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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-018 移動砲台とは言うけれど


 既に初冬だ。1か月も過ぎればこの辺りにも雪が積もり始めるらしい。

 そんな季節の出撃ともなると、装備を疎かにすると遭難する危険性も高いとのことだ。

 テーブルをもう1つ持ってきて、背嚢をテーブルに乗せると装備品の確認を皆でおこうなう。


「行軍中のセーターは必要ないにゃ。でも待ち伏せは寒さとの戦いにゃ。ちゃんと入れておくにゃ。ズボン下と長袖の下着は部屋を出る時にはいて来るにゃ。白のスモックは裏が茶色だから回りに合わせて羽織れば良いにゃ。

 ツエルトは持ったかにゃ? 2枚合わせれば簡単なテントになるにゃ。風を防ぐだけで温かく感じるにゃ……」


 色々とあるんだなぁ。ツエルトは既に持ってるんだけど、リトネンさんが新しいのを貰って古いのは背嚢に入れておくように言ってくれた。


「ロウソクは各自2個貰ってあるにゃ。組み立てコンロは旧型だけど使い良いにゃ」

 

 4つ足とロウソクを置く台だけのコンロだ。コンロに使うロウソクは親指ほどの厚さで手の平ほどの大きさのものが缶に入っていた。芯が3つもあるのに驚いたけど、それだけ火力があるってことなんだろう。

 親指ほどの金属製の筒に入ったマッチにロウ紙に包まれた飴玉が数個。背嚢と腰のバッグに品物を入れていく。


「手榴弾も持って行くにゃ。1人1個で良いにゃ」


 前回貰ったのがあるから、手榴弾を装備ベルトの手榴弾専用ポシェットに入れておく。

 銃弾は、俺とファイネルさんが40発、リトネンさん達はマガジン5つだと言っていたから80発を持つことになる。

 リボルバーの方は本体に5発とホルスターに8発だ。

 お守りみたいなものだから、使うことは無いだろう。


 ドワーフ族の若者は、イオニアさんのリボルバーに似た銃と24発の銃弾を携行していくらしい。護身用と聞いているけど、使うことはあるんだろうか?


「靴は冬用を使うにゃ。手袋は薄手をポケットに入れておくにゃ。ミトンは背嚢で十分にゃ。スコップは装備ベルトでなく背嚢の脇に突けるにゃ……、そうじゃなくて、こんな風に付けるにゃ」


 リトネンさんが俺の手元をみかねて付けてくれた。

 

「ビスケットは10個にゃ。朝と夜で半分ずつにゃ。飯盒に入らないのは、空いてる場所に入れとくにゃ」


 それでも、総務の連中が運んできたビスケットが余っている。

 1個を外套のポケットに、もう1つを腰のバッグに入れるように言われた。どうやらオヤツと言うことらしい。


 水を入れた水筒を背嚢の中にも入れておく。俺より大きい水筒をイアネスさんは入れているようだ。


「これで終わりにゃ! 明日は9時にここに集合して、下の谷でドワーフ族と合流するにゃ」


「いやぁ、冬は色々とあるんですねぇ」


「寒いからだろうな。冬も作戦があるんだから、今準備を終えておけば大丈夫だろう」


 少し早めに4人で食堂に向かい、食事を済ませて部屋に戻る。

 ミザリーや母さん達もこの頃の夕食は職場の友人達と頂いているようだ。3人で一緒に取るのは朝だけになってしまった。


「ところで、移動砲台ってどんな大砲なんですか?」


 夕食を取りながら聞いてみると、名前と実物はかなり異なるらしい。

 鉄板に鉄のパイプを溶接しただけの代物だと教えてくれた。パイプの長さも俺の腕より短いらしい。口径3イルム(75mm)の榴弾の薬莢から装薬を半分にした砲弾を撃つことができるらしいのだが……。


「電気での点火だから、離れた場所から発射できる。狙いも飛距離も望めない代物だが、確実に前には飛ぶぞ。かなり敏感な信管だから、蒸気機関車の横に当たれば転覆間違いないだろう」


「遠隔式の地雷とあまり違わないように思えるが?」


「地雷は対象との距離が離れると効果が無いんだ。その点,砲弾だからな。直撃を受けたことになるだろう」


 イオニアさんの問いに、ファイネルさんが答えてくれた。簡単でも威力はあるってことだな。

 それを2個も使うんだから、かなり見ものではありそうだ。


「それにしても、明日から行軍かぁ……。近場の作戦だと良かったんだがなぁ」


「歩兵は歩くことが仕事にゃ。諦めるしかないにゃ」


 悟ったような口調でリトネンさんが呟いている。いつの間にかワインを飲んでいるんだけど、明日はだいじょうぶなんだろうか。

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 出発当日は家族3人の朝食を終えると、 ミザリーと母さんをハグして、無事に帰ることを誓う。

 足早に2人から離れると、小隊の部屋に入って装備を整える。

 ゴブリンのレシーバーと照準器にカバーがしっかりと付いていることを確かめて、軽くボルトを引いて小銃内に銃弾が入っていることを確認した。セーフティレバーが立っていれば暴発することは無い。

 腰のバッグから真鍮製のカップを取り出して、ストーブのポットからお茶を注ぐ。


「おはよう。早いなぁ」

 

 ファイネルさんがテーブルでお茶を飲んでいる俺にそう告げると、ストーブに向かって行った。


「何時もはリトネンさんが早いんですけどねぇ」


「昨夜飲んでたからなぁ。ちゃんと起きて来られるかな?」


 イオニアさんが現れても、まだリトネンさんはやってこない。始業開始の鐘が鳴り始めた時に、寝ぐせの付いた髪がそのままのリトネンさんがやって来た。


「揃ってるにゃ? それじゃあ、出掛けるにゃ」


 外套を着て、背嚢を背負う。小銃を持てば準備完了だ。

 リトネンさんを先頭に、俺達は小隊の部屋を出て谷の出入り口を目指す。


 二日酔いらしく頭を押さえながらリトネンさんが歩いて行く、その直ぐ後ろをイオニアさんが歩いて行く。

 階段を踏み外したら、すかさず背嚢を掴むつもりだろう。

 俺達2人は、少し離れて見守るしかなさそうだな。


 洞窟の出口で待機していたドワーフ族の若者達と合流すると、休憩を取らずに、歩き出した。

 背中の大きな背嚢の上に乗っている布包みが移動砲台なんだろう。想像していたよりも小さいようだ。


 1時間おきの休憩を繰り返しながら、裾野に広がる森の際をなぞるようにして東へと進む。


 日暮れ前に野営地を見付けた。

 森を少し入った窪地だ。今日は曇りだけど雨は降らないとリトネンさんが教えてくれた。

 きめの細かな髪の毛で分かるらしい。ちょっと怪しい気がするけどね。

 明るい内に、ツエルト2つ合わせてテントを張る。

 三角テントになるんだが、片面が無いんだよね。風を防ぐだけだからこれで十分ということかな?


「雨ならツエルトをもう1枚張れば良いにゃ。夜はブランケットの上にツエルトを乗せると少しはマシにゃ」


 4つほどテントが出来たけど、表面が緑や茶色で染めてあるから、森の中ではあまり目立たないようだ。

 今の内に焚き木を集めておこう。


 すっかり辺りが暗くなると、焚き火を作る。穴を掘ってその中で火をたくと焚き火の明かりが周囲に広がらない。

 スープとパンに、干したアンズの定番の夕食だ。

 2時間おきに交代で見張るらしいから、早めにブランケットに包まることにした。


 夜中にファイネルさんに起こされる。今度は俺の番らしい。

 ドワーフ族に伝わる昔話に耳を傾けながら、周囲の監視を続ける。

               ・

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               ・

 3日目に、前回の襲撃場所を通り越して4日目に目的地に到着した。

 移動砲台の設置場所と俺達の狙撃場所は少し離れることになるらしい。

 イオニアさんがドワーフの若者から水と干し肉を分けて貰い、ドワーフ族と別れて先に進んでいく。


 尾根に到着しても、今日はテントを張ることはしない。尾根の北側で狙撃場所を探して待機する。

 実行は明日の夜になるが、その前に周囲を探るぐらいはやりそうだからなぁ。

 場所だけ決めたところで、森の奥に入っていった。


「今日は焚き火が出来ないにゃ。暗くなる前に早めに夕食を食べるにゃ」

 

 大木の影でカップ1杯のお湯を沸かす。簡単なコンロだけど、確かにロウソクでお湯が沸くのに感心してしまう。

 お茶の葉をそのままカップに入れて煮だしたところで、ビスケットと一緒に飲むことにしたのだが、結構お茶の葉が口に入ってしまう。


「そのまま食べてもだいじょうぶにゃ」

 

 そんなことを言ってるけど、結構ぺっぺと口に入ったお茶の葉を出している。

 干し肉はそのまま食べられるらしい。香辛料が少しきついけど結構おいしく食べられる。欠点はお茶が欲しくなることだ。水で我慢して頂くことにした。


 1人ずつ交代しながら夜を明かす。

 幸いにも、偵察部隊はやってこないようだ。昼過ぎに森を下りて切通の北側に移動する。背負っていたゴブリンを下ろし、レシーバーのカバーをはずした。


「夜の狙撃はレンズが光って相手に気付かれる時があるにゃ。出来るだけ藪の奥で狙撃するにゃ」


「サプレッサーを使用しますか?」


「相手が発砲を始めるまでは、音は出ない方が良いにゃ」


 そうか……、小銃を磨くのも考えものだな。何か良い手を考えないといけないかもしれない。

 今日は、間に合わないから繁みの奥で対応するしかなさそうだ。


 チカチカと西の尾根近い藪の中から緑の明かりが見えた。

 リトネンさんが受信確認を送っている。


「やって来たんですか?」

「偵察にゃ。隠れて見てるにゃ」


 藪の奥に隠れて線路を眺めていると、のろのろと台車のような貨車がやって来た。蒸気機関を搭載していないんだろうか?

 のんびりとした動きで俺達の前を通り過ぎる。


「荷台に丁度10人です。分隊ですか?」

「後ろに横線1本の兵士が乗ってたにゃ。たぶん1個分隊にゃ」


 兵士と変わらない帽子なんだが、横線が入っていた。最初に襲撃した時には横線が2本の帽子もあったんだよなぁ。

 その辺りをリトネンさんに聞いてみる。

 

 どうやら、横線1本が分隊長、2本なら小隊長という階級になるらしい。

 小隊を指揮する階級は少尉になるらしいのだが、帝国では一般兵士の最上位の階級として少尉を与えているようだ。

 中流階級以上であれば、徴兵前に士官学校に入るらしい。卒業して軍に入隊した時には、貴族の子弟なら少尉から、商人や役人の子弟は准尉と言う少尉の1つ下の階級から始まるということだ。


「階級的には士官にゃ。でも帝国では中尉からが士官として認められてるみたいにゃ」


 その違いは帽子らしい。キャップのようなエナメル塗りの日除けが付いた洒落た帽子になるようだ。日除けの刺繍が複雑なほど階級が上になるとのことだ。

 

「それに小隊長以上は長剣を下げてるにゃ。凝った造りの長剣を下げてるなら間違いなく上級士官にゃ」


 軍服も、俺達のようなラシャの外套を着るのは少尉までらしい。その上は、そのままダンスパーティに出るような恰好らしいから、戦をする気はないんじゃないかな?

 とはいえ、勝ち負けにこだわる者達が多いらしい。作戦前には作戦を遂行する士官に、色々と文句を言うと教えてくれた。

 作戦が上手く行けば自分の忠告のおかげ、失敗したなら本人の責任と言うことなんだろうな。


「旧王国にもいたけど、帝国はもっと腐ってるにゃ。でも負けてしまったにゃ……」


 どう慰めていいのか分からない。

 案外、組織的にはどっちもどっちと言うことだったのかもしれない。

 とはいえ、現状俺達の住む場所は、帝国の植民地と言う感じだからね。

 帝国を追い出してどんな国を作るのか分からないけど、今の状況よりはマシだろう。

 少しでも住みよい世界になると良いんだけどね。


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[気になる点] コンロに使うロウソクは親指ほどの厚さで手の平ほどの厚さのものが缶に入っていた。 どちらかの厚さが高さだと思われます。
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