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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
202/225

J-173 勲章が貰えるらしい


 偵察用飛行船にとって、上方向は死角になるのかもしれない。大型飛行船や空中軍艦は上部や側面に見張り台を設けているが、小型飛行船にはそれがないからなぁ。

 大きな気嚢が邪魔になるのだろう。それに製作目的が地上観察なだけに、敵の攻撃は高度を高く取ることで対処できると考えていたに違いない。


 アデレイ王国軍、帝国軍の飛行船はあまり進路を変えることなく、それぞれ1発の焼夷弾で炎に包まれながら地上に落ちて行った。

 反撃手段を持たない飛行船を落とすのも考えてしまうけど、戦争状態だからなぁ。仕方のないことだと、割り切ることにした。

 悔やむようでは次の戦に関わるし、敵側にしたって俺達を落とそうとしていたんだからね。それにリトネンさんも、小型飛行船1隻ぐらいで溜飲を下げるようなことはないだろう。


「ミザリー。通信は無かったのかにゃ?」


「最初の飛行船の攻撃時に、帝国軍の飛行船から『敵偵察飛行船の撃墜を確認』との打電がありました」


「自軍の攻撃だと思ったようだな。当然アデレイ王国軍も聞いていたに違いない」


「帝国軍の飛行船が落ちた時には通信がありませんでした」


「前線の兵士達には2隻が相次いで落とされたことが分かったはずだ。最初の飛行船も合わせれば一晩で3隻だからなぁ。今頃は戦友達と大騒ぎをしてるんじゃないか?」


 最終的には火の玉状態で落下したはずだ。

 どちらの飛行船か分からないが、互いに砲兵が打ち合っていたからなぁ。自軍の対空砲で落としたと思っているに違いない。


「これで目標は達成したんじゃないか? 夜明けまで2時間というところだ。朝日の中では隠れることは出来ないぞ」


「なら、このまま帰投するにゃ。塹壕に手榴弾を落としたいけど、砲撃が続いているからちょっと危ないにゃ」


「了解だ。補機を作動させて速度を上げるぞ!」


 高度はそのままに進路を北東に向ける。

 補機を使うと言っても、巡航速度が毎時20ミラル程上がったぐらいだ。さすがに戦闘機動並みの速度では燃料消費が馬鹿に出来ない。

 山麓近くに移動するまではこの速度を維持するのだろう。


 運転を替わって貰ったファイネルさんと休憩を取って帰った時には、眼下に見えるのは山肌だった。

 既に東の空が明るくなっている。高度を変えずにファイネルさんが補機を停止した。後は主機だけで帰投するつもりのようだ。


峠の砦に近づくにつれ高度を下げていく。

 真っ黒に塗装した飛空艇が山の影に隠れるようにとのことだろう。

 どんどん高度を下げて、今は数十ユーデ程の高さを谷沿いに進んでいる。

 山肌にぶつかるんじゃないかと、冷や汗ものだ。

 

「ミザリー、30分も掛からずに峠の砦だ。広場を開けるように連絡頼む」


「了解です……。通信完了。……受信確認が届きました!」


「了解だ。最後に尾根を1つ超えるぞ。そしたら峠の砦だ」


しばらく谷沿いに進んでいた飛空艇がふいに上昇を始めた。

 尾根を斜めに超えると、3ミラル程先に回転する光が見える。あれが目印ってことだな。


「主機のギヤを変えるぞ! スロットルを絞って……、ギヤを変えた。今度はゆっくりとスロットルを上げて速度を落としてくれ」


 着陸は離陸よりも操縦が面倒みたいだな。

 ファイネルさん達に任せて、操縦席でのんびりと着陸を待つことにしよう。


 軽いショックを感じたから、飛空艇が着陸したのだろう。

 着陸しても、操縦席ではやることがあるようだ。俺が出来ることはないからなぁ。早めに荷物を持って俺達の部屋に引き上げることにした。


 部屋に入るとテーブルに荷物を下ろして、片隅のストーブに火を入れる。

 直ぐに暖かくなることはないだろうが、朝食を終える頃には部屋が温まっているだろう。

 火が付いたところで薪を投入して、ポットに水を汲みに出掛ける。

 戻って来た時には、皆が部屋に揃っていた。テーブルに載せておいた俺の荷物がないんだが……、誰かが棚に入れてくれたのかな?


「現在6時半にゃ。食堂は8時だから、その前にシャワーでさっぱりするにゃ。朝食後にこの部屋で簡単な反省をして夕食まで自由時間にゃ」


「夕食後に再度この部屋に?」


「たぶんクラウス達が来るに違いないにゃ。3隻落としたことは通信班に伝えてあるにゃ」


 アデレイ王国軍の飛行船まで落としたからなぁ。帝国軍の仕業だと勘違いしてくれるとは思うんだけどね。

 ファイネルさんがシャワーに行こうと誘ってくれたので、慌てて席を立つ。

 棚の背嚢からタオルを取って、ファイネルさんの後を追う。


 シャー……と言う熱いシャワーの音の中。ファイネルさんと話をする。

 やはりアデレイ王国軍の飛行船を落としたのが気になるんだよなぁ。


「アデレイ王国軍に分かるとは思えんなぁ。互いに相手がやったと思ってるはずだ。特に帝国軍は、あの通信を送ったぐらいだからなぁ」


「その内に、戦場の幽霊騒ぎが起こりそうな気がしますよ」


「違いない! ハハハ……。確かに幽霊だろうな。見えない存在ということになるんだからなぁ」


 夜の中での活動だからだろうな。だけどいくら何でも飛行船のブリッジに明かりを煌々と付けている方にも問題があるんじゃないかな。

 灯火管制をしないんだから、遠くからでもはっきりと存在が分かる。

 低空を飛行する空中軍艦は灯火管制を行っていることもある。だけど乗員が多いからだろう、いくつかの窓から明かりが漏れているんだよね。

 

「俺達が休んでいる間に、何度かライネルが飛空艇の操縦をしていたそうだ。谷の間を縫うように操縦していたらしいから、やはりネコ族の夜間視力は俺達イヌ族を凌駕するということなんだろうな」


「ファイネルさんやテレーザさんも谷間を操縦していたじゃありませんか?」


「巡航速度を上げて操縦していたそうだ。少し早く到着したのはそういう事らしい。1晩で3隻も飛行船を落としたんだ。次は灯火管制状態の飛行船を狙うことになる。ライネルの参加はかなり助かるんじゃないかな」


 夜間視力に秀でるネコ族はリトネンさんとライネルさんだけだし、トラ族のイオニアさんも俺達よりは上らしい。イオニアさんの場合は動態視力がかなり良いらしいけど、それは御先祖様達の能力の賜物ということなんだろう。

 俺とミザリー、それにエミルさんは人間族だから、特に他の種族と比べて突出した能力がないんだよなぁ。それでもリトネンさん達は俺達を仲間として受け入れてくれるんだから、ありがたいと思わねばなるまい。


 俺達の部屋に戻ってきたが、やはり女性達はまだ戻ってこないようだ。

 湯気を立てているポットから、コーヒーの粉末を入れたカップにお湯を注いで、ファイネルさんに手渡す。

 俺の場合は砂糖2個を入れる。ストーブ傍のベンチに腰を下ろしてタバコを取り出すと、ファイネルさんが火を点けてくれた。


「最初は王女達の追跡部隊への爆撃で、偵察用飛行船狩りだ。クラウスは俺達を隠してくれたが、俺達がどんなことが出来るかを確認しているようだな」


「今までと同じというわけにはいかないということですか?」


「新たな飛空艇は船尾を失った前の飛空艇だが、俺達がしてきた仕事を引き継いでくれているはずだ。反乱軍の飛空艇は1隻……。そう思わせるためにな」


「あくまで、影の存在ということですか」


「そうなるだろう。俺達は帝国軍の空中軍艦に沈められたことになっている。俺達も戦場で行方不明と反乱軍の名簿に記載されているとオルバンが言っていたぞ」


「戦死では無いと?」


「クラウスなりに考えてくれたんだろうな。戦が終われば見つかったことになるんじゃないか」


 そう言って、ファイネルさんが笑い声をあげた。

 何年先になるか分からないけど、俺達がどこかの無人島で無事に暮らしていたことにするんだろうか?

 それもおもしろい話だけど、その間の給料は貰えるんだろうか?

 峠の砦での暮らしにお金は必要ないのだが、ちょっと気になるところだ。


 トントンと扉が叩かれ、クラウスさんとオルバンが入って来た。

 まだリトネンさん達は帰ってこないから、とりあえずストーブ傍のベンチに腰を下ろして貰い、コーヒーを飲みながら待ってもらおう。


「リトネン達はシャワーに出掛けたのか?」


「そうなんです。そろそろ戻るとは思うんですが……、まさかこんなに早くクラウスさん達がやって来るとは思いませんでした」


 タバコを楽しみながらクラウスさんが話してくれたのは、俺とリトネンさんに勲章が授与されたことを知らせる為にやって来たらしい。

 ファイネルさんが首を捻っているぐらいだから、俺にも何の功績か分からないんだよなぁ。


「勲章は国王の裁可が必要だったと思うのですが、さすがに反乱軍に国王が参加しているとは思えませんが?」


「皆が揃ったら教えてやろう。とんでもない勲章だぞ。しかも毎年褒賞金として金貨1枚が下賜されるんだからなぁ……、ハハハハハ」


 最後に笑い出したのも気になるところだ。

 となると、誰が、何の功績で俺とリトネンさんに勲章を与えたかが問題になるということなんだろう。


「それは反乱軍として、受けることが出来るものなんでしょうか?」


「くれるものなら貰っておけば良いだろう。孫に自慢することも出来るだろうが……、ハハハ」


 再び笑い出したんだよなぁ。隣のオルバンも下を向いて肩を震わせているぐらいだから、かなり面白いことになっているのだろう。

 早くリトネンさん達が戻ってくれないかな。

 このままだと、俺とファイネルさんの2人で顔を見合わせて首を捻る時間だけが過ぎていく感じだ。


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