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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-022 狩りも訓練の1つ


 是非とも腕を見てみたいということになって、室内射撃場に行くことになった。

 狙撃銃を使わずに、リトネンさんのフェンリルを貸して貰う。

 半自動小銃というものに、ちょっと興味もあるから丁度良い。

 

 1マガジン16発を、女性達が100ユーデ(90m)で射撃をした。最後に俺が200ユーデ(180m)まで的を下げて1マガジンを撃った。

 衝撃が少ないな。全員で都合64発を放ったわけだが、故障は全くない。

 これは中々良い小銃なんじゃないか。


「まさか、これほどとは……」

「前には飛んでるにゃ。その内に当たるにゃ」


 テーブルに突っ伏しているのはイヌ族のお姉さんだ。

 トラ族のお姉さんはジッと俺の撃った的を睨んでいる。


「的だけ見たなら、目の前で撃ったと思うだろうな……。あの場にいてもいまだに信じられん」


 リトネンさんの結果は、人の影を模した標的の胴体に描かれた円の中に10発が入っていた。6発は紙に弾痕が残っている。

 イヌ族のお姉さんは縁の中に入ったのは4発で紙の弾痕が12発。2発はどこかに飛んで行ってしまった。

 トラ族のお姉さんは12発が円に入っているけど、かなりばらついている。4発は紙に弾痕が残っているけど,影にかなり近い場所だ。


「200を全てヘッドショット……。鷹の目の再来だな」


「だからリーディルを守らないといけないにゃ。リーディルが狙撃する邪魔をする奴は、私達が排除するにゃ!」


 3人でワイワイ騒いでいるから、クラウスさんまでやって来て的を見てるんだよなぁ。俺の頭をぐりぐりすると、ヒョイっとバックスキンのジャケットを取り出した。


「褒美だ。返礼は鹿で良いぞ。北の山で見かけたそうだ。俺のお古だが妻が取っておいたようだ。生憎と子供は娘だからなぁ、これを着させることはできそうもない」


 これはお古の方が良いんじゃないか?

 バックスキンが良い具合に色あせているし、裏は毛皮が張ってあるから今の季節に丁度良さそうだ。


「ありがとうございます。ですが倒せても裁くことができませんよ」


「たぶんイオニアが来るにゃ。一緒に出掛ければ良いにゃ」


 イオニアさんにとってはいい迷惑かもしれないけど、それならだいじょうぶだろう。

 だけど、1、2頭では食堂に持って行っても明日のスープの具になってしまいそうだ。

 昼前に現れたイオニアさんに狩の話をすると、直ぐに部屋を飛び出して行った。

 戻ってきたイオニアさんは腰に大きなマチェットを下げてベルトにナイフをケースに入れて差し込んでいる。

 やる気満々だ。

 

 奥の方でクラウスさんが苦笑いをしながら俺達を見ているけど、火を点けたのは本人なんだよなぁ。


 昼食を頂いたところで、早速5人で北口から狩りに出掛ける。

 これも射撃の練習だろうな。

 サプレッサーを取り付けて最初の鹿を倒したんだが、一緒にいた鹿は何が起こったかと周囲に首をあちこちと振っていた。

 的が動くから照準が付けにくかったが、どうにかこめかみに銃弾を撃ちこむことができた。

 

 直ぐにイオニアさんが鹿を捌き始めたんだけど、内臓や頭をそのままにすることに問題はないんだろうか?

 疑問に思ってリトネンさんに確認したら、オオカミが今晩中に持って行ってしまうと教えてくれた。

 

「オオカミは出会ったら怖い存在にゃ。でもオオカミがいるからこんな場所まで帝国の兵士が偵察にやってこないにゃ」


「敵も恐れる存在と言うことですね」


 なら、少しぐらい御褒美を上げても良いだろう。

 困ったときに助けてくれる存在なんだから……。


「あれ? そんな骨をどうするんですか?」


「これか? 鹿はこの関節部に高精度のベアリングを持っている。私が取り出したら傷つけてしまうから、ドワーフにこのまま渡すのだ」


 鹿は関節部ということか。どんな生物にも利用価値のある金属部品が存在するらしい。俺達人間は脳の中にあるそうだ。どうやら独楽のようなものらしいのだが、取り出して利用するなんてことは出来そうもない。

 それに独楽は何に使えるんだろう? 

 死刑執行の後で取り出す事例はあるらしいが、結局は研究所の棚に置かれてしまっているらしい。


 鹿の成体が2頭。片足と肋骨近くを大きく切り取って新しいイヌ族のお姉さんが担いでいる。別にしたのは、クラウスさんのお土産ってことかな?

 残りはイオニアさんとリトネンさん達が担いで食堂に運んで行ったみたいだ。


 大きな鹿肉の塊を見て、「今夜は焼肉で一杯やるぞ!」とクラウスさんが大声を上げていた。

 

「そんなことなら、俺も直ぐに来るんだったな」


「まだチャンスはありますよ。サプレッサーを使えば2頭は行けますよ」


「そうか? 次は俺の番だな!」


 うんうんと、ファイネルさんが頷いている。ちょっとめげていたけど、急に元気になってしまった。

 全員が揃ったところで、互いに自己紹介をする。


 ちょっとたれ耳のイヌ族のお姉さんはテリーザという名前だ。

 男性が俺とファイネンさんだけだというのも考えてしまうが、俺達の班長はリトネンさんだからだかもしれない。

 とはいえ、これ以上増やすことはないそうだ。

 狙撃は元々大人数で行うものではないらしい。


 狙撃班の起源は、徴兵時にたまたま猟師が集まったことにあるらしい。

 

「その時の中隊長が、面白半分に猟師だけの部隊を作ったらしいにゃ。今の山岳猟兵の始まりにゃ」


 当時常態化していた隣国との戦で大活躍したとのことだ。


「猟師だから山は手に取るように分かっていたらしいにゃ。その上銃の腕は徴兵された兵士とは段違いの腕だったにゃ」


 待ち伏せ、追撃、狙撃……。何をやらせても一般兵士の上を行く。

 とうとう、山岳猟兵大隊を作って、狩猟ができるまで訓練をすることになったそうだ。


「その結果が、旧王国の領地にゃ。でも、それはかつての話にゃ。昔のような訓練はしないで、山で訓練を年に1、2回するまでになってしまったから、昔の面影がまるでないにゃ」


 まるで昔の山岳猟兵を見てきたような口ぶりだ。

 思わずファイネルさんと目を合わせ、苦笑いを浮かべてしまう。

 とはいえ、リトネンさんが目指す部隊が少し分かった気がする。どうやら、山岳猟兵部隊を再現するつもりらしい。


 猟師は人数が多くなることを嫌うからなぁ。人数が多くなると、それだけで獣が警戒するらしい。


「狙撃手と観測手で1セットにゃ。ファイネルのところにテリーザを付けるにゃ。ファイネルに目標と距離を教えてあげれば良いにゃ。

 イオニアは後方警戒にゃ。後ろはイオニアに全て任せるにゃ。

 リーディルとファイネルがゴブリン狙撃銃を持つにゃ。残りの私達はフェンリルを使うにゃ。心許ないなら、自分の好きなリボルバーを許可するにゃ」


 携帯食料はビスケットを3食分。持てるなら水筒を2つ持っても良いとのことだ。

 俺も2つ持ってるし、イオニアさんは3つだからね。

 ファイネルさんはスキットルまで持っていた。


「私達だけなら3日の作戦行動しか出来ないにゃ。でも、拠点のドワーフ族が手伝ってくれるなら20日近い作戦も可能にゃ」


「それで、次の出発は何時頃に?」


「それにゃ……」


 テリーザさんが椅子に立ち上がって、俺達の部隊説明をしているリトネンさんに問い掛けた。

 途端にリトネンさんの声が小さくなる。


「しばらくは訓練を続けてくれ。場合によっては少し遠出をして貰わないといけなくなるかもしれん」


 苦笑いを浮かべたクラウスさんが近付いてくると、リトネンさんがポンと椅子から飛び降りる。


「具体的じゃないにゃ。少なくとも訓練する日数ぐらいは教えてほしいにゃ」


「10日はだいじょうぶだろう。少し反乱軍内部が混乱しているようだ。南の拠点が襲撃にあったらしく、海軍が救出作戦を実施中らしい」


「こちらも襲撃を受けるかもしれませんね」


「どうやら新兵器を持ち出してきたらしい。蒸気機人だけでも手を焼いているのに、全く帝国の技術力は俺達の想像を超えているようだ」


 クラウスさんの話では南の拠点は半島に作られていたらしい。

 周囲は岩礁地帯で海図も軍が秘密に管理していたそうだ。

 海軍と言うのは。旧王国の海軍らしいから秘密基地でも持ってたのかもしれないな。

 新たな拠点なんて旧王国にあるんだろうか?

 犠牲者が出ないように祈るばかりだ……。


 その夜。積もった雪を退かして、村の広場に焚き火を作り焼肉パーティが行われた。食事が終わってからのパーティだから、焼き肉よりも酒の方が多い。酒盛りと言った方が正しく思える。

 そんなだから、最初の1杯に付き合って、早々に退散することにした。


 翌日からは訓練が始まる。

 俺とファイネルさんは狙撃訓練。他の4人はフェンリルの射撃訓練と分解組み立ての訓練を繰り返す。

 さすがに半自動で射撃ができるだけのことはあると、部品の数に驚いてしまった。

 それでも、射撃訓練で、不発となることなかったから、設計とドワーフ族の工作精度が優れている賜物なんだろうな。

               ・

               ・

               ・

 今年は何もなく終わるのかと、壁に掛かっているカレンダーで12月の残りの日数を眺めているときだった。視野の端に部屋に入ってくるクラウスさんに気が付いた。

 何時もならストーブの周りに置いてあるベンチに向かうのだが、数歩歩いたところで足を停めると俺達のテーブルに歩いてきた。


「リトネン、出撃だ」


「また東かにゃ? それとも北西の橋を爆破するのかにゃ?」


「いや、南だ。地図で説明する」


 黒板を使わないところを見ると、俺達5人で行う作戦のようだ。

テーブルの周りに椅子を持ち寄って、広げられた地図を眺める。


「拠点は、ここになる。これがリーディルが住んでいた町だ。町北に鉄道が南北に走っているが、町から距離があるから住民のほとんどが蒸気機関車を見る機会は無いだろうな。

 鉄道を辿って南に行くと、町がある。この町の中心には鉄道があるんだ。西の港を起点とする鉄道はこの町で東と北に分岐する……」


「町中での襲撃は危険にゃ。成功しても失敗しても住民に犠牲が出るにゃ!」


「話を最後まで聞くんだ。……列車襲撃の危険性は誰もが知っている。さすがにそれは出来ないし、意味がない可能性もあるんだ。

 どうやら帝国の内でも発言力の高い貴族がやってくるらしい。先の例から移動は新兵器を使うらしいのだが、その新兵器が分からん。

 南の拠点は戦力の三分の一を失ったらしい。新兵器を使われたのだろうが誰もその姿を見てはおらん。

 暗闇の中、突然砲撃を受けたらしいのだが、重砲を偵察部隊は確認していないし、重砲部隊は北の港近郊から動いてはいないとの情報もある」


 俺達に託された仕事は、新兵器の確認と可能であるなら、それを破壊すること。

 だが、誰も見ていないなら、それが新兵器だと分かる物なんだろうか?


「要するに、変わった兵器があるかないか調べてくれば良いにゃ。見たことがないなら新兵器に違いないにゃ」


「まあ、そうなるな。元軍人が4人いるんだからだいじょうぶだろう。問題はどうやって移動するかだ」

 

 旧王国の王都の北東に軍の駐屯地があったらしい。

 今では帝国軍の駐屯地になっているのだろうが、新兵器を置くとなれば演習場がある駐屯地以外に考えられないとのことだ。

 だが、そこまでの距離は120kmほどになる。

 隠れる場所もない野原を、往復するだけで20日は掛かるだろう。


「無理にゃ。死地に行くようなものにゃ」


「鉄道が使えるとしたら……、どうだ?」


 ん! リトネンさんが首を捻りだした。

 活路でも見付けたのだろうか。


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