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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-054 拠点の増員と今後の戦略


 拠点に帰ったのは、車列を攻撃してから15日目の事だった。

 へとへとになって帰ってきたけど、暖かな食事とシャワーを浴びて、1日ゆっくりと休めばそれなりに疲れは取れる。

 大きなハムを母さんにお土産として渡したけど、母さんのことだから通信室の知り合いにもおすそわけしてあげるに違いない。


「帝国軍の暗号表が入手できたから、ミザリー達の活躍は直ぐに分かったの。でもなかなか帰ってこなかったから心配だったのよ」


「ず~っと、歩いてきたのよ。雪の中に穴を掘って休んだり、葦の根元にツエルトに包まって寝たこともあったの……」


 ミザリーと母さんの話を聞きながら、夕食後のコーヒーを頂く。

 母さん達は紅茶なんだけど、俺の為に作ってくれたみたいだな。寝る前の一服は格別だ。

 日に数本に増えてしまったけど、これ以上にはならないだろう。


「さすがに次の任務にすぐ出ることは無いと思うよ。案外、春まではこのままなんじゃないかな」


「西の大陸は統一されたみたいね。それで、こんなに帝国軍が増えたんでしょうけど、春までには更に増強されるかもしれないわね」


 征服する国が無くなれば、こっちに戦力を集中できるってことか……。

 俺達にとっては由々しき事態ということになるんだろうけど、新壁は飛行機だけなのかな?

 燃料の心配をしながら戦うようでは、先が見えてる気がするんだよなぁ。


 拠点に帰って3日目。朝食を済ませた俺達は、部屋に戻り装備を手に小隊の部屋へと向かった。

 小隊の部屋に到着すると、スモックや背嚢を戸棚入れ、小銃を銃架に掛けておく。

 装備ベルトを外したが、リボルバーだけは腰の後ろのホルスターに入れたままだ。


 既にエミルさん達が俺達のテーブルでお茶を飲んでいた。ミザリーがその中に入って行ったけど、俺は薪ストーブ近くのベンチへと向かう。

 薄味だけどコーヒーが飲めるんだよね。

 カップにポットから注いだところで、空いたベンチに腰を下ろす。


「だいぶ掛ったな。毎日通信があったから無事だとは知ってたが……。リーディル達のおかげでかなり帝国軍は慌てているようだぞ」


「帰る途中で飛行機が南に飛んでいくのを見ました。飛行機の方も戦果があったということですか?」


「ああ、輸送部隊の半数を爆破したらしい。3つあった輸送部隊が半数になったということだからなぁ」


 とはいえ、直ぐに蒸気自動車ぐらいなら輸送して来るんじゃないか。

 だが海を挟んでの輸送だ。直ぐに調達できるとも思えないな。


「来年は激しい戦になるぞ。俺達の部隊も半数ほどが常に作戦に出ていることになるんじゃないか?」


「気を付けねば、拠点が磨り潰されかねん。増員があれば良いんだが……」


 どうにか2個小隊というところだからなぁ。

 もう1個小隊は欲しいところだが、徴募することもできないからなぁ。


 扉が開き、誰かが入ってきた。

 一斉に扉に皆の目が向く。入って来たのはクラウスさんだった。オルバンが一緒だったから、従兵勤めは今でも続いているようだ。

 ストーブの傍に来たから席を譲ろうとしたけど、そのまま座るように手で指示されてしまった。

 それを見て、気が利く男性が椅子をいくつか運んできた。


「皆、集まってくれ。椅子持参でも構わんぞ。少し長くなりそうだからな。それと、ワインを2本持ってきた。カップに半分はあるだろう。足りなければ自分達の分を出してくれよ」


 そんな話で笑い声が起こる。

 急いで飲み干したカップにワインが注がれた。皆のカップにワインが注がれた頃合いを見計らってクラウスさんが席を立つと、全員が椅子から立ち上がった。


「昨日、帝国軍の前線に穴が空いたそうだ。夕暮れ前には蒸気機人の投入で元に戻ったらしいが、蒸気機人2体を破壊したらしい。

 どうにか蒸気機人を相手に戦ができるようになったことを、先ずは祝おう!」


 小さな勝利を得たということなんだろう。

 確かに祝いたくなるな。

 クラウスさんが掲げたカップに合わせて、俺達もカップを掲げる。

 先ずは一口……、甘いワインは俺にとっては上等のワインだ。


「この拠点に増員がある。正確には王都に潜伏していた同志達を受け入れることになるが、規模は200人程度だろう。

 種族はバラバラだし、家族もいる。兵員としての増加分は1個小隊には満たないだろうが、それで3個小隊を編成するぞ。

 常に2個小隊が攻撃を行うことになる。目標は南東の橋の砦だ。南に向かう線路を長い距離に渡って破壊すれば、南東の2つの砦は補給が断たれる。

 北の最前線は、東に延びる線路のカーブと南西の橋を結ぶ街道になるはずだ。

 山すそにかつて迎撃用の陣を作ろうしたことがあったが、それを再利用する形で陣を構築する。

 打って出るにしても、拠点の半分以下で済ませられるだろう……。ここまではいいな?」


 戦況は一進一退と言いたいところだけど、旧王都に潜んでいた反乱軍の同志達が逃げ出すことになったんだから、かなり取り締まりが厳しくなったに違いない。

 旧王都の状況がこれで分からなくなってしまったんじゃないか?


「1つよろしいですか? ふもとの街道近くが戦線になりそうですが、そうなるとこの拠点がもろに帝国軍の攻撃に晒されることになるのではないですか」


「間違いなくそうなるだろうな。だから、一気に東の2つの砦の攻略を進めることはしないでおく。

 帝国軍を消耗させるために、あの2つの砦を上手く使いたい」


 少し分かって来たぞ。

 要するに消耗を強いるということなんだろう。

 今までのように列車を転覆させるだけでなく広範囲に線路を破壊するとなれば、一気に輸送量が減ってしまうだろう。

 切通しには、並行に延びる道すらない。


「帝国軍を飢えさせるってことか?」


「贅沢に慣れた連中だ。少しは堪えるに違いない。それと、不定期に攻撃を加えれば応戦しないわけにはいかないだろう。弾薬の欠乏も視野の内だ。既に切通の出口までの住民は一旦東に退いている。いくら砲弾を撃ち込んでも同士討ちは起こらないぞ」


 攻撃は移動砲台を多用するということなんだろう。

 射程は短いし、狙いは砲弾任せだからなぁ。どこに飛んでくるか分からないから、相手側としたら一番厄介な砲撃に違いない。


「攻撃は、第1小隊と第2小隊で行う。詳細は旧王都の連中が合流してからになるが、彼等だけで第3小隊を作る予定だ。第3小隊の役目だけははっきりしている。列車の妨害専門だ。

 南からの攻撃があった場合は、谷の出入口まで撤退することありえる。事前に鉄橋付近に作る陣までの補給路を作ることも第1、2小隊の仕事の範疇だ」


「私達は、何をするにゃ?」


「湿地開拓の邪魔をして欲しい。かなり機材を本国から運んできている。東の尾根を削った土砂で埋めるつもりなんだろうな」


 リトネンさんが怪しい笑みを浮かべている。

 妨害破壊工作は正規軍がする作戦とは思えないんだが、開拓を断念させようということではないらしい。

 適当に邪魔をすることで、こちらにも兵士を割かざるを得ないという状況を作るということなんだろう。

 リトネンさんが笑みを浮かべるのも理解できるな。こんな作戦だと、やる気を出す人だからねぇ。


 解散したところで、俺達のテーブルに移動する。

 ミザリーとテリーザさんが俺達にお茶を用意してくれた。さて、リトネンさんはどんな作戦を考えるのかな?


「ちょっと、テーブルのカップを除けて欲しいにゃ。地図を広げてみるにゃ」


 先ずは状況確認ということか。

 適当に動いている気がするんだけど、案外慎重なんだよね。


「湿地の大きさは、約東西8ミラル(12.8km)、南北11ミラル(17.6km)あるにゃ。島みたいに盛り上がっているところや、小さな池がいくつかあるにゃ。この辺りが前に隠れた水路の後にゃ。地図には載ってないから、あまり知られていないにゃ」


「あのトンネルをアジトに使うのですか?」


「そうにゃ。出口は東にもあるけど葦の中にゃ」


 逃走路があるなら都合が良い。西側だけだと、見つかったら最後になってしまいそうだ。

 だけど、街道を南にかなり向かったところなんだよなぁ。穴はコンクリートで固められているようだから丈夫なんだろうけど、7人で潜むには少し小さいんじゃないか?


「東はもっと大きいにゃ。2つのトンネルを使って排水する計画だったにゃ」


 ん? 思わずリトネンさんの顔を見てしまった。

 リトネンさんが自信たっぷりにメモに描いたのは、四角の箱とそれに繋がる2つのトンネルだった。

 さらにもう1つ、西にもトンネルがあるってことか?


「出来たのは、この四角の箱とこの前潜んだトンネルにゃ。こっちは作っている途中で計画が中止になってしまったにゃ」


「待ってください。あの場所の東にあった水門がこの箱なんじゃないですか?」


「んにゃ、水門はこんな感じでもっと東にあったにゃ。3つの水路で湿地の水を集めて排水する計画だったにゃ」


「帝国軍も開拓を計画しているとなれば、やはりこの近くに水路を作ることになりませんか?」


「作るとすればもっと北になるにゃ。たぶん南から順次埋め立てるに違いないにゃ」


 湿地の状況を見てからになるってことかな?

 しばらくは水路工事が無ければそれで十分だろう。

 さて、そうなると攻撃方法だな。やはり2イルム口径の移動砲台ということになるんだろう。

 狙撃も遠距離になるだろうから、ドラゴニルを持って行こう。


「アジトとするなら、何度か荷を運ぶ必要がありそうですね」


「森の出口までドワーフ族の人達に手伝って貰って、後は私達で何度か運ぶことになるにゃ」


 雪解けを待って移動するのかな?

 滞在期間をどれぐらいにするかが問題だけど、食料や銃弾だけでもかなりの量になりそうだ。

 

「今回から背嚢を使わずに、ハシゴを支給するにゃ。背嚢よりも私物を持っていけるにゃ」


 ハシゴは結構荷物を背負えるから、移動式砲台や砲弾をそれで運ぶのかな?

 何度か森とトンネルを往復しないといけないということにも繋がるんだろうけどね。

 俺とハンズさんで、棒に荷物を下げて運ぶこともできそうだ。

 


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