表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
213/225

J-182 自走砲の次は蒸機人


「前方に砲弾の炸裂光! 30度方向にも同様の光が見えます」


「奥に見えるのが味方の砲弾が炸裂する光にゃ。ちょっと少ないにゃ。ファイネル、飛空艇に進路を90度にするにゃ。このまま進んで帝国の自走砲列の横に出るにゃ」


「了解!」とファイネルさんの返事が聞こえて来た。

 いよいよ敵自走砲への爆撃だ。既にヒドラⅡには炸裂弾を収めたマガジンをセットしているから、いつでも発射できる。高速巡航で上空を飛ぶとしても3発は発射できるだろう。

 

 30分も掛からずに帝国軍の自走砲列の横に出る。

 砲炎を見ると、どうやら東西方向に2列にならんでいるらしい。


「高度300、速度はこのままにゃ! 爆弾投下準備は出来たかにゃ?」


「全て終わったぞ。後はレバーを引くだけだ。飛空艇の軸線は自走砲列の真ん中だからな。このまま西に向かって飛ぶだけだ」


「なら、爆撃開始にゃ!」


 リトネンさんの勇ましい声が後ろから聞こえて来た。

 すでに軸線や高度、それに速度の設定が終わっているから、リトネンさんの号令後でも飛空艇は何も変わらない。

 だけど、その号令が出ているなら、俺の意思でいつでもヒドラⅡを発射することができる。


 高速巡航と言っても速度は毎時50ミラルほどだ。

 戦闘軌道に比べれば速度は半分だから、目標となる自走砲の列ままでが長く感じる。

 

「800……、700……、500……」


 リトネンさん銃座の背後で距離を教えてくれる。

 距離500が聞こえると同時にトリガーを引いた。

 ブリッジ内に銃声が響き、俺は急いでレバーを足で蹴飛ばして次弾を装填する。

 ブリッジの扉越しに小さな銃声が聞こえてくるのは、イオニアさんが頑張っているからだ。

 向こうは半自動で銃弾が装填されるけど、ヒドラⅡの装填は1発ずつだからなぁ。次の自走砲に向けてトリガーを引く。

 再び装填作業を急いで行い東端の自走砲に銃撃を終えた時、後方から強烈な光が伸びてきた。爆弾の炸裂光だ。上手く当たってくれたかな?


「急速上昇! 高度500で回頭します」


「高度1000まで上げるにゃ。エミル、ピクトグラフを準備するにゃ」


 上空から1枚撮るのかな?

 陽動だからなぁ。爆撃の成果だけでも十分だろう。俺が放った3発の炸裂弾は間違いなく自走砲の装甲板内で炸裂したはずだけど、変化がないんだよなぁ。砲弾が誘爆することは無かったようだ。


 自走砲列の上空を通過すると、自走砲の何両かが炎を上げている。燃料が燃えているのかな? ピクトグラフが予想通りの性能を持っているなら詳しい成果が分かるに違いない。


「もっと派手に爆発してると思ってたんだがなぁ」


「小型爆弾ではねぇ……。翼下に2発ではなくて4発ならばもう少し成果が上がったかもしれないわよ」


 エミルさんがピクトグラフの撮影を終えて、操縦席のファイネルさんと話をしている。

 残念そうな2人の声だけど、自走砲破壊が目的ではない。そもそも自走砲を破壊するなら爆弾を沢山積んだ飛行船の仕事になるのだろう。

 んっ! それなら蒸機人に対しても同じことができるはずだ。なぜ、飛行船による爆撃を行わないんだろう?


「リトネンさん。蒸機人の駐屯地を同盟軍は爆撃しないんですか?」


「気が付いたかにゃ? 何度かやったみたいにゃ。おかげで同盟軍の飛行船は殆ど修理中にゃ。大型1隻に小型が数隻、それが同盟軍の運用可能な飛行船にゃ」


 銃座の下にいたリトネンさんが答えてくれた。

 次は蒸機人相手だから、早く状況を見ようと下にいるのかな。


「それって、爆撃時に要撃されたってことか?」


「近くに空中軍艦がいるにゃ。それに偵察用飛行船に武装を施したとも聞いたにゃ」


 空中軍艦は厄介だな。偵察用飛行船は俺達にとっては脅威とも思えないが、同盟軍の飛行船部隊には脅威的存在になるだろう。機動性能が段違いだからなぁ。

 武装と言ってもヒドラほどの銃を幾つか装備しただけに違いない。小型爆弾数発程度を搭載できるだけだからね。

 

「武装偵察飛行船なら飛空艇の敵ではないし落としても良さそうだが、空中軍艦となると厄介だな」


「周囲の警戒は必要にゃ。イオニア達に期待するにゃ」


 夜はイオニアさんやリトネンさん達が頼りだからなぁ。俺には明かりを点けていない限り100ユーデほどに近付かないと分からないと思う。今夜は月も無いからね。


「帝国軍の通信を傍受しました。『自走砲列に爆撃を受け6両を破損。小型飛行船によるものと思われる』以上です」


「成果を教えて貰った感じね。」本当かどうかは帰投してからピクトグラフで分かる筈よ」


「小型飛行船と推測してくれるなら、空中軍艦が出張ってくることはないな。飛行船の駐屯地はどこなんだろう?」


「ずっと南の島にゃ。空中軍艦が来るまでには終わっているにゃ。でも偵察用の飛行船が警戒しているかもしれないにゃ。ミザリー、帝国軍の通信に注意するにゃ」


 蒸機人攻撃時に、偵察用飛行船が出て来るかもしれないってことかな?

 武装しているらしいから、注意しないといけないな。偵察用飛行船の高度はかなり高いと言うことだから、低空を飛ぶ俺達に気が付かないで欲しいところだ。


2時間ほど北に向かって飛行したところで飛空艇は西に回頭を始めた。

 エミリさんが飛行航路を地図に落としているから、このまま西に飛べば蒸機人の

駐屯地に着くとのことだ。

 30分ほどすると、前方がぼんやりと光っている。


「あれが駐屯地でしょうか?」


「間違いなさそうね。焚火をいくつも作っているようだけど……」


「欺瞞用の焚火にゃ! 周囲に何もないにゃ。……あれにゃ! ファイネル、軸線をを右10度に変えるにゃ」


 何も俺には見えないんだけど、リトネンさんには見えるようだ。双眼鏡で前方を眺めると、夜空に向かって黒い影が伸びているのがどうにか確認できた。

 あれを肉眼でねぇ……。改めてネコ族の能力に驚いてしまった。


「灯火管制をしているにゃ。リーディル、狙えるかにゃ?」


「さすがに推測で撃つしかありません。焚火の1つや2つ作っておいても良さそうに思えるんですが」


「最初に炸裂焼夷弾を使ってみるか。それなら次の攻撃は狙えるはずだ」


「もっと良い方法があるにゃ。焼夷手榴弾を落とすにゃ! イオニア、ちょっとやって欲しいことがあるにゃ」


 ブリッジ後方にいたイオニアさんを呼び寄せると、内緒話を始める。

 俺の直ぐ下で話をしているから、結構聞こえるんだよなぁ。

 どうやら、大型の焼夷手榴弾を落として松明代わりにしようと考えたみたいだ。

 ヒドラⅡの焼夷弾では燃焼時間が短そうだからね。あの手榴弾の大きさなら銃弾の10倍以上の薬剤が入っていそうだ。それだけ長く燃えてくれるに違いない。


 リトネンさんの指示で、飛空艇は蒸機人の連立する東3ミラルほどの場所で滞空している。

 まだ俺達の存在が分からないようだ。エンジンの排気筒に消音機を取り付けたらしい。あまり高性能の消音機を取り付けるとエンジンの出力が低下するということだから、少し小さくなるくらいで妥協したみたいだな。

 その上、灯火管制を実施しているから飛空艇の明かりが外に漏れることはない。塗装が真っ黒だからなぁ。夜空に溶け込んでいるはずだ。


「最初に蒸機人の上を飛んで、倉庫から焼夷手榴弾をイオニアが落とすってことか」


「高度200で良いにゃ。通常巡航で飛べばある程度の距離が開いて炎が蒸機人を照らしてくれるにゃ」


「その後で反転攻撃という事か……。さすがに高度200では帝国も気付くと思うが?」


「高度300、速度は同じにゃ。軸線はテレーザに任せるにゃ。しっかりと蒸機人に合わせるにゃ。リーディルとイオニアは各個に射撃にゃ。射撃開始は自分で判断するにゃ」


 操縦をテレ-ザさんに譲ってファイネルさんが銃座傍にやって来た。

 リトネンさんの指示を聞いて、うんうんと頷いているから上手く運べば蒸機人の上空を飛びながら2発は撃てるんじゃないかな。

 俺だって通過時にマガジン1つを空にしたいところだ。


「それじゃあ、始めるにゃ。ファイネル席に着いたらリトネンに知らせるにゃ!」


 ファイネルさんが軽く騎士の礼をリトネンさんにすると、操縦席に戻って行った。

 さっそく大砲の射撃準備を始めている。イオニアさんへの連絡は準備が完了してからになるのだろう。


「……そうだ。そっちの準備は全て出来てるんだな? なら、始めるぞ!」


 最後の言葉は隣のテレーザさんに顔を向けての言葉だ。

 さて、通過時に俺の眼でどれぐらい暗闇が見えるかを確かめないと……。


 巡航速度で蒸機人の待機所にゆっくりと近付いていく。

 ブリッジ内には小さな赤い天井灯が1つだけだから、だいぶ暗闇に慣れた感じだ。さすがに色までは分からないけど、地上50ユーデほどの範囲内は何とか形が分かる。さすがに詳細は分からないが、背中の蒸気発生器を狙うことは出来そうだな。

 

 蒸機人の真上を通る。

 数台ずつ纏まっているのは、小隊毎に集めているのかもしれない。

 そんな中問題が1つ出てきた。必ずしも蒸機人が同一方向を向いていないのだ。

 場合によっては正面に炸裂弾を撃ち込むことになるかもしれない。


「何とかなるかにゃ?」


「何とかします。出来れば攻撃は2度行った方が良いかと。蒸機人の向きがバラバラです」


「了解にゃ。テレーザ、攻撃後に素早く反復攻撃をするにゃ。その時は高速巡航で構わないにゃ」


「了解しました。……良い感じで焼夷手榴弾が炸裂してますね。あれならファイネルでも蒸機人をし止められそうです」


「おいおい、それほど下手じゃないぞ。この速度なら2発は撃ち込めそうだ。上手く軸線を合わせてくれよ」


 待機所を過ぎると高度が上がる。ゆっくりと飛空艇が回頭を始めた。

 いよいよだな。

高度300からの斜めの射撃になるから、照準器の距離目盛を400に合わせた。

ヒドラⅡのセーフティを解除し、ストックを肩にしっかりと当てたところで、リトネンさんに声を掛ける。


「距離を教えてください。照準目盛りを400にしましたから概略でも構いません」


「了解にゃ。距離1000ユーデから始めるにゃ」


 倉庫ではイオニアさんがヒドラを構えているに違いない。

 発射速度では向こうが上だからなぁ。しっかりと狙って確実に当てて行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ