表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
57/225

J-050 ソリを引いて南に向かう


 長袖の下着とウールのシャツにズボン下、その上にセーターを着て、薄いフエルトの裏地の付いたジャンパーを羽織る。

 かなり暖かだ。ズボンも生地が二重だからこのまま寝られるんじゃないかな?


「その上に冬用のスモックを被るにゃ。帽子は毛糸の帽子でも構わないにゃ。ゴーグルは頭に乗せておけば良いにゃ。

 手袋の上にミトンを付けて、足は冬用のブーツにレッグウオーマーを付けるにゃ。防水だから足が濡れないにゃ。

 ブーツに付ける雪靴は金具の付けて履くにゃ。後で教えるにゃ」


 スモックは秋冬用らしい。枯れ草に隠れられるような茶系統の縦縞と、灰色をいくつか使った縞模様の2種類を裏返すことで使い分けられる。

 膝丈ほどあるし、防水処理がなされているとのことだから風を防ぐこともできるだろう。

 フードも付いてるから、マフラー代わりの三角巾で口元を覆ってゴーグルを付けると、誰が誰だか分からなくなりそうだ。


「装備を持って帰るにゃ。明日の食事が終わったら、お弁当を受け取って谷の出入り口に集合にゃ!」


 とりあえず、スモックは脱いでいよう。

 背嚢の上にストラップで丸めておけば、忘れることは無さそうだ。

 

「歩いたら汗をかきそうだよ」


「その時は、休憩の時にセーターを脱いでおくんだ。汗が急に冷えると凍傷では済まなくなるからね」


 ミザリーは冬の作戦を楽しみにしているようだ。

 町でも雪が降ると、直ぐに庭で雪の中をはしゃいでいたからなぁ。

 寒くないんだろうかと思っていたんだが、今でも変わらないのかな?



 装備を持って部屋に帰ると、再度中身を確認しておく。

 追加したのは靴下ぐらいだ。厚手の物を1つ入れておいた。


 母さんが戻って来たところで食堂に向かい、今夜は早めに寝ることにした。

 翌日は、装備を背負って母さんと一緒に食堂に向かう。

 食事が終わると、2人分のお弁当を4つ貰い背嚢に詰め込んだ。


「兄さんの言うことをちゃんと聞くのよ。冬は寒いんだから無理はしないでね」


「何時までも子供じゃないんだから、だいじょうぶよ」


 何があってもミザリーだけは無事に帰そう。

 そんなことを考えていると、母さんが俺をハグしてくれた。皆が見てるからちょっと恥ずかしくなってしまう。

 食堂を出ると、階段を下りて行く。

 結構長いんだよなぁ。階段が終わっても洞窟の中を歩くんだからね。

 

 15分ほど歩くと、谷の出口が見えてきた。

 スモック姿だから誰だか分からないけど、体型からイオニアさん達に違いない。


「おはようございます。だいぶ早いですね」


「朝は早く目が覚めてしまう。スモックを着ていつでも出掛けられるようにしておいた方が良いぞ」


 ミザリーと一緒にスモックを上に着たところで、ミトンをベルトに挟んでおく。

 今のところは毛糸の手袋で十分だけど、外は寒いんだろうな。


 ドワーフ族が用意してくれたコンロにはポットが乗っていた。出掛けにお茶を飲めそうだな。

 ミザリーが嬉しそうに谷の出口を歩いているけど、本当に寒さに強いんだと感心してしまう。


「ソリは線路までドワーフ族が引いてくれるそうだ。その先は私達トラ族ということになるんだろうが、リーディルにも期待しているぞ」


「あまり期待されても困りますけど、任せてください」


 俺の身長ほどのソリに荷物がだいぶ乗っている。

 一応布に包まれているようだから、ひっくり返っても荷が辺りに散乱することは無さそうだ。

 30分ぐらいすると全員が集まった。カップ半分のお茶を頂き、リトネンさんが最後の装備の確認を行って、俺達にスノーシューを配ってくれた。


「先ず金具を最初に付けるにゃ。靴の真ん中に付けてしっかりとベルトで固定しておくにゃ。これで氷の上でも滑ることが無いにゃ。

 スノーシューは金具を避けて足に固定するにゃ。一応ベルトが付いてるけど、ブーツのつま先にある3カ所のフックで固定すれば脱げることは無いにゃ」


 スノーシューは踵が固定されないようだ。これなら普通に歩けそうな気がするな。

 

「小銃を背負って、この杖を持つにゃ。雪の深さを確認できるにゃ」

 

 普通に杖として使うんじゃないってことか。吹き溜まりの深さを、この杖を差して確認するってことかな。


 準備ができたところで出発する。俺達が先行して、ドワーフ族の若者がソリを引いて付いてくる。

 森の中も雪がそれなりに積もっている。吹き溜まりに足を取られないようにスノーシューを滑らせるようにして歩いて行く。

 前の人の足跡をたどればそれほど苦労しないで進めるけど、やはり歩みは遅くなってしまうようだ。


 線路近くに到着するまで3日掛かってしまった。

 ドワーフ族と別れて、今度は俺達がソリを引くことになる。

 

「まだ昼過ぎにゃ。夜になったら切通しを下りて南の尾根に向かうにゃ」


「それなら、一眠りできそうですね。テントを作ります」


「食事も食べておくにゃ。ハムを貰って来たから、スープに刻んで入れるにゃ」


 ちょっと贅沢な食事が味わえそうだ。

 エミルさん達が炭を使うコンロで料理を始めたのを見て、ハンズさんと一緒にテントを張る。

 既にテント型になっているから3本の枝を使ってテントの天辺に付いている金具を引き上げれば出来上がりだ。4方向にテントに付いた紐を張れば4人が中でなることができる。

 ロウソクを点けると、それなりに暖かいんだよなぁ。もっとも外から比べての話ではあるんだけどね。

 

 交代しながら周囲を見張ってはいるんだけど、さすがに雪山にまで帝国軍の偵察部隊はやってこないようだ。

 

 とろみの付いたスープと何時ものビスケットのようなパン。それと干し杏子は定番のようだ。

 胡椒が多めなのか、スープを飲むと体が火照ってくる。これならぐっすり眠れるんじゃないかな?


 雪で食器を洗うと、ミザリー達が先にテントに入っていった。俺とイオニアさんとハンズが残って周囲を警戒する。

 西と北にはツエルトを張ってあるし、南はこの季節でも緑の葉を付けた大きな繁みがある。

 枯枝をコンロに入れて暖を取っているのだが、それほど煙は出ないようだ。


「たぶん南の尾根は、昼に移動することができないかもしれないな」


「立木が少ないと聞いてますが、それ程ですか?」


「尾根を立って歩けば、麓からでも見ることができるからな。今回はそりを引くから、尾根を外れて歩くのは難しいだろう。昼は窪みに隠れれば見つかることは無いと思う」


 夜なら帝国兵も油断しているに違いない。寒空の中外に出て、尾根をジッと見る者はよほどの物好きだけだろう。

 それだけ安心できるということになるんだが……。 


「先ずは、切通しを越えることだ。素早く渡らないと軍用列車がいつ来るかは私達には分からない」


 ちらちらと雪が舞っている。

 俺達の足後は、この雪が消してくれるに違いない。


 空が暗くなったのを見て、リトネンさん達を起こす。

 今度は俺達が休む番だ。2、3時間の仮眠でも体の疲れが取れるんじゃないかな。


 ミザリーに体を揺すられて起こされた。

 ぐっすりと寝ていたようだ。まだ眠いんだけど、外に出て雪で顔を洗うと、少しは頭がすっきりする。


「出発前にコーヒーを飲むにゃ。少し砂糖が入ってるにゃ」


 コーヒーは久し振りだ。粉になったコーヒーをネルの袋に入れて煮だすんだけど、濃いコーヒーは苦いんだよなぁ。砂糖が入ってるのはこれから歩くからだろう。


 カップに半分ほど注いで貰い、ついでにタバコに火を点けた。

 ファイネルさんがコーヒーにはタバコが一番だと力説していたんだが、何時ものタバコの味だと思うんだけどなぁ。


 コーヒーを飲み終えると、テントを畳んでソリの上に括りつける。

 炭を使うコンロも分解されてソリの上に乗せられたようだ。


「忘れ物は無いにゃ? 坂だから、ロープでしっかり支えるにゃ」


「だいじょうぶです。先に行ってください」


 俺の言葉に、リトネンさんとテリーザさんが谷を下りて行く。テリーザさんの合図で、俺とハンズがロープを掴んでゆっくりと谷を下る。

ソリから突きだした棒を、イオニアさんが握ってソリの方向をコントロールしている。

 慣れてるんだよなぁ。その理由は何だろうと考えていると、かつての王国軍の砲兵隊はソリを使った大砲の移動も行っていたらしい。

 今回の任務は、イオニアさんが無くてはならない人になっているようだ。

 線路際に出ると、素早くリトネンさんが線路の反対側に移動する。

 その後をエミルさんがミザリーを連れて線路を越えて行った。

 残った4人で力を合わせて、ソリを線路に乗り上げるようにしながら横切っていく。

 

「今度は、斜面だから先に向かってくれ。テリーザ、ソリの横になるようにして殿を頼む」


「分かった。手を課して欲しい時には声を掛けてね」


 俺とハンズさんがロープを引き、尾根に向かって斜めに南に向かって進む。

 結構な重さがあるな。

 やはり引き上げるからだろう、結構力がいる。

 最初の休憩でセーターを脱いでおいた方が良いかもしれない。

 まだ100ユーデも進んでいないんだが、すでに汗がでている。


 300ユーデほど進んだところで、最初の休憩を取る。早めにセーターを脱いで背嚢に押し込んでおいた。

 少し体が冷えてきたけど、また直ぐに温かくなるに違いない。


「やはり思ったように進めないにゃ。明るくなる前に10ミラル(16km)は進んでおきたいにゃ」


 通常なら5時間というところだが、雪の中ソリを引いてそんなに進めるんだろうか?

 食糧はたっぷりとあるみたいだから、無理をしない進んでいきたいところだ。


 尾根に出たのは、4回目の休憩を取った後だった。

 これからは余り起伏が無いはずだから、少しは楽になりそうだ。

 先行したリトネンさんとエミルさんが、杖を使って俺達の歩ける場所を探しながら進んでいる。その直ぐ後ろをミザリーが歩き俺達がソリを引いている。殿はテリーザさんが周囲を確認しながら付いてきている。


「やはり上り坂ではないから、楽になったな」


「楽にはなりましたけど、やはり結構な重さですね。それほど地雷は積んでいないと思うんですけど……」


「10個を運んできたようだ。地雷と言っても、起爆装置で離れた場所から炸裂させるものらしいぞ。

 それに、この天候だからな。ツルハシが2本入っているらしい」


 地雷と起爆装置だけで俺の体重ほどあるらしい。かなり大型の物を運んでいるってことになる。その上食料だからなぁ。帰りはテント類をまとめて棒に差して運ぶことになりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ