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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-179 峠の砦は死人の集まり


 翌日の昼過ぎにオルバンがやって来た。

 空中軍艦への攻撃をファイネルさんが誇張たっぷりに話してるんだけど、大きく目を見開いて聞いているんだよなぁ。


「さすがはファイネルさんです! 反乱軍一の飛空艇乗りですね」


「だろう。ところで、もう1隻の方は活躍してるのか?」


「ファイネルさんほどではないですが、帝国軍の偵察用飛行船をこの間落としましたよ。口径4イルムの榴弾を改造した爆弾を8個搭載してますから、敵の自走砲を叩いています」


 爆撃を重視したということか……。それでも飛空艇の前面にはヒドラⅡを設置しているのだろう。飛行船攻撃はヒドラⅡの成果に違いない。


「それでは、これで失礼します。次の作戦は未定ですが、クラウスさんが何か企んでいるようですよ」


「なら、楽しみに待っているよ。俺としては、もう少し難度の高い作戦が良いなぁ」


「伝えておきます! それでは……」


 綺麗な騎士の礼を取ると、俺達の部屋を出て行った。

 報告書は託したから、夜でも移るピクトグラフが手に入れば良いんだけどねぇ……。


「オルバンも忙しそうだが、だいぶ副官役が板についてきたな」


「いかにも士官という感じでしたね。オルバンは正直ですから、次の作戦は難度が高くなるんじゃないですか?」


「リップサービスだよ。クラウスが本気になるとは思えないな。たぶんこのままジワジワとアドレイ王国の首を絞めようと考えているはずだ」


 鉄道や水道への攻撃ということかな?

 帝国領内でさんざんやって来たからなぁ。物流を止めれば前線への補給が儘ならなくなってしまう。それは戦線を後退させることに繋がるはずだ。

 アドレイ王国の新王は、それを良しとするだろうか?

 多分予備兵力を順次投入することになるんじゃないかな。

 待てよ……、それはアドレイ王国の戦力の疲弊に繋がり、他国への侵攻を削ぐことにならないか?


 クラウスさんは、表面上同盟関係にあるアドレイ王国の覇道を頓挫させようと考えているのかもしれないな。


「ファイネルさんの希望は、案外次の作戦で叶うかもしれませんよ」


「ん? 何か気が付いたのか」


「アドレイ王国は国王が代替わりして、かなり強気に戦を進めていますよね。俺には帝国が去った後に帝国を模してこの大陸を統一しようと考えているように思えるんですが?」


「そんな話もあったな。それで王位継承権を持っている王女を追っていたんだろうけど、あれから大分経つが無事に逃げられたかなぁ。俺達と一緒に飛空艇に乗っていたんだからなぁ。無事を祈りたいところだ」


 そっちも気になるところだ。

 アドレイ国王としても、かなり気にしているに違いない。失政が続けば反乱が起きないとも限らない。その時に旗印になり得るのはただ一人、生き残った王女様ということになるからね。

               ・

               ・

               ・

 空中軍艦を撃墜してから10日程過ぎた時だった。

 だいぶ寒くなってきたから俺達の部屋でのんびりしていると、通信室から少年が飛び込んできた。


「クラウス殿からリトネン殿宛ての緊急伝文です!」


 リトネンさんが電文を受け取りながら少年兵に礼を言うと、直ぐに少年は部屋を出て行った。

 峠の砦ではミザリーが一番若いと思っていたんだが、先程の少年はもっと若そうだな。反乱軍に加わった当初のミザリーほどの年代に思える。


 ところで、一方的な通信なのかな? 返事は必要ないということなんだろう。

 お茶を飲みながらしばらく電文を眺めていたリトネンさんだったが、どんな指令が来たんだろうとジッと見守っていた俺達に顔を向ける。


「今夜、新たな仲間を連れてこの砦に来ると書いてあるにゃ」


「それだけなの?」


 問いかけたエミルさんにリトネンさんが電文を渡している。受け取ったエミルさんが、他の指示があるのか直ぐに読んでいたけど、がっかりしたような表情で溜息をついた。


「この内容だけなら、緊急電にはならないと思うけど……」


「通信で伝えられないってことなんだろうな。電信は敵側にも傍受されているはずだ。通信量が増えれば暗号解読は可能だとエミルが前に言ってただろう?」


「それはそうなんだけど……。これだけだと、何のことかさっぱりでしょうね。私達にも分からないもの」


「新たな仲間というのがちょっと気になるにゃ。この砦は一般には知られていないし、飛空艇の乗員も定員が足りているにゃ。その仲間はなにを目的にここに来るにゃ?」


 ライネルさんの言葉に、皆が首を傾げる。

 どちらかというと、飛空艇の運用だけに特化したような砦だからなぁ。敵どころか、味方にだって存在を知られていないはずだから、砦の住人を増やすようなことがあればこの砦の存在がばれてしまいかねない。


「新たな死人ってことかもしれないぞ。俺達は公式には死んだことになってるらしいからな」


「私達みたいなことが、他にもあったという事かしら? そんなことが頻発するようなら同盟をさっさと止めた方が良いと思うんだけど」


 エミルさんの言葉はもっともだと思うけど、アドレイ王国との同盟関係を結んでいることで飛空艇や内燃機関を動力とする兵器の燃料を融通して貰えるらしい。

 そうなると、同盟の破棄は簡単ではなさそうだ。

 ドワーフ族の人達がブンカーの奥に、燃料タンクを作るべく奥を掘り進んでいるらしいけど完成するのは何時頃になるのか全く分からない。

 完成したとしても、飛空艇の出動回数の数回分らしいからなぁ。


「燃料は東の海を使った海上輸送という手段もあるらしいが、帝国の海中軍艦が大型艦であれば見つけ次第沈めているらしい。さすがに漁船は襲わないと聞いたが、漁船を改良した輸送船の積載能力はあまりないらしいな」


「漁船ではねぇ……。でも、アドレイ王国以外にも取引を継続していることが大事みたい」


 エミルさんの話では信用の継続ということなんだけど、俺にはあまり理解できない話だ。取引なら良い品をなるべく安くというのが基本だと思うんだけどなぁ。


 色々と推測してみるが、やはりこれだと言うものがない。

 あまり悩まずに、クラウスさんがやってくるのを待つことにしよう。


 夕食を早めに取って、俺達の部屋に皆が集まる。

 銃の手入れや、背嚢の中身を整理しているのは俺だけだ。ファイネルさんはイオニアさん相手にチェスをしているし、ミザリー達はカードで遊んでいるみたいだな。エミリさんの顔色が悪いのは、相当悪い手札になっているのかもしれない。お金を賭けているわけではないんだろうけど……。


「はい! 上がったにゃ」


「そうなると……、最後のカードを引くのはテレーザさんね! ……2番だ!」


 リトネンさんとミザリーはカードに強いってことかな? 残ったのはテレーザさんにライネルさん、それにエミリさんの3人なんだが、先に上がった2人がニヤニヤしながら見てるんだよなぁ。チームワークが乱れそうな感じがしてきたぞ。

 ファイネルさんの負けでチェスの方はケリが付いたようだ。

 コーヒーカップをファイネルさんに渡して、無言の慰めを伝える。


「ありがとうよ。どこで間違えたのかなぁ……、次はじっくり考えながら指すぞ!」


 ファイネルさんの話を聞いて、後ろでイオニアさんが笑みを浮かべている。

 次のチェスの結果も何となく分かってしまうな。

 カードゲームの方は、やはりエミリさんの負けらしい。がっくりした姿で棚に向かうと、自分の背嚢からお菓子を持ち出して、皆と一緒に食べ始めた。

 負けるとお菓子を提供するのか……。

ミザリーが嬉しそうにエミリさんからお菓子を受け取っているけど、自分が負けることだってあるんだからお菓子は用意しておいた方が良いんじゃないかな。


「もう、20時を回ってるわ。まだ来ないのね?」


「それだけ人目を避けるってことじゃないのか? 案外真夜中過ぎってこともありえるぞ」


「まあ、俺達は待つだけですからねぇ。次の作戦も気になりますし」


 ストーブ傍にベンチに腰を下ろして、俺達は一服を楽しむ。イオニアさんはミザリー達と合流して一緒にお菓子を頂いている。

 しばらくは世間話をしていたんだが、それも飽きてきたんだよなぁ。

 ファイネルさんが3本目のタバコに手を伸ばそうとした時だった。

 部屋の扉がトントンと叩かれる。

 時計を見ると、すでに23時を回っている。だいぶ遅い来訪だな。


「遅くなって済まない。皆、揃っているな……」

 

 いつもはオルバンが一緒なんだけど、今夜はクラウスさんだけのようだ。


「リトネン達なら信頼がおけそうだ。私達が保護するとなると、早々にアデレイ王国に知れるだろう。そうなると引き渡さざるを得ないからな」


「……連れて来たのかにゃ?」


「連れて来た。……入って良いぞ。通路は冷えるが、この部屋は暖かい」


 クラウスさんが扉に向かって声を掛けると、ゆっくりと扉が開いた。

 マントのフードを深く被っているから、顔が見えないんだよなぁ。


「どうぞ!」と言って、エミルさんが入ってきた2人を椅子に座らせる。

 ゆっくりと席についてフードを跳ね除けた2人に、俺達は思わず目を見開いてしまった。


「やはり王女様だったにゃ。確かに此処なら安全にゃ」


「そういうことだ。リトネン達と同じ処遇になるだろうから、私にとっても都合が良い。上層部には保護に失敗したと告げてある」


「でも、飛空艇は定員が一杯だから、この砦で暮らすことになるわよ」


「それで、十分です。でも、皆さんの部屋には自由に出入りさせて頂けるとありがたく思います」


「それぐらいなら、構わないにゃ。それに、作戦の内容次第では情報を教えて貰えるかもしれないにゃ」


 シグさんの言葉に、リトネンさんが笑みを浮かべて頷いている。

 だけどそんな事を攻撃する側に教えても良いのかな? ある意味、裏切り行為にも思えるんだが……。

そうか、そういうことか。裏切りよりも、復讐心の方が高いということになるんだろう。


「2人をしっかり預かるにゃ。それで、クラウスが来たのはそれだけではない筈にゃ?」


「次の作戦だが……」


 2人で内緒話を始めた。

 シグさんはミザリーとおしゃべりを始めたし、エミーさんはエミルさん達に王宮からの脱出劇を話している。

 少し離れているから話声が良く聞こえないけど、結構苦労してきたようだ。

 掴まったならその場で処刑されそうだったらしいから、懸命に逃げてきたのだろう。


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