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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-038 敵兵の持つ鞄を撃て!


 谷の洞窟付近に煙幕弾が何発も撃ち込まれたから、谷は白い煙に包まれている。

 洞窟内から銃撃が行われているようだが、激しいものではない。

 どちらかというと、帝国側からの銃撃が激しようだ。皆ちゃんと掩蔽に隠れているんだろうか?

 何度か洞窟内にグレネードが撃ち込まれているから、負傷者が出ていないか心配になってしまう。


「本隊は、200付近で止まってるにゃ。照準はできるかにゃ?」


「数人倒しました。こちらを見上げる兵士はいませんね。グレネードの射程に入ってますが、撃ってみますか?」


 イオニアさんの問いにリトネンさんが双眼鏡から目を離して、う~ん……と悩んでいる。

 今のところは洞窟内からの銃撃と帝国軍も思っているだろう。ここでグレネードを放ったら、谷にいくつか銃眼があると知られてしまいかねない。


「1発だけ放って様子を見るにゃ。狙いは本隊にゃ」


「了解です!」


 イオニアさんが笑みを浮かべてが頷いた。グレネードランチャーを持って丸い銃眼から筒先を出す。


 パシュン! と音がした。

 弾速はかなり低いらしいから、落ちるまでに3秒は掛かるんじゃないかな。

 銃眼から谷に広がる森を眺めていると、小さな炸裂光が見えた。

 何か、拍子抜けの爆発だ。手榴弾より小さいぐらいの弾頭だから、あんなものなのかな。


「銃を引っ込めるにゃ。兵士がこっちを見ているにゃ」


 慌ててイオニアさん達が身をひそめる。

 銃眼付近に、タンタン……と弾丸が跳ね返る音が聞こえてきた。

 銃眼のスリットの高さが低いし、銃眼の位置も明確ではないのだろう。

 崖のようになった谷の上部を乱射した感じだ。


「まだこの位置を掴めていないみたいですね。狙撃を再開します」


「敵の動きに気を付けるにゃ。リーディルも同じにゃ!」


「「了解!」」


 イオニアさんと同時に俺も返事を返す。

 現在は南斜面の敵兵を狙撃しているけど、まだこちらには気が付いていないようだ。

 クラウスさん達が盛んにブンカーの銃眼から射撃を繰り返しているんだけど、帝国兵士達がじりじりと斜面を上がってきている。

 仲間の戦死をものともしないんだからなぁ……。


「変なバッグを持った兵士がいるのですが……。谷に近い大きな木の根元です」


 テリーザさんの言葉に、リトネンさんが傍に向かって行った。双眼鏡を手に、2人で話をしている。


「あれにゃ……。あのバッグを狙撃できないかにゃ?」


「私には、あの距離では無理ですね。兵士に当てることはできますが、バッグとなると……」


「リーディル! こっちに来るにゃ」


 リトネンさんの大声に、左手の銃眼から右手の銃眼のすぐ下に移動する。

 リトネンさんを見上げて指示を待っていると、リトネンさんが隣に来るように手で合図をしてくれた。


「イオニア。リーディルの位置で攻撃継続にゃ。……あれが見えるかにゃ?」


「確かにバッグを持ってますね。あの感じだと、谷の入り口に投げ込むのかもしれませんよ」


 片手に持ったバッグは、それ程重そうに見えないんだよなぁ。爆弾だとすればもっと重そうに思えるんだけど……。


「当てられるかにゃ?」


「5割というところです……」


「頑張るにゃ!」


 帝国兵士ではなく、荷物を撃てというのもおかしなものだ。

 首を傾げたくなるけど、リトネンさんの指示だからね。慎重に狙いを付ける。止まってくれないから、敵兵に当たりそうだ。

 彼に当たった場合に備えて、何時もの祈りを捧げる。

 

 トリガーを引いた途端、銃声よりも大きな爆発音が周囲の山々に木霊する。


「思った通りにゃ。入り口を吹き飛ばすつもりだったにゃ」


「あんなのが洞窟内で炸裂したら、大事でしたね」


「ブンカーの中は無事かもしれないけど、しばらくは銃撃できそうにないにゃ」


 耳元で大音響が轟く感じなのかな?

 とりあえず阻止できた感じだ。


「またやってくるに違いないにゃ。オルバン、クラウスに連絡しとくにゃ。『爆薬を持参している模様』以上にゃ!」


「次は変なボトルを持っているようですが?」


 俺の言葉に、リトネンさんが銃眼に飛びついて双眼鏡を向ける。


「絶対に近付けちゃダメにゃ! あれは毒ガスにゃ」


 何だと!

 まだかなり距離があるな。それに先ほどのバッグより小さいんじゃないか。

 ボトルを持った兵士が変なマスクを着けて、この季節に手袋までしているのが奇異に見える。

 マスクのガラス越しに歩くから、足元が疎かになってたまに転びそうになっている。

 ボトルの中心にレティクルを合わせて、ゆっくりとトリガーを引いた。

 狙いより少しズレたが命中したようだ。ボトルから勢いよく白い煙が噴き出した。

 兵士が慌ててボトルを投げ出して後方に走り去って行くのが見える。


 周囲の敵兵が大騒ぎになっている。慌ててマスクを付けようとしているのだが、どうやら背嚢に入れているらしい。

 白い煙が拡散するにつれ、喉をかきむしる兵士が続出している。


「こちらに被害はないんでしょうか?」


「洞窟内から風が出ているから安心にゃ。それに重いガスだから、洞窟まで登って来ないにゃ。オルバン、毒ガスについても連絡しとくにゃ!」


 数で押し寄せて来るかと思ったけど、そんな方法を使ってくるとはなぁ。

 やはり帝国軍は惨いとしか言いようがない。


 策が2つとも頓挫したからかな。こっちにも銃撃がやってくる。

 いまだに正確な銃眼の位置は分からないようだが、まぐれ当たりもあるからね。銃撃の隙間を縫って、敵兵を倒していく。


 夕暮れが始まり、段々と辺りが暗くなっていく。

 帝国軍がたまに打ち上げる照明弾と、谷に撃ち込んだ焼夷弾で燃える藪だけが頼りだ。

 暗がりを利用して、敵兵が少しずつ近付いてくる。


「こっちは、イオニアに任せるにゃ。斜面の方に動きはないかにゃ?」


「少しずつ近付いてますが、ブンカーからの銃撃で前進できずにいるようです」


「リトネンさん。南斜面の方は毒ガスの心配はないんでしょうか?」


「谷よりも広いし、毒ガスを使ったら自分達が被害を受けるにゃ。それほどバカではないと思うにゃ」


 そうなると、北の出口だけが心配だな。だけど、北の方は未だに攻撃に晒されていないようだから、帝国軍の攻撃は谷の出入り口と南斜面ということになりそうだ。


「一斉にグレネードを放ったみたいです。帝国兵が後退していきます!」


 ちょっと興奮した口調でテリーザさんが報告してくれた。

 そのまま引き上げてくれれば良いんだけどなぁ。


 弾帯の銃弾が半分になったところで、弾薬箱から銃弾を補給する。

 電話番をしていたオルバンがカップにお茶を注いでくれたから、少し休憩をすることにした。

 直ぐにリトネンさん達も集まって休憩に入る。

 まだまだ先が長そうだからねぇ。休めそうな時には休んでおこう。


「飛行船が落とされ、洞窟への突入が失敗続きです。それでも退却しないというのも考えてしまいますね」


「部隊の半分が死傷したら、指揮官は更迭されるにゃ。まだ退却しないのは、更迭されないだけの戦果をもぎ取ろうとしてるにゃ」


 イオニアさんの話に、リトネンさんが頷きながら解説してくれた。

 やはり被害は大きいということになるんだろうな。

 指揮官はどこにいるんだろう? それらしい帽子はまだ見てないんだけど……。


 ジリジリ……と電話が鳴る。

 オルバンが受話器を取って、どこかと話を始めながらメモを取り始めた。

 受話器を戻すと、リトネンさんに顔を向ける。


「北口から半数を南斜面に移動するようです。未だに、北の出入り口付近に敵兵は見当たらないようですが、入り口に鉄柵をもう1つ追加して様子を見るとの事でした。

 谷の出入り口については、洞窟内から撤退して、現在は出入り口近辺のブンカーから攻撃をしているそうです。毒ガスを洞窟内に散布されても問題ないとのことです」


「今のところ問題はないみたいにゃ。たまに狙撃するだけで良さそうにゃ。でも毒ガスと爆薬は問題にゃ。確認次第、リーディルに狙撃して貰うにゃ」


 積極的に銃撃しなくても良いということらしい。

 夜だからなぁ。帝国軍の照明弾も頻度が落ちてきてるから、俺にはあまり遠くが見えないんだよね。


 夜が更けて来ると、双方の銃撃がだんだんと聞こえなくなってきた。明日の攻撃に備えて帝国軍も体を休めるのだろう。

 俺達も交代で眠ることにする。


 良い匂いで目が覚めた。

 ブランケットから抜け出した俺を見て、イオニアさんが笑みを浮かべている。

 テーブルに付いた俺に、オルバンがコーヒーを入れたカップを渡してくれた。

 砂糖無しだが、薄いコーヒーだから何とか飲めそうだ。


「敵兵の姿が見えないにゃ。撤退したかどうか分かるまでここで待機にゃ」


「そういえば、銃声が全くありませんね。帝国軍の朝食の煙もですか?」


「森が燻ってますから、その辺りが良く分からないんです。南斜面のブンカーも同じように朝食の煙は判別できないと連絡がありました」


 オルバンの話を聞く限りでは、判断は保留ということになるんだろうな。


「今日1日様子を見て終わりになるにゃ。ここでのんびりしてるにゃ」


 銃弾が飛び込んで来ないブンカーだからねぇ。たまに外の状況を眺めるぐらいで良いのだろう。


「朝食を作りますから、少し待っていてください」


 オルバンが、コンロに鍋を乗せながら伝えてくれた。多芸な少年だ。俺より能力があるんじゃないかな。

 タバコを1本取り出して、銃眼から外を眺める。

 森の焼け跡に飛行船の残骸が残っている。焼け残っているところを見ると、金属製なのだろう。ドワーフの人達が利用できるんじゃないかな。

 森の所々から煙がまだ登っている。

 これ以上延焼はしないだろうが、確かに食事を作る煙と判別するのは困難だ。

 

 朝食を終えて再度銃眼から煙の位置を眺めたが、前と変わりはない。

 やはり、帝国兵は後退したと考えた方が良さそうだ。

               ・

               ・

               ・

 配置が解かれたのは、銃声が止んで2日目の事だった。

 ほっとした半面、かなり気疲れした感じだ。

 待つというのは案外神経を擦り減らすようだな。

 荷物を持って小隊の部屋に引き上げると、余分な装備を棚に戻して解散になる。

 もっとも、今夜は食堂が開かれないとのことだから、夕食は母さん達と部屋で携帯食を取ることになってしまった。

 部屋に帰る前にシャワーを浴びて、さっぱりした姿で母さん達と久しぶりに顔を合わせる。


「何とかなったみたいだよ。崖の上のブンカーにいたから、危ないことは無かったよ」


「大きな音が何度か聞こえてから心配してたの。飛行船が落ちたんですって?」


「さすがは父さんの銃だ。1発で炎上してくれたよ」


「兄さんが落としたの! 本当に空を飛んでたの?」


 母さんの焼いたビスケットを頂きながら、俺達の戦闘を2人荷話すことになってしまった。

 母さん達は崖の奥の通信室にいたらしいけど、ダミーの村に爆弾が降ってきたら危なかったかもしれないな。

 今回は上手く落とせたけど、もっと上空を飛んでいたらと思うと背筋が凍るようだ。

 空に向けて発射できる、もっと威力のある銃が必要になるんじゃないかな。


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