いた。

 テーブル席を立って、射撃場に行くと、手元のハンドルをクルクルと回し始めた。

 すると遠くにあった板がこちらに動いてくる。

 近くまで寄せた板に、リトネンさんが射撃場の壁にある棚から、何枚か紙を運んでくる。その中の1枚を板に画鋲で張り付けた。

 紙には上半身の人の姿がシルエットで描かれ、頭部と胸や腹に同心円が描かれている。

「頭は1発であの世行きにゃ。心臓もそうにゃ。腹は長く苦しむことになるにゃ。最初は100ユーデ(90m)で撃ってみるにゃ。あの紙に1発当たれば大したものにゃ」


 難しいってことかな?

 ハンドルを動かして2つ目の柱の位置まで板を離すと、俺の肩をポンと叩いた。

 やってみろってことだな。


「伏射で良いですか?」

「どんな姿勢でも構わないにゃ」


 猟は立木に銃身を押さえるようにして保持しての膝射ちか、立木が無い場所では伏射が基本だった。

 ここは立木が無いから伏射で行こう。


 寝そべって銃を前にすると、俺の前にリトネンさんが実弾のクリップを置いてくれた。

 ボルトを操作して弾丸をレシーバー内に詰めたところで、セーフティを解除して狙いを定める。

 この銃は俺の銃と同じように固定式の照準が付いている。

 先ずは横の照準だ。手元の照門の『V』字型の中心に銃身先に付いている照星を合わせる。

 高さは照門の高さと合わせることになる。

 息を止めるとゆっくりと照星が照門を上下する。

 これは未だに止められないんだよなぁ。だいぶ振れ幅が小さくなってきたし、ゆっくりになってきてはいるんだが……。

 上下動を予測しながら、重なる時を待ってトリガーを引いた。


バン! という音が部屋に響く。外ではないからねぇ。結構耳に響く。

 耳を指でほじっていたら、リトネンさんが耳栓を渡してくれた。最初から渡してくれなかったのは、音に驚くところを見たかったのかな?


 次は耳栓のおかげで、それ程耳に衝撃を受けずに済んだ。

 どうにか5発撃ち終えると、リトネンさんがハンドルを回して板を手元に持って来る。板から紙を手にした途端顔色が変わった。


「ここで待ってるにゃ! 直ぐに戻ってくるにゃ」

 

 慌てて飛び出して行ったけど、どこに行ったんだろう?

 1人残されてしまった俺は、テーブルで再び。空になった薬莢をクリップに差し込んでゴブリンの基本動作を繰り返すことにした。


 通路を走る音が聞こえてきたかと思ったら、扉が乱暴に開かれた。

 今度はクラウスさんまでが一緒だ。その他に男女が2人増えている。


「全くとんでもない奴だ。親父さんを越えてるよ。今度はこっちを使って同じように撃ってくれ。俺達は後ろにいるが、気にしないで良いぞ」


 手渡してくれた銃は先程のゴブリンと同じものだが、照門の調整ができるようだ。リトネンさんが実弾のクリップを渡してくれたから、直ぐにボルトを操作してマガジン内に装填する。


「的を交換するにゃ。ちょっと待ってるにゃ」


 リトネンさんが先ほどと同じように、板に紙を張り付けて奥に移動させた。


「準備出来たにゃ。いつ始めても良いにゃ」


「それじゃあ、始めますよ……」


 照門は先程と変わらない。ちょっとした改造ということなんだろう。

 続けて5発を撃ち終えると、再び的の紙を回収してテーブルに広げている。


「全部ヘッドショットだな。しかも2イルム(5cm)以内に集弾している。お前にできるか?」


「無理ですよ。100ユーデ(90m)ですよ。狙うなら腹でしょう。それに俺では1ユーデ(90cm)範囲に散らばってしまうでしょう」


「こんなに集弾するのかにゃ?」


「するってことだな。照準調整がきちんとされている銃を、それなりの者が扱うとこういう結果になるってことなんだろう。

 さすがに、鷹の目と言われたヴァルツの息子だけのことはある。

 リトネンの部隊でしばらく面倒を見てくれ。だが、今すぐに連れて行くのも問題だろう。野外で200ユーデ(180m)の射撃で良い結果が得られるなら、後方で俺達を守ってくれそうだ」


「了解にゃ。銃はこっちを使わせても良いのかにゃ?」


「ああ、それで良い。基本動作を学ばせたところで、別の銃を渡すつもりだ」


 銃を色々と改良してるということなのかな?

 これも良い銃だが、もう少し軽く作れるんじゃないかと思うんだけどなぁ……。


 昼食は小隊の部屋に戻って皆と一緒に頂くのだが、分隊ごとに集まって食べるのが習わしらしい。


 リトネンさんの部隊は、分隊長のリトネンさんとファイネルさん。それにトラ族のドレッドさんとドワーフ族だと自己紹介してくれた女性のテルルさんの4人だったらしい。俺が入ったけど、全員種族が違うのが面白いところだ。

 一番年長者がドレッドさんだけど、指揮官は向いてないとリトネンさんを推薦したらしい。


「ほう……。鷹の目の跡継ぎか。良い兵士が参加してくれたな」


「猟で暮らしていたみたいにゃ。それでかもしれないけど、腕は私達を越えてるにゃ」


「それなら、色々と助かりそうですね。頑張れよ!」


 ファイネルさんがスプーンを置いて俺の肩をポン! と叩く。

 どうやら仲間として認めてくれたみたいだけど、まだ戦闘を経験したことがないからなぁ。

 互いに信頼関係が構築できるのは、最初の戦の後になるかもしれない。

 それまでは、この分隊のおまけ的な存在なんだろう。


「ナイフの使い方は俺が教えるよ。さすがに銃剣は早いだろう」


「ナイフだって早いんじゃない? 武器庫で拳銃を探してあげるわ」


 最後は拳銃が頼りってことか。それだと猟と変わらないな。


 バターを塗ったパンとスープの昼食を終えると、午後はリトネンさん達から今までの戦闘の概要を教えてもらうことになった。

 黒板を使って、個々の襲撃を話してくれたんだけど、ほとんどが軍用物資を運ぶ

蒸気自動車への待ち伏せのようだ。

 少人数だから列車は襲えないと言っていたけど、10台以上の車列を襲うなら、同じことに思えてしまう。


「機関車の運ぶ貨車は魅力だが、2個小隊近くの兵員が乗っている時もある。爆薬を使って破壊したことがあったが、その後で大規模の山狩りが合ったぐらいだ。

 どうにか逃走できたが、数人が亡くなったからな。それ以来、貨車は狙っていないんだ」


「蒸気自動車はいろんな品を運んでいるにゃ。中身を頂くのが楽しみにゃ」


 それを楽しむと山賊になりそうな気がする。

 だけど、この拠点を維持するための物資は、その大半を襲撃で手に入れた品になるんだろうな。

 そんな話を聞いていると、テルルさんが部屋に飛び込んできた。


「良いのをみつけた。これなら丁度手になじむでしょう」


 テーブルに乗せられたのはホルスターに入ったリボルバーだった。

 手にとると、それ程違和感がない。前の2連装の拳銃がおもちゃに思えるけど、これを使うのはそれなりの地位がある人なんじゃないか。


「デイジー2型にゃ。女性が持つ標準の拳銃にゃ」


「女性士官が持つのは、もうちょっと良い品なんだけど、砦内で働く女性兵士が所持する拳銃なの。至近距離ならそれなりの威力があるわ」


「30ユーデ(27m)離れたら、ヘッドショットでも無ければ殺せない拳銃だ。だが、今なら問題はあるまい。リトネン、その使い方も教えるんだぞ」


「これは難しくないにゃ。強いて言うなら1発弾を抜いておくぐらいかにゃ」


 床に落とした衝撃で弾丸が飛び出す事故があるようだ。それを避けるために、シリンダー内の弾を1発抜いてそこにハンマーが落ち込む状態にしておくらしい。

 ちょっと物騒だけど、安全は優先せねばなるまい。

 シリンダーの覗くと、確かにハンマーにある部分には弾が抜かれていた。

 

 リトネンさんの講義が終わると、再び射撃上に行って、今度は拳銃の取り扱い方を覚えることになった。

 リボルバーの大型は、男性兵士の何割かが所持しているらしいのだが、拳銃はそれなりの重さがあることから、あまり持ちたいと願い出る兵士はいないらしい。


 18時を告げる鐘が鳴ったところで、今日の授業は終わりになる。

 皆は一緒に食事をするようだが、家族がいるからなぁ。明日また来ると言って俺達の部屋に帰ることにした。


※補足 ※


 重さの単位はパイン(500g)を使う。クロノ神像が持つゴブレットに入る葡萄酒の重さらしい。

 それより大きな重さの単位としては、麻袋の詰めた穀物の重さに使われるブロスがある。1ブロス(20kg)は40パインに相当する。

 さらに大きな値としてカーゴが使われているが、50ブロス(1t)に相当することから商人達が使う場合が多いようだ。荷馬車1台に搭載できる重さが基準になっているらしい。


 量を現す単位にもパイン(0.5ℓ)が使われる。

 ドワーフ族の作る葡萄酒樽に入る量を現すバリル(20ℓ)もパインより大きな単位として使われる。1バリルは40パインになる。


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