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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-192 撃ってみたくなるよなぁ


 改修が終わった飛空艇は、いかつい砲身が前部銃座から飛び出していた。

 さすがに2イルム口径の砲身は、今までのヒドラⅡの銃身とは全く違って見える。

 ミザリーの拳なら砲身に入るんじゃないかな?

 そんな思いを浮かべながら見ているんだけど、それ以外にも少し変わっているんだよなぁ。方針の先端が膨らんでいるし、その膨らんだ部分の上下左右に穴が開いている。ヒドラⅡにも先端部分にスリットが付いていたんだけど、あれと同じということなのかな?

 

 中に入って銃座に向かうと、さらに驚いてしまった。軸線上に今まで座っていたんだが、そこに砲架が据えられ、砲手席が砲身の右手にある。

 砲身の軸線上に据えられた照準器から筒が伸びて砲手席まで続いているのは、潜望鏡と同じ原理なのかな?

 砲手席の足元には両足で動かすペダルがあり、右手には取手の付いたハンドルがあった。トリガーは……、照準器のすぐ下に拳銃のグリップのような物が付いているから、それを握ってトリガーを引くことになるんだろう。

 操作はファイネルさんが教えてくれるんだろうけど、これを撃つのかと思うと、ちょっと怖気づいてしまうんだよなぁ。

 そういえば、この砲架の後ろの鉄柵は意味があるのかな?

 リトネンさん達が足元で監視をしている時があるから、危険防止の柵を合わせて作ったのかもしれないな。

 

「どうだ? これなら昔の空中軍艦なら側面装甲を撃ち抜くことが出来たかもしれないな」

「凄いのは理解しましたけど、足元のペダルと右手にハンドルが理解できないんですけど……」


 俺の問いにファイネルさんが笑みを浮かべて、「先ずは座ってみろ」と俺を促してくれた。

 言われたままに座ってみると、照準器の位置と銃のグリップのような物は自在に位置を変えることが出来るみたいだ。


「ここのネジで位置を固定できるぞ。リーディルの使い易い位置にすればいい。ペダルに足は届くな? それを回せば砲身が左右に動く。右手のハンドルは砲身の上下を変えられる。もっとも、上下左右とも軸線より10度しか動かんそうだ。動くだけ、俺の扱う大砲よりは優れていると思うぞ。ついでにあの大砲も同じようにしてくれと頼んだんだが、それはこの飛空艇の強度では無理だと言われてしまったよ」


「3イルムと2イルムではそれほどの違いがあるんでしょうか?」

「少なくとも砲弾の装薬は倍はあるはずだ。それだけ反動が大きいということになるんだろう。この戦車砲だって、発射時の反動を駐退装置で吸収するんだ。半ユーデ程後ろに動くから、この柵を作って近付けないようにしている」


「俺も一緒に動くんですか?」

「それは無い。その照準器は砲身ではなく、同じ軸線の砲架に設けているからね。何度か試射してみれば直ぐに慣れるんじゃないかな」


 砲弾を見せて貰うと、俺の腕程の大きさがある。

 これが左手にあるシリンダー状の弾倉に納まり、砲撃時に後退する砲身と連動して回転しながら砲身の薬室に砲弾を送り込んでくれるらしい。

 結構複雑な機械装置に思えるなぁ。ちゃんと動くんだろうか?


「これを気にしてるのか? アドレイ王国の新型戦車に使われている機構と同じらしいぞ。もっとも戦車の場合はこのバレルに6発砲弾を入れるらしいが、そうなると機構部分の強度を保つ為にもっと重くなってしまうらしい。それでも短時間に3発撃てるんだから俺達には十分だろうな」


 実績はあるってことか……。確かに試射は必要だろう。

 砲弾がどれほど準備されているのかファイネルさんに聞いてみたら、とりあえず30発を受け取ったらしい。なら10発ほど試射しても良さそうだ。

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               ・

               ・

「試射してみたいということにゃ?」

「ええ。最初から実戦では少し無理が過ぎると思います。何といっても大砲ですからねぇ」


 飛空艇が俺達に手渡された夜に、リトネンさんに具申してみた。

 ちょっと意外な顔をしていたから、いきなり実戦を考えていたんだろうな。

 俺の横でファイネルさんが苦笑いを浮かべているぐらいだ。


「それなら、クラウスと相談してみるにゃ。案外、テストに適した攻撃目標があるかもしれないにゃ」

「いきなり空中軍艦を狙うのは、テストではありませんよ」

「それぐらい分かっているにゃ。試射なら私も狙いたいところがあるから、クラウスと相談するだけにゃ」


 リトネンさんの話に、俺達が顔を見合わせてしまった。

 そんな場所があるんだろうか?

 リトネンさんから離れたいつもの薪ストーブ傍のベンチに腰を下ろして、一服しながら2人で考え込む。


「案外帝国の集積場ということかもしれんぞ。飛行船が爆撃を行っているらしいが、この頃は芳しくないようだからなぁ」

「飛空艇なら一撃離脱が可能ではありますけど、それぐらいならもう1隻の飛空艇が行いそうです」


「そうだよなぁ……」寝る前だから、ワインを飲みながらの一服だ。

 例え違っていても、何とか俺達2人が納得した攻撃目標の結論を出さないと、ベッドの中で眠れなくなりそうだな。


「攻撃目標を1つずつ潰してみるか。その内に納得する目標があるかもしれないぞ」

「それが一番かもしれませんね。それなら俺がメモを取りましょう」


 先ずは海上からだ。輸送船は定期的に帝国の本領である大陸と行き来しているからね。


「可能性は高いが、航路と日程が分からないのではなぁ。俺達の攻撃も、たまたまそこで輸送船を見つけたからに他ならない。却下だな」


「なら、港はどうでしょう? かつて何度も攻撃しましたし、破壊することで帝国の輸送能力を一時的に低下させることが出来ましたよ」

「今では帝国の輸送船の半分以上が前線近くの海上で荷下ろしをしているらしい。これも却下だな」


 案外おもしろいな。俺達の話を聞いてライネルさんやイオニアさんまで参加してきた。

 人が増えると、攻撃目標も増えるということが分かっただけでも意味があるように思える。

 エミリさんやミザリーも、案外俺達が気付かない攻撃目標の覚えがあるんじゃないかな。

 そうなると未だに現役の義賊であるリトネンさんの場合は、俺達が想像しないような攻撃目標を提示してくるんじゃないかと、かえって心配になってきた。


「でも案外おもしろい試みだな。飛空艇で攻撃できる対象物がこれ程多いとは思わなかったぞ」

「あの大砲の試射をするなら、と考えてたんだが……。この攻撃目標の一覧表は別の目的にも役立ちそうだ」


「作戦の帰り道でのお土産にもなりそうだな。確かにあちこちにあるから都合も良さそうだ」


 残弾を残さずに……、ということかな? 敵側にとっては厄介な存在になりかねないんだよなぁ。俺達はあまり目立たないことが一番だと思うんだけど……。

 アドレイ王国にとっては幽霊みたいな存在なんだからね。

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                ・

 突然クラウスさんが到来した。

 いつもなら事前連絡があるはずなんだが、どういうことだ?

 のんびりと窓際でファイネルさんの無駄知識を聞きながらコーヒーを飲んでいたんだが、大慌てで席に着く。

 ミザリーお茶の用意をしているようだけど、お茶を待たずにクラウスさんがテーブルに地図を広げる。


「急な出撃を頼むことになる」

「問題ないにゃ。退屈してたにゃ。それで目標はどこにゃ?」


 もう少し言い方があるんじゃないかと、ファイネルさんと苦笑いを浮かべる。エミリさんは諦め顔で地図を眺めているな。


「帝国軍の新型空中軍艦が現れた。今までよりも一回り大きいらしい。軍艦上部のプロペラも2本から3本に増えているそうだ。左右の推進機関も大型化されているし、後部の方向舵は左右に付いている……」


 ファイネルさんがメモを取り出して、クラウスさんの話を元に簡単な絵を描いている。

 クラウスさんの話を聞きながら、ファイネルさんの描く空中軍艦を眺めているんだけど、画才があるのかな? 上手く描いているんだよなぁ。


「舷側砲が2門から3門に増えたということにゃ?」


「ああ、左右に1門ずつ追加されている。艦首上甲板の2連装砲は、船首部分に移動しているな。上下左右とも60度ほどの旋回性能を持っているとのことだ。上甲板の砲塔部分には2連装の機関銃を備えたらしい。砲塔を持つということだから飛行機の小型機関銃対策なのだろう」


 ゴブリン用の銃弾を使った機関銃らしいからなぁ。半イルム程の装甲板なら十分に銃弾を防げるだろう。

 となると……、クラウスさんの話ではやはり後部甲板にも設置されているようだ。


「重武装にゃ!」

「ああ、かなりの武装だ。当然内部構造も少しは変わっているだろうし、空中軍艦全体の装甲厚さも増えているか、もしくは部分強化が行われているはずだ」


「私達に、落とせと指示するのかにゃ?」

「さすがに、無理があるだろう。アドレイ王国と同じことが出来ないかと相談に来た」


 クラウスさんの言葉に、思わずファイネルさんと顔を見合わせてしまった。

 それって、隠匿格納庫の破壊ということになるのだろうか?

 確か、帝国の空中軍艦の拠点は大陸の間にある群島の1つだと聞いたことがあるんだが……。


「帝国軍の基地の所在はおおよそ分かっている。この群島の1つらしいのだが、あれほどの大きさを容易に隠せるとも思えないし、爆撃用の大型飛行船も同じ基地を使用しているはずだ。発見は容易に思える」


「爆弾は1つにゃ。小さいのは4つ持っていけるけど、それほど威力が無いにゃ。それに海を越えるとなれば燃料の増槽も必要にゃ。爆弾を減らすことになるにゃ」


「少し鈍重になりそうだが、そこはリトネン達で何とかしてほしいところだ。搭載する爆弾については、翼下に4個は可能らしいぞ。もっとも増槽は1つということになりそうだが」


 飛空艇の仕様についてある程度調べた上で、俺達のところにやって来たんだろう。

 ファイネルさんがメモの横で燃料の計算をしているけど、どうやら納得したらしく小さく頷いている。


「リトネン。増槽を1つ使うなら往復は可能だ。だが、帝国軍の基地の様子が分からない以上、隠匿格納庫があるとは限らないぞ。アドレイ王国軍でさえ手出しをしてないんだから、案外広い敷地に停船させている可能性もありそうだ」


「翼下の4発は焼夷弾で良いだろう。屋外駐機であれば少なくとも大型飛行船を葬れそうだ」


「クラウスさんの思惑は、帝国軍の基地を攻撃することで、アドレイ王国への攻撃を誘導させるということですか?」


 俺の言葉に今までの真剣な表情をがらりと変えて、笑みを浮かべた顔を向けると小さく頷いた。

 なるほどね。それなら俺達で十分だ。帝国軍の新型空中軍艦と正面で戦う必要が無いからね。

 だけど前部に設けた対戦車砲で、思惑通りの狙撃が出来るかどうかを試すことは可能だろう。

 さっさと出掛けて帰って来た方が良いかもしれないな。


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