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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-002 夜逃げ


 母さんがベッドから離れるようになって10日が過ぎた。

 俺とミザリーに、笑顔が戻って来たことが自分でも分かる。


 それが猟にも反映されるかというと、そうでも無いようだ。

 たまに6匹を手にすることがあるけど、やはり俺の腕では5匹が良いところだな。

 今日は、ちょっと獲物を見付けにくかったから4匹だったけど、無駄弾を使わなかったし、途中の林で薬草を摘むことができた。

 今日の稼ぎで、元気になってきた母さんに果物を買って帰ろうかな?


 そんなことを考えながら町に帰ってきたのだが、何だか騒がしい。

 門番のおじさんも、挨拶に応えもしないで番小屋の中で仲間と小声で話している。

 とりあえず獲物をギルドに持ち込むと、薬草の分も合わせて報酬を受け取った。


「明日も狩りに出るの?」


「こんな獲物を運ぶだけですから、狩りを休むと暮らしていけませんよ」


「そうねぇ……。なら、日が落ちる前に帰ってきなさい。何か起こりそうで心配だわ」


 何が起きるのか教えてくれれば良いんだけど、「気を付けなさい!」と繰り返すだけだった。

 そんなお姉さんに頭を下げると、雑貨屋に寄ってパンとリンゴを2つ買って帰宅する。

 そろそろ暗くなってきたから、リビングに入るとスープの匂いが漂っている。

 ミザリーが薬草を擦るのを早めに止めたみたいだ。

 お母さんの後ろから、一緒に鍋の中を覗いている。


「ただいま! ミザリー、お土産だ!」


「お帰り。わぁ! リンゴじゃない」


 パンとリンゴを嬉しそうに受け取ってカゴの中にそっと置いている。

 俺がテーブルに着くと、直ぐにお茶を出してくれた。手作りのハーブティーだけど俺のお気に入りだ。


「これが今日の稼ぎだ。預けておくよ」


「だいぶ貯まったよ。新しい猟銃が買えるんじゃないかな?」


 まだまだ無理だろう。

 それに、次の銃を使って何を狩るかも考えていないからなぁ。電気ネズミより大きいとなると……、時計鳥辺りになるんだろうか?

 たまに見かけるんだけど、近づくと向かってくる危険な奴だ。飛べない鳥なんだけど、大きな蹴爪は2匹分でナイフが作れると聞いたことがある。それに鶏冠の歯車も利用価値があると聞いた。

 1匹20メルになるんだから、それぐらいの利用価値があるのも頷ける。それに肉も美味しいらしい。

 時計鳥を狩るとなれば、連発式でないと無理だろう。弾丸も30口径ではなく40口径の猟銃用が欲しいところだ。

 護身用の拳銃は38口径なんだが、銃身長が短い安物だから10ヤーデ(9m)も離れたら当てるのが難しい代物だ。


 3人で食事をしながら、町の様子が慌ただしいことを話してみた。

 母さんが、溜息を吐いているところを見ると、近所の小母さん達との会話で何か知っているようだ。


「ここしばらく雨が降らないでしょう? 野菜がかなり酷いらしいの」


「でも、スープにはいつも通りに入っているけど?」


「裏の畑があるからよ。井戸から水を汲んでミザリーがあげているから、それなりに育っているけど畑はそうもいかないわ」


「ひょっとして、税の免除ってこと?」


「税を払えば冬越しが辛いと、昨日出掛けたの。……帰ってきたのが今日の昼頃よ。全員首を斬られていたわ」


 思わず食事の手が止まってしまった。

 負け戦で海の向こうの帝国の言いなりだけど、俺達庶民にはどうでも良い話だと思っていた。

 自分達の決めたルールに従わなければ、命は無いってことか!

 それだと家畜同然じゃないか……。


「領主が兵隊を連れてやってくるでしょうね。町長は今夜にでも夜逃げをするんでしょうけど、私達はこの町に残ったままだから……」


「それでか……。明日は早めに帰ってくるよ。猟をしないと俺達だって危なくなりそうだからね。母さん達も家でじっとしていて欲しいな」


 俺の言葉に小さく頷いてくれたから、たぶん大丈夫だろう。

 こんなボロ屋に兵隊が来るとも思えない。

 できれば俺も一緒にいてあげたいけれど、今の内に稼いでおかないと冬を越せそうにない。それに税の納期は年末だ。


 翌日は、何時もより早く家を出た。

 早めに帰るとしても、獲物は必要だ。

 ミザリーにくれぐれも外に出ないように頼んで、足早に家を出る。

                ・

                ・

                ・

 日過ぎに4匹目を狩ったところで、猟を止めると昼食を取る。焼きしめたパンを水で飲みこみ獲物を入れた革袋を手に山を下りた。

 しばらく歩いて小さな丘を越えると町が見える。


 何時もここで一休みするのだが、町を見た瞬間背筋に冷たい汗が流れる。

 町に煙が上がっているのだ。

 まだ夕食の準備には早いし、あれほど多くの焚き木を暖炉に入れるはずがない。

 火事が起こったということに間違いない。

 誰かが放火したのか、それとも不慮の火事なのか……。町のあちこちから煙が出ているし、火の手も上がっているようだ。


 いつの間にか俺は走り出していた。

 早く消さないといけないだろうし、母さんやミザリーが心配だ。


 息も絶え絶えに町の門までやってくると、シャキン! という音と共に俺の前に銃剣が交差した。


「何者だ!」


 荒々しい声で兵士が問い掛けてくる。

 ハアハアと息を整えながら兵士に顔を向けた。


「リーヴェル、猟師です」


「猟師だと?」


「ハーマン、どうした? 子供に銃を突き付けて!」

 

 上官らしき人が、俺に気付いて近付いてくる。

 銃は俺も持っているけど、これで人が倒せるとは思えない。ここはおとなしくしておいた方が良さそうだ。


「若いな? 幾つだ」

「15歳です。父が亡くなったので俺が暮らしを守ってます」


「俺の次男と同じか! 我儘し放題だが、中には立派な奴もいたもんだ。だが、一応調べは必要だろう。獲物はこれか。電気ネズミを狩れるなら腕は良さそうだな。猟銃をゆっくり肩から下ろして、そこの台に乗せて貰おう。他にも武器があれば出してくれ」


 肩から猟銃を下ろしたところで、後ろを指差してそこに銃があることを教えると、他の兵士がやって来て俺に銃を向ける。

 ゆっくりとベルトを外してホルスターに納まった銃を台に乗せた途端に、兵士達が落胆しているのが分かる。

 女性用の護身銃で、しかも安物だからねぇ。何を期待していたんだろう?


「見てみろ。30口径の拳銃弾の猟銃だ。1発物のボルトアクションだから、電気ネズミが良いところだな。野犬が出たらどうするんだ?」


「高いところに上って、これを使おうかと……」


 俺がテーブルの拳銃を指差すのを見て、兵士達が首を振っている。

 誰かを探していたんだろうか? 俺ではないという事みたいだな。


「行って良いぞ。念のために両方の銃から弾を抜いておいてくれ。猟師は問題ないだろうし、俺達の役にも立ってくれている。電気ネズミしか狩れずとも胸を張ることだ。それと成人したら軍に来い。腕の良い猟師なら歓迎してくれるぞ!」


 別に兵士にはなりたくないが、ここは「はい!」と返事をしておこう。

 満足そうに微笑んだ男達が俺から離れたところで、何時ものようにギルドに向かう。


 ギルドに入ると、お姉さんが心配そうな顔をして俺を手招きしている。

 カウンターに獲物を置くと、直ぐに報酬を渡してくれた。


「良かった。何事も無かったみたいね。やってきた領主に誰かが発砲したらしいの。昼前まで大騒ぎだったのよ。一応犯人は射殺されたけど、仲間がいるだろうと調べているみたい。長距離射撃が可能な小銃を持っている人達は軒並み連れていかれたわ」


 俺の猟銃は、距離が離れたら痛いだけなんじゃないかな?

 となると、犯人の仲間は町中を逃げ回ったってことなんだろう。早めに家に戻った方が良さそうだ。


 走るように町外れに向かう。

 遠くに家が見えた時、煙が上がっていないことが分かったから、走りを止めて歩くことにした。

 やはり貧乏家に逃げ込むことはないか……。

 とは言っても、兵士達は各家をシラミ潰しに探したはずだ。

 何事も無ければ良いんだけど……。

 扉をどんどん叩いて声を掛ける。


「俺だ。リーヴェルだ。帰ったぞ!」


 少し待つと、カギを外す音がして、ミザリーが抱き着いてきた。

 やはり兵士達が来たみたいだな。


「もう大丈夫だ。ちゃんと帰ってきたからね。母さんは?」


「ベッドに入ってる。疲れたと言ってたから、兵士の質問攻めがきつかったのかもしれない」


 俺が猟師だからだろうか?

 せっかく起きられるようになったんだけどなぁ……。


「真っ直ぐ帰ったから、お土産は無いよ。お茶があったら入れてくれないかな?」


「うん。ちょっと待っててね」


 暖炉からポットを下ろしてお茶の準備を始めた。

 暖炉傍の棚に荷物を下ろして、椅子に座るとミザリーがカップを2つ手にして椅子に座る。1つを俺の前に置いてくれたから、ありがたく受け取って口に含んだ。

 走ってきたからか、喉がカラカラだ。


「それで、どんな感じだった?」


「誰かを探してたみたい。父さんや兄さんの事を色々と聞いていたけど、笛の音が聞こえたら直ぐに出て行ったの」


 犯人を射殺できたからだろう。

 ところで、撃たれた領主はどうなったんだろう?

 生きているか死んでいるかで、この町の運命が変わりそうだ。


「ミザリーはパンを焼けるんだったよね?」


「焼けるけど、膨らまない奴だよ」


「それで十分だ。10枚ぐらい焼いてくれないかな? 今夜は内職しなくても良いよ」


 首を傾げているけど、場合が場合だ。

 行く当てはないが、夜逃げすることも考えないといけないんじゃないか?


 日暮れ近くになって母さんが部屋から出てきたが、確かに顔色が良くない。

 暖炉近くん尾椅子に座って貰ったのだが、しばらくはジッと暖炉の小さな炎を見つめているだけだった。


「リーヴェル、やはりここにいると良くないわ」


「夜逃げしたいけど行く当てはないんだよね。とりあえずミザリーにパンを焼いてもらってるけど……」


「北の山に向かいましょう。父さんが、山を2つ越えた場所にあると言っていたからまだあるかもしれないわ……」


 ハッキリと母さんは言わないけれど、その場所は反乱軍の拠点に違いない。

 だけど、父さんの話と言うからには数年以上前の話だ。

 今でもあるんだろうか?


 反乱軍の取り締まりは結構厳しいらしいし、王都に潜入した者達は見つかり次第死刑になると聞いたことがある。

 反乱軍だって食べないといけないだろうから、猟師は歓迎してくれるかもしれないな。ミザリーだって簡単な傷薬なら作れるだろう。

 親子3人の受入れを拒むようなら、町から少し離れた場所で猟暮らしをすることになりそうだ。


「でも、反乱軍って大陸から来た人達を追い出そうとしてる人達でしょう? 私達を簡単に受け入れてくれるかしら」

「そこは賭けるしかないんだけど……。場合によっては、あれが役立つかもしれないわ」


 何か持ってるということなんだろうか?

 父さんが軍を止めて猟師になったと聞いたけど、どの軍にいたのかは教えてくれなかったし、どんな位にいたのさえ聞かされていない。

 だが、父さんの知り合いがいるなら、父さんの形見が役立ちそうだ


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