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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-174 立派な勲章を貰ったけれど


「「「帝国からの勲章!?」」」


 クラウスさんの言葉に、俺達は思わず聞き返してしまった。

 オルバンがバッグから小箱を2つ、それに賞状を2つ取り出して、俺とリトネンさんの前に置いた。賞状の上に5枚の金貨まで乗せてある。


「全く、面白いことになったものだ。リトネン達が帝国領内で落とした変わった飛行船なんだが……。どうやら帝国が散々探していた反乱組織の幹部が搭乗していたらしい。地上でしっかりとその様子を見ていた者がいるということになるのだろう。帝国軍ではなく、その形状の報告を聞いた軍が俺達の飛行船であると確信したということになる。たとえ敵国であっても帝国に多大な貢献をしたことを賞するということなんだろうな……、ハハハハ」


「どんな勲章なのかにゃ?」


 リトネンさんが丁寧な作りの木箱を開けると、出てきた勲章はかなり高価な品に思える。銀製のようだし、中央の黒い鷹は金で象嵌されている。鷹の眼には宝石が埋め込まれているようだ。


「帝国の勲章では最上位、『ブラック・レギオン』と呼ばれる品らしい。その賞状も読んでみるんだな。面白いことが書かれているぞ」


 手に取って読んでみると……。面白いというのは、この最後の文章だな。


「全ての罪を許すそうだ。略章も入っているから何時でも付けておくことだな。それと、賞状の上に載せた金貨は毎年1枚帝国から贈られるらしいのだが、5年分ということになる。6年後には帝国で直接手渡したいとのことらしいぞ。まったく、おもしろい話だ」


「この戦を5年で終わらせると宣言したということですか?」


「そうなる。前線を1日停戦させた上で、帝国軍とアドレイ王国軍そして反乱軍の3者が会談をした中での勲章の贈呈だからなぁ。アドレイ王国軍の顔色が悪かったと報告があった。俺達の部隊長が、勲章を贈られる者達が空中軍艦に落とされたことを告げると、帝国軍のお偉いさんが首を傾げていたらしい。家族に渡してくれれば十分だと言っていたそうだ。その勲章の範囲は家族にも適用されるそうだから、大切にするんだな」


 帝国が首を傾げていたというのが気になるところだ。

 更にアドレイ王国軍の代表の顔色が悪いとなれば……。


「帝国は、俺達とアドレイ王国の間に溝が出来つつあることを知ったのかも知れませんね」


「そうなるな。案外俺達にすり寄って来るかもしれん。属国化よりはマシな統治計画を打診してくる可能性も出てきた」


「自治国家でなければダメにゃ。その上反乱軍組織を解体するような条件なら、私達だけで戦を続けるにゃ!」


「それは上部の連中が考えているだろうが、場合によっては先の王国のようなことになりかねない。その辺りは私も注意して見守ることにするが、リトネン達に対しては、峠の砦の備蓄量を少しずつ増やすことで了解して欲しい。場合によっては、リトネン達に最終指示を出すことになりかねないからな」


「了解したにゃ。その時は改めて有志を募るにゃ」


 どういうことだ?

 ちらりとファイネルさんに視線を向けると、俺に気が付いたのか俺に顔を向けて小さく頷いてくれた。

 後で解説してくれるってことだな。


「とりあえず、今回の作戦は成功したと言って良いだろう。アドレイ王国軍の飛行船まで落としたのだからな。前線からは新型の大砲の成果だと伝えて来たらしいが、数発で当てたと大喜びをしているそうだ。リトネン達に気付いた者はいないようだな」


「なら次も楽しみにゃ。次はどこを狙うにゃ?」


「10日後に帝国軍の攻勢が強まるのは予定通りということだが、それに連動してアドレイ王国の深部を爆撃するに違いない。帝国軍の空中軍艦は2つの艦隊を作っている。片方は前線への爆撃に参加するだろうから、深部を狙うのはもう1つの艦隊になる。爆撃後に攻撃してくれないか? 攻撃は爆撃の2時間後なら問題あるまい」


「落とせたとしても1隻にゃ。それで良いのかにゃ?」


「十分だ。それとだ……。地図を持って来てほしい!」


 直ぐにイオニアさんが棚から地図を運んでテーブルに広げてくれた。地図の端を灰皿やコーヒーカップで抑えたところで、クラウスさんが指で示した場所は王都から数十ミラル程山麓に入った場所だった。


「ここに橋がある。鉄道用の小さな橋だが隣国との商取引に使われている。この橋を破壊して欲しい。特に重要なのは線路ではなく、線路橋の下にある水道用のパイプだ。山麓地下に作られたダムから王都の近傍の工房への導水路でもある」


「3カ月は工房が止まってしまうにゃ……。了解にゃ。やり方はこっちで決めるにゃ。それで、警戒はどうなってるにゃ?」


「かつての帝国軍と同じだな。1日1回警戒用の蒸気機関車が線路周辺の巡視を行っているようだ。それでは、頼んだぞ。今回の報告書は、事務所に預けておいてくれれば十分だ。必要な品があれば事務所を通せば用立てする。……以上だ!」


 2人が部屋を出て行ったところで、とりあえず朝食を食べることにした。

 報告する必要が無くなったから、今日は食事が終わればすぐに部屋で寝ることが出来そうだ。


 翌日。扉を叩く音で目が覚める。

 ミザリーの部屋の鍵の予備を渡しているから、起きないと実力行使されかねない。

「起きてるよ!」と言葉を掛けて、身支度をする。

 タオルを手に部屋を出ると、母さんとミザリーに「おはよう」と声を掛ける。


「早く顔を洗ってきてね。先に食堂に行ってるから」

「直ぐに行くよ。それじゃぁ!」


 シャワー室に行って、洗面台で顔を洗う。

 直ぐに戻ってタオルをハンガーに掛けると、食堂に向かった。5分は掛からなかったはずだ。

 食堂のカウンターで朝食を受け取り、ミザリー達が座る席に向かう。

 あまり混んでいないのは8時半を過ぎてるからかな?


「10日後に出掛けるんですって?」


「正確には8日目ですよ。今度は爆撃を終えた空中軍艦相手になるんだけど、飛行船と違って飛空艇は装甲板があるからね。それに真っ黒に塗装したから、夜は目立たないんだ」


「油断はしないでね。いつも父さんが2人を見守っていてくれていることに感謝するのよ」


「だいじょうぶだよ。並んで砲撃戦をしようなんてリトネンさんは考えないからね。一撃離脱が基本なんだ」


 リトネンさんの飛行船運用は、かつての猟兵部隊で狙撃をしていた時代を彷彿させるところがあるとエミルさんが言っていた。

 ジッと身を潜めて機会を待って、一撃で相手をし止めると素早く後退する。

 俺が電気ネズミを狩っていた少年時代もそんな感じだったから、違和感なく作戦に従事できるようだ。


「手負いの獣にだけは気を付けるのよ。それと、待ち伏せしているつもりが逆になるときだってあると、父さんが言っていたわ」


「ああ、その辺りもリトネンさんは気を付けているよ。待ち伏せするときだって、後方警戒を必ず置くからね。俺にはそこまでするのかと疑問に思える時だってあるぐらいだ」


 笑みを浮かべながら母さんがうんうんと俺の話に頷いている。

 かつてリトネンさんは父さんと一緒の狙撃部隊に属していたらしいから、母さんもリトネンさんと同じ部隊に俺達2人がいるということで安心感を持っているのだろう。

 案外リトネンさんの用兵は、父さんの教えを元にしているのかもしれないな。


「それにしても、その略章がねぇ……。何も付けないよりは男ぶりが上がって見えるけど……」


 クラウスさんの貰ったバックスキンの上着に、母さんが帝国勲章の略章を縫い付けてくれた。

 クラウスさんの上着にはいくつもの略章が付いているけど、この略称は真ん中に小さな宝石が付けられている。おかげで結構目立つんだよなぁ。


 母さんは交代勤務をしているから、俺達が峠の砦でのんびりしている時でも、一緒に食事をすることがあまり出来ない。

 でも、時間が合う時は一緒に食事を取ろう。

 ミザリーも嬉しそうだし、何と言っても母さんが安心してくれるからね。


 食事を終えると、ミザリーと一緒に俺達の部屋へと向かう。

 扉を開けると、イオニアさんがお茶を飲んでいた。

 他の人達はのんびりとやってくるのだろう。イオニアさん相手にミザリーがおしゃべりを始めたから、片隅のストーブ近くに座って一服を楽しむことにした。


「いつも早いなぁ。まぁ、最後はリトネンなんだろうけどな。……それが略章ってことか! 結構様になっているぞ。俺はこれ1つだからなぁ」


 ファイネルさんが上着の襟に付けていたのはおしゃれなバッチでは無かったらしい。緑の地に黒い縁取り、それだけだからなぁ。


「帝国の最高位の勲章らしいですよ。でも敵の勲章ですからねぇ」


「気にすることはないさ。例の敵を倒した功労ってやつだからな。兵士ならともかく町の住人を根絶やしにするような奴らを倒したんだ。たとえ帝国からの勲章だろうと、それは誇れることに違いない」


 そういう風に納得するしかなさそうだ。

 ポットのお湯が沸いていたので、ファイネルさんと粉末コーヒーを溶かして味わう。

 アドレイ王国の王子様のところで味わったコーヒーはさすがに粉末では無かったようで、かなり深みのある苦さを味わうことができたけど、俺には砂糖2個を入れた少し甘めのコーヒーが一番だな。


 部屋にテレーザさんとライネルさんが入ってきて、最後は予想通りエミルさんに叩き起こされたらしいリトネンさん達が入って来た。

 頭の髪があちこち跳ねているし、片方の手にはハムを挟んだパンを持っている。

 コーヒーを持って行ってあげると、「ありがとにゃ」と礼を言ってくれた。


「リーディルも、あまり甘やかさないで頂戴。全く、起こさないといつまでも寝てるんだから……」


「私達は夜の仕事になるにゃ。昼間は寝ていた方が良いにゃ」


 一応、それなりの理由があるってことのようだ。でもエミルさんからキツイ目を向けられると、その後の言葉は出ないみたいだな。

 ミザリーが他の人達にコーヒーを淹れたカップを配っている。俺とファイネルさんにはコーヒーを継ぎ足してくれた。


 リトネンさんが口の中のパンをコーヒーで流しこむと、席を立って黒板に向かう。

 タバコに火を点けて、リトネンさんの作戦を聞こう。


「次の作戦目標は2つにゃ。1つは王都の南東部にある橋の攻撃にゃ。橋を爆弾で爆破できれば一番だけど、線路破壊だけでなく橋の下に通されている水道管の破壊が目的にゃ……」


 飛空艇から降下して、水道管に爆弾を仕掛けるということらしい。橋の両端に真ん中と都合3か所ってことのようだ。


「爆弾は古い背嚢に仕込んでくれるにゃ。半ブロス程の重さがあるから小銃は携帯出来ないにゃ。橋梁に針金で固定して、スイッチを押せば1時間後に爆発するにゃ。降下は私とイオニア、それにリーディルで行うにゃ。降下は橋の北西、小雨量後の回収は橋の南東で行うにゃ。回収の合図は上空に懐中電灯を点滅させて送るにゃ」


 簡単な絵を描いて説明してくれたけど、結構爆弾の重さがありそうだな。落ちたら大変だから倉庫にあるロープが付けられるベルトを付けていこう。


「爆弾が爆発した後で、飛空艇から爆弾を落とすにゃ。橋の片側に2個落とせば線路も破壊できそうにゃ」


「水道管の爆破は空中軍艦と思わせるんだな? ならこの辺りに砲弾を撃ち込んでも良さそうだ。橋脚に弾痕が残れば水道管の破壊も砲弾だと思わせられるぞ」


「爆弾を落としてから1発打ち込めば良いにゃ。次に、空中軍艦にゃ……」


 3隻の空中軍艦相手だからなぁ。

 リトネンさんの攻撃案は、最後尾の空中軍艦に上空から大型爆弾を落とすということだから、今までとさほど変わりは無い。

 夜の闇に紛れて近づいた後に、補機を起動して一気に近づいて爆弾投下を行いそのまま飛び去るということだった。


「さすがに1発で落ちるとも思えないにゃ。上空で様子を伺い、何度か砲撃を行うつもりにゃ」


「他の空中軍艦が援護することも考えられますね?」


「その時は1ミラルほど離れて砲弾を撃つにゃ。発射後に素早く移動すれば反撃を受けないにゃ」


 夜間に1ミラル先から飛空艇を見つけることができるんだろうか?

 月夜ではないと思うんだけど、かなり危険な攻撃になるかもしれないな。


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