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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-183 戦果はピクトグラフ頼り


 飛空艇が大きく回頭して軸線を東に向ける。

 線状に焼夷手榴弾が炸裂した炎が広がっているが、何か所かは火災になっているようだ。

 近くに燃える物でもあったのだろう。俺にとっては丁度良い光源になりそうだ。


「だいぶ燃えているなぁ。燃料容器でも置いてあったんじゃないか?」


「蒸機人が良く見えるにゃ。ファイネル、上手く当てるにゃ!」


「任せとけ! テレーザ、やってくれ!!」


 本来なら、ここで戦闘機動になるんだろうけど、今夜は巡航速度での攻撃だからなぁ。ゆっくりと蒸機人の待機所に近づいていく。

 すでにヒドラⅡのセーフティは解除してあるし、薬室には初弾が装填されている。照準器のT字線に軸線から離れた蒸機人の背中を捉えて、その時を待つ……。


「800……600……400」


 砲声と同時に飛空艇がブレーキを掛けたような衝撃が伝わって来た。少し遅れてトリガーを引く。ブリッジ内に轟音が響くけど、気にせずに装填レバーを蹴飛ばして次弾の装填を急ぐ。

次は、あの蒸機人だ。少し斜めだが何とかなりそうだ……。

 

 3機目の蒸機人に狙いを定めていると、再びファイネルさんが大砲を放つ。

 トリガーを引こうとしている時だから、狙いが反れてしまった。

 4発目を装填して、少し離れた蒸機人の側面に銃弾を放つ。

 5発目は飛空艇が上昇を始めたから、銃座から立ち上げって下向きに銃弾を放つ。

 命中はしたけど、首の付け根だったからなぁ……。どの程度損傷させたか疑問が浮かぶ。

 

 高度を500にあげて、東に数ミラル離れると再び西に飛空艇が回頭を始めた。

 今度は高速巡航だから、発射できるのは2発かもしれない。今の内にマガジンを交換しておこう。


「リトネンさん。帝国の通信を傍受しました。平文です。『小型飛行船の襲撃を受ける。至急応援に来られたし』以上です!」


「平文? かなり慌てているみたいにゃ。やってくるとしたら空中軍艦にゃ。次の攻撃を最後にするにゃ」


「高速巡航で良いんですよね? それでは行きますよ! リーディル、準備は終わってるんでしょう?」


「いつでも発射できますよ! 軸線上の蒸機人はファイネルさんに譲りますからね!」


「任せとけ!」というファイネルさんの声が聞こえて来た。

 途端に飛空艇の速度が上がる。

 銃座の下から、リトネンさん再び距離を大きな声で教えてくれる。


 距離が1ミラルほどになったところで、蒸機人の周囲から上空に幾筋もの火線が伸びていくのが見えだした。


「飛行船と思っているにゃ? 見当違いの場所に銃撃を行っているにゃ」


「飛行船なら銃弾も脅威なんでしょうね。この飛空艇はだいじょうぶなんでしょう?」


「大砲の直撃を受けない限り問題ないぞ。銃弾ではなぁ……銃座の防弾ガラスさえ貫通できないだろうよ」


「距離、800にゃ……600……400」


 砲撃のショックをやり過ごしたところで、背中を向けた蒸機人の動力部に銃弾を放つ。炸裂は確認できても、損傷の程度が分からないのが問題だな。

 何とか2発を放ったところで飛空艇が上昇を始めた。

 西に10ミラルほど離れた時には高度1000ユーデ程になっている。


「テレーザ。後は帰投するだけだから駐屯地の上空は巡航で飛んでくれない。ピクトグラフで何枚か撮影するわ」


「上手く撮れると良いんだけど……。そうでないと戦果がまるで分らないわ」


「少なくとも2機の蒸機人は破壊したぞ。だがリーディルとイオニアの戦果は蒸機人の損傷程度が分からないと何とも言えないからなぁ」


 使った弾丸は7発だけど、果たしてその結果はと言うとファイネルさんの言う通りなんだよなぁ。俺より小口径の銃弾を使ったイオニアさんの方はさらに分からないに違いない。


 巡航速度で駐屯地上空を通過していた時だった。

 

「飛行物体が接近中にゃ!」


 ライネルさんの大声がブリッジ内にこだました。

 リトネンさんが銃座の下からブリッジ後方に駆けていくと、上空監視用の窓へと梯子を上っていく。


 ファイネルさんに顔を向けると、俺の視線に気がついいて小さく頷いてくれた。

 帝国軍の空中軍艦ということなんだろうが、近くを航行していたんだろうか? 九通軍艦や飛行船の基地は陸からだいぶ離れた島にあると聞いているんだけど……。


「周辺監視ってことか! リトネン、どうする?」


「面倒にゃ! ここはずらかるにゃ!!」


 飛空艇の速度が一気に上がる。

 補機を作動させたみたいだな。冷却水は主機と同じ系統らしいから問題はないのだろうが、エンジンの暖機はいらないんだろうか?


 30分ほど速度を速めたところで、補機を停止して主機による巡航速度まで落としたようだ。

 峠の砦に帰るだけだからね。のんびりと飛行をするようだ。

 ライネルさんが見つけた空中軍艦は俺達の存在に気付かなかったようで、今では小さな光の点になっているらしい。


 ファイネルさんが操縦席を離れて俺を誘う。倉庫で一服ってことだな。

 銃座を離れて、リトネンさんに断りファイネルさんの後からブリッジを後にした。


「イオニアの方はどうなんだ?」


「たっぷりと銃弾を浴びせてやったぞ。口径は小さいが数を撃てるからな。炸裂弾ではないのが残念だ」


 話し込んでいるファイネルさん達に、途中で入れてきたコーヒーカップを手渡して、もう1度給湯に向かい、自分に分を持ってくる。

 近くの木箱を椅子代わりにして、俺も話に加わることにした。


「2度目の攻撃時でも、まだ焼夷手榴弾の火災が収まっていなかった。あれだと燃料缶か石炭の山にでも引火したとしか思えん」


「貯蔵していた石炭なら都合が良いな。水を掛けて消し止めたとしても、湿った石炭では蒸機人をしばらくは動かせまい」


 何が燃えていたのかピクトグラフで分かると良いんだが……。

 今回の攻撃は、」あのピクトグラフの試験も目的の1つだったに違いない。焼夷手榴弾の明りでどの程度鮮明な画像が得られるのか、ちょっと楽しみだな。


「やはりヒドラⅡの発射速度は問題ですね。今回だって7発だけでしたよ。ファイネルさんが3発でしたから、少なくとも3倍は撃てないと……」


「まぁ、こっちの都合で攻撃したようなものだからなぁ。それで全て命中させたんだろう?」


「4発は確実に背中の箱を射抜いて炸裂させましたが、3発は周辺部への着弾です。どの程度の効果があったのかは……」


 尻つぼみの話をすると、ファイネルさんが俺に体を向けて肩をポン! と叩いて頷いてくれた。向かいに座っているイオニアさんも俺に顔を向けて笑みを浮かべている。


「4機大破ということだろうな。残り3機も修理と点検が必要だろう。俺が破壊したのは2機だから、蒸機人が隊列を作って前線にやってくることはないだろう。一応目的は達成と考えても良いんじゃないか?」


 それなら乾杯だ、ということでイオニアさんがバッグから少し大きめのスキットルを取り出した。

 コーヒーを飲み終えたカップに注いでくれたんだけど、少し甘めのワインだからこれならいくらでも飲めそうだ。


「それにしても近くに空中軍艦がいたとはなぁ」


「大型爆弾を用意してこなかったし、砲弾を2、3発浴びせても落とすことは出来そうもない。だが、空中軍艦での哨戒は後々面倒になりそうだ。次は空中軍艦を落とすことになるんじゃないか?」


「前と違って装甲が強化されているみたいですからね。空中軍艦の図面でもあれば弱点もわかるんでしょうけど」


「製造は海を渡った帝国の工房だからなぁ。だがおおよその事は分るぞ。何隻か空中軍艦をと下からな。砦にも届いているはずだから、帰投したら謙虚押してみるか」


 調査したってことかな? 各部の装甲厚や内部の構造が分かれば良いんだけどね。

 それが分かれば、その部位を重点的に狙うことだって出来るだろう。


 2本目のタバコを吸い終わったところで、休憩を終えてブリッジに戻る。

 操縦をしていたのはライネルさんだった。

 となると……。銃座をリトネンさんと替わって前方の監視をする。途端に杉の巨木が目の前に迫ってきたから思わず目を瞑ってしまった。

 いくらネコ族の夜間視力が良いとは言え、これほど低空で飛ぶ必要はないと思うんだけどなぁ。森の上空30ユーデ程を飛んでいるんだからね。


 東の空が少し白んできたところで、ミザリーが砦に帰投を告げる通信を送る。

 急速に周囲が見えてきたんだが飛空艇は尾根沿いの斜面の起伏に合わせて飛行高度を変えていく。

 あまり長くこの状態が続くと酔ってしまいそうだな。


「もう少しで砦に到着するにゃ」


 銃座の下からリトネンさんが教えてくれたけど、まだ砦は見えてこない。たぶん数ミラル先の尾根を越えたら砦が見えるに違いない。

                ・

                ・

                ・

 砦の広場に飛空艇が着陸すると、俺達は足早飛空艇から降りて俺達の部屋へと急ぐ。

 ドワーフ族が 数人で飛空艇をブンカーに入れる準備をしているから、1時間も過ぎれば広場は偽装されてしまうだろう。

 ロッカーに背嚢を仕舞い込んでゴブリンを銃架に戻す。

 後はシャワーを浴びて、朝食までこの部屋でのんびり過ごせば良い。報告書の下書きをエミルさん達が始めるだろうが、飛空艇を下りる際にエミルさんがドワーフ族の若者にピクトグラフを渡していたから、案外早く成果が分かるんじゃないかな。

 

 とりあえずは熱いシャワーだ。

 着替えを持って先に出掛けたファイネルさんの後を追う。


 シャワーから戻ると、体が火照っている間にストーブに火を入れる。

 ポットを持つと水が入っている。昨日入れたんだから悪くはなっていないはずだし、沸騰させればバイ菌は死滅するとファイネルさんも言ってたからね。ストーブの上に乗せて、勢いよく燃え出したストーブに少し太めの薪を放り込んだ。

 ベンチに腰を下ろして、先ずは一服。

 のんびりとタバコを楽しんでいると、ファイネルさんが部屋に入って来た。

 かなり長くシャワーを浴びていた感じだな。


 俺の隣に腰を下ろしたファイネルさんがカップを小さなテーブルの乗せると、ボトルの栓を抜く。途端に泡が噴出したから急いでカップに注いでいる。


「甘くはないぞ。ビールだからな。シャワーの後はこれが一番だ」


 渡されたカップから恐る恐る中身を飲んでみた。

 口の中で苦い泡が生まれたから、急いで飲み込んだんだけど……。喉越しはすっきりする感じだな。甘くは無いから粘つくような感触が無いし、泡を一緒に飲んでいるようで結構おもしろいんだけど、この苦味がねぇ……。


「ありがとうございます。でもこの苦味は独特ですねぇ」


「大人の味ってやつだな。甘い飲み物はそろそろ卒業すべきだろう」


 とは言っても、俺には甘みが一番だと思うな。無理に大人にならなくても、今のままで十分だ。


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